日本ラグビー代表選手として日本ラグビー界にさまざまな歴史を刻んできた今泉清さん。現在、ラグビーから学んだチームビルディング・マネージメント・リーダーシップ・コーチングの実学をもとにした講演活動も行っています。
「やる気のない人をやる気にさせる」講演で定評のある今泉さんに、自分のモチベーションの上げ方、部下や子供のフォロー方法、そして夢を叶える力のヒントを理論的に教えていただきました。
聴講者が明日の自分が楽しいと思えるように
――今泉さんは、「やる気のない人をやる気にさせる」講演で定評がありますが、講演をする際に心掛けていらっしゃることはありますか?
今泉 私はすでに10年以上講演活動を行っています。その際はいつも聴講した方々が「明日の自分が楽しみになる」ようなアプローチで講演をさせていただいています。
企業向けにさまざまなジャンルの講演を開催していますが、一番多いのが「モチベーション」です。モチベーションの講演では、明日やってみたいなと思うような理論をお伝えしています。何かをやってみたいと思うワクワクする気持ちこそ、成長のキーだと思います。ワクワクして何か新しいことに挑戦する、その積み重ねが「成長」となります。
成長には「ポジティブ精神」が必要であるといわれます。実は「ポジティブ」は語源を調べてみると「事実を積み上げていく」という意味があるようです。「プラス思考」や「前向き」と同じように取り扱われていますが、語源を見ると実はそうではないようです。「できる自分」を積み上げこそがポジティブ、ひいては成長になるのだという観点でお話しさせていただいています。
――「ポジティブ」と「プラス思考」は語源から見ると同じものではないのですね。
今泉 そうですね。辞書で調べると「ポジティブ」の対義語は「ネガティブ」ではなく、自然という意味の「ナチュラル」なのだそうです。ここからも、私はポジティブ思考になるためには、自らが動いて行動を積み上げていく必要があると思っています。
GROWモデルを取り入れたコーチング
――最初のモチベーション講演ではどのようなことを話されたのでしょうか?
今泉 最初はオーリングテストとGROWモデルの話をしていました。
オーリングテストでは、ペアで試験を行います。一人に親指と人差し指をつけて、輪を作ってもらい、それをもう一人が手を使ってその輪を開こうとする、指の力具合を検証するテストです。
1度目は何も考えずに、2度目は成功体験を思い出しながら、3度目は失敗体験を思い出しながら、このテストを行うと、大概2度目は力が入って、逆に3度目は力が入らず簡単に指が離れてしまうという結果になります。
冒頭で、このオーリングテストから「できる自分」をイメージすることの大切さ、またそれが成長を助けることについてお話しをさせていただき、次にGROWモデルの話をします。
GROWの「G」は「ゴール」で目標の設定、Rは「リアリティ」で現状の把握、Oは「オプション」で選択肢、Wは「ウィル」でいつからいつまでに行うのか期日の明確化を意味します。
聴講者にまずゴールの目標を聞き、これが現状何%くらい達成されているのかをノートに書いてもらいます。例えばゴールを100%とした時、現状の達成率が30%であれば、目標と現状に70%のギャップが生じます。この70%をどのように埋めていくかを考えてるのが、「O」のオプションの部分です。オプションにどんなことをすべきかリストで書いてもらいます。その時に、自分で解決できるのか、解決できない場合にはだれに聞けばいいのかも記入してもらいます。
その次に、各項目についていつからいつまでに行うのか期限をそれぞれ設定してもらいます。
――具体的に期限を決めることは良いことですね。
今泉 大きな目標に対していつまでに行うのか、決めている方が多いようです。しかし、オプションのところでリスト化した「すべきこと」について細かい期限を決めている人はあまりいません。この「するべきリスト」はその日から着手していただき、やったら消していくという作業を繰り返します。
この成長モデルを中心に、モチベーションやチームワークの話をさせていただいています。
変化の大切さを認識し、夢を発信していくこと
――GROWモデルは確かにすぐに使えそうですね。しかし、人間は年をとるごとに今の状況に満足して、それ以上を求めなくなりますよね。
今泉 確かに、現状に満足できていればそれでいいんではないかという人もいます。
生理学の言葉で「ホメオスタシス」という言葉がありますが、これは日本語では「恒常性」と訳され、外的要因に対して一定の状態に保ち続けようとする体内の状態を指し、心理学上では「変化を嫌う心の動き」を意味します。
もともと人は変化を嫌うものであり、通常人は現状に問題がなければ変化する必要はないと考えます。
しかし、ビジネスシーンにおいて、こういった考え方では、コロナ禍で変革を迫られている今、対処できません。そこで、まず、「なりたい自分」や「できる自分」というものを頭に浮かべてもらいます。そしてそのイメージに自分はすでに到達できていると思い込むようにする。そうすると、現状と「なりたい自分」「できる自分」とにギャップを感じ、変化しようとしない自分を不快に感じるようになります。そこで初めて「変化しなければ」という意識に変えることができるのです。
これを私は「セルフモチベーション」と言っていますが、モチベーション講座では「変化」の大切さについてお話しさせていただいています。
――確かに人間は変化より安定を好む生き物だと思います。
今泉 「変化を嫌う」例として、よく会社研修なんかで「ゆでガエル理論」が引き合いに出されます。熱湯にカエルを入れれば熱くてすぐにそこから出ようとするけれど、冷たい水の状態でカエルを入れて徐々に熱くしていくとカエルは変化に気づかずそのまま死んでしまう、という話です。現状に満足して周囲の変化に対応せず、気づいていた時はもう遅かったということを例えるときに使います。
講演でそんな話をすると、聴講者の方々は変化の必要性を感じるようです。
その後、「夢」についてお話しします。「夢」は日本人にとって「儚い」という文字があるくらい「叶わない、儚いもの」というイメージがあります。しかし、アメリカ人にとっての「夢」はつまり「Dream」はつかみとるものというイメージがあります。
講演の時によく「皆さんの小さい頃の夢は何でしたか?それは叶いましたか?」とお聞きします。すると大概の人は「叶わなかった」と答えます。
それはなぜか?
