「優秀なベテラン社員が、介護を理由に突然辞めてしまった……」

そんな事態は、どの企業でも起こり得る切実な問題です。 2030年には家族介護者が800万人を超えると予測される中、介護離職の防止は今や企業の最優先経営課題となりました。 しかし、制度を整えるだけでは「隠れ介護」による突然の離職は防げません。

本記事では、自身の両立経験を糧に多くの企業を支援するリー寿美子氏より、管理職が目指すべき理想の上司像「ケアボス」への進化ステップを伝授。 部下の不安を解消し、組織の活力を守るための「両立支援の本質」を解き明かします。

※本記事の内容は2026年4月時点のものです。

Your Image【監修・取材先】
リー寿美子氏

介護離職防止コンサルタント
~働く介護者と企業向け、介護離職を防ぐキャリア支援の専門家~
Lively Career Designハピネス 代表

2030年、激増するビジネスケアラー時代の経営リスク

現在、日本の労働環境は大きな転換期を迎えています。経済産業省の両立支援ガイドライン(※1)によると、 2030年には、家族を介護する人の約4割にあたる318万人が、働きながら介護を担う「ビジネスケアラー」になると予測されています。 特に働き盛りである40代後半から50代にかけて、ビジネスケアラー化する現状は「誰しもアタリマエ」のこととなりつつあります

企業にとって、この問題は決して他人事ではありません。同ガイドラインによれば、仕事と介護の両立困難に関連する経済損失は、国全体で年間約9兆1,792億円に達します。 優秀な中枢人材が突如として離職することは、組織の競争力や生産性の低下を招くだけでなく、ベテランスキルの継承断絶や採用力の低下といった深刻なダメージを与えます。

さらに注目すべきは、介護に直面してから離職に至るまでのスピードです。 介護・手助けを始めてから離職するまでの期間は、「半年未満」が約6割を占めています。 つまり、企業側には「初動」における適切な介入と、従業員がパニックに陥る前に手を差し伸べる仕組みが強く求められているのです。

介護は育児と異なり、「終わりが見えず、予測できない変化」が続きます。 愛する家族が弱っていく姿を目の当たりにする精神的な葛藤は計り知れず、その過酷さは周囲が想像する以上に当事者を追い詰めます。

(※1)引用: 『仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン

なぜ「隠れ介護」が起きるのか? 職場に潜む心理的ハードル

多くの企業で課題となっているのが、周囲に状況を明かさずに介護を続ける「隠れ介護」の存在です。 介護休業等の制度を利用しなかった理由の多くに、「職場の雰囲気」や「相談しにくい空気感」が挙げられています。

なぜ、従業員は介護を隠してしまうのでしょうか。 そこには、以下のような切実な心理的ハードルが存在します。

  • 周囲への罪悪感: 「職場に迷惑をかけるのではないか」という申し訳なさ。
  • キャリアへの不安: 「介護=戦力外」と見なされることへの恐怖。
  • プライベートの秘匿: 「言い出せない、言いたくない」という心理的な壁。
  • 認識の不足: 自分自身が「介護者」であるという自覚がない、または企業に報告する発想がない。

管理職は、部下のわずかな「兆し」に気づくことが大切です。以下のような変化が見られたら、介護当事者である可能性を考慮してみましょう。

  1. 勤怠の変化: 有給休暇を頻繁に使い始め、理由が常に「私用」である。
  2. 急な対応の増加: スマホを頻繁に気にするようになり、突発的な早退や中抜けが増える。
  3. 表情や疲労感: 常に疲れた表情をしており、集中力が低下しているように見える。

介護離職は突然起きるのではなく、水面下で不安と疲労が蓄積した結果として現れる「氷山の一角」です。 2025年4月の改正育児・介護休業法施行により、事業主には介護に直面した従業員への「個別の周知・意向確認」が義務付けられています。
制度利用を「権利」として認めるだけでなく、組織の「持続可能性」を守るための投資として捉え直すことが不可欠です。

