介護現場では、転倒・転落、誤薬、誤嚥・窒息など、利用者の生命や生活に関わる事故が起こる可能性があります。大切なのは、事故を「職員の不注意」で終わらせず、原因を分析し、同じ事故を繰り返さない仕組みをつくることです。そのために役立つのが介護士向けの事故再発防止研修です。

本記事では、介護施設や福祉団体の研修担当者に向けて、介護事故の現状から研修の目的・内容、講師選び、研修を成功させるポイントまで解説します。
また3つのテーマ別におすすめの事故再発防止研修プランもご紹介します。
研修企画にご活用ください!

テーマ 紹介している講師(敬称略)
テーマ①事故・ヒヤリハットを直接防ぐ 斉藤圭一,高橋美紀,恒松伴典,稲田尚久
テーマ②不祥事・虐待を防ぐリスク管理 三塚浩二,牛越博文,梶川義人
テーマ③組織・人材づくりから事故を防ぐ 中村 学,後藤功太,岩見俊哉
目次

増加する介護現場での事故

高齢化に伴い、介護現場では要介護度の高い利用者や認知症のある利用者への対応が増えています。厚生労働省では、「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」を公表し、事故の未然防止や、事故発生後の原因分析・再発防止の重要性を示しています。

参考:厚生労働省「介護現場におけるリスクマネジメントについて」

実際、自治体が公表するデータを見ると、事故報告件数が増えている地域もあります。福岡市の介護サービス事業所における事故報告件数は、令和4年度4,874件、令和5年度5,456件、令和6年度6,465件と3年連続で増加しています。令和6年度では転倒が2,051件、誤薬が399件、誤嚥が81件報告されています。

参考:福岡市「令和6年度 福岡市 介護サービス事業所 事故報告統計」

また、和歌山県御坊市でも、介護事故の報告件数は令和4年度42件、令和5年度54件、令和6年度71件(80人)と増加しています。令和6年度では転倒が44件(55.0%)と最も多く、誤嚥・窒息5件のうち2件では死亡事故が発生しています。
参考:御坊市「令和6年度 介護事故報告結果について」

介護現場で特に注意したいのは、以下のような事故です。

  • 転倒・転落事故:ベッドからの転落、歩行中のつまづき、車椅子からの立ち上がり時の転倒など、介護事故の中で最も高い割合を占めます。
  • 誤嚥・誤飲・食事中のトラブル:食物の詰まりや誤嚥性肺炎のリスク、異物誤飲など、生命に直結する重篤な事故に繋がりやすい事例です。
  • 服薬・投薬ミス:配薬間違い、与薬時間の誤り、量の勘違いなど、確認不足や手順の不備から発生するヒューマンエラーです。
  • 送迎・移動時の事故:送迎車への乗降時の転倒や車両の接触事故、移動介助中の接触による創傷などが挙げられます。

例えば、「夜間に利用者が一人でトイレに向かい転倒した」というケースで、単に「職員がもっと注意する」という対策だけでは再発を防げません。なぜ一人で移動したのか、見守り体制は十分だったか、動線や照明に問題はなかったかなど、複数の視点から原因を分析する必要があります。

事故発生がもたらす施設へのリスク

事故が発生すると、利用者の健康被害や QOL(生活の質)低下にとどまらず、現場スタッフの強い精神的負担や離職につながります。さらに、利用者家族との信頼関係の破綻、損害賠償請求、行政指導や施設の評判低下など、事業運営そのものを揺るがす重大なリスクへと発展します。

事故再発防止研修が必要な理由

介護事故が起きた際、「担当職員が確認を怠った」「注意不足だった」と個人の責任だけにすると、本当の原因を見逃してしまいます。

事故の背景には、人員配置、業務手順、環境、情報共有、疲労、思い込みなど複数の要因があります。そのため事故再発防止研修では、「誰が悪かったのか」ではなく「なぜ事故が起きたのか」を考え、組織として改善する視点を身につけることが重要です。

厚生労働省の解釈通知でも、事故報告や分析、改善策の周知は、職員の懲罰ではなく「施設全体で情報共有し、今後の再発防止につなげる」ことが目的とされています。

法的な側面からも重要

指定介護老人福祉施設では、事故発生または再発を防止するため、

  • 事故防止に関する指針の整備
  • 事故や危険事例の報告・分析
  • 改善策の職員への周知
  • 事故防止委員会の開催
  • 従業者への定期的な研修
  • 安全対策担当者の配置

