変化の激しいビジネス環境の中で、企業は個々の社員の成長を促し、組織全体の競争力を高める必要があります。

メンタリングは対話を通した人材育成手法として、社員のスキル向上やキャリア形成をサポートし、企業の成長を支える重要な役割を果たします。

本記事では、メンタリングの効果的な実践方法と7段階の導入手順について解説します。

メンタリングとは何か

まずは「メンタリング」や「メンター制度」といった言葉の意味を説明します。メンタリングが注目される背景も押さえておきましょう。

メンタリングの意味

メンタリングは、新入社員教育などで活用される人材育成方法です。現場社員同士、1対1の関係で行われるのが基本です。

指導する側を「メンター」指導される側を「メンティー」と呼びます。指導役には先輩社員を選びますが、メンティーの直属の上司や同じチームの先輩を選定しないのも特徴です。

メンタリングは、メンターが一方的に答えを教える形式ではありません。同じ目線での対話を通じて「どうすればできるか」を共に考え、メンティーが自ら気づきを得ることを重視します

「メンター制度」はメンタリングを組織で仕組み化したもの

「メンター制度」とは、メンタリングを効果的に行うための面談などを、組織で仕組み化したものです。企業では、人材育成策の一環としてメンター制度が取り入れられています。

最初の段階で、指導する側とされる側には信頼関係はありません。両者が信頼関係を築けるように、企業側で環境を整備したり、仕掛けを設けたりするのが大切です。

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メンターとメンティーとは

「メンター」とは、経験や知識を持つ人が、その経験談や助言を必要としている人を助ける存在です。企業では一般的に、入社3~5年目の社員が担当します

メンターは対話や相談を通じて、相手が成長するのをサポートします。具体的な仕事内容の指導には関与しない点で、直属の上司やチームの先輩とは役割が異なります。

「メンティー」は、メンターから指導や助言を受ける人です。まだ経験が浅く、仕事や職場への不安がまだ強い人も、メンタリングを通じてさまざまな気づきを得られるでしょう。知識や技能にとどまらず、その職場でキャリアを築くための自信をつけていきます。

メンタリングが注目される背景

近年メンタリング制度が注目されている背景には、大きく分けて3つのトレンドがあると考えられます。

1つ目は「新入社員の離職防止」です。2012年に厚生労働省が、メンター制度導入マニュアルを発表したのが、制度の認知度を高めた直接のきっかけです。もともと女性活躍推進施策の1つとして打ち出されたものですが、新入社員や若手社員の早期離職対策にもつながるとして、注目を集めました。

2つ目は「若手社員の成長」です。メンターの役割を通じて、自律的な行動と責任感を高められるでしょう。企業にとっては次世代リーダー育成につながるというメリットもあります。

3つ目は「女性社員の活躍推進」です。現在ではメンター制度を利用して女性社員のキャリアを支援し、ジェンダー平等を目指す企業も増えています。

メンタリングと似た概念や手法との違い

人材育成には、メンタリングと似た概念や手法もあります。ここではメンタリングがコーチングやOJTと異なる点を明確にし、それぞれの特徴を示します。

メンタリングとコーチングとの違い

メンタリングでは、業務経験が浅い新入社員を対象に、先輩社員が、人間関係の悩みといったメンタル面の相談にも応じます。一方でコーチングは、目標の実現に向けた行動を引き出すのが特徴です。成長したい経営者やアスリートもよく利用している手法です。

メンタリングとOJTとの違い

OJTは「オン・ザ・ジョブ・トレーニング」の略で、先輩社員が後輩社員に対し、仕事をしながら知識や技能を教えることです。メンタリングは精神的な相談などにも対応しますが、OJTはより実践的なスキルの習得を促します。

1対1の対話をベースにした人材育成法・メンタリングの実践方法

ここからは、メンターがどのような態度でメンティーと接していくべきか、振る舞いや対話方法のポイントを解説します。

1.メンターによる傾聴と共感

メンターは、しっかり話を聞いて共感することが重要です。そうするとメンティーは安心して相談ができるようになります。
一例として、「職場の特定の人物が自分だけに厳しい」という内容であった場合、その解釈にメンターの主観や評価を加えてはいけません。相手の心情への共感を示して、さらなる思いや考えを聞き出しましょう。

2.メンティーの発言のポジティブ変換

相手の言葉を前向きな言葉に置き換える「リフレーミング」も有効です。メンティーが自信を持てるようにサポートします。
例えばメンティーが「失敗」と表現したら、メンターは「成功へのきっかけ」と言い換えましょう。そうした工夫を積み重ね、前向きに動けるようメンティーを支援します。

3.反復・要約などを用いた話の整理

相手の話を反復したり、要約したりするのも大切です。相手の考えや気持ちを正確に理解し、互いに確認するためです。また相手自身も「話をちゃんと聞いてもらえている」と安心し、自分の考えを整理しやすくなります。

4.メンティー自身の気づきを導く質問や対話

メンタリングでは、メンティーが自分で気づきを得られるようにするのも大切です。メンターは一方的に答えを教えるのではなく、考えさせる質問を投げかけ、対話を通じて解決策を引き出します。結果としてメンティーは自分の力で問題解決力を身につけ、自信を持って業務に取り組めるようになります。

メンタリングを社内に導入する7つの手順

とはいえメンタリングは、むやみに導入しても十分な効果を得られません。社内に導入するための7つの手順を具体的に説明していきます。

①導入目的の明確化

メンタリング導入の第一歩は、具体的な目的を明確にすることです。
新入社員の定着率向上や女性社員の活躍推進、社内コミュニケーションの改善など、成したい目標を全員で共有して取り組みましょう。これでプログラム全体の効果が高まります。

