新型コロナウイルスの流行によって感染症対策を行う企業も増えてきました。しかし、2023年にコロナが5類に移行してからは、危機感が薄れ、パンデミックほどの危機管理をしていないところもちらほら見られます。
コロナ禍での教訓を忘れないためにも、今一度、感染症防止策を学びなおしてみませんか?
今回は、外務省医務官として北京でSARSに立ち向かった経験を持つ勝田吉彰氏に、社内で行える対処法を解説していただきます。
【監修・取材先】
勝田吉彰氏
関西福祉大学教授
ドクトル外交官(外務省医務官)OB
労働衛生コンサルタント
新型コロナウイルスで得られた教訓「正確な情報を注視し続けること」
中国・武漢で新型コロナウイルスの最初の感染者が発見されたのが2019年12月。そこから、ウイルスに関するさまざまな情報が飛び交い、「定説」とされる情報も次々に刷新されました。
例えば、当初、周囲の人に感染させる時期は「発症した日から」と言われていましたが、現在では「発症の2日前から感染させる」と言われています。それにより、濃厚接触者についても発症の2日前から関わった人と定義されました。
また、当初は不明とされていた「ウイルスにいつまで感染力があるのか」という問題も、現在は発症後1週間で感染力はほとんどなくなることが分かっています。
新型コロナウイルスについては「26度のお湯でうがいすれば感染しない」など、数々のデマもささやかれました。未知のウイルスであることで、人々の恐怖心から噂や陰謀論が生まれています。
正しい情報を収集していたとしても、続々と最新情報が明らかになるため、一度発見された説が覆されることもあります。感染症対策でまず最初にすべきことは、正確な情報を注視し続けることです。
職場における感染症とのつきあい方
1.職場に感染者が出た場合
職場で感染者が出た場合、まずは保健所に報告して指示を仰ぎ、社内の消毒を行います。保健所の指示が得られない場合は、「感染者が最後に使用してから3日以内の場所」を消毒します。
他の職員に感染者の発生を伝達する必要もあります。人間は危機的状態に置かれると、複雑な情報を理解するのが難しくなります。
危機的状況の際に、被害を最小限に抑えるために行うコミュニケーション活動を「クライシス・コミュニケーション」と言います。こうした場合、一つの内容だけのシンプルなメッセージを繰り返し伝えることが重要です。「統一されたメッセージ」を、同時に「一つの機関」から「決まった人物」が発信することも大切です。
2.感染者の職場復帰について
感染者の職場復帰は、保健所からのアドバイスに基づいて行う必要があります。退院および自宅・宿泊療養の解除後もPCR検査の陽性反応が持続する場合がありますが、必ずしも「陽性=感染力がある」というわけではありません。
感染力は発症する数日前から発症直後が最も高く、発症から7日程度で急速に落ちることが分かかっています。
なお、職場復帰に「陰性証明や治癒証明」は必要ないため、医療機関に発行を求めないようにしましょう。
3.感染者の差別問題について
正しい情報伝達が行われないと、感染者や濃厚接触者に対する差別が起きる場合があります。感染者や濃厚接触者は被害者であり、誰にでも感染のリスクはあるため、実に理不尽な問題です。
このような心の動きは、人間の防衛反応に起因します。人間は不安を感じたときにさまざまな行動を取りますが、その一つに「他者を否定する」というものがあります。新型コロナウイルスなどのウイルスに感染した他者を異物とみなし否定することで、自分自身を守るというメカニズムです。
これは、ウイルスに関する正しい知識を持っていないがゆえに起きるため、このようなときにこそ、社内での正確な情報発信が必要です。
正しい知識を持つことが健康と心理的安全性につながる
新型コロナウイルスなど感染症によるリスクは、従業員の体の健康を害するだけでなく、生産性の高い職場環境に不可欠な「心理的安全性(従業員が安心して、自由に意見を発言し行動できる状態)」も脅かします。職場がパニックに陥ることのないよう、万一の際には冷静なリスクコミュニケーションが必要です。
もちろん、クラスター発生を防ぐ上でも、リモートワークの導入などで感染機会自体を減らすことも大切です。やむを得ず対面での業務を行う場合も、3密回避を含むソーシャルディスタンシングとあわせて、手洗い・手指消毒の実施といった基本的な対策を徹底しましょう。
新型コロナウイルスなどの感染症は、いわば「ヤマの分かっている試験」です。感染者数が落ち着いてきたときにも、基本の感染対策をおろそかにせず、全員でリスク低減を継続することでパニックを回避できます。
私の講演では、日々更新される感染症の最新情報を、専門的な知見からお伝えしています。職場における対処法についてもより詳しく解説していますので、興味を持たれた方は、ぜひシステムブレーンまでお問合せください。
勝田吉彰 かつだよしあき
関西福祉大学教授 ドクトル外交官(外務省医務官)
ドクトル外交官(外務省医務官)としてアジア・アフリカ・欧州24か国で業務経験を重ねた国際派医師。北京ではSARSのパンデミック渦中でリスクコミュニケーションを経験。海外経験をもとに海外、とくに新興国・途上国への赴任者の健康管理・メンタルへルスの情報発信に精力的に取り組んでいる。
プランタイトル
新型コロナ(COVID-19)のキホンと職場の守り方
~どう備え、どう伝えるか~
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