災害大国である日本は、常に地震や台風などの脅威にさらされています。しかし現実には、平時に防災の重要性を強く意識し、「完璧な備えができている」と言える自治体が、国内にどれだけあるでしょうか。人命を救うための戦いは、災害が起きてから始まるのではなく、災害が起きる前の「予防(事前準備含む)」の段階からすでに始まっています。まず災害対応の中心となるべき自治体が、防災意識を強く持ち、体制を確立しておかなければなりません。防災での失敗は、命にかかわります。

今回は熊本地震において実際に被害対策の指揮を執った有浦隆氏から、災害対応で自治体が準備しておくべき対応力や、必要な備えについて解説していただきます。

また当該記事の後半では、行政が対応しきれない点をカバーする重要な存在として、民間企業の役割についても教えていただきます。「防災ビジネス」への参入をお考えの企業の方も、ぜひ参考にしてください。

Your Image【監修・取材先】
有浦 隆氏

熊本県 初代危機管理防災企画監(熊本県防災軍師)

 

災害対応の第一歩:意識改革と新発想マニュアルの作成

もし“災害対応や防災”のイメージを聞かれたら、どのような集団を思い浮かべるでしょうか?多くの人は消防・警察・自衛隊をイメージするのではないでしょうか?

災害対応において権限と責任を有し、統制・調整をしなければならないのは、実は自治体です。当然、それぞれの地域の防災の責任も自治体が負っています。

職員に対して防災研修を実施し、全体の意識を向上させることは急務です。
防災は、総合戦、組織戦、準備戦であるにもかかわらず、防災担当課にその役割が偏っているのも問題です。

そしてここで更なる問題になるのが、自治体の“異動”と“対応力の低下”です。
これを補うための手段が、対応に慣れない職員もその職務を理解できる「インデックスマニュアルという新しい発想のマニュアル」と実戦と理論に基づく「体系的訓練法」です。

災害対応で自治体が保持すべき対応力:減災オペレーション

次に、自治体には具体的にどのような災害対応力が求められているのでしょうか。それは、有浦氏が考案した「減災オペレーション」です。

減災オペレーションとは、情報を“見える化”し、指揮者の状況判断から対策・処置の案出に導く「報告」「救命救助」を始めとする、災害対応に関する一連の体制や動きを指します。

全権をもった指揮官の前に『指揮台』を設置し、これを補う3つのサブ台を整え、情報収集~状況の分析・処理~対策・処置の案出、指示、活動調整を行って減災を図る、まさに、システマティックな対応です。情報を集めて終わりではなく、住民を救うための具体的な動きをしなければなりません。

熊本県では、地震前に訓練を完了し、地震対応時に行った実績ある成功事例です。

災害対応のための取り組み:「人財・体制・システム」の備え

ここで紹介する対策も重要な平時の備えです。

①人財:防災リーダーを育てる

防災においては、各所・各段階において有能なリーダーの存在が必要不可欠です。

各自治体は、できるだけ早く、防災の3段階を指導できるプロと部課を育てなければなりません。豊富な知識や経験を有し、的確な指示・対応ができるリーダーと、あらゆる問題にスムーズに対応できるメンバーがいるオペレーションチームです。当初は、外部の知見や要領を入れながら職員に研修させ、訓練を繰り返して対応力を向上させ育てます。

しかし自治体には配置替え(異動)があり、せっかく育成した人財も数年で部署を離れてしまうという問題が生じます。熊本県ではこの問題の解決策の例として「3段階の育成訓練」や「5年間ひもつき制度」などを導入し、職員の育成や対応力の維持向上を図っています。

②体制:担当職員が意欲的に職務に取り組める体制をつくる

災害対応の体制づくりとして大切なのは、すでに紹介した減災オペレーションの他に、特性分析という手法の導入ですが、加えて、防災担当となった職員の地位向上を意識した人事体制をつくることも重要です。

防災は住民の命を守り助ける崇高な仕事であるにもかかわらず、夜駆け朝駆け休日出勤の激務、多くの兼務、加えて、重要性への認識不足がある職務でもあります。これでは防災のプロとしての意識向上、モチベーションの維持など望むべくもありません。

職員の意欲を高めるには、その職務の重要性を組織として認識し、防災の部署での活躍が出世に直結するようにする人事体制作りや新規採用時からの教育が必要です。総合職の中に「防災職」をつくり、新しい出世職域にするなどが一案です。

③システム:実際の災害対応を想定したシステムの導入

人財育成や体制の確立は重要ですが、施設や設備といった各種のシステムなども完備しておかなくてはなりません。

防災センター(熊本県新防災センターは、有浦氏が企画・構想)、全者一系情報通信システム、避難所運営システムなど、ハードからソフトまで実際の災害対応を想定した各種システムを整えておく必要があります。公民館や体育館を避難所にするという考え方も時代遅れです。この点でも、発想を変えた実戦経験に基づく避難所の作り方を提案しています。

災害対応における企業の役割:「総合防災ビジネス」のすすめ

自治体は「人財・体制・システム」の3つに関して備えておくべきだと解説しましたが、このうちの「システム」「訓練支援」に関しては、民間の企業が大きな役割を果たすことができます。自治体という組織の欠点を補い、過去の災害対応の事例から課題を洗い出し、これらを解決しながら新たに、かつ実効的なシステムや支援を開発提供できるのは民間の企業です。

例えば、「状況判断支援システム」(“AI防災コンシェルジュ”)「避難所運営システム」「備蓄管理システム」「防災センターの建設」などは、まさに企業の出番です。これ以外にも、企業ができる災害対応はまだまだたくさんあります。

災害大国・日本においては、「総合防災ビジネス」は非常にニーズが高く、なおかつ社会的意義の大きい事業といえます。日本で成功すれば、海外展開も可能と考えます。

今回お話を聞かせていただいた有浦氏は、熊本地震におけるオペレーション責任者として指揮を執った経験から、防災ビジネスに関心のある企業で講演や研修を行い、総合防災ビジネス参入へのアドバイスやコンサルを行っています。

さらに自衛官時代の部隊運用・指揮、教官、企業への出向などの経験も踏まえて「自衛隊の戦術を活用した思考過程のノウハウ」や「自衛隊流人財の作り方、部下育成法」といった講演テーマにも対応。自治体から民間の企業まで、組織運営に課題を抱えるあらゆる団体のニーズに応えることができます。

「防災のプロとしての人財を育てたい」「実戦的対応力を備えたい」とお考えの自治体の方はもちろん、「総合防災ビジネス」に関心のある企業の方々は、ぜひ研修をご検討ください!

有浦 隆 ありうらたかし

熊本県 初代危機管理防災企画監(熊本県防災軍師)

レンジャー隊(特殊部隊)教官、連隊長など幅広い知識と指揮経験の持ち主。熊本地震の際は、防災センターオペレーション責任者として被害を最小化。実体験に基づくわかりやすい内容と元自衛官とは思えないほどの軽快なト-クに定評がある。行政、企業向けの講演や企業コンサル(防災ビジネス)等多数。

講師ジャンル
実務知識 安全管理・労働災害
社会啓発 防災・防犯

プランタイトル

風水害・熊本地震、オペレーションからの教訓

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