②運用ガイドラインの決定

次はメンタリングが円滑に進むよう、明確な運用ガイドラインを策定します。
面談の期間・時間・頻度をはじめ、記録や報告の方法や守秘義務の徹底など、具体的なルールを設けます。
当事者同士やその直属上司だけでなく、社内全体に周知するのもポイントです。

③社内共有・組織的支援の仕組みづくり

メンタリングの成功には、組織全体の支援が欠かせません。特にトップや上司には、導入意義や効果への理解を促す勉強会などが有効です。
業務時間内の取り組みであるため、仕事で関わるメンバーの理解も必須でしょう。また相談窓口を設置して、当事者が悩んだ際に別の人から支援を受けられる体制を整えます。

④対象者の選定・マッチング

メンターとメンティーの選定は、プログラムの成否を左右します。
入社年次や同じ部署にするか否か、といった選定基準を明確にしましょう。精神面のサポートも求められるメンターには、ある程度コミュニケーション能力を備えた人材が求められます。管理職候補になる社員を選ぶのもよいでしょう。
両者をマッチングする際は、個々の性格を把握している人事部などが選び、トラブルが起きないように配慮する必要があります。

⑤研修(事前説明)とメンタリングの実践

メンタリングを円滑に進めるため、開始前にメンティーとメンターに対してメンター制度についての研修を実施します。
目的や期待される成果、具体的な方法についての説明を通じて、理解を深めてもらいます。特にメンターには振る舞い方や対話方法を身につけてもらいましょう。
その後、実際のメンタリングを開始します。

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⑥実施状況のモニターと調査・分析

メンタリングの実施中は、進行状況についてモニターし、定期的に効果測定します。
具体的には、メンター、メンティー両者へのアンケートやヒアリングを実施します。「社員のモチベーションの向上につながっているかどうか」などのチェックリストを活用して、客観的に評価するようにするとよいでしょう。
収集した意見やデータに基づいて改善点を見つけ出し、継続的にプログラムの質を向上させてください。

⑦メンター・メンティーへのフォロー

メンタリング終了後は、メンターとメンティーに対するフォローアップを行います。
それぞれが気づいた点や身につけたスキル、反省点について振り返るのが大切です。
実施形式は、メンターとメンティーが同席する形式や、メンター社員同士の情報交換会などのパターンなどがあります。実施規模などを踏まえて最適な手法を選択してください。

メンタリングを導入した組織が得られるメリット

それではメンタリングによって、メンターとメンティーの当事者以外にはどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。組織へのメリットを整理します。

社員の離職防止

メンタリングの導入によって、社員の離職防止の効果が期待できます。入社間もない社員は、慣れない業務や職場環境に不安を抱く場合があります。しかし、身近に相談できるメンターがいることで、日々の悩みや不安をすぐに打ち明けられる安心感が生まれます。

例えばメンティーが失敗を繰り返し自信を失いかけた時でも、メンターが「自分にもそんな時期があった」と共感すれば、それが支えとなり「ここは自分の居場所だ」と感じやすくなるでしょう。このようにメンティーの職場への順応を促し、早期離職のリスクを軽減します。

次世代リーダー層の育成

メンタリングは、メンターとなる先輩社員の成長に寄与します。メンターはメンティーの悩みを聞き出しアドバイスする中で、他者を支援するスキルを磨きます。これはのちに人材をマネジメントするのにも役立つ、貴重な実践的機会です。またメンティーの成長を見守り、引き出すことで、メンター自身もリーダーとしての視野や共感力を養うことができます

こうした経験は、将来の管理職やリーダーとして必要なスキルを培う重要なステップとなります。

メンティーの精神面のケア

​​メンターとの信頼関係が構築されると、メンティーは仕事上の悩みやストレスを共有できます。メンティーにとって精神的な支えとなるでしょう。また業務の傍ら後輩の悩みや成長にもしっかり向き合うメンターを見て、「自分もメンターのように働きたい」と感じられるかもしれません。

チームや組織の活性化

直接業務上の接点がないメンターとメンティーの間で信頼関係が築かれると、組織内のコミュニケーションが活発になり、チーム全体の連携が強化されます。またメンタリングは自らの頭で考えて動ける、自律性を育むでしょう。組織内で自律的な人材が増えると全体の業務のパフォーマンスが向上し、効率化が進むことも期待できます。

メンタリングのデメリットから考える注意点

ただしメンタリングはメリットばかりではありません。最後にメンタリング導入の際に注意すべきポイントを説明します。

メンター社員の負担を考慮する

メンタリングは、メンターとなる先輩社員の業務負担を増やすというデメリットがあります。メンターの負荷が高まるため、上司と連携して業務配分や時間管理に配慮し、無理のない体制を整えることが重要です。

相性による効果の差を想定する

メンタリングでは、相性によって効果に差が出ることもあります。また、友人のような「仲良しペア」を作るものでもありません。仕事に関する価値観や性格などから、事前のマッチングは慎重に行わなければなりません。実施中も、必要に応じて人事担当者がフォローしましょう。相談窓口担当者や上司が介入する場合もあります。

測定困難な効果は除き、数値化可能な部分を測定する

メンタリングの精神面での効果は個人差が大きく、定量的な測定が難しい点もデメリットとして挙げられます。メンティーの精神的な成長には、メンタリング以外のさまざまな要因があるため、それをメンタリング制度だけの効果として数値で表すことは困難です。そのため効果測定の際には、離職率・定着率の変動や業務パフォーマンスの改善といった、数値化可能な指標を中心に評価するのが現実的です。

よって、メンタリングと併せて社員への定期的なエンゲージメントスコア調査を取り入れるのもおすすめです。新入社員の定着率向上や次世代リーダー育成にもつながるメンタリング。7段階の手順を踏まえて導入し、効果的に実践していきましょう。


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