などが求められています。

さらに厚生労働省の解釈通知では、指定介護老人福祉施設について、事故発生防止研修を年2回以上定期的に開催し、新規採用時にも実施することが重要と示されています。

※必要となる研修内容や頻度はサービス種別によって異なるため、それぞれに適用される運営基準等を確認してください。

事故再発防止研修の目的

事故再発防止研修には、大きく3つの目的があります。

第一は、事故の原因を正しく分析する力を身につけることです。「確認不足」のような表面的な原因ではなく、人・設備・環境・業務手順・組織体制などから原因を探ります。

第二は、具体的な再発防止策を考えることです。「今後は注意する」ではなく、「服薬前に利用者名・薬剤・時間を確認する」など、実際の行動に落とし込むことが重要です。

第三は、事故やヒヤリハットを共有できる職場風土をつくることです。ミスを報告した職員を責める文化では、重大事故につながる小さな兆候が表に出にくくなります。事故から学び、チーム全体で改善する「安全文化」を育てることも研修の重要な目的です。

事故再発防止研修の内容

研修では、施設の課題に合わせて次のような内容を取り入れると効果的です。

介護事故とヒヤリハットの基礎

事故、インシデント、ヒヤリハットの違いを理解し、なぜ小さなヒヤリハットを集めることが重大事故の予防につながるのかを学びます。

事故原因の分析

実際の事故事例を使い、「なぜなぜ分析」や根本原因分析などを行います。職員個人だけでなく、設備・業務手順・コミュニケーションなど幅広い視点から事故原因を考えます。

事故別の再発防止策

転倒・転落、誤嚥・窒息、誤薬、移乗・入浴事故、離設など、介護現場で起こりやすい事故について具体的な対策を学びます。

事故後の報告と情報共有

事故報告書の書き方、家族や管理者への報告、職員間での情報共有、マニュアルへの反映など、「事故後にどう改善するか」まで学びます。

SBおすすめの事故再発防止研修プラン

事故再発防止研修といっても、施設が抱える課題はさまざまです。「事故そのものの原因分析を学びたい」「ヒューマンエラーを減らしたい」「不祥事や虐待を防ぎたい」「職員が声を上げやすい組織をつくりたい」など、目的に合わせて講師を選ぶことが大切です。
ここでは、事故再発防止に役立つ研修を、4つのタイプに分けてご紹介します。

テーマ①事故・ヒヤリハットを直接防ぐ研修

転倒や誤薬などの事故対策、ヒヤリハット、ヒューマンエラーなど、事故発生の原因と具体的な予防策を学びたい施設におすすめです。


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斉藤圭一

笑ってしかもためになる研修を目指す! MBA・研修講師 株式会社スターフィッシュ 代表取締役

介護業界におけるリスクマネジメント

介護現場特有のリスクを取り上げ、事故発生時の対応から未然防止までを実例とワークで学びます。ハインリッヒの法則や思い込みによるミスなども扱い、介護現場の業務改善につなげる実践型研修です。


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高橋美紀

特定社会保険労務士/産業カウンセラー/心理相談員

ヒヤリハットと心の安全

ヒヤリハットを「不注意」だけで捉えず、焦り、疲労、思い込み、遠慮、職場の心理的安全性から分析。社労士・産業カウンセラーとしての知見を生かし、声を掛け合い事故を防ぐ職場づくりを学びます。


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恒松伴典

conditioning studio VIVALUCK! 代表/作業療法士

ヒューマンエラーを防ぐ!ミスを起こす脳の仕組み 今日から出来る改善方法

「気を付ける」だけでは防げないミスを、記憶や注意といった脳機能から解説します。脳科学を基に治療を行う作業療法士ならではの視点で、注意力に頼らずヒューマンエラーを減らす具体策を学べます。


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稲田尚久

岡山コミュニケーション研修講演企画代表/産業カウンセラー/アンガーマネジメントファシリテーター

安全意識が高まる感情コントロール術

イライラや怒りで冷静さを失うことがヒューマンエラーにつながる点に着目。産業カウンセラーとして、アンガーマネジメントを使った感情コントロール法を、豊富な事例やワークを交えて楽しく伝えます。

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テーマ②不祥事・虐待を防ぐリスク管理研修

介護事故だけでなく、虐待、不適切ケア、コンプライアンス違反などを含めて施設全体のリスクを減らしたい場合に適した研修です。


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三塚浩二

株式会社コンクティオ 代表/社会保険労務士

【介護現場一般職向け】不祥事未然防止のためのコンプライアンス研修

情報漏えい、虐待、身体拘束、記録改ざん、不正請求など介護現場で起こり得る問題を具体例から学習。介護事業所へのコンサルティング経験を持つ社労士が、個人と組織の両面から再発・未然防止策を伝えます。


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牛越博文

介護離職予防アドバイザー/医療ジャーナリスト/介護ジャーナリスト

虐待防止に関する研修(法定)

虐待防止の基礎から、不適切ケアを減らすチームビルディング、コミュニケーション、職場環境改善まで幅広く解説。医療・介護制度を長年取材・研究してきたジャーナリストの知見を生かした研修です。


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梶川義人

日本虐待防止研究・研修センター 代表/桜美林大学 兼任講師

高齢者虐待の防止と支援

ソーシャルワーカー約20年、介護施設の業務アドバイザー約10年の経験を持ち、高齢者虐待防止研修は約1,500件以上。不適切ケアや虐待の芽に気づき、組織として予防・対応するための専門的な知識を学べます。

