製造業界ではコロナ禍以降も人材不足が解消されず、加えて原材料の価格高騰により、体力が摩耗していっているという中小企業も増加しています。国際競争力が問われるこれからの時代を生き抜くためにも、革新的な舵取りの変更が必要です。

そのヒントとして、今回は、これまでの大量生産から多品種少量生産の「ロングテール型ビジネスモデル」にシフトチェンジし、一介の町工場から海外展開も行う成長企業へと脱却を図ったHILLTOP株式会社の事例を紹介します。企業理念に基づいたHILLTOPのビジネスモデルと「人材育成」を重視した経営戦略について、同社の立役者である山本昌作さんに詳しく解説していただきます。

Your Image【監修・取材先】
山本昌作氏

HILLTOP株式会社 相談役

大量生産から多品種少量生産へ!町工場の挑戦

▲昼夜24時間無人加工を行うHILLTOP 現在の工場(同社公式サイトより引用)

私がHILLTOPの前身である「山本精工」に入社したのは1977年。山本精工は、父が1961年に興した会社です。
当時は自動車部品の孫請け仕事が売り上げの8割を占めていました。社員5〜6人の、ほぼ家族経営の零細企業。両親は朝から晩まで油まみれで働いていました。
取引先から与えられた工作機械にはパラメータがセットされていて、誰も触ることさえできず自社の独自技術は不要、単調なルーティン作業を繰り返すばかりでした。

しかし、モノづくりの現場で「言われたものを、与えられた機械を使って、マニュアル通りに作り上げる」、言ってみれば、人間がロボットのように動くというやり方がまかり通っているということに、私は耐えられませんでした。しかも、毎年のようにコスト削減が求められ、利益を得るには残業などで生産量を増やすしか手はなかったのです。

そこで、当時社長であった父を説き伏せ、売り上げの8割を占める自動車部品の仕事をすべてやめようと決めました。そして、新たな顧客を開拓するため、さまざまな企業を訪問しました。

ロングテール戦略とは?

▲多品種少量生産に対応できるよう、さまざまな部品をそろえている(同社公式サイトより引用)

マーケティング理論の一つに「パレートの法則(8対2の法則)」と呼ばれるものがあります。これは「企業の利益の8割は、2割の製品(商品)から生まれる」「売り上げの8割は、全顧客の上位2割が占めている」とするもので、上位2割の顧客にターゲットを絞るのが、この法則に則った経営戦略です。

一方、これと対照的な戦略に「ロングテール戦略」があります。全体の売り上げを「販売数(縦軸)×商品数(横軸)」としてグラフ化すると、左から右へなだらかに長く伸びていきます。この様子が恐竜に似て、長いしっぽが続くように見えることから「ロングテール戦略」と呼ばれています。

出典:『ディズニー、NASAが認めた 遊ぶ鉄工所』 山本昌作 著

ロングテール戦略とは、一般的にニッチな商品を多様に取りそろえ、全体としての売り上げを伸ばすやり方で、以下のようなメリットがあります。

  • 年間数個しか売れない商品でも、大量に扱うことで総数として大きな売り上げになる
  • 売り上げを多数の商品で分散しているため、一つの商品の売り上げが落ちても、全体へのダメージが限定的である
  • 上位商品や特定の顧客に依存せずに済む

実際、ロングテール戦略を提唱した、アメリカ『WIRED』誌元編集長のクリス・アンダーソン氏が大手書店の「バーンズ・アンド・ノーブル」とAmazonを比較したところ、扱っている書籍の数に大きな違いがありました。バーンズ・アンド・ノーブルの取り扱い数はベストセラーを中心とした13万種、Amazonは230万種です。

リアル書店の場合、棚のスペース・在庫スペースには限りがあります。そのため、ニッチな書籍を取り扱う余裕が少なく、ベストセラー作品などの売れ筋商品を中心に扱う必要があり、結果パレートの法則に当てはまります。しかし、ネット書店なら陳列スペースに制限はありません。Amazonの売り上げを見てみると、年に数冊しか売れない書籍(販売ランキング13万位以下)の販売量が総売上の約6割をも占めており、ベストセラーの売り上げを上回っていたのです。これがロングテール戦略です。

