「いじめられたら、どうすればいい?」
「SNSで嫌なことをされたら、誰に相談すればいい?」

子どもが困った状況に置かれたとき、自分の身に起きていることを「これは問題だ」と認識し、助けを求めるための力になるのが法律です。
『こども六法』の著者・山﨑聡一郎さんが法教育に取り組む原点には、自身が小学生時代に経験したいじめがありました。

なぜ子どもにも法律が必要なのか。いじめやSNS上のトラブルから自分を守るために何を知っておくべきなのか。そしてAIが身近になるこれからの時代に、どのような力が必要なのか。

法教育の研究だけでなく、ミュージカル俳優・創作者としても活動する山﨑さんに、『こども六法』誕生の背景から、これからの教育、そして目指す社会について伺いました。

※本記事の内容は2026年9月時点のものです。

「自分が欲しかった本」から始まった

――山﨑さんが法教育に取り組むようになったきっかけを教えてください。

山﨑 大学1年生のとき、法律の入門的な授業で「法教育」という取り組みを知ったことが直接のきっかけです。ただ、その前から「法律を小中高生にも教える環境が必要なのではないか」と考えていました。

その背景には、小学生時代のいじめがあります。殴られたり蹴られたり、物を隠されたり壊されたりして、一番ひどいときには左手首を骨折しました。

ニュースを見れば、大人が人を殴ったり、けがをさせたりすれば逮捕されることは子どもでも分かります。それなのに、学校の中で自分が同じような被害を受けても、なぜ同じようには扱われないのか。そのことに違和感がありました。

中学生になって六法全書を読んで、「これを小学生のときに知りたかった」と思いました。少なくとも学校の図書館など、子どもの手に届く場所に置いてあってほしかったですね。

――その思いが『こども六法』につながっていったのですね。

山﨑 大学で法教育について研究すると、当時は高校生向けの取り組みが中心で、小学生向けの実践はほとんどありませんでした。

法教育は、法律知識をただ暗記するものではありません。社会の問題を法的な視点から考え、解決していく力を育てるものです。ただ、必要なときに法律そのものを参照できる環境も必要だと思いました。

そこで考えたのが「子どもでも読める法律の条文」です。

これは、アイデアとしては誰でも思いつく「コロンブスの卵」ですが、実は非常に無茶な取り組みでした。

法律の条文というのは、誰が読んでも解釈のブレが起きず、短い文章で必要十分なニュアンスを伝えられる究極の文章です。それを私たちが日常で使う分かりやすい言葉に置き換えるということは、必ず条文のクオリティが劣化することを意味します。

そのため、法律の専門家がそれをやると仕事上の信用問題になるため書けません。かといって正確に書こうとすれば、3行の条文が30行の解説になり、子どもには読めません。

そこで、専門家の監修を入れつつも、最終的な責任は専門家ではない私が負うという形で無理やり実現したのが『こども六法』です。

また、当時「子どもが法律なんて読むわけがない」と思われていました。何社もの出版社に持ち込みましたがことごとく断られ、弘文堂で企画が動き始めるまでに3年かかりました。

弘文堂は法律の専門版元として「とにかく一番いい本を出す」という強いこだわりがあったため、出版までにさらに時間がかかりましたが、諦めなかったのは「自分が欲しかった本だったから」です。

▲山﨑さん著作「こども六法」(2019年/弘文堂)。難解な条文を子どもでもわかるように紐解き、子どもだけでなく大学生や外国人にも利用されている

――実際に出版してみて、反響はいかがでしたか。

山﨑 想定外の反響がありました。もともと10歳から15歳くらいを想定していましたが、小学校低学年や幼稚園くらいの子が読んでくれたり、逆に大学の法律の入門授業で使われたりしました。

日本に住んでいる外国ルーツの方からも、すべての漢字にふりがながあるので日本の法律を知るのに読みやすいという反応がありました。
大人が「子どもは法律なんて読まない」と決めつけず、まず子どもの手が届く場所に置き、必要なときにアクセスできる環境をつくることが大切です。

いじめはなくならない。だからこそ法律が身を守る

▲イメージ画像

――いじめは悪いことだと分かっていても、なぜなくならないのでしょうか。

山﨑 いじめは人間関係のズレやコミュニケーションエラーから発生するものなので、人間関係が存在し社会を形成する以上、なくならないと思います。いじめを根絶するなら全員が引きこもりになるしかありません。

学校内での対立を「いじめ」と定義していますが、社会に出れば「ハラスメント」と呼ばれ、家庭内なら「虐待」、規模が大きくなれば「戦争」・「ジェノサイド」に行き着きます。

では、なくならないから諦めていいのかというとそうではありません。
人類はそれを防ぐために、国際法を定めたり、国際連合を作ったりと様々な取り組みを重ねてきました。その中で、今の日本社会において「普段の生活で殴り合いをしなくて済むための現段階の解決策」として提示されているのが法律です。だからこそ、いじめ問題に対して法教育がひとつのヒントになるのです。もし法律が現状にマッチしていないなら、ルールを変えていくことも含めて大切だと考えています。

ーーいじめに悩む子どもたちに、まず知って欲しいことはどのようなことでしょうか?

