「うちの子、靴下を3枚履いていますのでよろしく!」

朝の登園時、大人の想定から外れた子どもの姿を前に、あなたはどう受け止めますか?「変なこだわり」と正すのか、「面白い感触だね」とその感性に寄り添うのか――。

乳幼児教育実践研究家・井桁容子氏の講演は、私たちが無意識に抱く「大人の正解」を解きほぐします。大人が言葉や効率の「名前のある世界」に生きる一方、子どもは純粋な感覚と探求心に満ちた「名前のない世界」を生きています。

今回、保育園の職員研修として行われた本講演。参加した保育士からは「自分の保育を根本から見直した」「明日からの関わり方が変わる」と感動の声が寄せられました。
本レポートでは、当日の講義内容と参加者のリアルな反響を紐解きながら、井桁氏が示した新しい「保育の視点」の魅力と現場での実践ポイントをお届けします。

官公庁・学校・PTAチーム

講演テーマ:まなざしが保育を高める ~子ども・保護者・保育者が共育ちを目指して~
講師   : 井桁容子 氏
開催時期 : 2026年7月
主催者  : 行政団体
講演時間 : 90分
聴講者人数: 約50人
講演タイプ: リアル開催

今、大人が問われる「子どもを見る目」の転換

▲イメージ画像

日々の保育や子育てにおいて、私たちはつい「時間通りに予定を進めること」や「トラブルを起こさないこと」を優先してしまいがちです。シンクの中に座り込み、ひんやりとしたステンレスの冷たさや反響する水の音に没頭する子の姿も、大人の論理で見れば「困った行動」に見えるかもしれません。しかし、子どもにとっては今この瞬間の命を懸けた「真剣な探究」であると井桁氏は語ります。

「保育者は、ただお世話をする人や、知識を教える人ではありません。ヒト・コト・モノとの『関係の質』を高める専門職なのです

この言葉に、会場にいた多くの保育士がハッと息を呑み、熱心にメモを取る姿が見られました。

子どもは「名前のない世界」を生きている

講演の中で特に印象的だったのが、大人が生きる「名前のある世界」と、子どもが生きる「名前のない世界」の違いです。

大人は、言葉や概念で効率的に処理された「名前のある世界」に生きています。一方で、乳幼児は純粋な感覚と情熱に満ちた「名前のない世界」の住人です。例えば「椅子」を、大人は単に座る道具として見ますが、子どもはその曲線や手触りなど、未知の要素として本気で知りたがっています。

井桁氏は、「保育者の役割は、この二つの世界の境界に立ち、環境を通して子どもの育ちを支えることにある」と力強く訴えました。大人の物差しを一度脇に置き、彼らが必死に紡いでいる世界のメッセージに耳を澄ませることの大切さが、スライド資料や具体的なエピソードを通して分かりやすく解説されました。

「トラブル」は社会性を育む最高のギフトである

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園でのケンカやおもちゃの取り合いに対し、大人はつい「仲良くして」「貸してあげて」と平穏な解決を急ぎます。しかし井桁氏は、この言葉が時に「恐喝」になり得ると警告しました。今、まさに探究を深めている子の気持ちを無視し、大人の都合で譲ることを強要すれば、それは学びではなく単なる「抑圧」になってしまうからです。

世の中に、常に一つだけの正しいことなどありません

井桁氏が紹介したエピソードでは、椅子の取り合いになった子どもたちに対し、周囲の子が「こっちのお隣も空いてるよ」と声をかけ、子どもたち自身で解決へと至る姿が語られました。

大人が正解を与えるのではなく、失敗や葛藤を通して他者のニーズに気づくこと。このプロセスこそが真のコミュニケーション力(社会性)を育むのだという力強いメッセージは、参加者の胸に深く刺さりました。

専門性とは「待つこと」、そして「機嫌の良い大人」でいること

保育や教育の専門性とは、子どもを未熟な存在として捉え、できるようにさせることではありません。「一人ひとり生まれながらに主体的に生きる力を持った存在」として信じ、不可解な行動にも「何か訳があるはずだ」とサインを読み取り、自ら動き出すまで「待つ」こと。この深い信頼こそが、高度な専門技術であると井桁氏は語ります。

