昔に比べると、発達障害など子どもの特性への理解は進みました。しかし、実際に発達障害のある子どもを育てる親は、今も多くの悩みを抱えています。なかでも、「我が子は将来ちゃんと自立できるだろうか」ということが、一つの大きな不安としてのしかかっているのではないでしょうか。

今回は、4人の子(全員が発達障害の診断)の母親として、それぞれが自立するまで育て上げた経験がある堀内祐子氏に、子どもとの関わり方についてお話ししていただきました。

※本記事の内容は2026年7月時点のものです。

Your Image【監修・取材先】
堀内祐子氏

自閉スペクトラム支援士
特別支援士
傾聴心理士

 

なぜ「育てにくい」と感じる?発達障害とは何か

一般に発達障害と呼ばれる自閉スペクトラム症やADHD(注意欠如・多動症) は、それぞれ脳の特性の一つです。定型発達の人も含めて、本来脳のつくりは一人ひとり違います。発達障害の子どもたちは、得意なことも不得意なことも、その違いが特に際立っているのです。

親はまず我が子の特性を理解しておかなければ、不得意なことばかりが目について思い悩んでしまいます。

多動の傾向がある場合、学校で「大人しく机に向かって勉強していなさい」と言われても、じっと座っていられない子もいます。親はそんな我が子の様子を見て「どうしてじっと座っていられないんだろう」と不安になり、子どもをきつく叱ってしまうこともあるでしょう。

このとき、親が「なぜできないのか」と不安になるのは、「子どもも自分と同じように、止まっている状態が自然」と思い込んでいるためです。例えば、堀内氏の次男は「自分にとっては動いている状態のほうが自然に感じる」と言います。堀内氏の次男のように、じっと座っているよりも、実は体を動かしているほうが集中できたり、理解力が高まったりというケースもあるのです。

このように、発達障害のある子どもたちは、定型発達の子とは違った脳の特性を持っています。しかし、それはあくまでも特性であって、単純な欠点ではありません。特性をよく理解していれば、その子の持つ大きな強みに気づくことができます

実際に、発達障害の人の中には並々ならぬ決断力や実行力を発揮し、社会で活躍している人も多くいます。幼児期ならではの万能感や全能感を持ったまま成長し、普通は尻込みしてしまう場面で果敢に挑戦できる人もいます。また、自閉スペクトラム症の特徴である「こだわりの強さ」が、研究の分野で生かされることもあります。

これらは社会全体が発展していくためにもとても重要な力です。発達障害のある人の能力と定型発達の人の能力、それぞれが力を発揮し、補い合うことで人間の社会は成り立ってきました。

親が発達障害の特性を理解していないとむやみに不安になり、それをやめさせるように「何とかしなければ」と考えてしまいます。しかし、発達障害の子どもの親に本来求められているのは、子どもの力を無理矢理抑え込んでしまわないようにすること、いわば「邪魔をしないこと」なのです。

【実例】この接し方が発達障害の子どもを自立へ導いた

4人の子どもがそれぞれ自閉スペクトラム症やADHDといった発達障害を持っていたという堀内氏は、子どもが自分の強みを生かして自立できるよう、常に「子どもに自分で決めてもらうように」徹底していたといいます。

「○○をやりなさい」と言うのではなく、「○○があるけど、どうする?」と聞くことで、子どもの自己決定のプロセスを尊重します。

発達障害の子の子育てに限らず、親は我が子が失敗しないように、あるいは親が望む姿になってほしいという思いから、自分が良いと思った選択肢を子どもに押し付けがちです。しかし、そのやり方では、子ども自身が失敗から学び、「この社会で自分の力を発揮するにはどうすればよいのか」を探っていく機会を奪ってしまいます。

そのため堀内氏は、自身の4人の子どもたちにも、自分で選択し、失敗したときにはその結果を自分で引き受けることを教えてきました。

もちろん、子どもは大人に比べて知識や経験が少なく、自分で選びたくても選べない場面もあります。そのため、親には「子どもに情報を提供する」という役割が求められます。

子どもにとって有益な情報や本人の強みを伝えることができれば、それが自立への一歩につながるケースもあります。

堀内氏の場合、次男の動体視力の良さやルーティン作業への適性に早くから気づいていました。そこで次男が高校生のとき、郵便物の仕分けのアルバイト募集を見つけ、「こういう仕事があるけど、どうする?」と伝えて、実際に応募するかどうかの選択は本人に委ねました。

興味を持った次男は郵便局でアルバイトをすることになり、そこで自分が他の人よりもずっと長い時間集中力を持続させて、正確に作業ができることに気づいたのです。職場でも仕事ぶりが非常に高く評価され、そのときに得た自信は、次男が社会に出るときの大きなモチベーションになったといいます。

堀内氏はそのときのことを振り返り、このように付け加えています。

「私は次男の特性を理解していたから、そのアルバイトが向いていると思っていました。けれど、決して強く勧めたわけではありません。あまり強く勧めると、それもまた子どもをコントロールすることになります。あくまでも、本人の意思を尊重することが大切なのです」

※こちらのエピソードについては、堀内氏の著書『「なんとかしなくちゃ」を手放したら子どもは自分から動き出す: 発達障害・不登校の子を育てる77のヒント』(2026年7月発刊)で詳しく語られています。

発達障害の子どもを自立へ導く、関わり方3つのポイント

発達障害の中にもさまざまな特性があり、子どもたちの自立への道はそれぞれ違います。その中でも、共通して親が意識すべき関わり方を3つのポイントでまとめました。

1.子どもに説明する

子どもの意思決定をサポートするためには、前提となる情報の提供も大切です。

特に社会の仕組み、集団生活でのルールなどは「なぜそうしなくてはならないのか」という理由を、手が理解できるように伝えなくてはなりません。発達障害の子は自分が納得できるまで「どうして?」を繰り返す場合もあり、向き合うには相当な根気が求められるでしょう。

