まだ発病のメカニズムのすべてが突き止められているわけではない認知症。しかし、日本のみならず各国の医学者の研究により、さまざまなことが分かってきています。
今回は、NHK『きょうの健康』で15年間キャスターを務め、認知症シンポジウムの司会としても活躍されている久田直子氏に認知症と生活習慣病の関係について解説していただきました。

Your Image【監修・取材先】
久田直子氏

元 NHK「きょうの健康」キャスター

認知症には種類がある

認知症とは、脳の病気や障害などさまざまな原因によって認知機能が低下し、日々の生活に支障が出ている状態のことを言います。一括りにされがちですが種類があり、発症の原因もそれぞれ異なります。主に知られているのが以下の4種類です。

  • アルツハイマー病
  • レビー小体型認知症
  • 血管性認知症
  • 前頭側頭型認知症(ピック病)

中でも多いのが、アルツハイマー病と血管性認知症です。

アルツハイマー病

こちらは名前を耳にしたことがある人も多いでしょう。大脳の側頭葉深部にある海馬を中心に脳の萎縮が見られる進行性の病気で、現在のところ治癒する方法はまだありません。
主な症状として、物忘れなどの記憶障害や見当識障害(日時・場所などがわからない)、実行機能障害(物事の計画を立て、それを実行することができない)などが挙げられます。

血管性認知症

脳の血管が詰まったり破れたりする脳卒中が原因で起こる認知症です。
物忘れをはじめとする認知機能障害以外に、手足の麻痺や言語障害など多様な症状を伴うことがあります。
認知症は病名ではなく、これらの病気が引き起こす状態を指し、病気によって現れる症状や進行の仕方、治療方法が異なります。認知症が疑われるような症状が見られたら、早めの受診をおすすめします。

認知症の最大リスクは生活習慣病にあり

認知症の原因となる病気は複数ありますが、最大のリスクは生活習慣病にあるということが分かっています。ここでは、生活習慣病と認知症の関係性、予防・治療について紹介します。

生活習慣病と認知症の関係性

生活習慣病と認知症にはどのような関係があるのでしょうか。

厚生労働省によると、生活習慣病は「食生活、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」と定義されています。症状はさまざまで、ここではそれぞれ認知症とどのような関係性があるのかを見ていきます。

■糖尿病

糖尿病の人は、そうではない人に比べ、アルツハイマー病の発症リスクが高いことがわかっています。また、糖尿病によって脳の血管も障害され、脳梗塞の発症リスクが高くなり、その結果、血管性認知症を引き起こす可能性が高まります。

■高血圧・脂肪異常症

高血圧や脂肪異常症も、血管が傷つけられて動脈硬化が進みやすい状態を引き起こします。そして、心筋梗塞や脳梗塞だけでなく、脳の血管にも障害をもたらして認知症のリスクを高めることが、最近の研究によりわかってきています。

■睡眠不足

働き盛りの中年期に睡眠不足の状態が続くと、老年期に認知症のリスクが高くなることがわかっています。アルツハイマー病の原因といわれるアミロイドBタンパクは睡眠中に脳の外へ排出されることがわかっています。忙しく働く世代こそ充分な睡眠が大切です。

■歯周病

歯周病によって歯を失った人は、そうではない人に比べて認知症になりやすいことがわかっています。食物をよく噛むことで脳の血流がよくなります。しっかり栄養をとることは全身の健康を保つ基本です。

■注目を集める「難聴」と認知症の関係性

近年、難聴が認知症の危険因子として挙げられるようになっています。国内外の研究で、難聴によって脳への音情報の刺激が少ないほど、脳の萎縮や神経細胞の衰退などが進み、認知症の発症リスクが高まることが明らかとなっています。
また、難聴でコミュニケーションがとりにくくなると人との会話を避けがちになります。結果、次第に抑うつ状態に陥ったり社会から孤立するということが起こり得ますが、それらもまた認知症の危険因子とされているのです。

生活習慣病の予防と治療

では、生活習慣病を予防あるいは治療するには、どのようなことをするといいのでしょうか。
第一に挙げられるのは、若い頃から健康的な生活習慣を身に付けておくことです。バランスの良い食事を心がけ、ウォーキングやジョギングといった適度な運動を習慣づけるなどして、生活習慣を整えておくことがもっとも近道といえます。

