職場になじめない…。
会社内外の人と打ち解けられない…。
営業がうまくいかない。

会社勤めの経験がある方なら、誰しも一度は感じたことのある悩みではないでしょうか。
毎日通う職場だからこそ、気兼ねなく話せる関係性を築ける仲間や営業での成功が欲しいものです。そして、気の置けない関係性には信頼が重要です。
信頼関係を築くための一歩を踏み出す方法を、長く諜報活動の捜査や情報収集を行ってきた元公安捜査官である稲村 悠氏が解説します。

スパイが使う諜報心理をもとに人の心にすっと入り込み、信頼感を高め、自然に関係性を深めていくテクニックを伝授します。

Your Image【監修・取材先】
稲村 悠氏

日本カウンターインテリジェンス協会代表理事
パブリック・セキュリティ研究所 代表、国際政治・外交安保アカデミー「OASIS」フェロー
(元警視庁公安部捜査官)

信頼関係を築くことのメリット

信頼関係を築くことは、企業組織においてどのようなメリットがあるのでしょうか。
信頼関係が組織にもたらすメリットとして、社内と社外で見てみます。

【組織内のメリット】

  • コミュニケーションが取りやすくなる
  • 意見を言いやすくなる
  • サポートしてもらいやすくなる
  • 社員の定着率が上がる

信頼関係が築かれると、社内コミュニケーションが取りやすくなり、社内でのやり取りもスムーズになります。相手との距離が縮まれば、チームにまとまりが生まれ、連帯感が高くなることで成果を上げやすくなります。

次に、信頼関係があり風通しの良い職場は皆が意見を発言しやすい、ということもメリットとして挙げられます。意見が出やすい環境では、新たなアイディアが生まれるきっかけも増えます。

また、社内でのサポートが得られる確率も上がります。何かあった場合にはすぐにお互いサポートし合えるよう、あらかじめ職場での信頼関係を築いておく必要があります。

そして、信頼関係が築かれた居心地の良い職場では、社員の定着率もおのずと上がります。

【組織外のメリット】

  • 取引の成功
  • 人脈の拡大 など

社外においても取引先との信頼関係の構築により取引の成功、販路の拡大など様々な効果が期待できます。
特に営業・販売や販売促進業務、企画・人事など、他社・他者との関わりが深い部署には大きなメリットが期待できます。

 各国のスパイ活動にも共通する信頼関係構築・継続の5ステップ

信頼関係を築き継続する方法として、各国のスパイ活動にも共通するのが、以下の5つのステップです。

  1. 選定=対象者を選ぶ
  2. 基調=相手を知る
  3. 接近=相手に近づく
  4. 獲得=相手と信頼関係を構築する
  5. 運営=相手を分析・評価しながら関係を続ける

信頼関係を築く相手を選ぶ「1.選定」では、情報保有者に直接アプローチをするのではなく、知人を通じて近づくことがポイントです。生命保険の営業等はそのような手法をとっているのではないでしょうか。

次に、相手を知る「2.基調」では、対象者の基本情報を得るだけでなく、対象者の悩みや望みなど複数の要素を見定める必要があります。

相手に近づく「3.接近」では、偶然の出会いを演出して印象づけます。一度で成果を求めるのではなく、すり寄るような感じで少しずつ距離を縮めていきます。

相手との信頼関係を構築するステップ「4.獲得」では、相手に情報を差し出すことに徹します。相手に対して決して見返りを求めないようにしましょう。ギブ&テイクではなく、ギブ&ギブが肝要です。
共通点を示して親近感を与える同調効果(ミラーリング)も取り入れると効果的です。基調で見立てた弱み(=悩み)を把握し、手を差し伸べ寄り添う姿勢を見せるとよいでしょう。

そして、相手を分析・評価しながら関係を維持します。これが最後のステップ「5.運営」です。

人の心に入り込む具体的なテクニック「諜報心理」

相手とのコミュニケーションにおいて、アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」というものがあります。
この法則では、人が会話をする上で、相手から得られる情報のうち、会話の内容から得られる情報はたった7%であるのに対し、相手の表情や手振り・身振りなど視覚から得られる情報が55%、声の大きさや話し方など聴覚から得られる情報を38%としています。

このことから、人の心に入り込むには、視覚的・聴覚的情報がとても重要であることがわかります。相手の受ける視覚的・聴覚的情報を操作することで、相手が感じるご自身への印象が劇的に変化します。

次の章で、その方法=諜報心理を具体的にお教えしましょう。

【視覚的情報の操作】空間の操作

ちょっとした会食や何気ない雑談の場でも、主導権を得るには何事も先に動く必要があります。
例えば座る位置。正面だと緊張が生まれ情報が引き出しにくくなりますが、L字型(体の向きが相手と直角)であれば、互いに視線が交差しながらも正面からぶつかることがないため、緊張がほぐれます。

さらに、店選びも重要です。人間にも帰巣本能のようなものがあり、自宅に近い場所のほうが心理的に安心する傾向にあります。そうした人間心理を利用し、相手の自宅に程よく近い店を選ぶことで緊張をほぐすという方法もあります。

