医学の進歩の裏には様々な研究や取り組みがあるものですが、今回ご紹介する外科医の海道利実(かいどう としみ)さんは、医師でありながらマーケティングの思考を取り入れ、医療の世界に様々な革命を起こしました。

固定観念に縛られない発想で数々の実績を残し、2026年1月からフリーランスの外科医としてさらに活躍の場を広げる海道さんに、どんな業界でも役立つ、仕事も人生も楽しむための思考法を教えていただきました。

※本記事の内容は2026年1月時点のものです。

ドラッカーの概念で医学界に革命を。ビジネス書に学んだ思考法

▲海道さんが取り入れたマーケティングの概念が記されているP.F.ドラッカー著『マネジメント』(ダイヤモンド社)

――海道さんがリーダーシップや組織運営に興味を持たれたきっかけを教えてください。

海道 私がリーダーシップや組織運営について興味を持った大きなきっかけは、本田宗一郎氏の『得手に帆をあげて』(三笠書房)という本でした。この本との出会いをきっかけにビジネス書にはまり、組織運営に興味を持つようになりました。

また、大学院で若くして自分の研究室を持ち、リーダーとして組織運営を学び、実践できたことも、現在の活動の素地になったのではないかと思います。

――海道さんはP.F.ドラッカーの著書『マネジメント』に書かれたマーケティングの概念を導入して医療業界に様々なイノベーションを起こされましたが、数々のビジネス書がある中でドラッカーの概念を取り入れたのはなぜですか?

海道 正直に言うと、ドラッカーの概念を取り入れたというのは後付けで、私が考えた手法がドラッカーの概念と同じだったという方が正確です。

2007年頃、私は肝移植の臨床に携わるようになり、肝移植が他の手術に比べ術後生存率が極端に低いことに疑問を抱きました。当時、日本での肝移植の1年生存率は82%。約20%が1年以内に亡くなるハイリスクな手術でした。

そこで肝移植患者が術後早期に亡くなる原因を分析し、主な原因が感染症にあることを突き止めたのです。栄養面の改善やリハビリによる体力回復など、感染症を防ぐ様々な対策を行っていったところ、2019年頃には所属していた京都大学医学部附属病院での肝移植の1年生存率を99%にまで引き上げることができまし。これは世界トップクラスの生存率です。

同様の手法で、従来3週間は必要であった膵頭十二指腸切除術の術後入院期間を、世界最短レベルの8日間に短縮することにも成功しています。また、入院日数が減ったり手術の合併症が少なくなったりすることで、結果的に回転率が上がり、病院の経営もよくなりました。

原因を探り、ニーズを見つけ、解決していく。そんな考えで起こしたイノベーションでしたが、『マネジメント』に書かれているのも、「顧客のニーズを知って市場を作る」というマーケティングの理念です。イノベーション後に『マネジメント』を読み、私の考えは正しかったのだと後押しされたように感じました。

※膵臓がん治療のための手術

――『マネジメント』から学ぶ前にマーケティングの思考をお持ちだったのですね。そのような考え方ができたのは、やはりビジネス書の影響が大きかったのでしょうか?

海道 このようなイノベーションを実現できたのはビジネス書を好んでいたこともあるかもしれませんが、先入観がなかったことが大きいと思っています。

私は40代半ばで肝移植の道に入り、膵臓がんの手術経験もあまりありませんでした。そのため、素人だからこそ、「生存率が低くて当然」「長く入院して当然」という先入観を持つことなく、問題点に気付くことができたのだと思います。

同じデータを見ていても、ただ数字として見ているのと「なぜこの結果になったのだろう」「こうすれば良くなるのではないか」と気付き・考えるのとでは、大きな差が生まれます。気付かなければ何も生まれないし、何も変わらないのです。

――医療分野だけでなく、どのような職種でもドラッカーの手法は有効なのでしょうか?

