
安全衛生活動は、従業員にとって安心して働きつづけられる職場づくりに欠かせません。積極的に安全衛生活動に取り組むと、労働災害の発生を防ぐだけでなく業務改善の基盤となり、企業全体の持続的な成長にもつなげられるでしょう。
この記事では、安全衛生活動の基本知識から効果的な進め方、注目の実践事例まで、わかりやすく解説します。まねできる施策は現場でぜひ取り入れてみてください。
安全衛生活動とは何か
安全衛生活動は、職場全体の安全・健康を守り、生産性を高める効果も期待できる取り組みです。ここでは、語句の定義や基礎知識を整理します。
安全衛生活動の定義
「安全衛生活動」とは、企業が従業員の「安全確保」と「健康維持」を目的に実施する、一連の取り組みのことです。
法令に基づいた体制づくりだけでなく、業務における危険の予知やヒヤリハット事案の共有、整理整頓など、従業員自身が参加する日常的な取り組みも含まれます。
企業の安全衛生に関する法令
安全衛生活動は「労働安全衛生法(安衛法)」と「労働安全衛生規則(安衛則)」という法令に基づいて実施する点も重要です。
これらの法令では、企業に安全衛生管理体制の整備、リスクアセスメント、安全衛生教育の実施を義務付けています。特に製造業や建設業など労災リスクの高い業種では、法令順守が事故防止の基本となります。
法令の改正も頻繁にあるため、その内容を把握してしっかり対応する必要があります。
近年の労働災害の発生動向
厚生労働省「令和5年の労働災害発生状況」によると、労働災害による死亡者数は全体的に減少傾向であるものの、「休業4日以上の死傷者数」は年間で13万人を超えています。また、転倒災害や高齢労働者の被災が増加しているという傾向が注目されています。
特に転倒は災害全体の3割以上を占める深刻なリスクです。この背景にも、作業者の高齢化や作業現場の複雑化などがあります。
メンタルヘルス不調や過重労働による健康被害や、夏季の熱中症対策も関心の高い問題です。
企業には、こうした状況を踏まえた対応が求められています。
企業が安全衛生活動に取り組む4つの目的
安全衛生活動は、労働災害の防止だけが目的ではありません。企業全体の成長や従業員の働きやすさに直結する、4つの重要な目的があります。
1) 労働災害の防止
もっとも基本となる目的は「労働災害の防止」です。年間10万件超の労働災害が発生していますが、その多くは「防げた事故」と言われています。
そこで「5S活動」や「ヒヤリハット報告」、安全教育などの活動を通じ、事故の予防とリスク低減を図るのです。各活動の内容については後述します。
(2) 組織全体の生産性向上
生産性が向上する効果を期待して、安全衛生活動を強化する企業もあります。
事故やそれが起きやすい職場環境は、作業効率や納期、製品やサービスの品質にも悪影響を及ぼします。逆に安全で清潔な職場では、作業の手間や無駄による時間的なロスも削減されます。
(3) 従業員の健康維持・増進
従業員が心身に不調を来すと、離職や生産性低下をもたらしかねません。
作業環境のチェックのほか、労働時間の適切な管理、健康診断の受診や生活習慣病への注意喚起なども重要です。
こうした総合的な施策によって、従業員が健康的に長く働ける環境づくりが実現します。
(4) 法令順守
企業には、安衛法や労働基準法(労基法)により、安全衛生管理体制の整備や各種教育・点検の実施などが義務付けられています。
法令違反行為は、直接的な災害リスクだけでなく、行政指導や企業イメージの悪化、損害賠償リスクにもつながります。
安全衛生活動は、コンプライアンスの観点や企業の社会的責任(CSR)を果たす意味でも重要です。
安全衛生活動の具体的な取り組み事例
続いて、安全衛生活動の具体例を紹介します。建設業・製造業・その他の業種をピックアップしました。施策の詳細は、厚生労働省や地域の労働局のwebサイトなどでも公開されています。
事例①建設業
建設業では、リスクや安全にまつわる情報を現場で「見える化」するのがポイントです。
【見える化による注意喚起】
- ヘルメットの色分けで役割や高年齢作業者であることを明示
- ポスター・ステッカー・蛍光マーカーで危険エリアを注意喚起
- 転落防止のため昇降設備や開口部にライトやメッシュシートを設置
【現場での安全意識強化】
- 幹部が主催するミニ安全大会と交替制パトロールの定期開催
- 現場巡回に参加した職長全員を写真掲示し、現場全体の連帯感・責任感を強化
- 安全作業者表彰制度の導入でモチベーションを向上
事例②製造業
製造業、特に工場では、人と設備・環境の両面からアプローチした事例が豊富です。
【教育と意識向上】
- 月1回の「安全衛生便り」を配布し、注意喚起と好事例を全社で共有
- 各部門に「安全トレーナー」を配置し、現場ごとの教育を強化
- 定期健康診断の受診率100%を維持し、産業医の個別指導も導入
【職場環境の工夫】
- 「危険体感ルーム」を設けて全従業員に年1回、体験研修を実施
- 棒状の資材にはチェーンを掛けて崩落を抑止
- 30℃を超える日には全員にアイスクリームを配布し声かけで熱中症を予防
事例③その他
運輸業やサービス業などのその他の業種、またオフィスワークでも、現場での「見える化」がポイントです。
- 指さし喚呼の実施状況を月平均60回の添乗チェックで確認し、実施率を向上
