コロナ禍以降、訪日外国人観光客の数は増加傾向にあり、インバウンド市場は今後さらに活性化すると予想されています。外国人観光客の情報収集や消費行動も変化しており、SNSやAIの活用は、店舗やサービス事業者が「選ばれる存在」となるために欠かせません。

今回はAIやSNSを活用したマーケティング戦略の専門家・菅野弘達さんに、インバウンド市場の現状や、集客を成功させるSNSやAIの活用法などについて伺いました。

Your Image【監修・取材先】
菅野弘達氏

株式会社ハイパーメディアマーケティング 代表取締役
AI、動画、SNS による顧客開拓の仕組み構築の専門家

インバウンドの現状と傾向とは?変わる観光客の情報収集

インバウンドはコロナ禍で大幅に減少しましたが、2023年から徐々に回復し、2025年1月には単月で過去最高となる370万人を記録するなど、増加傾向にあります。
訪日観光客の約7割は、韓国、中国、台湾、香港などアジア諸国からの旅行者で、コロナ禍以前と同様の傾向となっています。(※注1)

インバウンドが増加している主な理由としては、以下の5点が挙げられます。

①円安の進行
円安によって「日本に行くと何でも安い」という認識が広がっています。

②ビザの免除
韓国、台湾、香港、タイなど72の国・地域に対し、短期滞在ビザが免除され、入国規制が緩和されています。(注2)

③国際航空便の回復とLCC(格安航空)の増便
コロナ禍明けに伴い、国際線が増便され、特にLCCの路線拡大が旅行を促進しています。

④SNSと動画メディアの影響
日本の人気がSNSやショート動画を通じて再燃、こうした媒体が情報収集の主要な手段となっています。

⑤冬の観光資源
雪、温泉、イベントなどがインバウンド客に人気となっています。

昨今、外国人観光客の情報収集や消費動向に顕著な変化が見られます。以前はPCによるウェブ検索が主流でしたが、現在はスマートフォンを活用したSNSや動画が主な情報源となっています。つまり、情報を発信しなければ外国人観光客には届かない時代に入ったと言えます。

コロナ禍以前の観光庁による訪日外国人消費動向調査(2015年)によると、出発前に得た観光情報源では「個人のブログ」(27.2%)、「旅行会社のホームページ」(18.1%)、「旅行ガイドブック」(17.6%)が上位であり、情報源で役にたったものとして「SNS」は12%程度にとどまっていました。しかし、コロナ禍以降、2024年同調査で「SNS」(38.9%)が1位に、「動画サイト」(38.1%)が2位となり、大きく変化しています(※注3)

また、2023年に東京都内を訪れた外国人観光客を対象に民間企業が実施した街頭調査でも、情報収集手段の1位は「SNS」であり、次いで「旅行ガイドブック」「検索エンジンでの検索」と続いています。(注4)

日本への観光客数として大きな割合を占めているアジア圏でもSNSの活用率は非常に高い傾向にあります。世界的にSNS利用状況を見ると、Facebookが主要SNSであり、次いでX(旧Twitter)、YouTube、Instagramが広く利用されています。(注5)

このように、情報収集が「検索型」から「発信型」へ変化している今、インバウンド戦略においては、SNSやAIの活用が不可欠であると言えるでしょう。

(注1)訪日外客統計|JNTO(日本政府観光局より)
(注2)
ビザ免除国・地域(短期滞在)|外務省
(注3)
訪日外国人の消費動向(2015年・観光庁より)
訪日外国人の消費動向(2024年・観光庁より)
(注4)
外国人観光客を対象にした訪日旅行の動向調査|出典:やまとごころ
(注5)IoT 時代における新たな ICT への各国ユーザーの意識の分析等に関する調査(2016年・総務省より) (校正用:PDF112枚目・108ページ)

SNS活用の利点と成功事例とは?

SNS活用の主な利点は、写真や動画、文章を組み合わせたリアルタイムでの情報発信が可能であること、そして顧客との接点を増やし、世界に向けて強い拡散力を持つ点です。

ここでSNSを活用して、インバウンド集客に成功した事例を2つ紹介します。

一つは、大分県湯布院町の山奥にある小さな旅館「山城屋」です。数々の口コミサイトで上位を獲得しているこの旅館は、約10年ほど前からFacebookによるプロモーションに力を入れてきました。旅館業未経験でシステムエンジニア出身のご夫婦が、日本語と英語のダブル表記や、顧客からのサンクスレターをSNSで紹介するなど、ITの知見を活かした発信を行ってきました。

もう一つは、菅野さんが2019年から1年間、インバウンド対策コンサルティングを担当した都内にある宮崎県のアンテナショップの事例です。

当時のSNS投稿は、商品を並べた写真が中心で、パッケージの中身が分かりづらく、商品の魅力が十分に伝わっていませんでした。そこで、商品の中身が見える写真や、食べ物が美味しく映るような角度での撮影、スタッフが商品を手に持って紹介する写真やイベントの様子など「人」を写した投稿へと切り替えました。

また、英語、中国語、韓国語の多言語投稿も実施。当時は県庁の専門翻訳家が翻訳を行っていましたが、現在ではAIを使えば短時間で100カ国以上の言語に対応した投稿が可能です。翻訳は、AIの強みが特に発揮される場面と言えるでしょう。

