近年、保育や教育の現場では、発達に凸凹のある子どもへの対応や、保護者への支援など、多様な課題に直面しています。

そんな中、ある保育士研修会にて、臨床発達心理士・公認心理師であり、ご自身も30歳の時にASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)の診断を受けた難波寿和氏による講演が開催されました。

「なぜ、あの人は何度言っても片付けられないのか」
「なぜ、これほど丁寧に説明しているのに話が通じないのか」。

支援者としての「理性」と、当事者としての「生々しい感覚」。
その両端に身を置く難波氏だからこそ語れる、当たり前の裏側に潜む真実がそこにありました。本レポートでは、当日の熱気あふれる講演内容と、参加した保育士の皆様との質疑応答から見えてきた「明日からできる支援のヒント」をお届けします。

官公庁・学校・PTAチーム

講演テーマ:発達障害凸凹体験談~障害当事者が小さな頃からしてほしかったこと~
講師   : 難波寿和 氏
開催時期 : 2026年5月
主催者  : 行政団体
講演時間 : 90分
聴講者人数: 約250人
講演タイプ: オンライン(ライブ)開催

見慣れた景色の裏側にある「違和感」の正体

講演は、難波氏の幼少期の写真とともに、親しみやすい雰囲気で始まりました。幼い頃は落ち着きがなく、周囲から何度も注意され、「嘘つき」と言われることもあったという難波氏。しかし、そこには本人なりの切実な理由があったのです。

多くの子どもにとって、教室で響く先生の声は明確な指示ですが、理解不能な言葉に聞こえていたり、自分が何をすべきか分からないこともあるようです。

さらに、ADHDの特性を持つ人が物を片付けられないのは決して怠慢ではありません。難波氏の目には、世界はピントの合ってない「油絵」のように映り、すべてが風景として溶け込んでいる中から特定のものを探すのは不可能に近かったと言います。

また、鍵を閉める、物をしまうといった動作が「自動モード」で行われると、本人の記憶には一切残らず、手から離れた瞬間に物が「世界から消滅した」同然の状態になってしまうといった、当事者・支援者ならではの生々しい感覚が語られました。

言葉の海で溺れないための「命綱」としての視覚支援

発達障害の支援において「視覚支援」の重要性は広く知られていますが、難波氏はその理由を当事者・支援者の実感から深く解説しました。

「僕が考えてしようと思っていることを、急に言葉で変更されると、言葉同士が交通事故になる。もちろん気持ちも交通事故になる」
だからこそ、メモや写真を使った視覚支援が必要不可欠なのです。しかし、単にスケジュールを見せるだけでは不十分です。

これを見ると、あとでこんないいこと(お得なこと)がある」という見通しや楽しみを視覚的に伝えることが重要であり、それこそが、言葉という消えゆく情報の海で溺れないための「命綱」となると強調しました。

こだわりは「高性能なSPEC」である

▲イメージ画像

「こだわりが強い」という特性は、しばしば欠点と捉えられがちですが、難波氏はこれを「過集中という名の一点突破の才能(高性能なSPEC)」と表現します。

子どもの頃、パニックから立ち直った際に母親から「あんたは切り替え名人、ガッツがあるね」と声をかけられたことが、執着の強さを「回復力(レジリエンス)」へと転換させる魔法のリフレーミングになったそうです。無理に矯正するのではなく、そのこだわりをどう生かすか、遊びや一生の余暇にどう繋げていくかが支援の鍵となります。

難波氏の具体的な説明に、参加者はメモを取りながら熱心に耳を傾けていました。

「自立」とは、援助を受けずに生きることではない

子どもの将来を考えるあまり、「今のうちに一人でできるようにしなければ」と、支援を早く外そうとしてしまうことがあります。

しかし難波氏は、「自立とは、何でも一人でできるようになることではない」と語ります。友達や先生、家族、福祉サービスなど、周囲の力を借りながら、自分に合った方法で生活していくことも立派な自立です。

将来困らないようにと静かにすることを強いるのではなく、「静かに過ごすにはどうすればよいか」を具体的に教える。援助をなくすのではなく、援助を求めることに慣れてもらうことが、長い人生を支える力になります。

叱るよりも「おもろくできる」仕組みを

▲イメージ画像

講演後半では、応用行動分析(ABA)の考え方をもとに、保育現場で実践できる対応法が紹介されました。

人の行動は、自分にとって得になる方向へ変化していきます。そのため、望ましい行動の直後に褒める、注目する、楽しみな活動を設定するなど、子どもが「またやってみたい」と感じる結果を用意します。