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テーマ③組織・人材づくりから事故を防ぐ研修

事故の背景には、職員間の情報共有不足や、リーダーシップ、職場の人間関係などが隠れていることもあります。事故が起こりにくい組織そのものをつくりたい施設におすすめです。


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中村 学

笑う門にはいい介護の会 代表/介護人材育成コンサルタント/介護現場モチベーションアッパー

笑う門にはいい介護 ~笑顔第一主義の仕組み~

離職、職員間トラブル、モラル低下、ルールが守られないといった介護組織の課題を改善する研修。介護人材育成の経験を基に、職員が前向きに働き、質の高い介護を提供できる組織づくりを考えます。


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後藤功太

人材定着コンサルタント/介護特化型 社会保険労務士

介護リーダー育成研修

介護事故を防ぐ鍵は、ミスを隠さず共有できる風土づくりです。本研修ではリーダーの「承認力」を高め、指示待ち脱却や積極的な報連相を引き出す手法を習得。心理的安全性を高めヒヤリハットの共有を活性化させ、事故や不祥事を未然に防ぐ現場へ導きます。


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岩見俊哉

経営心理カウンセラー/介護経営コンサルタント/理学療法士

介護士向け事故防止研修(仮)

病院勤務や有料老人ホーム施設長、介護事業経営を経験した理学療法士・心理カウンセラー。5,000人以上のリハビリに携わり、介護現場を熟知した経験から、事故を防止できる職員の心の状態と組織づくりを考えます。

事故再発防止研修を企画する際は、単に「事故防止」というテーマだけで講師を選ぶのではなく、自施設で事故が起きる背景に何があるのかを考えることがポイントです。
転倒・誤薬などの事故やヒヤリハットが多い場合はリスクマネジメントやヒューマンエラー研修、虐待や不適切ケアへの対策を強化したい場合はコンプライアンス・虐待防止研修、報告や情報共有に課題がある場合は組織づくり・心理的安全性を扱う研修など、課題に合わせて選ぶとより高い研修効果が期待できます。

研修を成功させる5つのポイント

研修を実際の事故減少につなげるには、開催するだけで終わらせないことが重要です。

  1. 自施設の事故を分析する
    過去の事故・ヒヤリハットを集計し、転倒、誤薬、誤嚥など、施設で特に多い事故を研修テーマに反映させます。
  2. 実際の事例を使う
    一般論だけでなく、実際に起こり得る事例を使うことで、受講者が「自分の業務の問題」として考えやすくなります。
  3. 参加型研修にする
    講義だけではなく、ケーススタディやグループワークを取り入れ、「なぜ起きたか」「どう防ぐか」を受講者自身に考えてもらいます。
  4. 職員を責めない
    事故を起こした職員の責任追及ではなく、事故が起きにくい仕組みをつくることを研修の共通認識にします。
  5. 研修後の行動を決める
    研修で学んだ内容をマニュアルや業務手順に反映し、1~3か月後に改善策が実行されているか確認しましょう。

事故再発防止研修に関するよくある質問

Q1.事故再発防止研修は義務ですか?

サービス種別によって異なりますが、指定介護老人福祉施設などでは事故発生・再発防止のための定期的な研修が求められています。

Q2.研修は年何回行えばよいですか?

指定介護老人福祉施設では、厚生労働省の解釈通知で年2回以上の定期教育に加え、新規採用時にも研修を行うことが重要とされています。

Q3.どんな内容を扱うとよいですか?

事故原因分析、ヒヤリハット、転倒・誤薬・誤嚥などの事故別対策、事故報告、情報共有などを組み合わせるとよいでしょう。

Q4.研修時間はどれくらい必要ですか?

内容によりますが、基礎的な講義なら60分程度、事例検討やグループワークを含める場合は90分程度が一つの目安です。

Q5.外部講師に依頼するメリットは?

他施設の事例や専門的な事故分析手法を学べるほか、第三者の視点から自施設の課題を見直せます。ワークを取り入れた研修なら、職員自身が改善策を考えるきっかけにもなります。

事故を繰り返さない組織づくりを

介護事故を完全にゼロにすることは簡単ではありません。だからこそ重要なのは、事故やヒヤリハットから学び、原因分析→共有→改善→検証を繰り返せる組織をつくることです。

事故再発防止研修は、知識を身につけるだけではなく、職員一人ひとりの安全意識をそろえ、「事故を個人の問題にしない文化」を育てる機会になります。

システムブレーンでは、介護・福祉、リスクマネジメント、ヒューマンエラーなど各分野に精通した講師の中から、施設の課題・受講対象者・ご予算に合わせて研修プランをご提案しています。 事故再発防止研修を企画される際は、ぜひお気軽にご相談ください。

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