
社員のスキルアップやモチベーション維持などをはかる研修はさまざまですが、その一つに階層別研修があります。階層別研修は、社員のステップ(階層)ごとに行われる研修で、適切な時期に適切な内容で行うことで、各自の能力を最大限に引き出すことができるため、重要な研修の一つです。
本記事では、階層別研修を初めて行う人事担当者に方に向けて、階層別研修とは何か、目的とメリット・デメリット、体系図の作り方、階層別のおすすめ研修テーマ、開催のポイントについて詳説します。
体系図のテンプレートもご用意したので、ぜひ人材育成マップとしてご活用ください!
VUCA時代の階層別研修の重要性
VUCA時代とは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取ってつけられた造語で、将来の予測が難しい状況を表しています。もともとはアメリカの軍事用語でしたが、変化が激しい現代社会を象徴する言葉として広く使われるようになりました。
近年ではAIやIoTの発展、そしてコロナ禍以降のオンライン化により、従来の階層別研修だけでは対応が難しくなっています。特に日本でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、組織内にはデジタルスキルを持つ人材が増えているにも関わらず、仕事の進め方やマネジメントだけが“古いまま”では変化に取り残されかねません。
そのため、今の時代に求められるビジネススキルやマインドを再定義し、階層ごとにテーマを掲げた新しい研修の仕組みが必要です。VUCA時代には、変化に適応し、自律的に学び続ける力を育てることが、組織と人材の持続的な成長につながります。
階層別研修とは?
階層別研修とは、役職や年齢、勤続年数によって社員をステップ(階層)に分け、それぞれの階層で必要な知識やスキルなどを身につけてもらう研修のことを指します。
分けるステップは「新入社員」「中堅社員」「管理職」などがあり、例えば新入社員なら基本的なビジネスマナー、中堅社員なら次世代リーダーに向けたマネジメントスキル、管理職なら企業理念やビジョンに沿った意思決定の能力など、その役職に応じて必要な研修テーマで研修計画を立てます。
階層別研修と選抜研修の違い
階層別研修と選抜研修はいずれも社内研修ですが、それぞれ目的と開催時期、対象者が異なります。
目的 | 対象者 | 開催時期 | |
---|---|---|---|
階層別研修 | 階層ごとに必要なスキルを身につける「底上げ」 | その階層全員 | その階層に上がった後 |
選抜研修 | ある階層から次の階層に向けて、ステップアップするための「引き上げ」 | 選抜者のみ | 階層に上がる前 |
階層別研修では、ある階層で必須のスキルを身につけるための研修で、その階層に上がってから全員一斉に研修を受けてもらいます。全員が同じ研修で一定のスキルを身につけることで、チームや組織全体の底上げをはかるのが目的です。
一方、選抜研修はある階層から次の階層に上がるにあたり、必要とされるスキルや知識を身につけるための研修です。幹部候補など、優秀な社員を「選抜」して行います。
階層別研修の目的
階層別研修の大きな目的の一つとして、前述の通り必要なスキルの「底上げ」があります。
社員がある階層に上がったとき、あるいは会社に初めて入社したとき、一定のスキルは身につけていることでしょう。しかし、1人ひとりのスキルレベルに差があったり、企業側が最終的に求めるレベルに達していなかったりすることがあります。そこで、階層別研修を行い、全員のスキルレベルを均質化するとともに、底上げをはかるのです。
また、単にスキルを研修でインプットするだけでなく、インプットしたスキルを業務の中でアウトプットしていく姿勢も同時に学びます。例えば、新入社員研修なら先輩社員から見たり聞いたりして学ぶこと、中堅社員ならマネジメントに必要なコミュニケーションスキルをどう身につけていくか、などが挙げられます。このように、なぜこの業務を行うのか、目的達成のためにはどんなことが必要なのか考える姿勢を身に付けることも、 階層別研修の目的と言えます。
階層別研修のメリット・デメリット
