
発達障害や不登校といった課題に直面すると、親はどうしても「自分の育て方が悪いのではないか」「なぜうちの子だけ」と自分を責め、心身ともに疲れ果ててしまいがちです。
しかし、その「疲れ」を解消し、親子の笑顔を取り戻す具体的なメソッドがあります。それが、心理学の理論に基づいた「ペアレントトレーニング(通称:ペアトレ)」です。
ペアレントトレーニング講座の講師として保護者支援に携わる西山仁胤(にしやま・しげかず)氏は、自身もかつて自閉スペクトラム症と知的障がいを持つ娘の子育てに悩み、「子どもをなんとか変えよう」と思うあまり、厳しい言葉で指導を重ねていました。そのため家族関係も悪化、自身の仕事もうまくいかずに昼夜逆転の生活を送ることで家族と向き合うことを避けていた時期もあったといいます。
そんな西山氏がペアトレを学び「子どもと自分を責めるのではなく、親子の関わり方を見直すと状況が動き出す」と理解してから、親子関係は少しづつ改善し始めたそうです。
今回は、今日から実践できる「親も子も楽になる関わり方」について西山氏に教えていただきました。
※本記事の内容は2026年2月時点のものです。
【監修・取材先】
西山仁胤
お笑い芸人 経営コンサルタント
子どもとの関わりに疲れた親に実践してほしいペアトレとは?
「何度言っても聞いてくれない」「感情的に怒鳴ってしまう」……。
子育てに真剣であればあるほど、理想と現実のギャップに疲れを感じるものです。
そんな親御さんに知ってほしいのが『ペアレントトレーニング(ペアトレ)』です。ペアトレとは、1960年代にアメリカで開発された、応用行動分析学(ABA)をベースにしたプログラムです。
簡単に言うと、「しつけ」を根性論ではなく「行動の仕組み」として捉え直すトレーニングです。
なぜペアトレが効くのか?
人間(そして動物も)には、「ある行動をした後に、自分にとって良いこと(快)が起きれば、その行動を繰り返す」という習性があります。ペアトレはこの性質を利用します。
「悪いところを正す」のではなく、「望ましい行動を増やす」ために親がどう反応すべきかを学ぶ。これがペアトレの核心です。
11人に1人が診断される発達障害と親が抱える悩み
厚生労働省の調査(『令和4年 生活のしづらさなどに関する調査』)によると、医師から発達障害と診断された人は年々増加傾向にあります。特に児童期においては、文部科学省の調査でも通常学級に在籍する児童の約8.8%(約11人に1人)に学習や行動面での著しい困難がある可能性が示唆されています。
数字が示す通り、支援や理解が必要な家庭は確実に増えています。
一方で、親の悩みは「子どもの特性」そのものだけではありません。西山氏が現場でよく聞くのは、次のような“親側の悩み”です。
親が抱えやすい悩み・問題(具体例)
- どうしたらいいか分からない
周囲に同じ経験者がおらず、情報も届きにくい。「急に親になった」感覚で途方に暮れる。 - “普通なら分かる”が通じない戸惑い
説得や注意で伝わりにくく、親は「育てにくい」「自分のせい」と感じやすい。 - 自分を責める/イライラして当たってしまう
うまくいかないほど親の心身が消耗し、結果として子どもの状況が悪化する悪循環が起きる。 - 孤立しやすい
相談相手がいない、学校との連携が難しい、親同士の繋がりがない——この状態が親の疲れを加速させる。
また、子ども側も「できない」「ダメだ」と言われ続ける経験が重なると、自己肯定感が下がり、自信をなくすと西山氏は指摘します。その結果、うつ的に引きこもる、あるいは反抗・攻撃性が強まるなど、別の問題行動に発展するケースもあると言います。
ここで重要なのが、ペアトレの前提にある視点です。
「子どもが親を困らせている」のではなく、「子どもが困っている」。この捉え直しが、親の関わりを変え、親子の状況を動かし始めます。
今日から実践できるペアトレの基本ポイント
