「アジリティが高い組織」と聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。言葉はまだあまり知られていませんが、アジリティはこれからの市場を生き抜く企業には必須の要素となるでしょう。
この記事ではまずアジリティの意味を確認し、企業がアジリティを高めるメリットや、向上のための施策などについて解説します。
アジリティとは何か
まずはアジリティという語句の意味を、似た概念や語感を持つ単語との比較から明らかにしていきましょう。
「アジリティ」の定義と概要
「アジリティ」は、英語で「Agility」と記し、「素早さ」や「身軽さ」「軽快さ」を示します。
スポーツ用語から転じたこの言葉は、「組織が急速な変化に迅速に対応できる能力」を意味します。デジタル化やグローバル化が進み、環境が目まぐるしく変化する現代のビジネスにおいて、注目を集める考え方です。
事実、近年は天災や国際情勢、パンデミック、気候変動などの事態が、世界に大きな影響を与えました。このような予測不可能な時代を乗り越えるには、企業経営にも素早い適応力が不可欠です。
アジリティとアジャイルとの違い
システム開発分野でよく知られている「アジャイル開発」は、要件定義・設計・実装・テストという一連の開発工程を、短いスパンで繰り返す手法のことです。
この手法を用いれば、ユーザーの反応や市場ニーズに合わせ、機敏にサービス改善につなげていけます。
アジリティを形容詞化したのがアジャイルで、組織開発にこの概念を適用する考えが広まりつつあります。
スピードやクイックネス(俊敏性)との違い
「スピード」は、速やかに物事を遂行する能力です。例えばプロジェクトを短期間で完了させる、迅速に市場へ製品を投入する、といった目標に対して有効です。
一方「クイックネス(俊敏性)」は、素早く動く能力を指し、特定の行動や反応の速さに焦点を当てた単語です。
アジリティは、両者に共通する「素早さ」に加え、「変化に柔軟に適応する」という意味を含んでいます。
アジリティはVUCA時代を生き抜く企業に必須
現在は「VUCA(ブーカ)時代」と呼ばれています。VUCAは以下の頭文字をとったもので、これらが特徴とされる時代を指します。
- V「Volatility(変動性)」
- U「Uncertainty(不確実性)」
- C「Complexity(複雑性)」
- A「Ambiguity(曖昧性)」
VUCAとは、「正解が1つでない問題が、次々と現れる時代」ともいえるでしょう。企業はこれまで以上に、変化への適応力を求められています。
この状況下で企業が競争力を維持する鍵となる能力が、アジリティです。
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アジリティが高い組織の5つの特徴
続いて、アジリティが高い組織にみられる特徴について、5つを紹介しましょう。
特徴1.迅速に意思決定し行動できる
意思決定は、組織の問題を解決する手段の1つです。アジリティの高い組織は、危機的状況下においても、まずは市場の変化を敏感にとらえて、冷静に原因を分析します。そしてどのようにすべきかをすぐに判断し、現場がシームレスに業務に着手できるよう、文化や体制を整えています。
日本の従来型の企業は、イレギュラーな局面でとかく判断や行動が遅いといわれがちです。そうした現状から脱却するためにも、アジリティを高めることには価値があるでしょう。
特徴2.柔軟に発想・対応できる
アジリティの高い企業は、過去の経験や他社の成功例を応用し、自社に合った解決策を生み出します。ただ単にやり方を真似するのではなく、現在の課題との共通性を見出す着眼点や、施策をアレンジする発想力に優れているのです。
一方アジリティの低い組織では、計画の実行段階においても、当初の計画にしばられすぎてしまいがちです。今は、状況を見て適宜軌道修正できる柔軟性が大事です。
創造性やイノベーションも、この延長線上にあるといえるでしょう。
特徴3.ビジョンが明確で現場まで価値観が共有できている
ビジョンはメンバーにとってもっとも強力な行動指針になります。ビジョンの設定や理解が不十分な会社では、何を優先すべきか誰もわかりません。トップや上司の意見を聞いてからでないと動けない「指示待ち社員」が続出します。
一方、アジリティの高い組織は、環境変化をあらかじめ想定したビジョンを掲げ、方針や価値観が浸透しているため、リーダーにいちいち確認しなくても、現場で自信をもって判断できます。
特徴4.情報収集能力に優れる
変化する世の中で最も価値があるのは「情報」です。特に危機的状況では、正しい情報や突破口となるヒントを、いかに多く持っているかが成否を分けるポイントとなります。
社員一人ひとりが日々情報収集に努め、得た情報をすぐにチームへ共有することが重要です。同じ情報でも、経験や知見の異なる人が集まれば、議論によって効率的な対処策が導かれるでしょう。
情報に価値を置かない企業では、アジリティは高まりません。
特徴5.リーダーシップが醸成できる
リーダーシップは特定の個人が生まれつき備えている性格ではなく、誰もが学習によって得られる後天的なスキルです。企業の環境や文化によって、リーダーシップを育む土壌が作られます。
特に現代のリーダーにはVUCA時代に対応し、新たなビジネス環境を先導する能力が求められています。
アジリティの高い組織は、アジリティの高いリーダー人材を輩出します。企業の風土から、優れた人材育成のサイクルが確立するでしょう。
企業がアジリティを高めるメリット
それでは企業がアジリティを高めると、どのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは4つを紹介します。
生産性アップ・業務効率化
