高齢化の時代、自らの人生の締めくくりについて、前もって考えて準備しておきたいと考える人が増えています。「ACP(人生会議)」も、その1つです。一般的にACPは延命についての話し合いと考えられていますが、実際には、今の自分が「何を大切にしているか」を考え、親しい人たちと共有しておくためのものです。

今回は、大切な家族との別れを一度ならず経験し、自身も重い病気と闘ってこられた演奏家のさくらいりょうこ氏に、これからのACPのあり方について解説していただきます。

※本記事の内容は2026年6月時点のものです。

Your Image【監修・取材先】
さくらいりょうこ氏

講演家・演奏家

 

ACPとは?もしものときがくる、その前に

ACPの正式名称は「Advance Care Planning」です。本来ACPとは、大きな病気や事故などで自分の意志を伝えられない状態になったときのため、あらかじめ延命措置やケアについての希望を家族や医療・介護スタッフと話し合って決めておこうというものです。

「もしものときのための話し合い」という性質上、ACPに対して重々しいイメージを抱く人は多いでしょう。しかし実際のACPは、決して死が迫ってから考えるものではありません。まだ若く健康な人でも「今の自分ならどう思うか」を考え、そこから年齢や状況が変化していくごとに、何度でも「今はどう思うか」を更新していくものです。

つまり、家族が集まっての一生に一度の重大な話し合いではなく、ごく気軽にお茶を飲みながら、ふと思いついたときに話すような形のほうが理想的です。まだまだ先のことで現実味がないからこそ、自分の希望を素直に口に出しやすいという側面もあります。

そのためにも、人と話し合う前に、まず一人で自分の気持ちと向き合って考えてみることも大切です。

病気にかかったとき、家族の介護を考えるようになったときなど、事あるごとに「もしものとき、自分はどうしたいか」と想像してみれば、自分の考えが日々変化していることにも気づけるでしょう。

特にきっかけが見つからないときは、11月30日が「人生会議(ACP)の日」として設定されています。1年のうちこの日は家族で話をする、あるいは自分一人で「もしものとき」について考える、と決めておくのも一つの方法です。

なぜACPが必要なのか【家族の気持ち】

もしものときについて考えておくのが大切だと分かっていても、家族の間でその話題を出すことは気が重いと感じる人もいます。講演でACPについて話すさくらい氏も、実は延命措置やケアについて事前にご家族と話し合っていなかったために、本人に代わって重い決断を迫られたご経験があります

さくらい氏は当時のことについて、以下のように語っています。

「母の延命措置をどうするか、医師から尋ねられたことは二度あります。一度目は私一人しかその場におらず、何と答えればよいか戸惑っていると『大切なことを一度も話し合っていなかったのですか』と叱られました。

それにも関わらず、再び同じ状況で医師から延命について尋ねられた私は、やはり答えられませんでした。そのときは姉も一緒でしたが、二人で話し合っても答えは出なかったのです」

その理由について、さくらい氏は「私も姉も、延命に対しての母自身の考えをまったく知らなかったから」と語ります。

本人の希望が分からない状況では、その決断の重みはすべて家族の肩にかかってきます。「もしも本人の希望に反するものだったら…」と迷いながら決断を下すのは辛いことです。そのときの後悔がずっと心に残る人もいるでしょう。

家族にそのような重荷を背負わせないためにも、日々のコミュニケーションの中で自分の考えを伝えておくことは大切です。

ACPにおいて大切な人と話し合うべき3つの要素とは

ACPの機会を持つことになっても、「何をどこまで決めればいいの?」と迷うこともあるかもしれません。

医療の領域については段階的に考えていくとして、まずACPの入り口となるのはシンプルな自分の望みに向き合うことです。ここではACPの最初の3つのSTEPについて解説していきます。

1. 「何を大切にするのか?」を考える

まずは、もしものときに自分が優先したいことは何かを考えます。

もし「自分の家に帰りたい」と思ったとすると、それは周囲の家族に負担をかける選択でもあります。そのため、早いうちから話し合っておいて、実現可能な範囲で折り合いをつけていくプロセスが必要になります。

ただし、「周囲に迷惑をかけないようにするべき」という社会通念だけに従って決めればいいというわけではありません。家族が「できる限り本人の希望に添うことができた」と納得できるよう、「本当はどうしたいのか」という自分の希望にちゃんと向き合うことが重要です。

2. 「どうすれば実現できるのか?」を考える

次に、自分の希望を実現するにはどのような方法があるかを調べ、その情報を家族にも共有します。早い段階から考えておくことで、情報を収集するのに十分な時間が得られます。

大切なのは、常にアンテナを張っておくことです。ACPで自分の希望が明確になると、自然とそれに関連する情報が目につくようになります。「自分の家に帰ること」が希望であれば、在宅介護に必要なものや、利用できるサービスについての情報を集めることができます。

