色は誰にでも同じように見えているわけではありません。生まれつき赤と緑の区別がしづらい、いわゆる先天的色覚異常に加え、「白内障」などの加齢やその他の眼の疾患も含めて、現在は様々なタイプの色覚を「多様性の一つ」として捉える考え方が広がりつつあります。

今回は、東京慈恵会医科大学の副学長・教授であり、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構の副理事長も務める岡部正隆氏に、色覚の多様性を理解したうえで、すべての人に同じように情報を伝達する工夫についてお聞きしました。

※本記事の内容は2026年5月時点のものです。

Your Image【監修・取材先】
岡部正隆

東京慈恵会医科大学 副学長・教授
NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構 副理事長

 

色覚の多様性とは?色の見え方のメカニズム

人間は、眼球の奥にある網膜で色を認識しています。その網膜にあるのが、L錐体・M錐体・S錐体という3つの神経細胞です。それぞれが異なる色の光を感知することで、人間は多様な色を区別できる仕組みになっています。3つの原色を混ぜ合わせてすべての色を再現できるのも、3種類の錐体によって色を見分けているからです。

これら3つの神経細胞の働きは遺伝的な個人差があり、一般に「正常」とされる人々の色覚も、実際にはそれぞれ違った色の見え方をしているのです。

その中でも、生まれつき赤と緑の区別がつきにくい色覚があることはよく知られていますが、それも実際には色覚の多様性の一つに過ぎません。しかし、医学的には、これらの異なる色覚に対して「正常色覚」と「色覚異常」という大まかな分類が使われてきました。

岡部氏は、こうした区分が色覚の多様性に対して人々の理解を妨げる結果につながっていると考えています。そのため、それぞれの色覚に対して「正常」「異常」という優劣を感じさせない、以下の呼称を使うことを提唱しています。

カラーユニバーサルデザイン機構の提唱 医学用語
C型色覚 正常色覚
P型色覚 1型色覚(L錐体の異常)
D型色覚 2型色覚(M錐体の異常)
T型色覚 3型色覚(S錐体の異常)

少数派とはいっても、このうちP型とD型は日本人男性の20人に1人、日本人女性の500人に1人の割合で存在しています。白人男性・白人女性の場合、この割合はさらに多くなります。

C型・P型・D型のそれぞれの人に、頻繁に対比される色の組み合わせがどのように見えているかを示したのが、以下の図になります。

このように代表的なP型色覚では、「赤」はC型よりもずっと暗い色に見えているのです。また水色とピンクのような、よく使われている色の組み合わせも、赤と緑に限らず、見分けにくいことがわかります。

こうした違いを理解しつつ、大多数のC型も少数派のP型やD型も同じように「多様な色覚の一つに過ぎない」と認識すること。それが、誰もが暮らしやすい社会を実現するための第一歩となります。

C型以外の人は何に困っている?色覚の多様性への理解

長年の間、多数派であるC型の色覚を基準としてきた社会では、他の色覚を持つ人々にとって不便を感じる場面が少なくありません。ときには不便なだけでなく、危険が及ぶ場合もあります。

例えば、工場などにある警告灯の赤は、C型の色覚の人なら見落としようがないでしょう。しかし、赤の光を暗く感じるP型の人にとって、点灯していると分からないことがあります。そのため、危険を知らせるサインを見落としてしまう恐れがあるのです。

他にも、看板や書類の重要箇所が赤字で書かれていても黒字と同じように見えたり、ハザードマップで危険なエリアを色分けされても他との違いが分からなかったり、色の違いだけに頼った情報の伝え方ではC型以外の人に伝わりません。

C型の色覚にとっては一目で違いが分かる優れたデザインでも、他の色覚を持つ人にとっては、それが間違いや混乱を起こす要因となることがあります。

色覚の違いは外見では分かりません。そのため、日常生活の中で「自分と違う見え方をしている人がいる」と意識する機会はそう多くはありません。しかし本来であれば、色を用いて何らかの情報を発信する全ての人が、色覚の多様性を理解していなくてはならないのです。

少数派の色覚である一部の人々が情報を取得するときに不利な立場に追い込まれないようにするためにも、これからは社会全体で多様な色覚に対応したカラーユニバーサルデザインを取り入れる必要があります。

色覚の多様性に対応して情報を正しく伝えるための3つのポイント

色覚の特性に関わらず、誰もが正確に情報を受け取れるデザインを、カラーユニバーサルデザイン(以下CUD)といいます。現在は色覚の多様性という考え方に基づき、CUDを取り入れて情報の伝え方にも様々な工夫がなされています。

ここでは情報を発信する立場の人が知っておきたい、上手な色の使い方の3つのポインについて解説します。

1. 誰にでも見分けやすい配色

色の違いを使って情報を伝えるときには、C型以外の色覚の人にも見分けやすい配色をする必要があります。

例えばP型の色覚の人は、「赤」や「緑」などの色相の違いを見分けるのが難しくても、明度の差には敏感です。書類や看板の注意喚起、電車の路線図なども、色相の違いだけでなく明度差もつけることで、誰もが見やすいデザインになります。

