企業の人材育成では、業務遂行能力を高め、最終的に会社の業績を上げることを目的としています。しかし、実際はその目的を100%達成しているという企業も少ないのが現状です。
自社の競争力を強化するためにも、人材育成のために研修を取り入れる目的や基本的なやり方、効果的な研修を行うためのヒントをご紹介します。
人材育成研修の目的
企業においてなぜ人材育成が重要なのか、その主な目的を以下にまとめてみました。
1.人材育成の最重要目的は、経営戦略の実現
人材育成は、企業の経営戦略を実現するために最も重要かつ有効な手段の1つです。
従業員一人ひとりがスキルを身につけ、能力を向上させることで、組織全体の生産性が高まり、結果として企業の業績向上につながります。社会環境の変化に伴って、求められる人材像も変わっていきます。
企業は将来を見据えたうえで「これから必要とされるスキル」を分析し、計画的に人材育成を行わなければなりません。
2.社員の成長サポートによる優秀な人材の定着
人材育成は優秀な人材の定着にもつながります。
社員がキャリア形成の機会を得られる環境であれば、やりがいを持ち続けられ、早期離職を防ぐことも可能です。
一方で企業にとっては、単に目先の業務をこなせる人材を増やすだけでは不十分です。「社員と組織の両方にとって本当に必要な成長とは何か」を見極め、無駄なコストをかけないように精査する必要もあります。
3.労働力不足への対策
労働力不足への対策という面でも人材育成は軽視できません。
日本でも少子高齢化を背景に、今後の労働力不足は深刻化していきます。2023年、リクルートワークス研究所による試算では「2030年には約341万人、さらに2040年には約1,100万人の労働供給不足が発生する」とされています(引用:リクルートワークス研究所『未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる』)。
しかし「社内人材のスキル向上によって生産性を高める」という方針であれば、新規採用を抑える効果が期待でき、労働力不足の影響を緩和できます。
4.自社に適した人材の確保
人材育成がうまくいくと、自社の経営理念や文化、求める人材像に合った人材を確保できます。
労働力不足が進む中、外部から即戦力を求めるよりも、内部で着実に人材を育成する方が、ミスマッチによるリスクやコストが抑えられるでしょう。また、一時的な待遇改善やブランディング強化にリソースを配分するよりも、直接的かつ長期的に企業の発展につながる可能性が高まります。
他社の事例や世間のトレンドに流されることなく、自社に必要な教育・成長機会を提供することが大切です。
人材育成研修の流れ
ここからは、人材育成の流れを手順の形で解説します。
①現状の課題を把握する
研修を行う前に、研修対象の人材やチーム、組織が抱える課題を把握します。自社の現状を知り、どのような課題があるか洗い出すためには、3〜5年後、10年後など中長期的な視野でどう発展していきたいのか、各部署の事業計画と業務内容を確認しましょう。その上で、各社員の業務内容や生産性、能力や適性などを詳しく知り、個々のレベルに合わせた目標や研修内容を決めていきます。目標達成のためにどんなスキルや経験が不足しているのか確認し、本人と認識を合わせることも重要です。
➁目標と計画を設定する
研修によってどうなることを期待するのか、目標と具体的な計画を設定していきます。いつまでにどうなって欲しいのか、段階的に計画を設定しましょう。このとき、「なぜ研修が必要なのか」という目的や意義、研修で叶えるべき目標、課題をわかりやすく可視化することで、研修を「仕組み化」することが重要です。部署など組織ごとの生産性や課題を把握し、人材育成によって達成したい目標や数値を具体的に決めていきましょう。
③目標と人事評価を関連付ける
研修はやりっぱなしでなく、どれだけ効果が出たか測定しなくてはなりません。そして、研修の効果があれば人事評価にもつなげる必要があります。例えば、研修で習得したスキルを評価し、昇格や昇級につながる制度を整備するというように、社員が能力レベルに応じた正当な評価を受けられれば、社員の主体的な成長を促すことができます。研修によって能力がアップした際、それが目に見える形で評価されるような仕組みを整えられれば、社員も研修に対しても業務に対しても高いモチベーションを保てるでしょう。