「本当は自宅で過ごしたいけれど、家族に迷惑をかけられない」と諦めていたことでも、最新のケアシステムや外部サービスを知ることで、実現の方法が見つかるかも知れません

3. 「気持ちは変わってもいい」と知る

何より重要なのは、「自分の気持ちは変わるもの」と理解しておくことです。

真剣に考えて一度は家族に伝えた内容でも、月日が経って見える景色が変われば、「自分がどうしたいか」も180度変わることがあります。自分に分かるのは今の自分のことだけですから、それも当然と言えるでしょう。

だからこそ、たった一度のACPで正解を決めてしまわなくていいのだという考え方が大切です。日常のコミュニケーションを通して、「今の自分の気持ち」を何回でも伝えましょう。そうすることで家族の認識もアップデートされ、もしものときにも「本人はこのように希望していた」と自信を持って答えられるようになります。

ACPとは「今」を生きるためにある

ACPには「臨終の準備」や「自分の死んだ後のために」といった少し後ろ向きなイメージが付きまといますが、実際には今をよりよく生きるために行うものです。

たとえば終活として持ち物を整理したり、相続のことを話し合って決めておいたりすると、肩から重い荷が取り払われて、日々を明るく前向きに生きられるようになります。同じように、最後に何を望むか決めておけば、「そのときが来るまでに、今自分にできることを精一杯しよう」と思えるようになるのです。

病気や怪我など、人生には自分の思い通りにならないことはたくさんあります。最後に家族への感謝を伝えたいと思っても、言葉を発することができない状態になっているかもしれません。だからこそ、「感謝の気持ちは、元気な今のうちに伝えておこう」と思えます。

そうすれば家族との関係もより良くなって、生きている今このときが輝き出します

さくらい氏の講演では、このように「今をより良く生きるため」という観点から、ACPの重要性について解説しています。音楽家でもあるさくらい氏の演奏もあり、オカリナの音色に耳を傾けながら「自分ならどうしたいか」をじっくりと考える時間になっています。

自分の考えが固まってくると、自然とそれを人と話し合いたい気持ちも湧いてきます。さくらい氏の講演は、親子で参加することで、「ACPはハードルが高い」と思っていたご家族にとっても話し合いのきっかけになると好評です。市民向けの講演会を開催したいとお考えの行政ご担当者様は、ぜひ次回の企画としてご検討ください!

📌 「. ACP(人生会議)」のためのQ&A

Q1. ACP(人生会議)とは、具体的にどのようなものですか?

A.「もしものとき」に備え、自分が大切にしたい医療やケアの希望を、あらかじめ家族や専門スタッフと話し合って共有しておくプロセスです。 単なる延命治療に関する重苦しい話し合いではなく、今の自分が「何を大切にして生きたいか」を見つめ直すための前向きな対話です。

Q2. なぜ元気なうちからACPを行っておく必要があるのですか?
A. 本人の希望がわからないと、もしものときに残された家族が「本当にこれでよかったのか」と重い決断と後悔を背負うことになるからです。 また、健康でまだ現実味がない時期だからこそ、お茶を飲みながらフランクに、自分の素直な本音を口にしやすいというメリットもあります。

Q3. ACPを始めるにあたり、具体的にどのようなことを考えればよいですか?

A. 以下の「3つのステップ」を意識して、シンプルな望みから向き合うのがおすすめです。

  • ステップ1:「何を大切にするのか?」を考える(自分が最も優先したい本音の希望をクリアにする)
  • ステップ2:「どうすれば実現できるのか?」を考える(在宅ケアの公的サービスなど、実現のための情報を集めて共有する)
  • ステップ3:「気持ちは変わってもいい」と知る(一度で正解を決めず、何度も話し合う)

Q4. 一度決めて家族に伝えた希望は、途中で変えても問題ありませんか?

A. まったく問題ありません。むしろ、年齢や環境によって気持ちが変わるのは当然のことです。 たった一度の話し合いで決定しようとせず、日常のコミュニケーションを通じて「今の自分の気持ち」を何度もアップデートし、家族と共有していくことが大切です。

Q5. 講師・さくらいりょうこ氏のACP講演会には、どのような特徴がありますか?

A. 自身の経験に基づいたリアルな視点と、オカリナの生演奏を交えた演出で、ACPのハードルを優しく下げてくれるのが特徴です。 「死の準備」ではなく「今をより良く生きるため」という前向きなメッセージが届くため、親子で参加しやすく、家族で人生会議を始める絶好のきっかけになると好評を得ています。

さくらいりょうこ

講演家・演奏家

難病、震災、幾度も生死に直面する経験を通して、「生きるとは何か」「何を選び続けるのか」を問い続けてきた。40年かけて、今の自分がある。その実感をもとに、「生きている限り、目の前には選択肢がある」という視点を、立場や年齢を問わず届けている。著書『幸せを向いて生きる』など。

講師ジャンル
ビジネス教養 経営哲学
ソフトスキル モチベーション
実務知識 医療・福祉実務
社会啓発 福祉・介護 人権・平和
教育・青少年育成 男女共同参画

プランタイトル

【人生会議(ACP)講演】
いま、在るものを見る ~ACPは「いまをどう生きるか」を考える時間~

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