階層別研修には、メリットもデメリットもあります。ここでは、それぞれについて箇条書きを使いながら詳しくご紹介します。
階層別研修のメリット
階層別研修のメリットには、以下のことが挙げられます。
- 自分のステップ(階層)に必要な知識やスキルを習得できる
- 階層ごとの意識や自覚が高まる
- 客観的な自己分析ができるようになる
- 同じステップの社員と刺激し合い、モチベーションを上げられる
階層別研修の最も大きなメリットは、知識やスキルを習得し直し、階層ごとに意識や自覚を高められる点です。例えば、中堅社員研修でマネジメントスキルを学べば、自分は部下を教え導いていく立場である、という認識を再度持つことができるでしょう。また、新入社員研修なら、同期の社員と一緒に学ぶことが良い刺激になり、モチベーションアップにつながります。
階層別研修のデメリット
一方、階層別研修にはデメリットもあります。
- 研修内容のレベルを絞りにくい
- 研修の目的が曖昧になりやすく、形骸化しやすい
- 役職が上になるほど出席率が低下する
階層別研修の目的には階層ごとに必要な知識・スキルの統一化がありますが、研修前のスキルや知識は社員によってまちまちであり、すでに研修目標のスキル・知識を身に付けている社員もいれば、身に付けいない社員もいます。そのため、研修内容をどのレベルに設定するのかが難しくなります。
研修を行う側にとっても、階層別に求めるスキルや意識をあれもこれもと詰め込みすぎて、目的が曖昧になりやすいというデメリットが考えられます。これらのデメリットを解消するためには、単なるスキルや知識を詰め込むだけの研修にせず、意識を高める内容、自学自習の姿勢を盛り込むと良いでしょう。
また、階層別研修では、役職が上になるほど多忙になるため出席率が低下するという話もよく聞きます。受講者に研修を受講することによって得られるメリットを示し、研修日を業務の一貫としてスケジュールを組みこむ必要があります。
階層別の研修テーマ
5つの階層別ごとに定番のテーマについて、それぞれ解説します。
①新入社員研修
新入社員研修は、学生から社会人へと意識を切り替えてもらうためにも、以下のような内容を盛り込んだ集合研修を行うのが一般的です。
- ビジネスマナーの基本姿勢
- 身だしなみ、敬語、挨拶など第一印象を上げるノウハウ
- 「報・連・相」、名刺交換、電話対応などの基本スキル
- パソコンや社内システムなどの使い方
- 社会保険や税金、給与体系などお金の知識
身だしなみや敬語、挨拶などは就職活動である程度身につける人も多いのですが、やはり企業として求めるレベルに達しているかどうか、今後取引先やクライアントに企業の顔として出てもらっても大丈夫かどうか、という点から見るとスキルアップが必要なことも多いです。この他、コンプライアンス研修や、ビジネス文書作成研修などをあわせて行う企業もあります。
短期の研修の場合は集合型研修、長期の場合はOJTによる実践研修を行う場合が多いです。
②若手社員研修
若手社員とは、概ね入社2年目から5年目くらいの社員のことを指します。この頃にはビジネスマナーは身についてきているため、次に図るべきは業務効率の改善です。そこで、以下のような内容を盛り込んだ研修が行われます。
- Officeソフトのツールスキルアップ
- その他、普段使っている業務ツールのスキルアップ
- OJTに関する研修
- コミュニケーションスキル
- キャリアデザイン
- チームワーク
- 論理的思考で問題解決を目指すロジカルシンキング
- プレゼンテーション
業務に使っているツールの便利な機能を使いこなしたり、より効率的な使い方を知ったりすることで、業務のスピードや質のアップにつながります。論理的思考の大切さを知って中堅社員になるための土台作りも行います。また、後輩を教える立場になる人も増えてくるため、OJTに関する研修を行うのも良いでしょう。
③中堅社員研修
中堅社員は、だいたい入社3年目以降で、係長・課長などの役職についていない社員のことを指します。この頃になると、チームリーダーやサブリーダーなどとしてチームを牽引していく立場になる人も多くなります。中堅社員として、チーム全体の成果を伸ばすことを意識した行動も求められるため、以下のような内容を盛り込んだ研修が良いでしょう。
