楽天創業期から日本のデジタルマーケティングの発展を牽引し、ゲーム業界、医療福祉人材業界、そして現在はデータドリブン・コンサルティング代表として多くの企業の成長支援を行う堀内公博氏。社員20人規模だった楽天での挑戦から、楽天初のマーケティング組織立ち上げ、医療福祉分野への転身まで、業界の変革期を最前線で切り拓いてこられました。

今回のインタビューでは、成長企業の共通点、成果を生み出す組織づくり、人材育成の考え方、そしてAI時代に企業が競争優位を築くためのヒントについて伺いました。

※本記事の内容は2026年7月時点のものです。

楽天20人時代に学んだ「自ら動いて成果をつかむ力」

――大学院在学中に、社員20人ほどだった楽天へ入社された経緯をお聞かせください。

堀内  一橋大学の大学院時代、米倉誠一郎先生の「経営哲学」という授業がむちゃくちゃ面白かったんです。ベンチャー経営者を呼んできて、学生がその会社を分析し直接プレゼンする授業で、孫正義さんなども来られていました。そこで米倉先生から「日本経済を良くするならベンチャー企業に行け」と言われ、素直に「そうだな」と思いまして(笑)。

ただ、当時はベンチャー企業の新卒定期採用なんてありませんでした。どうしようかと思っていた時、たまたまテレビの経済討論番組で米倉先生と三木谷浩史さんが対談しているのを見ました。ホームページを見ると、三木谷さんの顔写真の下に直接のメールアドレスが載っていたんです。そこに「面白そうな会社なので話を聞かせてください」とメールを送ると「遊びにおいでよ」と返信が来て。実際に行ってみたら、三木谷さんに「いつから働けるの?」と言われ、次の日からアルバイトとして働き始めました。

――急成長する企業の現場で、特に印象に残っている出来事はございますか?

堀内 今の時代では信じられないかもしれませんが、25歳から30歳くらいになるまで、終電より前に家に帰ったことはありませんでした。1日平均17時間くらい働き続けていました。だから、「普通の人の倍働いたから、倍の経験をしている」という自負がありました。

当時の楽天は社員20人ほどでしたが、圧倒的に優秀な人が集まっていて、全員が驚くほど働いていました。当時のネットベンチャーといえば「メディアを作って広告収入で左団扇」という考えの会社も多かった中、楽天だけは、自ら動いて営業をしていました。地に足がついたビジネスモデルを見て、「この会社は絶対に潰れないな」と確信して入社したんです。

――楽天初のマーケティング組織を立ち上げることになった背景についてお教えください。

堀内 実は、創業から5年間、楽天にはマーケティング部署がなかったんです。出店店舗さんが自らお客さんを集めるモデルで、出店料も月額5万円の固定でした。しかし、月に何億円も売る店舗が出てきて、2002年に「従量課金制」を導入することになりました。大騒ぎになった際、三木谷さんが「いただいた収益を使って、楽天が自分たちでお客さんを集めてきます」と全国で説明して回ったんです。

「じゃあそれ、誰がやるの?」となった時に、三木谷さんから私が部屋に呼ばれて「お前やれ」と(笑)。当時はデジタルマーケティングで「LTV(ライフタイムバリュー)」なんて指標を言っている人はいなかった時代です。単発の利益ではなく、リピートしていただくための仕組みが必要だと考え、LTVベースでの集客の仕組みや計測ツールを自分で作り上げました。そして、リピートしてもらうための施策として、「楽天ポイント」を作ったんです。

――楽天時代の経験で、現在の仕事にも活きている学びはどのようなことでしょうか?

堀内 三木谷さんがずっと言い続けている「成功のコンセプト」に尽きます。「常に改善、常に前進」「仮説、実行、検証、仕組化」「スピード!!スピード!!スピード!!」など5つあるのですが、私が25年間ずっとやり続けているのはこれだと、最近になって痛感します。
PDCAなんて誰でもやりますから、やるだけで差は生まれません。その「精度」と「回転速度」をどれだけ上げるか。回数が多い方が競合に勝てますし、正解に近づく。これを徹底してやり切ることを学びました。

――その後、ゲーム会社を経て、医療福祉専門の人材派遣会社へ転職されたきっかけをお教えください。

堀内  楽天には12年ほど在籍しました。このまま長く楽天で働く選択肢もありましたが、三木谷さんと良い関係を保ったまま次の一歩を踏み出したいと考え、退職を決意しました。その後、ご縁があってゲーム会社に入社しました。当時のゲーム業界は、ゲームセンターのアーケードからファミコンのようなコンソール、そして、スマホでダウンロードするモバイルへとプラットフォームが変わる過渡期で、ゲーム会社が直接お客さんを集客する「D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)」のモデルへと変化していました。そこで、楽天で培った「直接お客様を増やすデジタルマーケティング」のノウハウが求められていたのです。

