こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓

小林 久 こばやしひさし

元 地域土着スーパーやまと 代表取締役

想定する対象者

地域で頑張る中小企業経営者・後継者
地域活性化に悩む行政関係者
生きることに疲れ、これからの人生に希望が持てない方

提供する価値・伝えたい事

当事者でなくては分からない、書物やネットでは知り得ることのできない倒産や自己破産の現実、金融機関や取引業者とのやり取り、自治体や消費者の反応など。

地域活性化策の具体的事例とその効果や反応(補助金に対する考え方)

逆境に瀕しても決してあきらめることはない(打つ手がある)という真実。

内 容

安倍政権が「地方創生」を掲げて久しいが、国が主導して地方の問題が解決するわけではない。とはいえ、地方の人々が自ら声を上げ、立ち上がっても、やはり抵抗を受ける。昨年末に倒産の憂き目を見た山梨県の食品スーパー社長が、自身の奮闘むなしく地方都市が“自壊”する様を語る。

 地方では、コンビニエンスストアすら撤退してしまうほどさびれた場所がある。だがもちろん、その土地に暮らす人がいるため、いわゆる“買い物難民”が発生する。そこで地元スーパーが、トラックに食品や生活必需品を積んだ「移動販売車」を走らせた。

もちろん、周辺に住むお年寄りは大喜びだった。販売場所に到着すると、スピーカーから「きよしのズンドコ節」、出発する時は「宇宙戦艦ヤマト」の主題歌を流す。だが、それももう聞けなくなった。

2008年には売上高が64億円を超え、県内16店舗を展開したが、その後は減収減益傾向が続き、最後は9店に減っていた。3代目の社長だった小林久は、先代の放漫経営で経営危機に陥った15年前、39歳で社長に就任し、2年目で黒字化を達成した。環境保護活動にも取り組み、店頭に生ごみの回収ボックスを設け、生ごみを出した客にポイントを付与する手法は、全国ニュースでも取り上げられた。

 他にもホームレスの男性や障害者の雇用、貧困家庭への食品の寄付などの活動で注目され、山梨県の教育委員や教育委員長も務めた。「頼まれたら、選挙以外は断らない、がモットーだから」と小林。冒頭の移動販売車も、地元の韮崎市の副市長の依頼を受けて考え出したアイデアだった。
 そんな小林のもとに、地元以外からも頼みごとがあった。

 山梨県の県庁所在地である甲府市は、郊外にイオンのショッピングセンターが進出した結果、中心部の百貨店や商店街から客足が途絶えて久しい。まさに、全国の多くの地方都市が直面しているような問題だ。
 甲府市ではさらに、市が主導して商店街の中に建設した商業ビルが2010年に開業したが、入居していた食品スーパーが撤退。ここでもいわゆる買い物難民化した高齢者が発生した。さらには、暴力団同士の抗争によって発砲事件が起き、もともと少ない客足がさらに減少していた。そこで、商店街の若手商店主の有志が、小林にスーパーの出店を要請したのである。

 甲府市からの補助金は一切、受け取らなかった。小林はその決意を「自分でその場に身を置いて商売し、行政の補助金に頼り切った商店街の活性化策に、物申したかった」と語る。商店街には、空き店舗のスペースはいくらでもあった。調理などの作業場が取れないほどの小さな店舗を借り、近くの鮮魚店に配慮して、鮮魚以外の食品を並べた。2011年12月にオープンし、もちろん多くのお年寄りが買い物に来た。鮮魚店から頼まれて、その店も引き継ぐことになった。

 だが、「商店街の関係者は、老いも若きも冷たく、ほとんど誰も応援してくれなかった」と小林は振り返る。請われて出店したにもかかわらず「商店街の重鎮たちに頭を下げに行け」と“助言”される。近所の飲食店から「やまとが出店してから売り上げが減った」と非難される……。