さらに科学的な視点からも、周囲の大人が「機嫌の良い人」でいることの重要性が指摘されました。乳幼児には必要な音だけを選ぶ「選択的聴力」がないため、大人の不機嫌な声や過度な騒音は、脳神経系の発達を阻害する深刻なストレスになります

「保育者のウェルビーイング(心身の健康と幸福)こそが、子どもの安心感と主体的な学びに直結する」という事実は、日夜奮闘する現場の職員にとって、自らの働き方を見直す大きな気づきとなりました。

参加者アンケートから見る「意識の変化」

研修後、職員の皆様から寄せられたアンケートからは、単なる「勉強になった」という感想にとどまらず、明日からの行動や姿勢を具体的に変えていこうとする熱い決意が読み取れました。ここではいくつかの感想文をご紹介します。

【子どもへの向き合い方・まなざしの変化】

  • 「おもちゃの貸し借りで『貸してあげてね』と言うのが恐喝になり得るというお話を聞いて、確かにそうだなとハッとしました。使っている子の気持ちも汲み取りながら援助していきたいです」
  • 「子どもの行動にはすべて意味があり、前後の様子をしっかり観察してサインを読み取る感受性が大切だと、具体例を通して深く理解できました」
  • 「一日の流れに子どもたちを乗せてしまいがちでしたが、“今”子どもたちが何に興味を持っているのかを知ることが大切だと気づかされました。自分の思い込みで寄り添っていた気持ちを見つめ直します」

【保育者の姿勢・あり方の見直し】

  • 「『大人を介して物事を知る』という言葉に触れ、子ども主体と言いながらも、園の環境が大人の合理性で作られていた部分があると痛感しました。ゆとりを持って機嫌良く接していきたいです」
  • 「長年保育の仕事で学んだことが全てに通ずるわけではないとハッとさせられました。『正解はひとつではない』ことを念頭に、子どもや保護者を尊重した押し付けのないまなざしで関わっていきます」

【保護者との信頼関係づくり】

  • 「保護者への怪我等の対応で悩むことがありましたが、それ以上に日常からの関係性が何より大切だと実感しました。これまで以上に連絡帳やお迎え対応を丁寧に行い、安心して預けられる保育者でありたいです」
  • 「保護者に対しても日常から園生活での微笑ましいエピソードをたくさん伝え、困ったことも隠さずありのままを共有しながら、共に信頼関係を築いていきたいです」

このように、講演直後から受講者の「まなざし」が変わり、現場での具体的な対話や関わり方の工夫へとつながっています。

共育ちのための「愛と知の循環」

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講演の終盤、井桁氏は保育の本質を「愛と知の循環」という言葉で表現しました。大人が子どもを深く知ろうとし、慈しみを持って環境を整える。その安心感の中で、子どもは世界を探索し、自分なりに構築していく。この循環こそが、私たちが一人の人間として「世界を愛することを学ぶ」プロセスそのものです。豊かな実体験を伴った育ちの中では「言葉に意味が宿り」ますが、経験を奪われた環境では「言葉が空っぽ」のまま通り過ぎてしまいます。

子どもを「導くべき未熟な対象」としてではなく、共に世界を面白がるパートナーとして捉え直したとき、私たちの日常は全く違う色を帯び始めます。保護者対応においても、隠そうとせずありのままを伝え、子どもの良さを認め合う対話が、揺るぎない信頼関係となっていくのです。

受講した職員の皆様のアンケートからは、「自分の保育を振り返るきっかけになった」「明日からすぐに実践したい」といった熱意にあふれる声が多数寄せられました。保育の根幹を見つめ直し、保育者自身のウェルビーイングを高めたいと願う全ての保育施設・主催者様にとって、井桁容子氏の講演はかけがえのない道標となるはずです。

井桁容子 いげたようこ

元 丸亀市教育委員会 教育長 元 法務省矯正局所管少年院 院長

東京家政大学ナースリールーム主任、東京家政大学非常勤講師を歴任。2018年4月よりフリーとなり、 保育SoWラボ(ほいく そう らぼ)代表、非営利団体コドモノミカタ代表理事、保育の根っこを考える会主宰。 全国私立保育連盟『保育通信』に連載中。メディア出演、子ども向け番組の監修など多方面で活躍。

講師ジャンル
社会啓発 教育・青少年育成

プランタイトル

「まなざしが保育を高める」
~子ども・保護者・保育者の共育ちを目指して~

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