海道 ドラッカーの概念の原点は、顧客のニーズです。どんなところにもニーズは存在します。例えば愚痴もニーズの1つです。単なる愚痴であれば何の発展性もありませんが、愚痴の中にある問題点を解決しようすれば発展性があります。どんな職業にも愚痴やニーズは存在するため、どのような職業でも問題解決からイノベーションを起こせるのです。

自分も部下も成果を上げる。効率的な仕事&育成のコツ

▲海道さんの著書『仕事力は人間力:聖路加国際病院外科部長からの12のメッセージ』(へるす出版)では、ToDoリストを含む様々な仕事術が紹介されている

――海道さんは医師以外にも様々な活動をされて大変お忙しいと思いますが、それだけの仕事量でも大きな成果を上げるコツは何ですか?

海道 みなさんよく「時間がない」とおっしゃいますが、時間は作るものなのです。まとまった時間がないと動けないと思うかもしれませんが、すきま時間を積み重ねれば色々なことができます。

私は30年ほど前から、Excelで1日のToDoリストを作成しています。前日にToDoリストを確認し、当日はタスクが完了するごとに打ち消し線で消していくのです。この方法なら1日にすべきことがひと目で分かり、1つずつ消すことで達成感も得られます。

タスクを早く終わらせれば翌日のタスクの先取りや、趣味などの好きなことにも時間を使えます。逆に急用などでタスクをこなせなかったときには、タスクを翌日以降に移せばいいのです。こうした変更もExcelならきれいに簡単にできます。

ToDoリスト以外に大切なのが、デッドラインを設けることです。例えば何かを依頼されたとき、締め切りが翌日であればすぐに対応しますよね。自分の中で早めにデッドラインを決めておくことが、仕事をより効率的にこなすコツだと思います。

――海道さんご自身はもちろんのこと、ご指導された部下の方々も医学分野で数多く受賞されていらっしゃいますが、人材育成において何か工夫されていることはありますか?

海道 私が上司として最も大切にしているのは、部下が生き生きと楽しく仕事できる環境作りです。働きやすい環境を作って成功体験を積ませれば、部下は自然と伸びていきます。

働きやすい環境を作るコツは、部下のいいところを見つけ・褒め・得手を伸ばすことです。褒めると言っても、お世辞を言うのではありません。素晴らしいと思ったことをきちんと伝えるのです。

そして、部下が成功体験を味わえるよう、少しだけアシストをします。例えば私は部下の抄録を添削する際、一度にすべては直しません。私がすべて直すことは部下のためにならないからです。

何度かフィードバックを繰り返すことで、部下は考えるようになります。そして最後に尋ねるのです。「最初に提出したものと見比べてごらん?」と。すると部下は次の機会には、最初から良い抄録が書けるようになるのです。

上司がすべて手を加えるのではなく、部下が考えられるよう手助けする。これは医師だけでなく、どのようなビジネスの場においても通ずる方法なのではないでしょうか。

健康長寿の鍵は筋力。闘病中や高齢者でも取り組める「貯筋」とは

▲イメージ画像

――海道さんは「貯筋」に関する講演会もされていますが、「貯筋」とはどのようなものなのでしょうか?

海道 「貯筋(ちょきん)」は、鹿屋体育大学で学長を務めておられた福永哲夫氏が提唱された、文字通り筋肉を貯める方法です。私が「貯筋」に着目したのは、肝移植の術後生存率の向上に取り組んでいたときでした。

術後生存率の向上に取り組む中で筋肉量が少ない患者や筋肉内の脂肪や内臓脂肪が多い患者の術後生存率が悪いことを世界で初めて発見し、筋肉量と合併症の因果関係を数値で証明したのです。筋肉の重要性を証明できたことで、患者に筋肉を付けていただく「貯筋」に着目したわけです。

筋肉量が少なければ感染症に対する抵抗力が落ち、脂肪が増えれば炎症を起こしやすくするサイトカインという物質が増えてしまいます。筋肉を付けていく「貯筋」は、術後合併症の予防だけでなく、健康長寿を考える上でも切っても切り離せない重要なキーワードだと考えています。

――闘病中の方や高齢の方が筋肉を付けるのは難しいようにも思いますが…。

海道 確かに昔はそのような思い込みがありましたが、病気だからといって安静にしていれば増々筋肉が減ってしまいます。また、加齢や手術などにより筋肉量が落ちるサルコペニアという状態になれば、日常生活にも影響が出て介護が必要になる可能性もあります。

