「ウェルビーイング経営」という言葉が急速に浸透する一方で、「具体的に何をすれば業績に繋がるのか?」「うちは中小企業だから、立派なオフィスや制度なんて無理だ」とあきらめてはいませんか。

実は、ウェルビーイングは単なる福利厚生の延長ではありません。労働人口が激減する日本において、社員が心身ともに良好な状態で、エンゲージメント高く働ける環境を整えることは、企業の存続を左右する「攻めの経営戦略」です。

本記事では、戦略総務研究所所長として長年数多くの企業現場を取材した豊田健一氏に、人的資本経営の視点から、社員のパフォーマンスを最大化するための「場の磨き方」についてお話を伺いました。コロナ後のハイブリッドワーク時代において、今なぜオフィスを「来たくなる場所」に変える必要があるのか。具体的な事例とともに、経営戦略としてのウェルビーイングの秘訣を伝授します。

※本記事の内容は2026年3月時点のものです。

Your Image【監修・取材先】
豊田健一氏

株式会社月刊総務 戦略総務研究所 所長

 

そもそもウェルビーイングとは?5つの構成要素

「ウェルビーイング(Well-being)」とは、直訳すれば「幸福」や「健康」ですが、ビジネスにおいては「身体的、精神的、社会的に良好な状態であること」を指します。WHO(世界保健機関)の憲章でも提唱されているこの概念は、単に「病気ではない」という消極的な状態ではなく、個人がその能力を十分に発揮し、生き生きと活動できている状態を意味します。

経営においてウェルビーイングが重要なのは、それが成果を出すための「前提条件」だからです。どんなに優れた戦略やシステムを導入しても、それを実行する「人」が疲弊していては、組織のエンジンは回りません。

米ギャラップ社は、ウェルビーイングを構成する要素として以下の5種類を挙げています。

  1. Career(キャリア):日々の仕事に情熱を持ち、納得感を得られているか
  2. Social(ソーシャル):周囲と信頼し合える質の高い人間関係があるか
  3. Financial(フィナンシャル):経済的に自立し、将来への安心感があるか
  4. Physical(フィジカル):心身ともに健康で、活力に溢れているか
  5. Community(コミュニティ):自分の属する組織や地域に帰属意識があるか

ここで注目すべきは、人事が「人を磨く(教育や評価)」役割を担うのに対し、総務は「場を磨く(環境や仕掛け)」役割を担うという点です。この両輪が揃って初めて、エンゲージメント(理解・共感・行動意欲)とウェルビーイングの相乗効果が生まれ、持続可能な成長が可能になるのです。

やったっきりでいるウェルビーイング企業の実情と問題点

「月刊総務」が行った最新のアンケート結果を見ると、日本企業のウェルビーイングに対する意識の変化が浮き彫りになります。2022年には51.8%だった「取り組んでいる」企業の割合は、2025年には約65%にまで上昇しました。今や過半数の企業が何らかのアクションを起こしています。

具体的な取り組みとしては、約7割の企業が「ワーク・ライフ・バランスの推進」を挙げています。働き方改革の延長として、残業削減や休暇取得の奨励が進んでいることは喜ばしいことです。

しかし、その中身を精査すると深刻な問題点が見えてきます。

第一に、「やりっぱなし」の状態です。実に7割の企業が、社員のウェルビーイング状態を測定する「アセスメント」を実施していません。効果が可視化されないため、施策が形骸化しやすいのです。

第二に、「コミュニティ」の希薄化です。コロナ禍以降、リモートワーク等の普及で働き方に融通が利くようになった一方で、社員の約4割が「コミュニティビーイング(組織への帰属意識や繋がり)」が悪化したと回答しています。

取り組んでいない理由として「何をすればよいかわからない」「経営陣の理解がない」という声が多く聞かれますが、これはウェルビーイングを「コスト(福利厚生)」と捉える旧来の価値観が足かせとなっている証拠です。これからの経営に必要なのは、投資としてのウェルビーイングという視点です。

オフィスとウェルビーイングの深い関係性

では、具体的に「場」はウェルビーイングにどう関わるのでしょうか。コロナ禍を経て、オフィスの定義は大きく変わりました。かつての「作業をする場所」から、現在は「社員が繋がり、共創し、エネルギーをチャージする場所」へと進化しています。

ここで重要なのは、「適切な場の提供=ウェルビーイングの向上」という等式です。
人は環境の影響を強く受ける生き物です。例えば、アフォーダンス(環境が人間に与える意味や価値)という考え方があります。

  • 重厚で四角い机が並ぶ会議室では、「正論を論理的に話すべきだ」という緊張感が生まれます。
  • カフェのような柔らかなラウンジでは、「突飛なアイデアも許される」という開放感が生まれます。

「心理的安全性を高めよう」と言葉で100回唱えるよりも、自然と視線が斜めに交差するソファ配置にする方が、心理的な壁を取り払う効果は絶大です。経営者が「今、社員にどんなモードになってほしいか」を逆算し、そのための空間を用意すること。これが「場を磨く」ことの本質です。

また、最近注目されているのが、部署ごとに最適な拠点を設ける「ネイバーフッド」という考え方です。ただし、これが行き過ぎるとセクショナリズム(縦割り)を生みます。これを防ぐには、各拠点の間に「誰でも使えるリフレッシュスペース」を配置し、あえて部署間が交わる動線(コラボレーションエリア)を作ることが有効です。さらに定期的に場所替えを行うことで、常に新しい刺激が生まれる仕掛けを作ります。

