「少年院」と聞いて、皆さんはどのような場所を思い浮かべるでしょうか。

厳しい規則のもとで生活し、非行を起こした少年たちに罰を与える場所――。

そうしたイメージを抱く方も少なくないかもしれません。しかし、少年院は決して刑罰を与えるための施設ではなく、少年たちが自らの行動を見つめ直し、再び社会へと歩み出すための教育施設なのです。

今回登壇されたのは、元少年院長であり元丸亀市教育長の中野レイ子氏。長年にわたり少年院教育の現場に身を置き、困難な背景を抱えた子どもたちと真摯に向き合ってこられました。

講演では、少年司法の仕組みや少年院で行われる矯正教育を分かりやすく解説するとともに、一人の少女が周囲との信頼関係を取り戻し、再び自分の人生を歩き始めるまでの実話が語られました。

子どもを立ち直らせるために必要なのは、ただ優しく受け止めることでも、厳しく指導することでもありません。

寄り添うやさしさと、問題に立ち向かう強さ。

その両方を持って関わることの大切さを教えてくれた講演の様子をレポートします。

官公庁・学校・PTAチーム

講演テーマ:少年院の子どもたちとともに歩んで
~ 寄り添うやさしさと立ち向かう強さと ~

講師   : 中野レイ子 氏
開催時期 : 2026年7月
主催者  : 行政団体
講演時間 : 90分
聴講者人数: 約450人
講演タイプ: リアル開催

少年院は「罰を与える場所」ではない

講演の冒頭、中野氏は少年院と刑務所の違いについて説明しました。

成人の場合は、犯した罪に対する刑罰として刑務所に収容されます。一方、少年院への送致は、少年の健全な育成と社会復帰を目的とした「保護処分」です。つまり、少年院は子どもたちを罰するためではなく、二度と非行を繰り返さないための教育を行う場所なのです。

事件を起こした少年は、家庭裁判所での調査や審判を経て、保護観察、児童自立支援施設等への送致、少年院送致などの処分を受けます。

その過程では、少年鑑別所の専門職や家庭裁判所調査官が、本人の心理状態だけでなく、家庭環境、学校生活、友人関係などを詳しく調査します。

単に「何をしたのか」を見るのではなく、「なぜ、その行動に至ったのか」を探ることが、少年司法の大きな特徴です。

中野氏の丁寧な語り口により、参加者は少年院教育の本質を深く理解しながら、講演の核心部分へと引き込まれていきました。

反抗的な態度の奥にある「大人への不信感」

少年院へ入ってきたばかりの子どもたちは、職員に反抗的な態度を見せることがあります。目を合わせず、舌打ちをしたり、暴言を吐いたり、時には唾を吐きかけたりすることもあるといいます。

しかし、中野氏は表面的な態度だけで、その子を判断することはありませんでした。
一人ひとりの生い立ちや成育歴を丁寧に確認し、日々の様子を観察する中で見えてきたのは、多くの子どもたちが抱える「大人への不信感」でした。

  • 信じていた大人に裏切られた。
  • 助けを求めても気づいてもらえなかった。
  • 自分の気持ちを誰にも受け止めてもらえなかった――。

子どもたちが見せる反抗的な態度は、自分の心をこれ以上傷つけられないようにするための自己防御でもあったのです。

どれほど優れた教育プログラムを用意しても、指導する大人を信頼できなければ、言葉は子どもの心に届きません。だからこそ、少年院教育の第一歩は、職員が「この大人なら信じてもよい」と思ってもらえる存在になることだと中野氏は語ります。

厳しい態度の奥にある心の痛みを見逃さず、根気強く向き合う。その姿勢に、会場は静かに聞き入っていました。

100人いれば、100通りの教育がある

入院した当初、少年たちは単独室で自分の人生を振り返る時間を過ごします。

幼少期の家庭環境、学校での出来事、教師や友人との関係などを振り返り、「自分はどこでつまずいたのか」「なぜ非行に向かうようになったのか」を考える「内省」の時間です。

振り返りを進める中で、少年自身が「この頃から自分の人生が変わった」「ここからおかしくなった」と、非行につながる分岐点に気づくこともあります。

少年院では、こうした内省の内容や非行の背景を踏まえ、一人ひとりに合わせた個別教育計画を作成します。

同じような非行をした子どもであっても、そこに至った理由は同じではありません。家庭での孤立、親との関係、学校での挫折、友人からの影響など、抱えている事情はまさに百人百様です。
中野氏は、少年院教育について「100人いれば100通りの、オーダーメイドの教育が必要」と語りました。

一律の指導を押し付けるのではなく、その子にとって「今、最も必要な支援は何か」を見極める。この視点は、学校教育や家庭での育児、あるいは職場のマネジメントにも通じる極めて重要な教訓です。

「私の非行は、心の痛み止めだった」

▲イメージ画像

講演の中でも特に心を揺さぶられたのが、15歳で少年院に入ったA子さんの事例です。
A子さんは、複数の仲間とともに一人の少年へ暴行を加え、重傷を負わせた事件によって、長期の少年院送致となりました。

入院当初のA子さんは、物を投げ、職員に暴言を吐き、規則違反を繰り返していました。同じ事件に関わったほかの少女より処分が重かったことへの不満もあり、周囲に激しく反発していたのです。

