
誰もが自由に意見を発信し、同じ考えを持つ人とつながれるSNS。その理想的と言えるはずの空間が、今、人々のネガティブな感情であふれています。なぜこのような状況に陥っているのかを理解するには、まずSNS社会の構造上の問題点を知っておく必要があります。
今回はSNS・メディア論に於いて鋭い切り口で多数の著作を発表し、新聞や雑誌にも寄稿している作家・批評家の物江潤氏に、SNS上の炎上や対立といった問題の背景について解説していただきます。
※本記事の内容は2026年9月時点のものです。
【監修・取材先】
物江 潤氏
作家・批評家
今、SNS社会ではどんな問題が起きているか
ひとたび特定の対象への攻撃が始まると、その意見に賛同する人々が集まってインターネット上で憎悪が爆発的に増殖していく「炎上」。その流れの中で繰り返される、感情的で何の根拠もない批判、「誹謗中傷」。
今ではこうした現象も当たり前のものとなってしまい、あらゆる分野で私たちの意見の形成にまで影響を与えています。
2026年9月に投開票が行われた沖縄県知事選は、こうした時代を象徴する良い例(※)でしょう。
SNS上で現職の知事へのバッシングが加熱し、それらの主張を裏付けるかのような悪意ある画像や動画が拡散しました。この中には一目で誤情報と分かるものも多く、AIによって生成された動画も少なくありませんでした。
驚くべきなのは、こうしたバッシングや情報の大半が沖縄県外から発信されていたことです。それらの発信者が真摯に沖縄の県政を良くしたいと考えて行動していたのか、疑わしいと言わざるを得ません。
一見、自分とは遠く離れた問題に強い意見を抱き、過激な行動にまで発展してしまう。SNSが浸透したことにより、この不可思議な現象が常態化しているのです。
※参考:
・日本経済新聞 2026年9月10日公開記事
・プレジデントオンライン 2026年9月5日公開記事
・日本ファクトチェックセンター 2026年8月26日公開記事
SNSでの炎上や対立の問題に見られる共通の構造
SNS上の炎上や対立の背景には、人間の根源的な願望が潜んでいます。それは「正しい者が悪と戦うストーリーに、自分も参加したい」という願望です。
政治においては、かつて「劇場型」という言葉が注目されました。現在はSNSの登場によって、その劇場型政治をはじめとした世の中の無数のストーリーに、ユーザーも参加できる、あるいは「参加している」と錯覚するようになっています。
そこに目を付けたのが、ビジネスや政治的目的を持った人々です。
ユーザーに「ストーリーに参加できる場」を提供すれば、そこで注目されたい人が現れ、それを持ち上げる集団が作られ、異なる考えを持つ集団同士の対立も生まれます。対立が注目を集めれば、それがアクセス数につながって宣伝効果や広告収益といった利益を生みます。
プラットフォームが、人が集まる場を提供する
→ストーリーが生まれ、それに沿って集団が作られる
→集団間の対立や炎上が起きて、注目度が高まる
→ビジネスや政治的な目的を持った人々が、利益を得る
SNS上の対立や炎上は、共通してこのような構造を持っています。
上記の中で人々が重視するのは「ストーリー」ですが、基本的に個々のストーリーは使い捨てです。対立や炎上を煽るほどに大きな利益を得る人がいて、それによってユーザーの行動が過激になって問題視されるようになると、実にあっさりとその場が閉鎖されることも珍しくありません。
そして人々は、自分の感情を預けられる新しい「ストーリー」を求めて、またSNSの中をさまようのです。
この構造は、金銭や承認欲求、ストーリーに参加している満足感など、多方面であらゆる利益を生む便利なシステムです。そこには様々な立場・目的を持った人が関わっていて、もはや誰にも制御することはできません。
SNS社会の問題を読み解くための、3つの「交換様式」の考え方
もはや止めることができない流れなら、自分自身がその中で身を守る方法を考える必要があります。物江氏は、感情を刺激して対立を煽ろうとするSNSに対して、一歩引いて冷静に俯瞰することの重要性を説いています。
そのためのアプローチとして物江氏が注目しているのが、思想家・柄谷行人氏の提唱する「交換様式」の理論です。社会の在り方を「人と人、集団と集団が何をどのように交換しているか」の観点で読み解く交換様式は、SNS社会にも当てはめられると物江氏は考えています。
ここでは交換様式で示される3つの形態を、物江氏の独自の解釈によってSNS社会の要素と関連づけながら解説していきます。
交換様式A:互酬
一つめの様式「互酬」は、人や共同体の間で行われる「贈り物とお返し」のやり取りを指します。ご近所同士のお裾分けに見られるような「互酬」のスタイルは、交換様式の中でも特に古い形態といえます。