西山氏が伝授する、今日から家庭で取り入れられる「行動改善」のコツは驚くほどシンプルです。
① 「当たり前にできること」を間髪入れずに褒める(即時強化)
自信を失っている子や不登校の子に対して、いきなり「学校に行く」という100点の結果を求めてはいけません。
- 朝、時間通りに起きた。
- パジャマから着替えた。
- ノートを広げた。
こうした「できて当たり前」の小さなステップを、見逃さずに間髪入れず、早押しクイズのように褒めます。「ノート広げたの!?かっこいいじゃん!」といった具合に。このように親の「関心」を示すだけで、子供の心には自信と自己肯定感、そして安心感が生まれます。
② 褒め方は「具体的に」「行動に紐づけて」
「えらいね」だけよりも、行動を言葉にして返すのがコツです。
- 「宿題を始めたんだね」
- 「鉛筆を持って取りかかれたね」
- 「お兄ちゃんに“貸して”って言えたね」
思春期の子には、ベタ褒めが刺さりにくいこともあります。そんなときは、評価よりも「見ているよ」という関心を言語化するのが有効だといいます。
③問題行動そのものより「望ましい行動」を教えて増やす
たとえば、きょうだい喧嘩の原因が“おもちゃの取り合い”なら、
- 取らないように叱る、だけで終えない
- 「貸して」と言う/「一緒に遊ぼう」と言うなど代替行動を教える
- できた瞬間に、具体的に認める
そして喧嘩がない時間、仲良く遊べた時間に「仲いいね」「見てくれてありがとうね」と注目する。西山氏は、こうした関わりを続けることで、”きょうだいで仲良く過ごす”という行動が増えて、きょうだい喧嘩が減っていった実感を語っています。
⑤ スマホなど“やめさせたい行動”は、ルール+強化で扱う
「スマホばかり…」は多くの家庭の悩みです。西山氏は一例として、
- 宿題をしたら見ていい
- 手伝いをしたら見ていい
- 物理的にすぐ触れない場所に置く(管理できる範囲で)
といったルール化をした上で、最終的に褒めるべきは「宿題をやった/取りかかった」という行動だと話します。極端に聞こえるかもしれませんが、「鉛筆を持っただけで褒める」くらい小さく刻むのも、最初の一歩としては有効だと言います。
ペアトレがもたらす変化とは?
ペアトレを実践すると、子供の行動だけでなく、親自身のメンタルに劇的な変化が訪れます。
子供が「自走」し始める
西山氏の娘さんは、進学校に入学すると授業についていけず、夜中に急に叫び出したり、壁や床を殴ったり、教科書を投げたり、ノートを引き裂いたりするほど追い詰められていました。ペアトレを知る前の西山氏は、そんな長女を大声で怒鳴りつけ、「宿題しないと、お小遣いなしだぞ!」と強制的に勉強をさせていたそうです。しかし、「宿題をしていること自体」を褒め、パニックを静かに見守るスタイルに変えた結果、長女は自ら勉強の楽しさを見出し、最終的には国立大学に合格するまでになりました。 親がコントロールを手放し、「適切な強化(褒めること)」に徹すると、子供は自発的に成長を始めるのです。
親の「解釈」が変わる
「この子は私を困らせようとしている」という被害者意識が、ペアトレを学ぶと「この子自身が、やり方がわからなくて困っているんだ」という共感に変わります。そして、やり方さえわかれば、自分から楽しみながら努力し始めるようになります。この視点の転換こそが、親のストレスを劇的に軽減させます。
ペアトレは親子の「笑顔」を取り戻すための技術
ここまで、ペアレントトレーニング(ペアトレ)の重要性とその具体的な手法について見てきました。
- ペアトレは「行動の科学」: 根性論ではなく、行動の後に「良いこと」をセットにすることで、望ましい行動を増やしていく。
- 「当たり前にできること」を間髪入れずに褒める(即時強化): 完璧を求めず、当たり前の小さな行動(鉛筆を持った、朝起きた)を見逃さずに言葉にする。