組織が、アジリティ向上によって、迅速な意思決定が可能になると、無駄な会議や報告、提出先に合わせた形式的な資料作成や複雑な承認プロセスといったタスクが減ります。
すなわち社内のさまざまな業務を効率化でき、生産性もアップするでしょう。
環境変化への対応力強化
環境変化への対応力も強化されます。
例えば顧客から想定外のクレームが入った場合、旧来型の企業の担当者は、対処法を判断できず1人で抱え込んでしまうことがあります。アジリティの高い組織なら、担当者も恐れず即座に周囲へ状況共有できるため、チームでの早期解決が可能になります。
コロナ禍でのテレワークへの切り替えも同じです。不確実なシーンでも、体制を素早く整えられるでしょう。
優秀な人材の確保
これからの企業に必要なのは「自律的な人材」です。誰かに命じられたからやるのではなく、一人ひとりが問題点や課題に気づき、自ら改善しようとする姿勢が大事です。
旧態依然とした前例主義の企業は、そうした人材には選ばれないでしょう。アジリティを高めれば、優秀な人材が集まり定着しやすくなります。
競争力の強化
想定する環境変化は、大災害などばかりではありません。顧客ニーズや市場も日々変化しています。
アジリティを高めれば、事業や商品の開発スピードが上がるほか、営業施策の拡充や業務プロセス改善も可能です。競合他社との差別化・独自化を図れるようになるでしょう。
組織アジリティ向上のための5つの施策
では、組織アジリティを高めるためにはどんな取り組みを導入すべきなのでしょうか。よく取り入れられる5つの施策を紹介します。
①業務のデジタル化
意思決定や承認・コミュニケーションなどのプロセスをデジタル化すると、社員の時間的・心理的コストを軽減し、情報共有が加速します。業務用チャットや社内SNS、ドキュメント共有ツールなどをうまく活用しましょう。
②業務の進め方・働き方の刷新
変化を嫌う企業がなかなか手放せない制度や慣習は、多くの場合、人材が豊富な時代に作られたものです。現状維持にこだわると、必ず組織のどこかに無理が生じます。
「紙ベースをデジタルにする」「会議を減らす」「特定の人に合わせた業務やルールをなくす」「対面や口頭の会話にこだわらない」などで、業務プロセスや働き方の刷新は可能です。
③組織構造や業務権限・割り振りの見直し
組織構造をできるだけシンプルにし、現場や若手の社員にも重要な業務を任せてみるのは本当に不可能でしょうか。若手社員にも裁量を広げて、さまざまな権限を与えなくては組織は変わりません。
ただしこれには企業リスクも伴うため、同時にチーム内の意思疎通を徹底する仕組みも必要です。①や⑤の施策とも併せて検討するとよいでしょう。
④教育・評価制度の整備
最も取り入れやすいのは、社員個人の評価にアジリティの項目を加えることです。高い評価を得た個人の事例を会社全体にフィードバックすると、社員が目指しやすい行動モデルとなるでしょう。
またOJTや360℃評価なども含めて総合的に制度設計すると、より効果的です。
⑤社員のスキルアップ支援
スキルが十分でない社員にやみくもに権限を与えるのは混乱のもとです。まずは社員一人ひとりがスキルアップできる環境を整えましょう。
支援策の一環として、ビジネススキル研修を企画し、経験豊富な外部講師に学ぶ機会を提供するのもおすすめです。
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組織アジリティ底上げのために社員が強化すべきスキル
それではアジリティを高めるために社員が磨くべきスキルには、どのようなものがあるのでしょうか。代表的な4つのスキルを解説します。
柔軟な発想・行動力
まずは発想力・行動力です。これらは以下のような要素に分解されます。
- 固定観念や前例、思い込みに縛られない姿勢
- 状況を素直に受け入れる力
- 新たなアイディアをどんどん発想する力
- 複数のシナリオを想定する力
- 自分を信じてチャレンジする力
- 目的達成のために他者を巻き込む力
問題解決能力
問題解決能力はビジネスパーソンに人気のスキルです。
- 問題を整理し状況を正しく把握する力
- 原因を特定する力
- 解決のための計画を立案できる力
- 計画をすぐに実行に移せる力
- こまめに経過を振り返り軌道修正できる力
- 以上のサイクルを継続して回しつづける力
コミュニケーション能力
コミュニケーション能力も、才能でなく学習によって磨けるものです。
- 自分の意見を述べる力
- 他者の意見を積極的に求める力
- 相手の話をしっかり聞く姿勢
- 言語だけでなく表情やしぐさ、態度で示す力
モチベーションの自己管理能力
イレギュラーな状況で壁を乗り越えるには、安定したモチベーションが必要です。
- 目標達成をあきらめない力
- レジリエンス(危機的状況や失敗をバネにする力)
- 環境や市場の変化へのたゆまぬ関心
- 新たな知識や技術を学びつづける力
ここまでに紹介したスキル群は、研修でも身につけることができます。
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組織アジリティの注意点 過剰だと混乱やストレスの原因にも
最後に、組織のアジリティを高める際の注意点に触れておきましょう。
企業があまりにも頻繁に変化に対応しすぎると、現場は混乱し、社員にストレスを引き起こしてしまうこともあります。
このような事態を避けるためには、目的と手段とをしっかり分け、リーダー層が「ゴールは変わらないが到達までの手段を変える」ことを周知するのが重要です。
このように、アジリティはVUCA時代を生き抜く企業に必須の要素です。組織で底上げすると、生産性向上、競争力強化、優秀な人材確保などのさまざまなメリットがあります。
当社ではアジリティを高める研修プランも提案可能です。お気軽にお問い合わせください。
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