選ばれる店舗に!SNS・AIを効果的に活用するためのステップ

インバウンド集客において成果が出ない主な理由として、以下が挙げられます。

  • 情報発信がホームページ中心である
  • ターゲットが不明確である
  • インバウンドが求める情報を発信していない
  • 競合他県と差別化する魅力分析が不十分である
  • 発信頻度が少ない

例えば、観光地の情報発信というと、観光名所を取り上げがちですが、実際には外国人観光客が本当に知りたいのは、その地域ならではの日常風景や体験なのです。

2024年のニューヨーク・タイムズ「行くべき52カ所」に選ばれたのは山口市でした。2023年には岩手県盛岡市、2025年には富山市と大阪市が選ばれています。これらの地域では、歴史的な文化や地元の祭り、グルメなど、その土地ならではの資源が高く評価されました。

外国人観光客が関心を寄せる観光地は、日本人がイメージするものと必ずしも一致するとは限りません
例えば、東海道新幹線の熱海駅のホームからは、時速185kmで通過する新幹線を間近で見られるスポットとしてインバウンド客に人気があります。
また日本一、急こう配な橋である鳥取の江島大橋や、過去には栃木県宇都宮の”サルがもてなす居酒屋”などユニークな体験ができるスポットが注目を集めていました。

インバウンド集客を成功させるためには、「誰をターゲットにするのか」「何を伝えるのか」「競合とどう差別化するのか」を明確にすることが重要です。

続いて、具体的なステップをご紹介します。

①ターゲットを決める

どの国の旅行者を呼び込みたいのかを、AIなどを活用して綿密に調査し、明確にします。ターゲットとする国の留学生や技能実習生などにSNS投稿を依頼することも有効です。彼らの発信により、情報が確実にターゲット層へ届きます。

②どのSNSを活用するかを決める

Facebookは世界的な標準SNSで、Instagramは女性層に、Xは若い層へのアプローチに効果的です。ターゲットに応じて、適切なSNSプラットフォームを決定しましょう。複数のSNSを同時に運用するよりも、まずは一つのSNSに絞って、ターゲットに合わせた投稿内容を徹底することが重要です。

③投稿のテーマを決定

例えば、ホテルであれば「季節のお便り」「美味しいグルメ」「おすすめスポット」など、ターゲット層に響くテーマを決めていきます
分かりやすいタイトル、簡潔な文章、そして多言語対応の投稿が重要です。

④スケジュールを設定

投稿するスケジュールを決めて、継続的に発信することが不可欠です。

情報発信において大切にしたいポイントとは?

SNSを活用する上で、写真や動画は非常に重要です。特に動画は今の時代に欠かせない要素となっています。
「人は人に反応する」ため、人物が写っている写真や動画は、より共感を呼びやすく、効果的です。チラシや観光名所の写真だけでなく、農作業や祭りの様子など、その土地ならではの日常風景や体験を発信することも大切です。

例えば料理店であれば、料理の写真よりも、従業員が清掃している様子など、店の裏側の日常を発信する方が親しみを感じやすく、印象に残りやすくなります。リンゴ園であれば、リンゴの収穫風景や、大間ならマグロ漁師の様子など関わる「人」の姿が見えるコンテンツが好まれます

最近ではAIを活用してアニメキャラクターのショート動画を作成することも可能で、海外のアニメファンに訴求する非常に有効な手段となっています。

インバウンド集客における最終的な成功の鍵は、外国人観光客自身に情報を発信してもらうことにあります。それぞれの国の人が発信することで、その国のネットワークに情報が確実に届き、広がっていきます。

そのためには、SNS映えするディスプレイの設置や実際の観光客の投稿事例の紹介、また積極的に投稿を促す声かけをするとで、観光客による情報の拡散を促進していきましょう。

菅野さんの講演では、効果的な写真や動画の撮り方のほか、最新メディアでの発信手法や、プロンプトの書き方などAIの効果的な活用法、そしてインバウンドの正と負の側面などについても詳しく解説いただきます。

AIやSNSを戦略的に活用し、インバウンド客に「選ばれる」店舗や地域を目指しませんか?
ぜひ講演の開催をご検討ください。

菅野弘達かんのひろみち

株式会社ハイパーメディアマーケティング 代表取締役
AI、動画、SNS による顧客開拓の仕組み構築の専門家

メガバンクのプログラマー、システムエンジニアを経験後、日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会を経て独立。(株)ハイパーメディアマーケティング 代表取締役を務め、AI、ショート動画、SNSを活用した集客、販促、採用コンサルティングを行っている。商工会議所、企業、大学等での講義・講演実績多数。

講師ジャンル
実務知識 IT・AI・DX 営業・販売・マーケティング

プランタイトル

インバウンドに選ばれる店になるSNS、AI活用法

講師プロフィールへ移動



あわせて読みたい


【講師コラム: 小幡美香】
SNS活用でビジネスの現状打破!旅館をV字回復させた女将の経営術

SNSは今や若年層を中心に情報収集の主流となり、企業のマーケテ…

自社商品・サービスのファンを増やすマーケティング・ブランディング研修【社員・管理職向け講演プラン】

コロナ禍以降、個人消費は大きく変化し、品質をどれだけよくしても…

【講師特別インタビュー】多田夏帆さん
「好き」の気持ちが世界へ 推しが切り開く未来の経済と社会

Z世代にとってはもはや当たり前となっている「推し活」。その消費…


 他の記事をみる

講師が「講師候補」に登録されました
講師が「講師候補」から削除されました