④現状把握にスキルマップを作成する
社員の現状把握をするためには、各個人のスキルマップを作成するとよいでしょう。
スキルマップとは、全社員が保有するスキルや能力を洗い出し、年次や役職ごとに分類して一覧表にしたものです。
スキルマップを作成するメリット
社員一人ひとりの保有するスキルと知識を可視化すると、効果的な人材配置や育成計画が立てられます。
社員個人にとっては「どんなスキルを伸ばしていくと良いか」が分かると、成長目標が明確になり、モチベーション向上にもつながります。
さらに企業にとっては「組織全体で強化が必要なスキルのうち、どの人材が不足しているか」が把握できる点が最も大きなメリットです。
スキルマップは、組織と個人の両面で、効果的な人材育成のための有用なツールとなります。
スキルマップの作成方法
まずは自社での年次や役職において、身につけておくべきスキルや能力をリストアップします。
これを元に、それぞれの社員がそのスキルや能力をどれほど持っているのかなどの習熟度合いを「○」「△」などの記号、「0〜5」などの数字で表します。縦列に必要なスキルや能力を、横列に社員を配置し、交差したポイントに印をつけていくことで、パッと見て個々の社員の持つスキルを把握できます。
スキルマップの作成時には現場の管理職の声を聞き、現場の意見を教育体系構築に活かしましょう。これにより、現場で部下や後輩に身につけさせたいスキルがわかるほか、現場の管理職自身も部下の現状を客観的に判断でき、部下にとっても納得できる育成計画や目標を立てられます。
➄研修プログラムを作成する
研修プログラムでは、設定した目標、習得スキル、対象者によって、(1)実施方法、(2)研修テーマや内容を決めて、プログラムを立てていきます。(1)と(2)には次のような種類があります。
(1)実施方法
【OJT、社内研修】
OJTや社内研修では、直接の上司や先輩社員など、企業内部の社員が講師となって行います。スキルアップしたい項目やステップに合わせ、講師や研修内容を決めていきましょう。講師を務める社員は、研修の準備を行うにあたって自分の経験や知識を洗い出し、アウトプットするため、改めて業務への理解が深まり、業務上の無駄や不足などの改善点も見つけ出せるでしょう。講師は技術面が優れているだけでなく、他の社員からの信頼を得ている人物なことも重要です。
【Off-JT、社外研修】
Off-JTや外部講師による集合研修では、専門的な知識や技術をその道のプロフェッショナルから学べるため、社内では学びにくいさまざまな知識や技術を身につけられます。外部講師は「人に教える」技術も持ち合わせているため、受講者が内容を理解しやすく、身になりやすいという点でも大きなメリットがあります。ただし、外部講師を招く場合はコストがかかるので事前に予算組みを考える必要があります。
【自己啓発】
自己啓発とは、e-ラーニングや通信講座など、社員が自ら学ぶ姿勢をサポートするものです。例えば、インターネットを通じて行うe-ラーニングであれば、受講者がパソコンやスマホやタブレットなどの端末から自分の都合に応じて学習を進められます。書籍や通信講座なら、時間や場所を選ばず業務のスキマ時間や閑散期に研修を受けられます。ただし、受講生が受講中に疑問が生じた場合に質問に対しての回答がすぐに得られないためにタイムラグが生じたり、社員それぞれのモチベーションや理解度によって、研修成果に大きな差が出たりするのも難点です。
(2)対象者別プログラムの内容とテーマ
ここでは、新人社員、中堅社員、管理職向けと対象者別に、代表的な研修テーマやプランをご紹介します。
【新入社員向け】
新入社員向け研修では、基本的な社会人としての心構えやビジネスマナーを学びます。また、モチベーションアップや戦力化、なんのために働くのかなどの根本的なことを考えさせるなども研修の目的です。そこで、ビジネスマナー研修、コミュニケーション研修、セルフマネジメント研修、コンプライアンス研修などの外部研修やOJT研修、工場見学などを組み合わせ、座学だけでなく実技も織り交ぜる、さまざまな人と交流する機会を設けるなど工夫するとよいでしょう。
【中堅社員向け】