その後、医療福祉専門の人材派遣会社へ移ったのも、マーケティングや仕組み化の力が、より社会課題の解決に直結する分野で活かせると考えたからです。業界は違えど、本質的な「成果を出すための仕組みづくり」は共通していました

完璧な戦略より、真似できない「DCAの精度と回転速度」

――著書では「なぜ戦略は正しいのに成果があがらないのか?」という問いを投げかけていますが、多くの企業でどのようなことが起きているのでしょうか?

堀内  多くの会社では、社長や経営企画、外部コンサルタントなど、優秀な人たちが集まって戦略を作ります。ですから、よほどのことがない限り、戦略そのものが大きく間違っていることは少ないんです。

問題は、その戦略を実行し、検証し、改善するところにあります。立派な戦略を作って満足してしまい、現場に落とし込めていない。実行した結果を見て、次に何をどのように改善するのかまで考えられていない。だから「戦略は正しいのに成果が出ない」ということが起きるのです。

――P(計画)よりもDCA(実行・検証・改善)が重要だとお考えなのですね。

堀内  もちろん計画は必要です。ただ、Pに時間をかけすぎると、DCAに移るタイミングが遅れてしまいます。その時点で競争に負けてしまうこともある。特にデジタルマーケティングの世界では、DCAの精度と回転速度が非常に重要です。

成果を出す組織は、計画を立てたあとにすぐ動きます。そして結果を数字で見て、改善を重ねます。逆に成果が出ない組織は、計画づくりに時間をかけすぎるか、実行した後の検証が弱い。PDCAと言いながら、実際にはPで止まっているケースが多いのではないでしょうか。

――なぜ、DCAの回転を重視するようになったのでしょうか?

堀内 その考えに至った理由は、デジタル化によって得られるデータ量が飛躍的に増えたからです。テレビCMでは、「誰が広告を見て、誰が買ったのか」を正確に把握することは困難ですが、デジタルマーケティングでは、顧客の行動を詳細に分析することができます。

だからこそ、計画の精度を追及するよりも、実行・検証・改善を素早く繰り返すほうが、顧客理解は深まります。重要なのは、DCAをどれだけ速く・精緻に回せるかだと考えています。

DCAを回せる人材をどう育てるか

▲イメージ図

――DCA型の組織をつくるために、最も重要なことは何でしょうか。

堀内 放っておいてもDCAを回せる人をどれだけ育てられるかだと思います。本の中でもマーケティングの話をしているようで、最後は人材育成に行き着くんです。私のチームでは私が指示を出すことはほとんどありません。なぜなら、上司の指示が優先されるとデータに基づく意思決定ではなくなり、「言われたからやった」という言い訳が生まれるからです。DCA型組織とは、現場の一人ひとりが自分で仮説を立て、数字を見て、次のアクションを考えられる組織です。その状態になれば、組織は自走し始めます。

また、私が人材育成で大切にしているのは、「狭く、深く考える」訓練です。人間が考えられる総量には限りがあります。広く考えようとすると、どうしても浅くなる。逆に、一つのテーマを深く掘り下げるとどんどん深く考えられるようになり、改善の質も上がります。

多くの人がスキルを身につけられないのは、いろいろなことに手を出して、一つのことを深く考え抜かないからです。もちろん幅広い知識も大切ですが、成果を出すためには、自分の担当領域で誰よりも深く考え、細かく検証する経験が必要です。

AI時代だからこそ差がつく「人間ならではの熱量」

▲イメージ図

――AIが企業経営やマーケティングに与える影響をどのようにご覧になっていますか?

堀内 AIによる変化は大きく二つあると思っています。ひとつは「効率化」です。翻訳のような分野ではすでに人間が担う必要性がなくなってきています。だからこそ、人間は、自分自身のレベルを上げていかなければなりません。平均的なスキルではなく、その分野で上位に入る能力を身につけることが、これからの時代に求められると思います。

そして、もうひとつの変化は、「コモディティー化」です。AIが普及すると、誰がやっても似たような答えや成果が出やすくなり、競争相手との差がつきにくくなります。

――AIによって戦略やアイデアが似通ってしまう時代に、企業はどこで差別化すればよいのでしょうか?