【聴覚的情報の操作】ミラーリング×声のトーン

「ミラーリング」は耳にすることも多い言葉で、一般的に心理学用語の「ミラーリング」とは、相手の仕草や表情、話し方、行動を真似することを言います。しかし、諜報心理における「ミラーリング」は、一般的なミラーリングとはやや異なり、相手が大切にしているものを同じように大切に考え、相手が恐れているものを同じように恐れるなど、相手に共感する立場を口で示すことで弱みや悩みに寄り添うという手法です。

例えば、娘の誕生日に勤務する社員がいたとします。その社員にとっては、大切な「娘」の年に1度しかない誕生日です。家族と一緒に祝いたいと思っていることでしょう。
その場合、自分が社員の立場ならどうしたいかを考えます。そうすれば、その社員に残業なんてさせられない、早く帰って娘さんと過ごしてほしいという気持ちが自然と涌き起こるのではないでしょうか。

その社員にその思いを、声のトーンや声色を変えて感傷的に伝えてみましょう。声のトーンは聴覚的情報において。様々な効果=受け手の印象の操作が可能となります。

先の例の場合、「優しさ」を印象付けるために高めの声でゆっくりと話してみてください。

「娘さんの年に一回しかない誕生日だから、一緒に祝ってあげたいですよね。仕事を早く切り上げて帰ってください」

その社員は、声のトーンからあなたの優しさを感じ、自分の大切な娘を同じように大切に考えてくれているという喜びと、娘と過ごすために残業したくないという気持ちを理解してくれたと思い、小さな信頼を寄せてくれるようになるのです。

【話の内容の操作】コールドリーディング

「コールドリーディング」という手法をご存知でしょうか。
カウンセラーや時には詐欺師、マジシャン、占い師も使う手法で、さも相手のことを知っているかのように、誰にでも当てはまる事柄を示し、相手を信頼している・相手を理解している・相手に肯定感を与えることで、信頼関係を構築する手法です。

例えば、「あなたは、自分のやりたい事と、実際にやらなければならない事の間に苛まれ、我慢を強いられた経験があるかもしれません」といえば、誰にでも当てはまりますが、受け手としては「私のことを理解してくれている」と思うのではないでしょうか。

ただし、これでは深い効果は望めません。コールドリーディングは、誰にでも当てはまるようなあいまいな質問に加え、相手の不満を代弁したり、相手が思う欠点を肯定的な言葉で変えたりとさまざまな手法があり、諜報心理では、この手法を応用して、相手の本当の気持ちを引き出します。

例えば、普段の会社の評価に対して不満を持つ部下がいたとします。そんな部下に、「会社の評価に対して不満があるのだろう?」と直球で聞いたとしても相手の真意は引き出せません。

そこで、このコールドリーディングを活用した諜報心理を使います。
人はマイナス思考のときに、マイナスな指摘を受けたとしたら、さらに気持ちが遠のいてしまいます。そこで、ここではあえて肯定感を与える言葉を入れます。

「君は“嫌な顔ひとつせずに努力できる人”かもしれない。でも評価されてないと感じてきたこともあっただろう。」

「努力できる人」という肯定的な言葉に加え、「評価されてないと感じてきたこともあっただろう」という自分への共感的な言葉の二重効果で、部下は上司に対して、「ちゃんと自分を評価して、わかってくれているんだな」という安心感を持つようになります。

ここで重要なのは、評価されていないという部分で部下の悩みを引き出そうとし、寄り添う準備ができていることを相手に見せることなのです。

このように、一般的なコールドリーディングに加え、これまでお話した5つのステップの要素を組み込むことで、信頼関係の構築にぐっと近づことができます。

 信頼関係を築くには相手に寄り添う姿勢が最も重要

信頼関係を築くには、「相手の弱み(悩み)に、一人の人間として寄り添い、手を差し伸べること」が最も重要です。そこから信頼関係が生まれ、社内外において心理的安全性が醸成されるようになります。
「寄り添い」に大切なのは、立場の上下があっても上から目線は封印し、「人と人」の関係を築き、誠実に向き合うことです。

今回お話しした「信頼関係を築く5つのステップ」とその手法を参考にして、ぜひ職場や営業・取引先との関係における信頼関係の構築に取り入れてみてください。

稲村氏の講演では、これまでの経験や他国のスパイ機関が行う人心掌握術に基づき、信頼感を高め、関係性を深めるコミュニケーション・諜報心理術を解説しています。
また、外交安全保障の専門家とともに、オンラインアカデミーで諜報活動の講義をしている経験を生かし、諜報活動の実態や地政学に関する希少かつ信頼性の高い情報もお届けしております。
信頼関係を自然な形で構築できる手法を具体的に身につけたい方は、ぜひ一度参加いただければと思います。

稲村 悠 いなむら ゆう

日本カウンターインテリジェンス協会 代表理事 日本刑事技術協会 講師
国際政治、外交安保専門のオンラインアカデミー「OASIS」講師 (元警視庁公安部外事課 警部補)


コンサルタント 評論家・ジャーナリスト弁護士・法律関係者

警視庁元公安部捜査官(警視総監賞等受賞多数)、刑事としても強行事件を担当。退職後は金融機関社内調査や調査委員会による不正調査従事を経て、経済安全保障や地政学対応コンサル、諜報活動対策支援や研修、安全保障・危機管理講師等で活躍中。著書『 「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術』。

プランタイトル

元公安捜査官が教える
人の心に入り込み信頼関係を築く方法
~スパイ活動から学ぶ人間関係の築き方~

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