けれど、もし大人が相手であれば、「いいから黙ってやりなさい」という対応は決してしないはずです。親はついこのような言い方をしてしまいがちですが、子どもにも一人の人間として敬意ある態度で接することが必要なのです。

2.自分の考えはアイメッセージで伝える

どれだけ子どもの意思決定を尊重したいと思っても、社会で生きる中では「このやり方のほうが確実にうまくいく」という場面はあります。

特にコミュニケーションにおいては、相手の気持ちに配慮した言い方が重要です。そのようなときは、「こういう言い方をしなさい」と強制するのではなく、「私だったら、こういう言い方をするよ」と伝えます。

主語を自分(I)に置き換えて伝えることを、アイメッセージと言います。子どもの考えが間違っていると思ったときも頭ごなしに否定せず、「あなたはそう思うのね。でも、私だったらこう思うな」とアイメッセージで伝えることで、子どもの主体性を奪わずに済みます。

3.子どもの力に気づき、伝える

一番大切とも言えるのは、子どもの頑張りを見守ることでその良い部分に気づき、そして本人に「お父さん・お母さんは、ちゃんと分かっているよ」と伝えることです。幼い子どもも、親が自分を見てくれていることは分かります。そして「自分の頑張りを認めてもらった」という経験が自信につながります

親は、卑下することによる子どもへの悪影響も考えておかなくてはなりません。日本では謙遜がとても重視されていますが、謙遜と卑下は違います。子どもの聞いているところで「うちの子は○○ができなくて」というように我が子の欠点をあげつらっていると、子どもは自信を奪われていきます

子どもが自分で物事を決められるようにするには、まず「親は自分を見てくれている。自分の力を信じてくれている」という信頼の土台が必要です。親が応援してくれているという実感が、子どもが自立へと踏み出す第一歩になります。

発達障害の子どもには自立できる強い力がある

今回お話を伺った 堀内氏の4人の子どもたちも、自己決定のプロセスを繰り返すことで、大人になり全員が自立しました。今、4人それぞれが自身の特性を生かせる場所を見つけて仕事をし、社会で活躍しています。

このような子育てが実践できた理由について、堀内氏は講演会への参加や本、大学、さらには様々な人との交流から学んだことが大いに役立ったといいます。

発達障害の子を育てるためには、まず子どもの持つ特性を理解することが重要です。

そのためには、発達障害について勉強すること、多くの人の経験から学ぶことが求められます。親が知識不足のまま我が子に向き合い、不安や焦りばかりを強めている状態は、子どもにとっても悪影響を与えかねません。

特にインターネットを検索すれば見つかるような発達障害の一般的知識ではなく、「こういう場面では、子どもに何て声をかければいいの?」といった日々の疑問を解決してくれる実践的知識が身に付けば、不安も解消されます。

堀内氏の講演では、4人分の子育てだけでなく、放課後等デイサービス、保育園、ジョブコーチの仕事など多様な経験から得られたケーススタディが学べると好評です。子育て世帯向けの市民講座や、学校教育者向けの研修会を企画されている行政ご担当者様は、ぜひ次回イベントとしてご検討ください!

📌 「発達障害の子どもを自立へ導く」のためのQ&A

Q1. 発達障害のある子どもを自立へ導くために、最も大切なことは何ですか?

A.子どもの特性を理解し、本人の意思を尊重することです。親が答えを決めるのではなく、必要な情報や選択肢を伝えたうえで、子ども自身に決めてもらうことが自立につながります。

Q2. 子どもが苦手なことをできないときは、どう対応すればよいですか?
A. すぐに叱るのではなく、「なぜできないのか」「その子にとって何が自然なのか」を考えます。苦手な部分だけでなく、その行動の背景や、そこに隠れている強みにも目を向けましょう。また親が考えるだけでなく、ときには子どもと一緒に考えることも大切です。

Q3. 子どもが自分で決めると、失敗するのではないでしょうか?

A. 失敗することもありますが、失敗から学び、その結果を引き受ける経験も自立には必要です。ただし、子どもは知識や経験が少ないため、親は判断に必要な情報を分かりやすく伝える必要があります。

Q4. 子どもに注意や助言をするときは、どのように伝えればよいですか?

A. 「こうしなさい」と命令するのではなく、「私だったらこう考えるよ」と、アイメッセージで伝えます。子どもの考えを一度受け止めてから大人の意見を伝えることで、主体性を守りながら助言できます。

Q5. 子どもの自信を育てるために、親ができることは何ですか?

A. 子どもの努力や強みを認め、本人に具体的な言葉で伝えることです。親は子どもを応援し、子どもが「お父さん・お母さんは自分を信じてくれている」と感じられるように関わることが、自立の土台になります。

堀内祐子

自閉スペクトラム支援士 特別支援士 傾聴心理士

発達障害(アスペルガー症候群、ADHD、LD)をもつ4人の子どもの母親。「ゆるみ☆子育て」代表、自閉スペクトラム支援士、特別支援士、傾聴心理士としても活躍中。講演では、発達障害有無に関わらず、子育て問題、問題行動に悩む母親・父親への対応法について具体的・実践的に語る。

講師ジャンル
社会啓発 教育・青少年育成 人権・平和

プランタイトル

「なんとかしなくちゃ」を手放したら子どもは自分から動き出す
~子どもの特性を受け入れ、自立を育む~

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