山﨑 一番最初に必要なのは、自分がされていることを「問題だ」と認識することです。

いじめを受けている子の中には、「自分に原因があるから仕方がない」と考えてしまい、自分が置かれている状況を理不尽なものだと認識できない場合があります。

だから『こども六法』でも、「それは犯罪に当たるかもしれない」「つらいなら相談していい」ということを伝えています。

自分自身が「これは問題なんだ」と気づかなければ、相談することもできません。その次に、「私は困っている。助けてもらえないですか」と大人に伝え、自分だけの問題ではなく、大人にとっても解決すべき問題にしていくことが大切です。

相談窓口についても、単に電話番号をたくさん知らせればいいというわけではありません。相談先によって専門性やできることは違います。

「ここに相談すると、こういうサポートを受けられる」というところまで知っていた方がいい。熱が出たら八百屋ではなく病院に行くように、勇気を振り絞って第一歩を踏み出した子どもが、最初から一番解決の可能性が高い専門家に当たれるように、どの専門家に相談すればどういうサポートが受けられるのかを教える活動もしています。

SNS・AI時代に必要な「考える力」

▲講演で「考える力」の必要性について強く説く山﨑さん(画像:山﨑さん提供)

――SNSの普及によって、子どもを取り巻く環境も大きく変わっています。

山﨑 SNSでのいじめも、根本的な構造はそれほど変わっていないと思います。SNSで仲間外しをすることも、以前なら教室で手紙を回していたことと、本質的には似ています。

ただ、大きく違うのは、大人から見えにくくなったことと、24時間続けられることです。家に帰っても逃げ場がない。その意味では、ネットは、いじめに使われた場合に非常に攻撃力の高いツールです。

大人がネットの流行をすべて把握するのは不可能です。

だからこそ、大人は子どもとの「日常」を作っておくことが重要です。
「いってらっしゃい」「ただいま」と挨拶を交わし、一緒にご飯を食べる。そうした日常のコミュニケーションがあるからこそ、声のトーンや表情が「いつもと違う」と気づくことができます。「いつも」を知らなければ、SOSには気づけません。
ネットではない場所での日常的なコミュニケーションこそが重要です。

――さらにAIが身近になるこれから、子どもにはどんな力が必要でしょうか。

山﨑 学校教育の良いところは、ある程度答えがある問題を解き、その解き方を学べるところだと思います。

一方、大人になって直面する問題には、唯一の正解がないものがほとんどです。その中でも、「これが最も答えに近そうだ」と判断しなければなりません。

AI時代には、それに加えて「何が問題なのか」を発見し、自分が何について、どんな答えを求めているのかを具体的な言葉にする力が重要になります。

AIは問いかければ答えらしきものを返してくれます。でも、それが本当に妥当なのかを判断するのは人間です。

法教育で育てようとしているのも、問題を多角的に分析し、自分の問題意識と照らし合わせながら解決策を考える力です。

世の中には、どちらか一方が完全に正しいとはいえない問題がたくさんあります。それぞれの立場を理解しながら落としどころを探す。あるいは視野を広げることで、双方にとって別の解決策を見つける。

これからは、そうした「正解のない問題と向き合う力」がますます重要になると思います。

法律と楽しさで、個性を守る社会へ

▲2025年4月ソロコンサートでの一コマ。創作者として精力的に活動する(画像:山﨑さん提供)難解な条文を子どもでもわかるように紐解き、子どもだけでなく大学生や外国人にも利用されている

――山﨑さんは、法教育の研究だけでなく、ミュージカル俳優や創作者としても活動されていますね。

山﨑 僕の中では、それぞれの活動はつながっています。権利に関するテーマや、AIと著作権など、社会的な問題をミュージカル作品の中で扱うこともあります。

難しいテーマでも、エンターテインメントにすることで、まず「面白そう」と興味を持ってもらえる。入口は広くても、そこから掘り下げていけば深いテーマにたどり着ける。それが舞台芸術の魅力だと思っています。

『こども六法』も同じです。書いてある内容自体は決して簡単ではありません。でもイラストやレイアウトがあることで、まず手に取ってみようと思える入口ができます。

講演でも、演じる経験があることで人の注意を引きつけたり、関心を持ってもらったりすることにつながっています。

――最後に、講演会を通して伝えたいこと、目指す社会を教えてください。

山﨑 せっかく多岐にわたる取組みをしているので、依頼者が設定しているテーマに沿いつつ、受講していただいた一人一人が自分の個性を輝かせながら人生を送っていくきっかけになるようなお話しをしたいと考えています。

また、講演会のアンケートでは「ためになった」とか「勉強になった」のようなフィードバックより、「楽しかった」「面白かった」というフィードバックが頂けるような講演を心がけています。楽しく聞ける講演会こそ、きっと学びが印象深い講演会だと思うので。

編集後記
いじめの経験を原点に、子どもが自分を守るための「法律を知る力」を広げてきた山﨑さんのお話から、法教育は法律を覚えることではなく、身の回りの問題に気づき、考え、助けを求める力を育てるものだと感じました。SNSやAIによって子どもを取り巻く環境が大きく変わる今だからこそ、正解のない問題と向き合い、自分で判断する力がますます重要になります。学校やPTA、教育関係者の皆さまに、ぜひ聞いていただきたい講演です。

 

山﨑聡一郎 やまさきそういちろう

教育研究者 俳優・脚本家 株式会社Art&Arts社長

慶應大卒、一橋院修了、東大院在学中。自身の経験から法教育を通じたいじめ問題解決を研究し、慶大在学中『こども六法』を出版。イラストや解説を加え、累計87万部超のベストセラー、新風賞を受賞。舞台俳優の傍ら、日本で唯一の法教育を軸としたオンラインスクール、こども六法スクール運営も手掛ける。

講師ジャンル
ビジネス教養 ライフプラン
実務知識 IT・AI・DX
社会啓発 教育・青少年育成

プランタイトル

こども六法の使い方

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