- 運転士の困りごとや気づきを記す「現場力向上ノート」を、掲示して全体共有
- 過去10年分の災害を月別に整理した「重大ヒヤリ・災害カレンダー」を掲示
- 顔写真付きの12項目のレーダーチャートで、従業員の安全スキルを3カ月ごとに評価
- 放置物には「これ何?プレート」を設置し、6日経過で不要物として処理
基本的な安全衛生活動の種類
安全衛生活動には、職場の安全や健康を守るための基本的な取り組みが多数あります。ここでは、代表的な5つの活動を紹介します。
5S活動
「5S活動」とは「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」を基本とした職場環境改善活動です。
不要物の廃棄や物の定位置管理、定期的な掃除などにより、事故のリスクを低減します。業務効率化や作業ミス防止にもつながり、清掃を徹底して2,600万円の経費削減(※1)
を実現した例もあります。
※出典:【講師特別インタビュー】小早祥一郎さん環境整備で組織が変わる 会社を強くする”そうじの力”とは
ヒヤリハット報告
「ヒヤリハット報告」は、事故には至らなかったものの、危険を感じた出来事を共有する取り組みです。
現場で「ヒヤリ」「ハッ」とした体験を集めて分析し、改善策を講じることで労災を防ぎます。近年は専用ツールやアプリなど、手軽に報告できる方法も増えています。
安全衛生パトロール・職場の定期点検
安全衛生パトロールや定期点検は、日常的に職場の状況を確認し、危険箇所や不安全行動(本人や関係者の安全性を損なう可能性のある行動)を把握して改善する活動です。
点検結果を記録・分析し、継続的な改善につなげます。第三者による巡視や、部門間の相互点検もおすすめです。
スローガンの策定・使用
安全衛生スローガンは、職場全体で安全意識を高めるために有効です。親しみやすく、行動の指針となる言葉を掲げます。
定期的に開催される安全大会や全国安全週間(毎年7月開催)に合わせて従業員からスローガンを募集し、選定・使用する企業も多くあります。
安全衛生教育
安全衛生教育は、状況により法令でも義務付けられている基礎的な取り組みです。
一般的な安全衛生教育の対象者や内容は多岐にわたります。特に危険を伴う作業では、現場シミュレーションや定期的な実習を交えた教育が重要です。
専門機関による研修への参加や、外部講師を招いての社内研修もおすすめです。
効果の高い安全衛生活動の5つのポイント
では、安全衛生活動の効果を最大化するためには、どのように進めるべきなのでしょうか。5つの重要なポイントを紹介します。
ポイント①安全衛生方針・目標・計画の策定
いきなり活動を始めるのではなく、「何のために取り組むのか」「どのような成果を目指すのか」を、組織全体で共有することから始めます。
1年単位の実行目標・計画を策定し、その見直しや改善までをサイクル化すれば、継続的に取り組める土台となり活動が形骸化しません。
ポイント②組織に応じた体制の構築
規模や業種に応じて、安全衛生委員会などの体制を整えましょう。個人や有志で始めるよりも役割・責任が明確になり、活動の実効性が高まります。
現場からの意見収集の仕組みや改善提案制度を取り入れ、「上から言われてやらされている」感のない、現場主導の取り組みを進めます。
ポイント③現場への積極的なヒアリング
安全衛生活動の質は、現場の声をどれだけ反映できるかで大きく変わります。実際に作業する従業員が感じているリスクや環境・作業手順などの改善案を積極的に集めましょう。
定期的なミーティングやアンケートなどがおすすめです。「現場の意見が尊重されている」という実感が得られると、当事者意識や活動への参加意欲も向上します。
ポイント④継続的な改善サイクルづくり
一度実施すれば終わりではなく、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回し、活動の進み具合や成果を定期的に見直します。
職場内の点検結果やヒヤリハット報告の分析から課題を抽出し、次の計画に反映させる仕組みを作ります。この繰り返しで、効果は着実に向上します。
ポイント⑤専門家への相談・連携
専門家の知見を取り入れると、内部だけでは気づけないリスクの発見・解決に効果的です。
研修や安全パトロール、メンタルヘルス対策などで産業医や安全衛生の専門家と連携すれば、活動の質が高まります。
より実践的で信頼度の高い活動にするために、外部リソースの活用も検討してください。
教育の一環として安全衛生講習の実施もおすすめ
「安全衛生活動をどう進めていくのがいいか分からない」あるいは「すでに実施しているけど、効果が上がっているのかどうかいま一つ自信がない」という課題をお持ちではないでしょうか。
そんな場合にはぜひ、システムブレーンの多彩な研修プランをご検討ください。安全衛生教育の一環として、経験豊富な専門家による講習を取り入れましょう。
企業の安全衛生活動は、職場全体の活性化や生産性向上にもつながるもので、単に労働災害防止のためだけの施策ではありません。
日常的な取り組みの積み重ねから、安全で働きやすい職場環境が実現します。紹介した事例やポイントを参考に、できることから取り入れていきましょう。
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