運動は、疲れすぎなければ闘病中の方や高齢者にとっても筋力も免疫力も、さらに笑顔も増えるとてもいいことなのです。

大切なのは、無理せず楽にできることから始めることです。まずはエレベーターやエスカレーターを使わず、階段を使うところから始めてみてもいいでしょう。「貯筋」の講演会では、おすすめの運動を記載したパンフレットを元に具体的な方法をご紹介しています。

依頼の絶えない講演会を生み出す海道流プレゼンテーション術

▲国立台湾大学での講演会の様子。海道さんの講演会は、東アジアを中心に海外からの依頼も絶えないという

――講演会ではどのようなお話をされていますか?

海道 外科医向け、内科医向け、市民講座向けなど、お話する対象やニーズに合わせて話す内容を変えていますが、どんな対象やテーマの講演会であっても、始まりと終わりにビジネスのお話をすることが私の講演会の特徴です。

ドラッカーの話や松下幸之助氏などの偉人の言葉、私自身の仕事に対するポリシーなどの話をしていますが、「こんな話、聞いたことがない」と喜んでくださる方や、講演終了直後に新たな講演会のご依頼をいただけることが多く、うれしく思っています。わらしべ長者ではないですが、仕事が仕事を呼ぶとはこういうことなのだなと思います。

また、医療系の話だけでなく、プレゼンテーションが上手くなるコツやスライドの作り方の講演会も行っています。

――講演会も一種のプレゼンテーションだと思いますが、講演会でも伝え方を工夫されているのですか?

海道 私は60分の講演会の中で、約360枚のスライドを使用します。つまり、10秒に1枚のペースでスライドを見せているのです。

私はスライドを作る際、極力、情報を削ぎ落として作っています。極論を言えば、スライドに文章は必要ありません。言葉は体言止めで、相関関係は矢印で記せば十分です。喋るときに文章にすればいいのです。

真っ白なスライドに黒字で大きく・分かりやすいフォントで書かれているだけでインプレッシブですし、むしろ動きがある方が聴衆は寝ません。

また、講演中にクイズなどのコーヒーブレイクを挟むようにもしています。関西人なので笑いを取りたい思いもあり、色々なネタを仕込んでいます。

ソニーの井深大氏が残した「仕事の報酬は仕事」という言葉がありますが、そうした工夫を凝らした講演会にご満足いただけたことで新たな講演依頼に繋がることも多く、海外を含め多くの講演会を開催させていただいています。

――最後に、海道さんの夢をお聞かせください。

海道 第一の夢は、人々がより安心・安全に手術を受け、早く元気にご帰宅いただけるようになることです。我々外科医が良い手術をするだけでなく、患者の皆様にも普段から筋力を鍛えたり栄養を取ったりしていただくことで、術後の状態がより良くなっていってほしいと考えています。

第二の夢は、皆様に楽しく仕事をしていただきたいということです。普段から前向きに積極的に取り組むことで仕事が楽しくなりますし、上司の方々が部下のモチベーションを高めてチームの能力を向上させれば、その会社や組織の業績アップにもつながると思います。

一度きりの人生なので、仕事も人生も楽しんで生きてほしいです。私の講演会を聞けば幸せな気分になって活力が湧いてくるはずです。ぜひ、講演会を聞いていただければと思います

――貴重なお話をありがとうございました!

海道利実 かいどうとしみ

医師・作家・研究者 聖路加国際病院消化器・一般外科部長 聖路加メディローカス

京都大卒業後、消化器外科医として大学病院等で多くの手術に従事。医療にビジネスの概念を導入しP.F.ドラッカーのマーケティングとイノベーション手法を実践。飛躍的な手術成績向上や日本一早い術後退院を達成するなど国内外受賞歴多数。健康長寿や組織変革、人材育成等をテーマに全国で講演実施。

講師ジャンル
ソフトスキル モチベーション コミュニケーション
文化・教養 健康

プランタイトル

貯金と貯筋で健康長寿を!

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