SNSでいうと、友達が自分の投稿に「いいね」をしてくれれば、こちらも相手の投稿に「いいね」を返すことと考えると、イメージがしやすいのではないでしょうか。そこに上下関係や金銭的利益は発生しませんが、「『いいね』してもらったら、こちらも返さなくてはならない」という一種の義務感が生じるのも、交換様式の「互酬」に通じます。
交換様式B:服従と保護
二つめの「服従と保護」は、力ある者に従う代わりに、その者から保護を受けるというスタイルです。「国家」という形態も、国民が税金を払い法に従う代わりに、国家がインフラや福祉を提供するという「服従と保護」の交換様式から成り立っています。
実はSNS上にも「服従と保護」は存在しています。SNS上で「インフルエンサー」あるいは「推し」として力を持った存在は、人々に「正義の物語」「仲間との連帯感」「所属すべきコミュニティ」を与えます。これが交換様式Bにおける「保護」にあたり、その代わりにユーザーはインフルエンサーに忠誠を誓い、その教えに従います。
価値観が多様化して善悪の基準も曖昧な現代、人々はインフルエンサーから与えられる規範に容易に染まってしまいます。しかし、インフルエンサーを中心とした個々の「界隈」の規範が、その外でも通用するとは限りません。多くのケースで、「自分たちにとっての当たり前」に則って発言したことが、炎上や対立の火種となるのです。
交換様式C:商品交換
三つめの「商品交換」は、物やサービスをお金と交換する取引を指します。
SNSのフォロワー数や「いいね」、リポストの数は、そのまま市場価値となります。注目度の高いコンテンツは広告収益を生みますし、インフルエンサーが紹介した商品は飛ぶように売れるからです。
SNS社会では、ユーザーの感情や正義感、純粋な憧れの気持ちがお金へと変換され、それを利用して利益を得る仕組みが出来上がっています。ユーザー一人ひとりが、このような構造の中で搾取されていると自覚することが、冷静な目でSNSを俯瞰するための第一歩です。
SNS社会の構造を理解し、感情的に距離を置く方法を身につける

物江氏は、柄谷氏が考える交換様式Dに、ブレイクスルーの可能性があると捉えています。
交換様式Dは、厳密にいうと「交換」ではありません。人間的な営みであるAが限界まで搾取されたとき、人々を立ち上がらせる衝迫(心の内から突き上げる強い欲求)のことを指します。そして立ち上がった人々は、まるで北極星のように光り輝く理想X(統制的理念)を目指すようになります。
柄谷氏も指摘するように、このXは決して実現しないものです。しかし、強引に理想を実現しようとする人々は過去に数多く存在し、しばしば災いをもたらしてきました。物江氏はそうした過去の過ちから、以下のような学びを得るべきだと訴えています。
「『これこそが理想の社会だ』と目の前のストーリーに安易に飛びつくことこそ、最も危険です。大切なのはSNS上のすべてのストーリーに対して疑いの目を向け、『理想は永遠に実現しないからこそ、それを求めて前進し続けるものだ』と認識することでしょう」
SNS上の対立を生む構造を知ることは、自分もまたそのストーリーに引き込まれかけていないか、立ち止まって考えるきっかけになります。 物江氏は講演で、この一歩引いた姿勢を 「しらけるという倫理」として取り上げ、感情を刺激する情報から身を守るための具体的な方法を紹介しています。
物江氏の講演は、SNSの炎上や対立の問題に関心のある市民向けの講演会や、発信する側の倫理を学ぶための社内研修などで、「大変わかりやすかった」「意識啓発につながった」と好評を得ています。SNSリテラシー講演やコンプライアンス研修等を検討されている行政・企業のご担当者様は、ぜひ次回の企画としてご検討ください!
物江 潤
作家・批評家

早大卒後、東北電力を経て松下政経塾入塾。政治・社会・教育について執筆活動を展開。「新潮QUE」連載や新聞・雑誌寄稿のほか、「PRESIDENT Online」では記事4本が月間部門別ベスト3入り。新刊『SNSと交換様式』『SNS選挙という罠』『デジタル教育という幻想』など著書多数。講演も好評を得ている。
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講師ジャンル
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ソフトスキル | 意識改革 | |
|---|---|---|---|
| 社会啓発 | 教育・青少年育成 | 人権・平和 |
プランタイトル
なぜSNSでは対立と炎上が止まらないのか
――分断を生み出すSNS社会の仕組み
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