- リーダーとしての役割を学ぶ
- 上司を補佐し、チームの成果を高めるための課題解決スキル
- フォロワーシップ
- マネジメントスキル、セルフマネジメントスキル
- ネゴシエーション、ファシリテーション
中堅社員は、やがて管理職や幹部へと育っていく可能性もある立場の社員です。そのため、部下や後輩を引っ張っていくマネジメントスキルだけでなく、自分の目標や成果を管理するセルフマネジメントスキルも求められるでしょう。後輩を支え手本となれるようにフォロワーシップを学ぶことも大切です。
④管理職研修
管理職は名前の通り、係長や課長など、何らかの役職を持ち、部署などをまとめ率いていく役割を持つ社員です。そのため、以下のような内容を盛り込んだ研修が行われます。
- 人材育成について
- 意思決定に関するスキル
- 部下を管理するスキル
- 組織マネジメント、計画立案などの心構え
- ハラスメント
- リスクマネジメント
- メンタルヘルス
- コンプライアンス
- 人事考課
特に、部下を管理したり組織として部署をマネジメントしたりしていくスキルや心構えは、管理職に欠かせません。企業のブランドや組織の健全性を守るためにもリスクマネジメントを学び、リスク管理能力を鍛えることも求められます。ハラスメントやメンタルヘルスなどの問題を未然に防ぐためにどうすべきかも学ばなければなりません。また、部長など幹部に近い上級管理職を対象とした場合、幹部研修に近い内容になることもあります。
⑤取締役研修、経営幹部研修
取締役や経営幹部が研修を受けるケースは少ないですが、以下のような内容の研修を受けることが多いです。
- 必要な法律知識を学ぶ
- 経営分析の仕方について
- 経営戦略や財務戦略の立て方
- 企業倫理に関する知識、スキル
- 会計や経理、会計報告の知識
- コンプライアンス
- 経営目標達成に向けた資金調達・運用
当然ながら、取締役や経営幹部は企業におけるトップであり、ビジョンを実現するために組織を率いていくリーダーです。対象者には「会社全体を見て長期的な視点での問題を発見する力」や「問題を解決するための仕組みを作る力」なども求められます。
他にも、事業戦略や方針の策定、グローバルに対応するための海外文化や法律の違いを知る研修など、高度な研修を受けるケースもあります。そのため、対象者が研修を受ける場合は社内研修ではなく、社外研修を受けるのがほとんどです。社外の講師に委託したり、外部の研修を受講しに行ったりするのが良いでしょう。
階層別研修体系図の作り方
階層別研修体系図とは、新入社員や若手・中堅社員、管理職など、各階層で求められる役割やスキル、目標、研修内容を明確に可視化した図です。たとえば、新入社員にはビジネスマナーや報連相、中堅社員には部下育成や業務改善、管理職にはマネジメント力や戦略的思考といった能力が期待され、それに応じた研修内容を整理します。
この図の作成は、企業の人材育成計画全体の設計図となる重要な工程であり、以下の6ステップとあわせて取り組むことで、より実効性の高い育成が可能になります。
ステップ1.目標・現状を把握する
まずは企業として「どのような人材を育てたいのか」「どんな状態を目指すのか」といった目標を明確にします。そのうえで、現状の人材のレベルやスキルギャップを分析し、育成すべき課題を特定します。ここでは、経営戦略や事業計画とも照らし合わせて整合性を取ることが重要です。
ステップ2.課題を洗い出す
目標・現状が把握できたら、目標達成するために「従業員には何が足りていないのか」を考え、課題を洗い出します。研修者に対して求めるスキルや知識を整理し、達成してほしい課題を整理しましょう。
また、現場の声も参考にして現状のニーズを把握することも大切です。現状のニーズに合った研修の実施は、研修者の興味を高める効果が期待できます。各階層の社員・上司にヒアリングして解決すべき課題を調査しましょう。
ステップ3.それぞれの階層の役割を明確にする