中堅社員は、現場スタッフと管理職の間を取り持つ架け橋となる存在です。同時に、今後のキャリアプランやマネジメントスキルを身につける研修などが重要となってきます。組織全体の成果を上げるため、リーダーシップとコミュニケーション能力の両方に加え、課題発見能力も求められます。そんな中堅社員研修には、コーチングスキルアップ研修、フォロワーシップ研修、ワークライフバランス研修、残業削減・長時間労働抑制研修などがおすすめです。
【管理職向け】
部下を持ち、組織を統率する立場となる管理職には、マネジメント能力の醸成のほか、近年では特にリーダーシップの醸成が求められています。自分のキャリアプランだけでなく、組織全体を見通しながら理想的な未来像を描いていく必要があるでしょう。また、職場環境の整備や部下のメンタルフォローをしたり、ダイバーシティや雇用問題への理解を深める必要もあります。管理職向けにおすすめの研修は、面談研修や目標管理研修、ダイバーシティ研修、女性活躍推進研修などです。
⑥スケジュールを立てる
次に、研修のスケジュールを立てます。
研修実施の流れは、概ね以下のようになっています。
- 研修内容、講師を決める(半年〜1年程度前)
- 研修内容や資料の準備を行う(2〜3カ月前)
- 受講対象者を決める(2〜3カ月前)
- 受講対象者と関係者に研修開催の連絡する(2〜3カ月前)
- 研修の出欠確認(2〜3カ月前)
- 事前課題の送付・回収(1〜2カ月前)
- 遠隔地からの参加者の宿泊・交通手配(1〜2カ月前)
- 受講者への直前参加確認(2〜3週間前)
- 講師への前日連絡(研修前日)
- 研修実施、受付、管理(研修当日)
- 実施後アンケートの回収(研修後1〜2週間)
- 実施後課題の配布と回収(研修後1〜2週間)
- 欠席者への対応(研修後1〜2週間)
- 予算の申請と支払い(研修後1カ月程度)
上記は一例ですが、人気の外部講師を招く場合半年前から既に予約が埋まってしまう可能性があるため、早い段階からスケジュールを立てておいた方が良いでしょう。
➆運営する
研修をより効果的に運営するためには、研修の「仕組み化」が重要です。具体的には、以下のような内容が挙げられます。
- いつまでにどうなっているべきか、のゴール設定
- ゴール達成のために、研修内容を決める
- 研修の運用ルールを策定する
- 受講対象者に対し、受講理由を明確にする
- 必要最低限の事前知識を入れたり、意識を高めたりする
ここで特に重要なのは、「いつまでにどのような状況であってほしいのか」のゴール設定を行うことです。
また、ゴールは大きなゴールを定めた上で、途中途中で「このときまでにここまでのスキルを習得する」など短いゴールを定めるとよいでしょう。特に、新人研修などは1回の研修で終わるわけではなく、数カ月〜半年程度の時間をかけて何度も研修を行います。長いゴールだと受講者の気力も集中力も途切れやすくなりがちですが、途中途中で短いゴールがあれば「クリアできる」という自信につながり達成感も味わいやすくなります。
達成感はモチベーションにもつながるため、「大きなゴールの途中で小さなゴールをいくつか設ける」ということに注意して、研修内容・スケジュールを立てるとよいでしょう。
加えて、受講対象者が受講の理由をしっかり理解できていることも、モチベーション維持に重要となります。
⑧評価、フォローアップを行う
研修が終わったら、評価とフォローアップを行いましょう。まずは、理解度チェックや研修内容が業務で活かされているかどうかなどの評価を行います。もし理解度が足りない、研修内容が活かしきれていないなどの問題点があるようなら、フォローアップ研修を行いましょう。その後、必要に応じて研修内容や運用ルールを振り返ったり、改善点を検討したりして、次回や次年度以降の研修をよりよくする方向につなげていきます。
このように、人材育成の研修では非常に多くの工程があり、特に社内研修ではすべてを社内で行わなくてはならないため、準備だけでも大変な作業です。
弊社では講師の提案から開催準備、研修当日の交通機関情報などさまざまな開催支援を行っております。人材育成研修を考えているけれど、準備にいつも手間がかかって大変だという担当者の方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
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