育児とは決定的に違う! 介護支援に必要な「伴走・ケアボス」の視点

両立支援を考える際、育児と同じ文脈で語ることは危険です。 育児は子どもの成長という喜びがあり、手がかかる期間もある程度予測可能です。 しかし、介護は以下の「3つの違い」により、支援側にも高度な適応力が求められます。

  1. 終わりが見えない: 期間が不明確であり、いつまで続くかわからない不安が常に付きまといます。
  2. 予測できない変化: 状態が安定せず、突発的なトラブルや呼び出しが頻発します。
  3. 正解がない判断の連続: 医療的介入や延命、施設探しなど、本人の尊厳と家族の想いが交錯する難しい判断を迫られます。

また、介護は「感情労働」の側面を持ちます。 要介護者の前では感情をコントロールし、笑顔でケアに当たることが求められる一方で、内心では苛立ちや罪悪感に苛まれる「アンビバレントな感情(両面感情)」を抱えることも少なくありません。

こうした複雑な状況下にある部下を支援するために必要なのが、「ケアボス」の存在です。 ケアボスとは、単に制度利用を認めるだけでなく、部下の人生を応援しながら組織の成果を最大化できるよう、共に働き方をデザインし、伴走できる管理職のことです。

明日から実践! ケアボスになるための「6つのステップ」

ケアボスとして部下を支援するためには、場当たり的な対応ではなく、一定のステップに基づいた関わりが重要です。 本研修では、実践に落とし込むための「6つのステップ」を体系化しています。

  • ステップ1:意思の確認 本人の考えや希望を尊重した対話を行い、信頼の土台を築きます。
  • ステップ2:状況の整理 仕事と介護の両面から現状を整理し、何が「両立の壁」になっているかを明らかにします。
  • ステップ3:支援の検討 会社・社会・プロの力を活用し、一人で抱え込まないための解決策を共に検討します。
  • ステップ4:働き方の調整 組織のミッションと個人の状況を照らし合わせ、無理のない「持続可能な働き方」を模索します。
  • ステップ5:環境づくり 周囲との連携を整え、職場全体で支え合える「お互い様」の風土を醸成します。
  • ステップ6:継続的な関与 一度決めて終わりではなく、状況の変化に応じて関わり続け、柔軟な見直しを行います。

これらは単発の対応ではなく、状況に応じて繰り返し実践していくプロセスです。 研修では、個別の課題や現状に応じてこれらのステップを具体的にどう運用するか、ワークを通じて学んでいきます(※ワークは研修時間等の状況により変動)。

心理的安全性を高め「介護しながらイキイキ働ける」職場へ

ケアボスが目指すべきゴールは、社員が不安を感じずに自分の事情を発信できる「心理的安全性の高い職場」です。

心理的安全性が低い組織では、私的な弱みを隠そうとするため報告が遅れ、隠蔽や突然の離職を招きます。 反対に、心理的安全性が高い組織では、リスクが早期に開示されるため、組織的な業務分担や柔軟な対応が可能となり、結果として人材の定着に繋がります

また、管理職は職場内の無意識の「ケアハラスメント(ケアハラ)」にも注意を払わなければなりません。 「奥さんに任せればいいじゃないか」「定時に帰れていいよな」といった発言は、制度利用を妨げるだけでなく、法的リスクにつながるハラスメント行為です。

最後に、リー寿美子氏が自身の過酷な体験をもとに伝える「自分ファースト」の重要性を強調します。 「自分を大切にして初めて大切な人を大切にできる」という考え方は、決してわがままではありません。介護者が自分の人生を楽しみ、社会と繋がっている実感を持つこと。それこそが、介護を「辛い時間」ではなく「親子の絆を再確認できる愛おしい時間」に変える最大の鍵となるのです。

