世界的に感染者数が増え続け、なかなか先行きが見通せない新型コロナ・パンデミック。このパンデミックが世界経済に与えた影響と、企業が早急にやらなければならない対策について、産業評論家の進藤勇治氏が解説していきます。

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進藤勇治氏

産業評論家
(元通産省企画官、前東京大学特任教授)

対策の原点はコロナ正しく知ることから

現在までに、新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染症に関するいろいろな知見が蓄積されてきました。これからは、正しい知識と情報の下、冷静かつ賢く対処することが極めて重要です。まず、コロナについての基本的な情報を確認しておきましょう。

(1)感染防止の基本は、日常生活や社会活動における「3密」の回避です。

(2)コロナは呼吸器系の感染症であり、多くの場合は無症状あるいは軽症のまま自然治癒しますが、重症化し、死に至る場合もあります。特に、基礎疾患がある方や高齢の方は重症化しやすい傾向にあります。

(3)主な感染経路は、咳やくしゃみによる飛沫感染、ウイルスが付着した手で目鼻や口を触ることによる接触感染です。また、この7月にWHO(世界保健機関)は、空気感染とエアロゾル感染も感染経路になり得ると発表しました。つまり、感染者の咳などの飛沫がかからなくても、閉鎖した空間を共有するだけでも、感染の可能性があるということですが、必要な対策が「3蜜を避ける」であるのはこれまでと変わりません。

(4)感染した際の症状は、発熱、空咳、倦怠感、のどの痛みや痰、頭痛、下痢、味覚や嗅覚の消失、息切れなどです。

(5)潜伏期間は1~14日間で、感染から発症までの平均は5~6日とされています。

(6)コロナは発症の2日前から人に感染させる可能性があります。

上述のうち、多くの場合は陽性になっても無症状のまま治癒すること、陽性だった場合は発症する2日前から人に感染させること——この2点は、感染防止を踏まえた個人の日常生活において大切な情報です。

実は完全じゃないコロナ検査、今日の陰性は明日の陰性を保証しない

コロナの感染を調べるPCR検査は、新型コロナウイルスの遺伝子配列を増幅して検出し、現在感染しているかどうかを調べる方法です。PCR検査は比較的精度の高い方法ですが、所要時間は数時間程度と長めです。PCR検査のほかに、抗原検査、抗体検査もあります。これらの検査にかかる時間は数十分ですが、PCR検査に比べて精度が劣ります。

注意しなければならないのは、コロナの検査は血液型検査などとは全く異なるということです。血液型検査は、一度受ければ結果は一生変わりません。しかし、コロナ検査の場合、今日は陰性であったからといって、それは明日の陰性を保証するものではないということです。PCR検査の結果をコロナ陰性の証明に使うのであれば、毎日でも検査する必要があります。

また、コロナの検査はいずれも精度が低いことにも注意が必要です。最も精度が高いPCR検査でも、感染者の約30%が偽陰性となります。逆に、感染していない人も約1%は陽性と判定されてしまいます。

困難なワクチン開発への道、安全性の確保が最重要課題

コロナを終息させ、以前のように自由な社会経済活動を始めるには、有効なワクチンの開発が必要といわれています。一般的に、ワクチンの開発は薬害を防ぐために十分な時間をかけて治験を行います。少なくとも4年、10年以上かかることも珍しくありません。しかし、この新型コロナの場合、世界は1年以内のワクチン開発を目指しています。

ワクチンの開発は、アメリカのファイザー社とイギリスのアストラゼネカ社が世界をリードして進めています。日本政府は、国民全員分の接種に向けて両社から供給を受けることで合意を交わしています。ワクチンで健康被害が生じた際は、製薬会社ではなく国が賠償する方向です。

なお、欧米に比べて感染者数の少ない日本では、ワクチン開発の臨床試験や治験を思うように進められないという困難があります。

世界経済マイナス5.2%の落ち込みを予測するも、株価回復が早かった理由

コロナの感染拡大により、世界では人の移動が停滞し、経済は大きく落ち込んでいます。IMF(国際通貨基金)はこの6月、2020年世界全体の経済成長率がコロナの影響でマイナス5.2%まで落ち込むという予測を出しました。2020年における国別の成長率は、アメリカがマイナス6.1%、ユーロ圏がマイナス9.1%、日本はマイナス6.1%と予測されています。ただし、2021年には、世界および日本の成長率はプラスに転ずると予測されています。

2008年のリーマンショック後を振り返ると、株価の低迷と円高が約4年間続き、2012年の秋ごろより日本経済が回復基調になりました。コロナ禍による経済落ち込みの回復にも、4年程度の辛抱が必要かと思われます。

今回のコロナ禍で株価は3月に急落しましたが、8月末頃には、ほぼコロナ前の状態にまで回復しました。リーマンショックでは、米巨大投資銀行の一つであるリーマンブラザーズ社の破綻をきっかけに、世界の金融システムも破綻しました。今回のコロナ禍では、感染拡大防止のために主に人の移動が抑制され、世界経済に影響が出ていますが、世界の金融システムが破綻したわけではありません。今回、株価の回復が早かったのはこのような理由からです。

今、再編と改革を行った企業がコロナ禍を勝ち抜く

コロナの完全な終息の見通しが立たない状況が続く限り、危機管理の対策として、ウィズコロナの長期戦も想定しておかなければなりません。そのために今、企業が行うべきことは、次のような業務から組織体制に至るまであらゆる事項を検討して、早急に必要な変革をすることです。

(1)中期経営計画・事業再構築計画の検討
(2)事業・関係会社の再編
(3)組織・人員体制の再構築
(4)現業部門の業務改革
(5)間接部門・インフラの再構築
(6)情報システムの再整備、DXの推進
(7)人事制度の改革、テレワークの導入
(8)リスクマネジメントの再構築——ERM(統合リスクマネジメント)、BCP(事業継続計画)、BCM(事業継続マネジメント)

以上のうち、テレワーク導入のポイントとしては、
1)労務管理方法(時間管理の方法や労働災害対策、評価制度の確立など)の検討
2)情報通信システム・機器(通信インフラや情報通信機器、遠隔会議システムなど)の検討
3)テレワーカーの執務環境(作業環境管理や作業管理など)の検討
が重要です。

また日本では、地震・台風・豪雨など災害時における危機管理は考慮されていましたが、大規模感染症の対策は十分に考慮されておらず、ほとんどの企業は今回のコロナ禍で大パニックに陥りました。

企業が危機を確実に乗り切るために、今後は大規模感染症のほか、テロや戦争、紛争なども考慮しておくことが必要です。

進藤勇治 しんどうゆうじ

産業評論家、元通産省企画官、前東京大学特任教授

評論家・ジャーナリスト

経済・産業問題、エネルギー・環境問題SDGsについて、経営者や幹部社員の方々に最新の専門情報を提供しつつ、社会の動向と産業界の課題など、専門的になりすぎず丁寧でわかりやすい解説が好評。特に独自の情報と分析で、他では得られない時代の先端を行く極めて有益な情報を提供することで有名。

プランタイトル

コロナの動向と企業の対策課題

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