HILLTOPもロングテール戦略を採用しており、当社の総売上の約7割は1個での受注、約1割が2個での受注です。つまり、約8割が「1個、2個」という少量の受注なのです。ただ特定の製品を大量生産するだけでなく、「楽しくなければ仕事じゃない」という思いから自分たちにしかできない仕事で勝負することで結果として会社全体としての売り上げを伸ばすことができています。

“ものづくり” より “人づくり”に注力した経営戦略

▲イメージ画像

HILLTOPでは、社員が自ら働きたいと思わせるユニークな人材育成法を活用しています。経営者の一番の悩みは人材育成ではないかと思いますが、私は人が成長する一番の要因は「自発・能動」だと考えています。本人がしたいことをさせるのが最優先。それで利益が出るか・成功するかはさておき、社員がチャレンジしたいことならば、させればいいと思っています。

そのためには、ルーティン化した切削加工の作業を機械で自動化し、社員にはもっとステップアップした知的労働をやってもらいたいと考えました。そこで、職人の仕事を「データ化」「マニュアル化」「伝達」の3つに分解し、それまで個人に帰属するのが当たり前だった技術を個人から切り離したのです。データベースを作り、ノウハウを擦り合わせて標準化し、ルーティン作業は機械にやらせることにしました。それによって人はルーティン作業から解放され、知的労働に集中できるようにしたのです。

全てではないが面白そうならとりあえずバットを振ってみる、そんな社風になりました。その背景には、「やってみたい」という気持ちを尊重する風土づくりが必要でした。初めから聞く耳を持たないというスタンスではなく、挑戦したいと思える環境をつくることが大切だと思っています。あえてストライクゾーンを決めず、失敗を恐れずに挑戦させることで、より高度な仕事、あるいは別のジャンルの仕事を呼び込むこともあります。

また、新たな挑戦に対して、儲かった・儲からなかったという結果ではなく、挑戦した人を「すごいね!面白いね!」と評価するようにしています。これがHILLTOPの風土づくりに一役買っていると、私は思います。

HILLTOPの経営理念「理解と寛容を以て人を育てる」

HILLTOPの経営理念は「理解と寛容を以て人を育てる」です。人間は、性別や年齢はもちろん、国籍も、考え方も、得意・不得意も、スキルも、一人ひとり違います。人を育てるためには、相手をちゃんと理解することと寛容になれるかどうかが非常に大事だと考えています。職場は、仕事を通じて人が成長できる場であるべきです。この経営理念が、前述したような「人」を中心とした経営戦略につながっています。

人中心の戦略の結果として得たもの

会社の目先の利益よりも人材育成を重視する戦略をとった結果、さまざまな好影響がありました。

まず、2008年からの10年間を見ると、売り上げ・社員数・取引社数のいずれも増加しています。
さらに、取引先は国内だけでなく世界中にわたっています。米国法人ではNASA(アメリカ航空宇宙局)、そしてウォルト・ディズニー・カンパニーなどの国際企業からの発注も増加し、2018年度末には3,000社以上となりました。また、利益率3~8%程度が当たり前の鉄工所において、当社は2018年当時、すでに「利益率20%を超えるIT鉄工所」へと成長しており、年間2,000人超の見学者が訪れていました

 人を育てることが会社の成長につながる

ここまで見てきたように、利益よりも人材育成に重きを置いたことで、社員のモチベーションや定着率が増加し、売り上げ・社員数・取引数に好影響を与え、会社の成長につながりました。
会社の改革を進めるには、「会社」より「社員」の成長を第一に考える必要があるということなのです。

講演ではさらに、HILLTOPの詳しい事例を挙げながら、会社改革のためのヒントやDXの進め方、人材育成の具体例などを解説します。将来に不安を抱えている製造業経営者の方々に、ぜひ聴いていただきたい内容となっております。ご興味をお持ちの方はシステムブレーンまでご連絡ください。

山本昌作 やまもとしょうさく

HILLTOP株式会社 相談役


経営者・元経営者実践者

大学卒業後、商社の内定を受けるも母の懇願により家業(従業員5人の鉄工所)に入社。変種変量生産システム「HILLTOPシステム」を確立、24時間無人稼動の生産システムを実現。独自の“ロングテール型ビジネスモデル”により取引社数は2000社以上。著書『ディズニー、NASAが認めた 遊ぶ鉄工所』。

プランタイトル

ディズニー、NASAが認めた 遊ぶ鉄工所
~楽しくなければ 仕事じゃない!~

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