小さいころの環境にあります。
例えば小さいころ歌手や漫画家になりたいというと、決まって親は「そんなの一握りにしかなれないんだから…」とマイナスの意見をいう。それを小さいころから聞いているから、ネガティブな体質になってしまいます。
しかし、それは、世界的な活躍をしている人の家庭環境を見た時に、明らかに違いがあります。例えば、元メジャーリーガーのイチロー選手。12才の頃に作文で「ぼくの夢は一流のプロ野球選手になることです。」としっかりと発信しています。それを受けて、イチロー選手の父親は、車でバッティングセンターに連れていき、お金が続くまでボールを打たせたそうです。
当時のイチロー選手は背も低く瘦せていて、周囲からも「あいつ本当にプロ野球選手になれるのか」と笑われたこともあったそうです。それでも家族がイチローの夢を支え、イチローの夢は家族の夢に、そしていつしか日本人の夢になった。アメリカメジャーリーグである一連のプレーを「イチローイング」という言葉で称されるようになった。本当にすごいことですよね。
それには、本人が夢をしっかりと周囲に発信して、それを周囲がしっかりと受け止めサポートしたことが要因にあると思います。
要は、夢をしっかりと周囲に発信し、それを周囲が認めていくことも大切なのです。
――夢を叶えるためには、自分から周囲に夢を発信すること、そして周囲からのサポートそれに加えて、諦めない心も大切なのではないでしょうか。
今泉 先ほどお話ししましたイチロー選手の12歳の頃の作文には、「3年生の時から今では、365日中360日は激しい練習をやってます。だから1週間中で友達と遊べる時間は、5~6時間です。」という記述があります。すでにそんな小さい頃から激しい練習をしてきた。
また、プロ野球選手になる前に身体が硬いことが指摘されていましたが、それを克服するために、毎日深夜3時に起きて2時間柔軟体操をしていたそうです。いい意味でいえば「ストイック」、悪い意味でいえば「クレイジー」ですよね。
しかし、彼はおそらく成長する自分が楽しみで仕方なかった。「なりたい自分」に行きつけるために努力を努力と感じなかったのでしょう。
だから、「変化」を「苦しみ」と捉えるのではなく、「楽しみ」と捉えると、苦しい練習も楽しく思えるようになります。
また、イチローは常に変化することをやめなかった。つまり、継続も重要なのです。ある監督が「努力できることも才能の一つ」と言っていますが、まさにその通りで、才能はだれでもある、それを伸ばすための努力を継続していくことが難しいことなんだと思います。
――継続しているうちに、壁にぶち当たることもあります。
今泉 うまく行っている時には、夢は実現できると考えますが、壁にぶつかりうまくいかなくなると、ついつい人は「夢は実現しない」「自分には無理だ」と諦めてしまいがちです。
これらは、いいことも悪いこともただ言葉を吐き出しているので、夢は実現しないのです。
「吐く」という漢字は、口にプラス・マイナスを書きます。それに対して、口にプラスと書くと「叶う」という言葉になる。つまり、「自分はできる」「必ずやり遂げる」とプラスな言葉を口に出せば夢は必ず「叶」います。
しかし、「自分にはできない」「自分には無理だ」などのマイナスな言葉を頭で思考し、口に出すだけでは、ゴールに到達できないのです。夢を「叶」えるためには、マイナス思考を捨て去り、プラス思考を口に出すことが必要なのです。
子供や部下が失敗した時はまずは想いを聞いてあげる
――先ほどのイチローの話ではないですが、自分の子供や部下をサポートしてあげる立場として、自分の子供や部下が壁に当たった時にどのような声かけをしてあげたらよいのでしょうか?
今泉 まずは、相手の想いを最後まで聞いてあげることですね。聞く時は相手の話を遮ったり、自分の意見を押し付けたりしてはいけません。また、時折、相槌をするなどして同感と共感、そして承認することも重要です。
しっかりと聞いてもらえるという心は相手への安心感に変わり、いつしかそれが信頼となります。
信頼関係を構築できれば、相手から失敗の状況を聞き、自分の体験を出しながら自分だったらこうして改善したというように話を持っていきます。頭ごなしにいうのではなく、相手と同じ目線に立って話すことが鍵です。
「自分はこういった体験があって、とても辛かった。でもこうしたら、改善できた」
同じような気持ちであったことを話してあげると、相手への共感にもなります。
――本日は、家庭や職場で使えるモチベーションアップのテクニックをロジカルに解説していただき、とてもためになりました。早速、明日から試してみたいと思います。
今泉 はい、そう言っていただけると光栄です。明日からできることをお伝えすることが私のポリシーです。講演でもこのようなことを話していますので、今度はぜひ講演でお聞きください。
――はい、ぜひ次回は講演をお聞きしたいと思います。本日はありがとうございました。
今泉 清 いまいずみきよし
パフォーマンスコンサルタント ラグビー元 日本代表
ラグビー日本代表として数々の輝かしいキャリアを持ち、2001年 現役を引退。早稲田大学やサントリーフーズのコーチとして後進の指導に注力。また、2005年に早稲田大学大学院公共経営研究科に進学し、公共経営修士を取得。ラグビーを通じて取得した「組織論」は企業組織にも生かせると定評がある。
プランタイトル
~ONE TEAM、ONE HEART~
ラグビーに学ぶ個人の成長とチーム・組織の活性化
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