しかし、中野氏が成育歴をたどると、その背景には深い喪失感があることが分かりました。
A子さんは小学生の頃、大好きだった父親を病気で亡くしていました。悲しみが癒えないまま、母親は別の男性との関係を優先するようになり、A子さんは次第に「自分は母親に必要とされていない」と感じるようになります。

寂しさや怒りを抱えきれなくなったA子さんは、暴走行為、薬物、万引きなど、より強い刺激を求めて非行を重ねていきました。

後に彼女は、自らの非行についてこう表現したといいます。

私の非行は、私の心の痛み止めだった

非行をしたかったのではなく、心の痛みを一時的に忘れるために、非行に頼らざるを得なかった――。この言葉は、問題行動の表面だけを見るのではなく、その奥にある苦しみに目を向ける必要性を強く訴えかけます。

母親との和解が少女を変えた

▲イメージ画像

A子さんには、母親との関係を見つめ直す「内観」が取り入れられました。
母親にしてもらったこと、自分が母親に返したことなどを一人で振り返る中で、押し込めていた感情があふれ出します。

ある日、非常ベルを聞いて中野氏が駆けつけると、A子さんは「お母さんが、お母さんが…」と泣き崩れました。

怒りの奥にあったのは、母親に愛してほしかった、自分を見てほしかったという切実な思いでした。

中野氏は母親にも働きかけ、定期的な面会の機会を設けました。A子さんは、父親を亡くしてつらかったこと、母親が別の男性を優先して寂しかったことを、初めて率直に伝えました。
母親もまた、自分の弱さから子どもを傷つけてしまったことを認め、A子さんを抱きしめて謝ったといいます。

この親子の和解をきっかけに、A子さんは次第に落ち着きを取り戻しました。規則を破る必要も、暴言で自分を守る必要もなくなり、院内の役割やボランティア活動に積極的に取り組むようになったのです。

老人ホームで「ありがとう。また来てね」と声をかけられたときには、自分が誰かに必要とされたことに大きな喜びを感じました。

それまで叱られることの多かった少女が、人から感謝され、自分自身を認められるようになる。その変化から、人は信頼され、役割を与えられることで立ち直る力を得られるのだと感じました。

子どもを変えるのは、信じてくれる大人の存在

中野氏の講演から伝わってきたのは、「非行少年」という特別な子どもがいるのではないということです。
心の痛みを言葉にできず、助けを求める方法が分からないまま、問題行動として表現してしまう子どもたちがいます。その行動を止める強さとともに、奥にある寂しさや苦しみに寄り添うやさしさが必要です。

少年院を退院した子どもたちが社会で再出発するためには、過去の過ちだけで判断せず、立ち直ろうとする努力を認め、支えていくことが求められます。

講演中、参加者の皆様は、中野氏が語る少年院の実情や子どもたちの変化に熱心に耳を傾けていました。主催者様からも、「皆、興味深く聞いていました」とのお声をいただきました。

また、少年司法の仕組みについても、実際の事例を交えて丁寧に説明されるため、予備知識がない方にも理解しやすい内容です。「時間の制約がある中で分かりやすく、共感を得られるお話をしてくださいました」と、講演の構成や伝え方にも高い評価が寄せられました。

地域で子どもを支える活動にも生かせる講演

中野氏の講演には、問題行動の背景にある子どもの思いをどう受け止めるか、信頼関係をどう築くかなど、家庭や学校、地域で生かせる多くの示唆が込められています。

主催者様からも、「各地域での活動や、対応部署での取り組みにも役立てられると思います」とのご感想をいただきました。

青少年健全育成、教育、福祉、人権、更生保護など、子どもや家庭を支えるさまざまな部署や団体にとって、日頃の対応を見つめ直す機会となるでしょう。行政職員や民生委員・児童委員、保護司、教育関係者、保護者などが、地域での連携を考えるきっかけにもなります。

実体験に基づく中野氏の言葉には、傷ついた子どもたちに寄り添いながら、非行や困難に向き合ってきた人ならではの説得力があります。

青少年育成大会や人権講演会、教育講演会、社会福祉大会などの企画として、ぜひご検討いただきたい講演です。

中野レイ子 なかのれいこ

元 丸亀市教育委員会 教育長 元 法務省矯正局所管少年院 院長

法務省所管矯正施設(少年院や刑事施設等)に36年間勤務。犯罪に関わった人たちが、自分自身と真摯に向き合い、自らの行為を後悔し、その後の生き方に苦悩する姿に寄り添ってきた。現在は、「全ての人たちが、自他を大切に、幸せであって欲しい」との願いを込めて、講演活動を行っている。

講師ジャンル
社会啓発 人権・平和 教育・青少年育成

プランタイトル

子どもたちの健やかな成長を願って
~寄り添うやさしさと立ち向かう強さと~

講師プロフィールへ移動

講師が「講師候補」に登録されました
講師が「講師候補」から削除されました



あわせて読みたい


【SBスタッフ講演レポート 第5回】
収録型講演、服部裕子さんのメンタルヘルスセミナー

新人から役員まで、幅広い対象で研修のご依頼が多い服部裕子さん。…

【SBスタッフ講演レポート 第1回】
池田ノリアキさんの健康ウォーキング術

弊社スタッフが参加し、心に残った講演を参加者の立場からリポート…

【SBスタッフ講演レポート 第25回】
戦場の現場から祈りを捧げる ~渡部陽一氏が語る「命」の重みと「教育」の力~

「世界で今、何が起きているのか。私たちはどう向き合うべきか」 …


 他の記事をみる