 結局、イオンが2016年に再開発ビルにスーパーを出店。やまとは5年で撤退することになる。イオンが郊外のショッピングセンターを大幅に増床することと、事実上のバーターだったとみられる。
それでも、中心市街地に賑わいが戻ったわけではない。現在至るまで閑散とした状況は続いており、事態は何も解決していない。

 その間、やまとの全16店の売り上げはじりじりと下がり続けた。イオンの増床に加え、県内の他チェーンの安売り攻勢が進む。やまとも、赤字額の大きさと、やまと以外に地域住民が買い物に行ける店があるかどうかの2点から、閉店する店舗を決めざるを得なかった。
 それでも経営は苦しい。2015年ごろからは、銀行団から元本の返済猶予、いわゆる「リスケ」を受けた。もっとも銀行団は、真摯にやまとを支援してくれたという。再建計画が進み、倒産直前には経常黒字を達成してもいた。ところが「そうは問屋が卸さない!」

2017年12月のある日、早朝から商品が各店舗に届かない。それどころか、卸会社が店頭から商品を引き揚げている。「きょう、倒産するのか?」と、ある取引先から電話で問われた小林は寝耳に水だったが、卸会社はやまととの商売から手を引いていた。協力的だった取引先からの説得もあり、この日のうちに小林は全店舗の閉店と、会社の倒産を決心せざるを得なかった。

 銀行団の姿勢とは対照的に、ここ数年、一部の卸会社の支払い要求がどんどんと強まっており、小林は神経をすり減らす日々が続いていた。加えて小林は「若くして県内のマスコミに再三、取り上げられた。私をよく思わない関係者も多かっただろう」と振り返る。社長になる前には、ライバルの県内最大手のスーパー首脳から、買収を持ち掛けられた。その時には「いつか御社を買収しに行きます」と啖呵を切った。その後、このスーパーによる出店攻勢が激しくなったのは言うまでもない。

 もっとも、倒産した小林を支える動きも広がった。倒産するにも弁護士費用などの資金が必要になるが、友人や経営者仲間らがカンパを募った。本部の事務所には激励の電話や訪問が相次ぎ、差し入れが引きも切らなかったという。小林は「地域の問題は、災害に似ている」と話す。地域は大切だと誰もが言うが、普段はそこに潜んでいるリスクを感じにくい。買い物難民が実際に発生するなど、問題が起きて初めて、彼らが本当に直面している危機を認識するが、そうならなければ、ゆっくりと衰退し、やがて自壊していく。

 会社の連帯保証人となっており、財産を差し押さえられた小林は今、妻の実家に暮らしている。小林が身をもって得た経験には、全国の地方都市で共通するものが多く、得るべき教訓に満ちているはずだ。(週刊ダイヤモンドオンラインより抜粋)

根拠・関連する活動歴

【公 職】 
元山梨県教育委員会委員長(最年少での就任・県内の学校で地域商業の大切さを教育)
元山梨県韮崎市商工会副会長(空き店舗対策・移動販売を実施)
元山梨県ノーレジ袋推進協議会委員(山梨全県でのスーパーレジ袋有料化を実現)

【講演実績】
三重県 伊勢新聞政経懇話会・山梨政経フォーラム・ランチェスター学会全国大会
山梨大学・山梨学院大学・山梨県立大学・大月短大・産業技術短期大学・県立農業大学
山梨県内高等学校・中学校・小学校、社会福祉協議会・山梨県教員研修
高齢者施設・女性経営者の会・東京都環境とことん討論会・経営哲学学会・甲府商工会議所他山梨県内商工会・群馬県商工会連合会・下仁田商工会・ロータスクラブ全国大会
ロータリークラブ・ライオンズクラブ・青年会議所・各地法人会・ガールスカウト・山梨県内全倫理法人会・山梨県中小企業診断士協会・山梨県年金受給者協会、等300回以上

Copyright © 株式会社システムブレーン All Rights Reserved.