明日から取り組める!ウェルビーイングを高める具体事例

「予算もスペースもない」という中小企業でも、明日からできるスモールスタートな具体策があります。

1. キャビネットを撤去し、スペースを創る

まずは不要な書類を削減し、キャビネットを撤去してみてください。そこに生まれた数メートルの空間に、誰でも自由に使える椅子とテーブルを置く。それだけで、気分転換や偶発的なコミュニケーションが生まれるリフレッシュスペースが完成します。

2. グリーンとフリードリンクの導入

観葉植物を数個置くだけでも、視覚的な疲労回復効果があります。また、リフレッシュスペースにコーヒーサーバーを設置し、フリードリンク化する。これだけで社員は「大切にされている」と感じ、そこが自然と人が集まる「マグネットスペース」になります。

3. 社員の身体と精神の健康を「見える化」する

「My Health」のようなアプリを活用し、歩数や睡眠時間を可視化するだけでも、健康への意識(フィジカルビーイング)は変わります。スキマ時間に行える5分程度の健康レッスン受講を推奨するなど、ハード面だけでなくソフト面の運用も組み合わせましょう。

4. 階段をコミュニケーションの場にする

あえて階段の踊り場に小さなミーティングスペースを設けます。移動という身体活動の中に「ちょっとした会話」の場を設けることで、運動不足解消と組織の活性化を同時に狙うことができます。

中小企業がウェルビーイング経営を成功させる3つの視点

最後に、これからウェルビーイング経営に本腰を入れるための「3つの処方箋」をお伝えします。

1. 「人目線」の戦略を貫く

トップダウンで形だけの制度を押し付けるのではなく、現場の特性に合った施策を実行してください。経産省が提唱する「健康経営オフィス」の7要素(快適性、清潔、回遊性、休憩、食、運動、コミュニケーション)の中から、自社に欠けているものを社員と一緒に選ぶプロセスこそが重要です。

2. 現場の「健康リーダー」を巻き込む

総務担当者一人で抱え込んではいけません。各部門にウェルビーイングを推進する「健康リーダー」を配置し、現場主導で改善を継続させる組織づくりが必要です。

3. 「戦略総務」への意識改革

これが最も大切です。日々ルーチン業務に追われる総務担当者は、今日からこう確信してください。「舞台(環境)が変われば、役者(社員)の演じ方も変わる」と。
自分たちの仕事は「コスト削減」ではなく、最高の舞台を整える「プロデューサー」なのだと自らの可能性を信じることです。小さな成功体験(スモールウィン)を積み重ね、社内の雰囲気が変わる兆しを感じ取ることが、さらなる自信へと繋がります。

社員が輝き、会社が伸びる未来へ

ウェルビーイング経営の本質は、社員の幸せを通じて企業の持続的な成長を実現することにあります。コミュニケーションが活性化し、社内に活気が溢れてくること——それは数値化しにくいかもしれませんが、経営者が肌で感じる「変化の兆し」として何よりの指標になります。もちろん、その先にはエンゲージメントスコアの向上や離職率の低下、そして生産性の向上が待っています。

「場を磨く」ことで、採用・定着・活躍というポジティブなサイクルが生まれます

具体的な「場の磨き方」や、社員の意識を劇的に変えるワークショップに興味をお持ちの方は、ぜひ豊田氏の講演・研修をご検討ください。貴社の課題に寄り添った、明日から使える「戦術」を共に見つけ出しましょう。

📌 ウェルビーイング経営のQ&A

Q1. 予算が限られていますが、ウェルビーイングのため大きな改装なしで効果は出ますか?

A.はい。不要なキャビネットを減らしてスペースを作り、観葉植物やコーヒーサーバーを置くことから始めてみてください。ハードの豪華さよりも、「社員のために場を整える」という経営の意思が伝わることが重要です。

Q2. ウェルビーイングが利益に繋がっているか、どう判断すればよいですか?

A.定量的にはエンゲージメントサーベイの変化を見ますが、まずは「社内の活気(挨拶や雑談の増大)」を指標にしてください。雰囲気が変われば、離職率や採用効率に必ず反映されてきます。

Q3. 心理的安全性を高める空間づくりのコツは?

A.「アフォーダンス」の活用です。緊張させたい場所(会議室)と、リラックスさせたい場所(ラウンジ)を明確に分け、家具の配置や照明で「ここではこう振る舞っていいんだ」というメッセージを視覚的に伝えるのがコツです。

Q4. 総務担当者が忙しくて新しいことに着手できません。

A.まずは「舞台が変われば役者も変わる」という視点を持つ習慣から始めてください。10分でできる整理整頓やグリーンの設置など、小さな変化から生まれる社員の反応を楽しみ、それを「戦略総務」への第一歩にしましょう。

Q5. 部署間の壁(セクショナリズム)を壊すには?

A.各部署の専有エリア(ネイバーフッド)の間に、誰もが使える魅力的な「リフレッシュエリア」を設けてください。あえて遠くの複合機を使うような動線を作るなど、物理的な「回遊性」を高める仕掛けが有効です。

豊田健一 とよだけんいち

株式会社月刊総務 戦略総務研究所 所長

早稲田大大学政治経済学部卒。(株)リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』編集長,(株)月刊総務代表取締役社長歴任。現在は、戦略総務の専門家として講演・執筆活動、コンサルを行う。著書『経営を強くする戦略総務』他多数。

講師ジャンル
ソフトスキル コミュニケーション
実務知識 経理・総務・労務 経営戦略・事業計画
営業・販売・マーケティング IT・AI・DX

プランタイトル

Well-Beingとオフィスの関係性。その具体的施策と考え方

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