近年、新型コロナウイルス感染拡大の影響から、多くの企業にリモートワークが定着してきました。部下や同僚と顔を合わせるのはオンラインでのみという方も少なくないのではないでしょうか。
そんななか、気になるのは従業員の健康管理です。企業が今後大きく成長していくためには、従業員等の健康を守ることを第一に考えなくてはなりません。

今回は、健康経営を考える企業経営者や管理職の方に向けて、健康経営アドバイザーで働き方改革実践者である平井孝幸氏より、健康経営のメリットや具体的な取り組みについて解説していただきます。

Your Image【監修・取材先】
平井孝幸氏

健康経営アドバイザー
働き方改革実践者

健康経営とは?

最近注目されている「健康経営」について、実は詳しく知らないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

経済産業省によると、健康経営とは「従業員の健康保持・増進の取組が将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」です。

企業が経営理念に基づき、従業員の健康保持や増進に取り組むことで、従業員の活力向上や生産性向上といった組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上につながることが期待されています。

現に、2014年に経済産業研究所(RIETI)が公表した「企業における従業員のメンタルヘルスの状況と企業業績」において、メンタルヘルスの不調で休職した職員の比率が高くなった企業は、売上高利益が落ち込む傾向にあると示されています。心身の不調が生産性を低下させることは明らかです。
また、ジョンソン・エンド・ジョンソンが自社グループの従業員約11万4,000人を対象に行った健康経営に対する調査では、健康経営に対する投資1ドルに対して、従業員の生産性やモチベーションアップ、医療コストの削減などを含む3ドル分のリターンが生じたという結果出ています。

▲経済産業省「健康経営の推進について」より引用

健康経営は従業員の生産性向上のほか、コスト削減や企業のイメージアップなどにつながることが示唆されているのです。

健康経営のメリット

では、健康経営に取り組むことで具体的にどのようなメリットが挙げられるのでしょうか。
大きく4つに分けられます。それぞれ見ていきましょう。

①ワークパフォーマンスの向上

健康状態の良し悪しは生産性に大きく影響を与えます。健康関連のリスクとして、以下の3つのリスクがあります。

健康関連リスク
生物学的リスク 血圧、血中脂質、肥満、血糖値、既往歴
生活習慣リスク 喫煙習慣、飲酒習慣、運動習慣、睡眠・休養
心理的リスク 主観的健康観、生活満足度、仕事満足度、ストレス

経済産業省が2016年に作成した健康経営と生産性に関する資料によると、従業員が健康になることで従業員1人当たり年間30万円程度の損失が削減できるという研究結果が示されています(出典:経済産業省 商務情報政策局「健康経営の推進に向けた取組」)。

➁人材獲得に活用できる

次に、企業の人材獲得の面におけるメリットが挙げられます。
経済産業省の「平成28年度健康寿命延伸産業創出推進事業(健康経営・健康投資普及推進等事業)」によると、就活生1,399人を対象に実施したアンケート調査で、就活生の実に43.8%が「従業員の健康や働き方に配慮している」企業に就職したいと回答しました。また、就職先に求める条件の2位にもなっています。健康経営に前向きである企業は、就活生にとって就職したい会社であり、より良い人材獲得につながるといえます。

③企業ブランド向上にもつながる

さらに、企業ブランドとしても印象が良くなります。
健康企業度は、B to Cはもちろん、B to Bでも重視される傾向にあり、取引上での信用性にも関わります。また、日本では、官民ともに健康企業に対する取り引きや資金調達面でのインセンティブを設けているため、企業の成長にとっても大いにメリットがあるといえます。

④健康経営の認定を受けることで、融資や取引上で有利になる

経済産業省は東京証券取引所と共同で、「健康経営銘柄」を選定・公表しています。「健康経営銘柄」とは、従業員の経営管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる上場企業を指します。企業の健康経営の取り組みが株式市場などにおいて適切に評価される仕組みで、健康経営銘柄や健康優良法人などの認定を受けることで、融資や取引上で有利になります

DeNAにおける健康経営の取り組み

平井氏が以前勤めていたDeNAには、姿勢が悪く、腰痛や肩こりで苦しんでいる人が大勢いました。睡眠に悩む人、食生活が乱れている人、また、メンタル面のケアが万全でない人もいました。平井氏がDeNAで健康経営に取り組んだのは、健康で元気な人を増やせ、自社をもっと良い会社にできると考えたからです。

まず、「みんなが健康であることを当たり前にする」をビジョンに掲げ、「楽しくワクワクするような健康づくり」をコンセプトに取り組みました。
そして、「食事」「運動」「メンタル」「睡眠」の4つを主な対象領域として、守りのサポートと攻めのサポートを提供できる健康経営体制を整えました。
社内ではそれぞれについてのセミナーを開催し、健康知識をポップに表現したポスターを、トイレの個室や非常階段、給湯室など効果的な場所に掲示するなど、健康づくりを個々が実践できる環境を作りました。ほかにも、健康関連図書の貸し出しや軽い運動ができるウェルネスエリアの設置などの工夫も施しました。

▲講演資料より引用

その結果、相対的プレゼンティーイズム(健康上の問題から生産性が低下している状態)が約40%改善被験者の想定パフォーマンスは−17.6%から+15.0%に改善できました。

さらに外部評価として、健康経営銘柄2019、2020を取得。ブランディングや知名度の向上にもつながりました。

自社に健康経営を導入するために

これから自社に健康経営を導入したいと考えている方には、以下のポイントに注意しながら始めることをおすすめします。

  • 初期設計:健康経営を始める理由を明確化し、ゴールの設定を行う
  • 責任者と担当の明確化:経営と現場の連携&コミットを大切にする
  • 目標設定:経営と現場がともにワクワクするようなKPI、KGIを設計する
  • 健康ごっこにさせない:健康経営は経営にとって重要であることを社内外に発信する

これらのポイントを押さえながら、体制を整えて取り組むことが大切です。企業の大きな成長のために、従業員の健康管理への投資を始めましょう。

平井氏の講演では、健康経営についての取り組みや具体例をさらに詳細に解説しています。経営者向けの講演会やセミナーにおすすめの講演テーマです。

平井孝幸  ひらいたかゆき

健康経営アドバイザー 働き方改革実践者


コンサルタント実践者

2015年に健康経営を始める。多岐に渡る健康への取り組みや人事、総務、産業医との連携が評価され、 健康経営優良法人2017、2018、健康経営銘柄2019を取得。また渋谷区の企業を巻き込んだ取り組みが経済産業省採択事業となるなど、 健康経営を日本企業の文化にするための活動も行う。

プランタイトル

働き方改革実践者による、健康経営の始め方、成果の出し方
~経営、現場との板挟みの現実~

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