介護離職防止は「人的資本経営」の試金石

介護離職防止の本質は、単なる福利厚生の問題ではなく、社員の人生と企業の未来を共に守る「人的資本経営」そのものです。

「制度より風土」。管理職が「ケアボス」として適切な関わりを持ち、伴走することで、どのようなライフイベントに直面してもイキイキと働ける強靭な組織が作られます。

リー寿美子氏による「ケアボス養成セミナー」では、19年にわたる実体験に基づいた具体的な事例や体験型のアプローチ等を通じて、管理職の意識と行動を劇的に変容させます
貴社の優秀な人材を守り、共に成長し続ける未来のために、今こそ「介護と仕事の両立支援」の第一歩を踏み出してみませんか?

📌 部下の介護離職を防ぐケアボスになるためのQ&A

Q1.介護離職が企業に与える具体的な経営リスクは何ですか?

A. 日本全体で年間10万人以上の介護離職者が発生しており、その経済損失は国全体で年間約9兆円にものぼると試算されています。企業にとっては、組織を支える中核人材の喪失や生産性の低下、ベテランスキルの継承断絶、さらには採用力の低下といった甚大なダメージに直結します。

Q2. 管理職が目指すべき理想像「ケアボス」とはどのような存在ですか?

A.単に休みを与えるだけでなく、部下が介護に直面した際、その状況に理解を示し、積極的に支援を行う上司のことです。部下のキャリアと人生を応援しながら、組織としての成果もしっかり出し続け、誰もが両立しやすい職場環境を推進するリーダーを指します。

Q3. 育児支援と介護支援では、どのような点に注意して対応を変えるべきですか?

A. 育児は子どもの成長という喜びがあり期間も予測しやすいですが、介護は「終わりが見えず、予測できない変化」が続くという過酷な特徴があります。

また、尊敬する親が衰えていく現実に直面するため、当事者の精神的疲弊や葛藤が非常に大きいことを理解し、個別の状況に応じた「伴走」の姿勢が求められます。

Q4. 部下の介護離職を防ぐために、管理職が実践すべき「6つのステップ」を教えてください。

A. 以下の体系的なステップに基づいた関わりが重要です:

  1. 意思の確認: 本人の考えや希望を尊重した対話を行う。
  2. 状況の整理: 仕事と介護の両面から現状を整理する。
  3. 支援の検討: 活用できる社内外の制度やリソースを検討する。
  4. 働き方の調整: 無理のない持続可能な働き方を模索する。
  5. 環境づくり: 周囲との連携を整え、支え合える風土を醸成する。
  6. 継続的な関与: 状況の変化に応じて柔軟に関わり続ける。

Q5. 職場に潜む「隠れ介護」の問題を解決する鍵は何ですか?

A. 社員が不安を感じずに自分の事情を話せる「心理的安全性の高い職場」を作ることです。
「介護を理由にすると戦力外と見なされる」といった不安を取り除き、上司が日頃から「自分を大切にしていい(自分ファースト)、一人で抱えなくていい」と伝えることが重要です。
その言葉が早い段階での相談につながり、組織として支える対応が可能になります。

リー寿美子 りーすみこ

介護離職防止コンサルタント ~働く介護者と企業向け、介護離職を防ぐキャリア支援の専門家~ Lively Career Designハピネス 代表

ANACA在勤中「月半分海外出張」での育児5年。転職視野の退職直後、父の難病が判明。その後、全盲の母の介護も担い、両親介護とのダブルケア&仕事を両立し、介護歴は19年。「介護離職しない、させない、誰もがイキイキ働ける社会づくり」を目指し[介護離職を防ぐキャリア支援の専門家]として奔走中。

講師ジャンル
ビジネス教養 その他ビジネストピック ワークライフバランス
メンタルヘルス
ソフトスキル コミュニケーション
実務知識 人材・組織マネジメント 顧客満足・クレーム対応

プランタイトル

【管理職向け/両立支援編】
ケアボスになるための6つのステップ
管理職向け介護と仕事の両立支援セミナー

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