しかし、仮に生活習慣病になってしまったとしても、食事療法や運動療法とともに適切な薬物治療を行って血糖値や血圧をコントロールすれば、結果的に認知症の発症リスクを抑えることにつながります。
全身の血管を良い状態に保つことが、認知症予防になるのです。

毎日の習慣でできる認知症予防

認知症予防には、生活習慣病を予防し、脳を刺激することが重要です。ここからは、予防法とその効果について解説します。

①有酸素運動+αのデュアルタスク

有酸素運動をしながら別のことを同時に行うデュアルタスクが脳を刺激すると言われており、認知症予防に効果が期待できます。
例えば、ウォーキングをしながら計算をしたり、階段を上り下りしながら100から7を順番に引いていくことなどが挙げられます。
有酸素運動なんてハードルが高い……と感じる方は、日常生活の中で手軽にできることから取り組んでみましょう。歯磨きをしながら足踏みする、洗濯物を干しながらしりとりをするといったこともデュアルタスクであり、脳への刺激になります。

➁認知症予防のための運動

デュアルタスクを取り入れた運動のひとつに「コグニサイズ」があります。「コグニサイズ」とは、cognition(認知)とexercise(運動)を組み合わせた造語で、国立長寿医療研究センターが開発した認知症予防プログラムです。神奈川県は、認知症未病改善への取り組みとしてこの「コグニサイズ」の普及を図っています。神奈川県が制作した動画を紹介しますので、ぜひご自宅でお試しください。


▲コグニサイズプログラム「ステップ編」


▲コグニサイズプログラム「ウォーキング編」

③認知症予防のための食事

認知症予防につながる食事として積極的に採りたい栄養素には、青魚の脂に含まれるDHA、緑黄色野菜、果物などに含まれるポリフェノールやカロテン、ビタミンC・Eなどがあります。
日常の食事の中で無理せず楽しんで摂取することをおすすめします。

治療薬の開発状況と課題

2021年6月、日本の製薬会社エーザイとアメリカのバイオジェンが共同開発した初期のアルツハイマー型認知症、およびその前段階といわれるMCI(軽度認知障害)の治療薬「アデュカヌマブ」が、アメリカで承認されました。

アルツハイマー病を引き起こす原因物質とされているアミロイドβたんぱくを脳内から除去する薬で、病気の原因に直接アプローチする、初めての根本的治療薬となります。認知症治療薬の新薬承認はおよそ20年ぶりで画期的なことですが、承認には反対意見もあり、今後検証試験を課し、承認取り消しもありうるという条件が付けられました。日本での承認が注目されましたが、2021年12月の審査では、「現時点で有効性の判断は困難であり追加データの提出を待ち再度審議する」継続審査となりました。

認知症治療薬の開発は困難を極め、これまでたくさんの新薬候補が生まれては姿を消しました。今後、このアデュカヌマブがどのような評価を受けるのか、また認知症治療がどのように変化していくのかが注目されます。

「毎日を楽しむ」ことが認知症予防の近道

認知症の予防には、睡眠、運動、バランスの取れた食事などの生活習慣がポイントとなることを述べてきました。それらに加えて、余暇に趣味やボランティア活動をするなどして、「毎日を楽しむ」ことが大切です。
久田氏の講演では、認知症シンポジウムの司会やさまざまな認知症取材の経験から、認知症予防にはこれからどんなことを心がければいいのかを、分かりやすく具体的にお伝えしています。ご自身、ご家族の健康を守るためにも、認知症に対する正しい知識を得て備えておきましょう。

久田直子  ひさだなおこ

元 NHK「きょうの健康」キャスター 


医療・福祉関係者

NHKの健康情報番組「きょうの健康」司会を15年間務める。話を聞いた医師、医療、介護関係者は700人以上。生活習慣病、認知症、がん、女性の健康、高齢者の食事と運動、セカンドオピニオンの取り方や医師からの話の聞き方、医療情報の取り方など、幅広いテーマで講演を行っている。

プランタイトル

認知症を予防したい!分かってきたリスクと予防につながる生活

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