- 親が変われば子が変わる: 子供を「変えよう」とするのではなく、親の「関わり方」を変えることで、結果として子供の自発性が引き出される。
子育てに疲れたと感じる時、それはあなたが一生懸命である証拠です。そして一生懸命関われば、お子さんとの関係はきっと良い方向に変化していきます。ペアトレという「技術」を味方につけることで、出口の見えないイライラから抜け出し、親子で穏やかな時間を過ごせるようになります。
西山仁胤氏の講演依頼・研修のご案内
「子育てに疲れた」を、気合や我慢で乗り切ろうとすると、親子ともに消耗します。西山仁胤氏の講演・研修では、応用行動分析学(ABA)とペアトレを土台に、その日から実践できる関わり方を具体例とともに学べます。
講演の魅力と特徴
- 芸人ならではの明るく楽しい雰囲気: 西山氏はお笑い芸人として定期的に福祉施設や公民館などでコントや漫談を披露しているため、深刻になりがちなテーマを、笑いを交えながらポジティブに伝えることができます。
- 圧倒的な実践性: 自身の娘さんの子育てと、放課後等児童デイサービスの保育士として多くのお子さんと保護者と関わってきた実体験に基づいているため、言葉に重みがあります。
- ワークショップ形式: 単なる座学ではなく、その場で「褒め方」を練習するロールプレイングを実施。明日からすぐに使えるスキルが身につきます。
保護者や教育・福祉従事者、企業対象にアレンジできますので、お気軽にお問い合わせください。
📌ペアレントトレーニングのQ&A:子育てで悩む親のための5つのヒント
Q1. . 子育てに疲れ、感情的になってしまいます。
A. 感情ではなく「技術」で解決しましょう。 ペアトレは親の忍耐力に頼るものではなく、心理学に基づいた「行動への反応ルール」を学ぶものです。仕組みで対応することで、怒鳴る回数が減り、親自身のストレスも劇的に軽減されます。
Q2. 褒めるところが一つも見つかりません。
A. 当たり前にできる行動を言葉にして伝えてあげてください。「●時に起きたんだね」「着替えたんだね」など、お子さんが「当たり前にできている行動」に注目します。評価というより「見ているよ」という関心を示すことが、子供の安心感に繋がります。
Q3. 何度注意しても同じ失敗を繰り返すのはなぜ?
A. 「ダメ」と叱るより、「代わりの行動」を教えてください。 子供はやり方がわからず困っている場合があります。叱るのをやめ、「貸してと言おう」など具体的な行動を教え、それができた瞬間に認めることで行動は定着します。
Q4. スマホやゲームがやめられない子には?
A. 「ルール化」と「スモールステップ」を徹底しましょう。 「宿題をしたらOK」とルールを決め、宿題のために「鉛筆を持った」瞬間に褒める。やるべき行動を小さく分解し、肯定的な関わりを増やすことで、自制心を育てます。
Q5. ペアトレを続けると、最終的にどうなりますか?
A. 子供が自ら動き出す「自走」が始まります。 親が「コントロール」を手放して「適切な褒め」に徹すると、子供の自己肯定感が高まります。西山氏の娘さんのように、自発的に勉強や課題、部活動や自分の趣味に取り組む意欲が引き出されます。
西山仁胤 にしやましげかず
お笑い芸人 経営コンサルタント

経営コンサルタントとして200社超を支援後、うつ病発症を機に保育・福祉分野へ転身。娘の不登校・自閉スペクトラム症をきっかけに家庭でペアレント・トレーニングを実践し、親子ともに改善を実感。自身の経験を基に、行動の原因を分析し改善を図る「応用行動分析」を活かした人材育成等の研修を多数実施。
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講師ジャンル
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