「褒めたり、ご褒美を与えたりすると、それがないと何もしない子になるのでは」という疑問に対して、難波氏は、苦手なことへ挑戦する最初の段階では褒めることが必要だと説明。できることが増え、自信がつけば、やがて行動そのものが楽しみになり、外から褒められなくても続けられるようになると伝えました。

基本は、おもろくできることから支援を組む

ユーモアを交えた難波氏の語りに、画面越しの会場も和やかな空気に包まれました。多忙な保育現場の現実を理解したうえで、無理なく実践できる方法が示されている点も、本講演の大きな魅力です。

保護者が求める専門性とは

難波氏は、保護者対応についても多くの時間を割きました。

「お子さんを褒めて認めてあげましょう」「しばらく様子を見ましょう」「お母さんはよく頑張っています」といった言葉だけで話を終えると、保護者は具体的にどうすればよいのか分からないままです。

保護者が求めているのは、高度な技法を一方的に教える人ではなく、話を聞き、「これからどうするか」を一緒に考えてくれる人だと難波氏は語ります。

連絡帳でも、できた・できなかったという評価だけではなく、「今日はゆったり過ごしていました」「笑顔がかわいかったです」など、その子の姿が伝わる言葉を添えることが大切です。保育士から「この子が大好き」「笑顔に癒やされる」と伝えられたことで、わが子のかわいさに改めて気づけたという保護者のエピソードには、保育者の言葉が家庭全体を支える力になることを感じました。

子どもは、自分を見放さない人を覚えている

▲質疑応答では保育への不安に関する質問に対して、難波氏は丁寧に答えていた

質疑応答では、発達障害の傾向がある保護者に、子どもの様子をどのように伝えればよいかという質問が寄せられました。

難波氏は、いきなり相談機関を勧めたり、園での対応を押しつけたりするのではなく、家庭で困っていることを短い時間でも少しずつ聞くことを提案。「話しませんか」と声をかけ、断られたら一度引き、また機会を見て声をかけることが、信頼関係につながると丁寧に回答しました。

講演の最後に難波氏が伝えたのは、「子どもは大人をよく見ている」ということです。自分を好きでいてくれる人、見放さずに支えてくれた人のことを、当事者は10年、20年経っても覚えています。

生きやすく生きたらいい。共に生きよう。決して見放さないから

子どもを何かの型に仕上げるのではなく、その子が生きやすくなる方法を一緒に探していく。難波氏の温かく力強いメッセージに、参加者から大きな拍手が送られ、研修会は終了しました。

発達障害の基礎知識にとどまらず、当事者の主観的な世界、具体的な保育支援、保護者との関係づくりまで学べる難波氏の講演。保育士・幼稚園教諭の研修をはじめ、児童福祉、特別支援教育、保護者向け講演など、子どもに関わる幅広い場におすすめしたい講演です。

難波寿和 なんばひさかず

臨床発達心理士 公認心理師 山陰発達障害当事者会スモステの会 代表

兵庫教育大大学院学校教育研究科障害児教育修了。児童発達支援事業所、児童心理治療施設、発達障害者支援センター等で勤務。30歳で発達障害の診断、その後に注意欠如多動症、うつ病の診断を受ける。現在は、山陰発達障害当事者会スモステの会代表として、講演・支援に尽力中。著書も多数。

講師ジャンル
社会啓発 教育・青少年育成

プランタイトル

発達障害の凸凹体験談
~障害当事者が小さなころからして欲しかったこと~

講師プロフィールへ移動

講師が「講師候補」に登録されました
講師が「講師候補」から削除されました



あわせて読みたい


【SBスタッフ講演レポート 第1回】
池田ノリアキさんの健康ウォーキング術

弊社スタッフが参加し、心に残った講演を参加者の立場からリポート…

【SBスタッフ講演レポート 第9回】
巧みな話術で聴衆を引き込んだ林真理子さんの講演

日本を代表する小説家でありながら、2022年より母校日本大学の…

【SBスタッフ講演レポート 第19回】
リピート率最強! 漫画を”描きながら”子育てトークの魅力~高野 優さん講演会レポート

20~40代のママであれば、一度は高野優さんの育児漫画を読んだ…


 他の記事をみる