各階層で社員に期待される役割や理想的な人物像を明確にします。たとえば、若手社員には「自律的に業務を推進できる人材」、管理職には「成果とチーム成長の両立ができる人材」など、階層に応じて定義します。これにより、どのような研修が必要かがより具体化されます。
ステップ4.具体的な研修内容を決めてゴールを設定する
それぞれの階層に合わせて、必要なスキルやマインドを育成する研修プログラムを設計します。対象者・内容・時間・講師・形式(オンライン/集合)・評価方法(KPIや行動変容指標)までを検討し、成果が定量・定性で測れる状態にします。研修の前後でのフォローアップ体制も含めて設計しましょう。
ステップ5.体系図として構造化する(テンプレート付)
上図のように、各階層の役割・スキル・研修内容を、体系的に整理し図式化します。一般的には、縦軸に等級・職位、横軸に育成項目や研修テーマを配置する表形式が多く、自社の目的や文化に合わせてカスタマイズ可能です。これにより、人材育成の全体像が一目で把握できるようになります。
ここで、記入例とテンプレートをご紹介します。テンプレートはダウンロードでき、自社に合わせてカスタマイズできます。
※テンプレートはこちらから無料ダウンロード(Excelファイル)
ステップ6.育成計画のPDCAを回す
体系図は作って終わりではなく、運用と改善のサイクル(PDCA)を通じて定期的に見直しを行うことが鍵です。研修の効果測定、受講者の行動変容、業績への影響などをもとに、内容や方法をアップデートしていくことで、時代や組織の変化に対応し続けることが可能になります。
階層別研修を成功へと導く3つのポイント
階層別研修は、対象者の業務レベルや職務経験にばらつきがあるため、設計や実施が難しくなりがちです。特に、設計段階で役割やスキルを明確にしなかった場合、汎用的で抽象的な研修になってしまうリスクがあります。ここでは、研修効果を最大化するための「実施・運用フェーズ」における3つの重要なポイントをご紹介します。
人材フレームを活用して“求める成果”を起点に研修設計を再確認する
設計段階で階層ごとの役割やスキルを定義しても、それが現場で活用されなければ意味がありません。運用フェーズでは、実際の業務に照らして「この研修で身につけたスキルは、業務のどこに活かせるか?」を可視化しましょう。
このとき、「ピラミッド型」や「ツリー型」の人材フレームを用い、各層が果たすべき役割と研修のゴールを紐づけることで、参加者にとって学ぶ意味が具体的になります。
上位層から順に導入して“支える力”をつくる
研修は現場に落とし込まれて初めて機能します。そのためには、まず組織の意思決定層である上位マネジメントから研修をスタートするのが効果的です。
上層部が先にビジョンやマネジメント方針を研修で共有し、それをもとに中堅・若手層の研修が設計されることで、全社的な整合性が生まれます。また、部下の成長に対して上司が適切なフィードバックや支援を行えるようになり、学びの循環が組織内で促進されます。
日常業務での“実践”を仕組みに組み込む
研修効果を定着させるには、座学だけで終わらせず、業務の中で繰り返しアウトプットする仕掛けが必要です。
たとえば、研修で学んだ内容を上司に週次で報告させたり、チーム内でミニプレゼンを行ったりすることで、研修内容の「実務への接続」が強化されます。さらに、半年後に再評価のタイミングを設けることで、行動変容の持続性も確認できます。こうしたPDCAのサイクルを習慣化させることが、真の学びの定着へとつながるのです。
弊社では階層別研修のメニューを取り揃え
階層別研修は、社員をステップ(階層)別に分け、それぞれの階層で身につけるべきスキルや知識、心構えを学ぶための研修です。階層全体、組織全体のスキルアップや同じ階層の社員との刺激によるモチベーションアップなどが期待できますので、今回ご紹介した内容を参考に、ぜひ集合研修を取り入れてみてはいかがでしょうか。
弊社では、階層別に専門の講師による研修やセミナー、講演プランをご用意しています。テーマのアレンジもできますので、お気軽にご相談ください。
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