堀内 差別化の方法は、大きく二つあると考えています。一つは、他の人が考えつかないような、オリジナリティのある質問を考える力を身につけることです。そのために必要なのが、私が繰り返しお話ししている「狭く、深く考える」ことです。広く浅く考えているだけでは、誰でも思いつくような質問になってしまいます。一つのテーマについて、他の人が考えないところまで深く掘り下げる。そうして初めて、AIから引き出す答えも変わってくるのだと思います。

もう一つは、AIに渡すデータや条件を変えることです。同じ問題を考える場合でも、土台になるデータが変われば、返ってくる結果も変わります。ここでも必要なのは「狭く、深く考える」ことです。多くの人がもやっとした条件のままAIに投げてしまうところを、条件を細かく分類し、厳しく突き詰めていく。この条件のときはどうなのか、このパターンではどうなるのかと、問いの前提を深く考えることで、違う答えが返ってくるようになります。

――AI時代だからこそ、人間側の思考力がより問われるということでしょうか。

堀内 そうですね。AI時代に重要なのは、AIに答えを出させることそのものではありません。何を聞くのか。どのような条件で聞くのか。返ってきた答えを見て、次にどの問いを立てるのか。そこに人間の差が出るのだと思います。

私は、PDCAは自分の中ではオールマイティなものだと考えています。AIを使う場面でも、ただ答えを受け取って終わるのではなく、仮説を立て、問いを投げ、返ってきた結果を検証し、さらに条件や質問を変えて改善していく。その繰り返しこそが、AI時代に成果を出すための土台になると考えます。

計画倒れを防ぐ!現場が自発的に走る仕組みの作り方

――どのような方に講演を聞いてほしいとお考えですか?

堀内 企業の経営者や管理職、そして現場のリーダーの方々です。「戦略は立てたが組織が動かない」「人材育成に悩んでいる」「AI時代に自社がどう生き残るべきか模索している」といった課題を抱えている方に、ぜひ聞いていただきたいです。

――講演会を通して伝えたいことのポイントをお教えください。

堀内 「成果とは、戦略を立て、実行し、検証し、改善する」この当たり前のことを、どれだけ高い精度で、速く、何度も回せるかが重要です。

そして、それを組織として実現するには、組織づくりや人材育成が欠かせません。DCAを自分で回せる人を育てることが、企業の競争力になります。AI時代になればなるほど、人間が深く考える力、問いを立てる力、現場で実行する力の価値は高まるはずです。

――最後に、堀内さんの夢をお聞かせください 。

堀内 私の夢は、「日本をマーケティングに強い国にしたい」ということです。自動車を除くと、世界で日本の製品が、今、勝負できているとは思えません。日本はこれまで「良いものを安く売る」ことで成功してきましたが、その成功体験からマーケティングを本気で考えてこなかった面があります。しかし、今は、マーケターが市場を理解し、求められる価値を提供するマーケットインの発想が不可欠です。

私は25年以上マーケティングを続けてきた経験を生かし、日本をマーケティングに強い国にする。そして、日本企業がもう一度グローバルで戦えるようにする。そのお手伝いができればと思っています。

編集後記
楽天創業期からデジタルマーケティングの最前線を歩んできた堀内さんのお話からは、成果を生み出す組織に必要なのは、華やかな戦略だけではなく、実行し、検証し、改善し続ける地道な力であることが伝わってきました。AIの進化により、誰もが同じような答えにたどり着きやすくなる時代だからこそ、深く考え、問いを磨き、行動につなげる人材の重要性はさらに高まります。組織改革や人材育成に悩む方にとって、堀内さんの講演は実践への一歩を後押ししてくれるはずです。

 

堀内公博 ほりうちきみひろ

株式会社データドリブン・コンサルティング 代表取締役 コンサルタント

一橋大院在学中に当時社員20名の楽天に参画し、初のマーケティング組織を単独立ち上げ。多数の事業開発責任を担う等、急成長フェーズに貢献。のち、大手ゲーム会社の過去最高益貢献、医療福祉分野人材会社上場寄与等の実績。独立後、企業のコンサル、データドリブン経営やDX戦略等を提供。

講師ジャンル
ビジネス教養 その他ビジネストピック
実務知識 経営戦略・事業計画 人材・組織マネジメント
営業・販売・マーケティング

プランタイトル

デジタルマーケティングのプロが語る
AI時代に成果を出す企業経営
AIを使って競争優位を築く方法とは?

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