現在は、多様な色覚の見え方が分かる、以下のようなシミュレーションアプリもあるので、実際の見え方を確かめながらデザインの配色を考えることも可能です。

2. 色以外で情報を伝える工夫

色の違いに頼らない情報の伝え方を考えることも大切です。

例えばデバイスの充電を知らせるランプでも、充電中は赤い色、充電が完了すると緑に変わる設計では、色の違いが見分けられない人には充電状況が分かりません。しかし、「充電が完了したら消灯する」「点滅から点灯に変わる」といった工夫を加えだけで、誰にでも使いやすい製品にすることができるのです。

また、色の違いに加えて、形の違いでも情報を伝えるという方法があります。例えば「赤」と「緑」だけでなく、「赤い丸」と「緑の三角」のように、色と形の違いを組み合わせることで、どのような色覚の人にも2つの違いが伝わります。

3. 色の名前を使ったコミュニケーション

少数派の色覚の人の中には、言い間違えを避けるために会話の中で色名を使わないようにしている人も多くいます。そのため、デザインの中で色を使うときに「赤」や「緑」という文字を添えることで、多様な色覚の人の間での、色名を用いたコミュニケーションはスムーズになります。

例えば、テレビのリモコンにある赤・緑・黄・青の4色のボタン。海外製には色のみのものが多いですが、日本製の多くはボタンの下に「赤」「青」などの文字が表記されています。

「赤いボタンを押して」と言われても、色を見ただけでは押すべきボタンが分からない人もいます。しかし、ボタンの下に「赤」と書かれていれば、迷わず該当するボタンを見分けることができます。また、少数派の色覚の人も色名をもちいて発言しやすくなるでしょう。

文字を介することで、色覚が異なる人同士でも、コミュニケーションは格段にスムーズになるのです。

色覚の多様性をふまえた伝え方が未来を創る

日本は色覚の違いに早くから向き合い、近年は積極的にCUDを社会に実装してきました。現在、世界のスタンダードで使われている石原式の色覚検査表(※)も大正時代に日本で考案され、徴兵検査で用いられたものです。

一方で、色覚の違いに敏感であったため、それが少数派の色覚の人への就職や進路選択における差別につながった時代もあり、学校での色覚検査も廃止されてしまったという背景もあります。

今回お話を伺った岡部氏は、そのような「違いを見て見ぬ振りをする姿勢」こそが、色覚の多様性への理解を遠ざけ、誰もが公平に情報を受け取れる社会の実現を阻んできたと考えています。

自身もP型色覚を持つ岡部氏は、仲間と共にメーカー各社や国へ働きかけ、CUDの社会実装を推し進めてきた実績があります。ISOが未だCUDに対応していない中、JISが2018年からCUD対応の安全色を取り入れることになったのも、岡部氏が属するNPO法人カラーユニバーサルデザイン機構が専門家や関係機関と連携して、運動を展開した結果です。

岡部氏の講演では、医師としての医学的知見、当事者としての日常生活での課題、そして社会実装を推し進めてきた実践的なノウハウを詳しく解説しています。

デザイナー、商品企画、広報、あるいは教育関係者など、情報を発信するすべての方にとって、CUDの視点は必須のスキルです。多様な人々が共生する社会を目指すための研修や企画として、ぜひ岡部氏の知見をご活用ください!

※石原式の色覚検査表: 石原忍博士(東京帝国大学眼科医・陸軍軍医)によって1917年に考案され、簡便かつ精度の高い検査表として世界的に普及した。現在でも色覚異常スクリーニングの代表的検査法として広く用いられている。

📌 カラーユニバーサルデザイン(CUD)を理解するためのQ&A

Q1. 「色覚の多様性」とは?

A. 色の見え方は人それぞれ違うという考え方です。「正常・異常」と分けるのではなく、「色の見え方のタイプ(C/P/D/T型)」という個性の違いとして捉えます。

Q2. なぜ「色だけ」で情報を伝えてはいけないのですか?
A. 少数派の人に区別できない色だけに頼ったデザインは、情報が正確に伝わらず、一部の人に不便を強いてしまう恐れがあるからです。

Q3. 誰にでも伝わる配色(CUD)のコツは?

A. 色味(色相)の違いだけでなく、「明度の差」をはっきりつけることです。シミュレーションアプリ等で実際の見え方を確認するのをおすすめします。

Q4. 配色以外で情報を伝える工夫とは?

A. 以下の2つの方法があります。

  • 状態や形の違いで示す: 「点滅から点灯に変わる」「丸や三角、実線と破線など形の違いも組み合わせる」
  • 文字情報を添える: 色を用いた図版上に、使用している色名を書き添える

Q5. なぜ今、CUDの視点が求められているのですか?

A. 情報の発信の仕方によって情報格差を生まない社会にするためです。情報を発信するすべての人にとって、CUDを加味して誰もが公平に情報を受け取れる環境を作ることが求められています。

岡部正隆 おかべまさたか

東京慈恵会医科大学 副学長・教授 NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構 副理事長

基礎医学観点からの、人体の仕組みに基づく「本質的な健康理解」「多様性を踏まえた社会の見方」を、 明確・明快に説く講演は“健康理解・多様性社会に対する視点が飛躍的に改まる”と定評がある。「色覚の多様性とカラーユニバーサルデザイン」に関する講演・発信・啓発活動は25年以上にわたり継続中。

講師ジャンル
社会啓発 人権・平和
文化・教養 健康 文化・教養

プランタイトル

色覚の多様性とカラーユニバーサルデザイン
―「見え方の違い」を理解し、誰もが伝わる社会へ―

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