
近年、働く人々の間で「ストレスを感じやすくなった」「集中力が続かない」といった声を多く耳にします。社員のメンタル不調は、個人のパフォーマンスだけでなく、組織全体の雰囲気や業績にも影響を与える深刻な問題です。そこで注目されているのが、「食とメンタルヘルス」の関係です。
本コラムでは、フードバランスアドバイザー・発酵食健康アドバイザーの小針衣里加(こばり えりか)氏が提唱する、“心と脳を整える食事術”をご紹介。ストレス軽減や集中力向上に役立つ食事法を具体例とともに解説します。
“身近で関心が高いテーマ”だからこそ、行動変容を促すきっかけとなり、健康経営の第一歩に最適です。
【監修・取材先】
小針衣里加氏
日本フードバランス協会 代表
Basic予防医療診断士
実践健康経営診断士
食事がメンタルに与える意外な影響とは?
「食事が体に影響するのはわかるけど、メンタルにも関係するの?」というご質問をよくいただきます。結論から申し上げると、私たちの感情や思考力、ストレスへの耐性は、日々の食事によって大きく左右されます。
たとえば、脳内の神経伝達物質「セロトニン」は、精神の安定や集中力の維持に欠かせない物質ですが、その約90%が実は“腸”でつくられているのです。つまり、腸内環境が乱れると、セロトニンの分泌が滞り、ストレスを感じやすくなったり、感情のコントロールが難しくなったりします。
また、朝食を抜いたり、糖質に偏った食事を続けていると、血糖値の急激な上昇・下降によって、イライラや眠気、倦怠感が現れ、集中力が著しく低下します。実際に「午後になると仕事が手につかない」「ちょっとしたことで怒りっぽくなる」という人は、朝食の内容を見直すだけでも変化が現れるケースがあります。
食事は単なる“栄養補給”ではなく、脳と心に直接働きかける“セルフケア”のひとつなのです。
ストレス軽減に効果的な食材
ストレスに強くなるために必要なのは、精神を安定させるホルモン「セロトニン」や神経伝達物質を体内でスムーズに生成できる状態を整えることです。その鍵を握るのが「トリプトファン」や「ビタミンB群」「カルシウム」などの栄養素です。
ここで、ストレス対策に効果的な3つの食材をご紹介します。
①トリプトファンを含む食材
トリプトファンはセロトニンの原料で、睡眠ホルモンであるメラトニンの生成にも不可欠です。体内で作り出せないため、食品からの摂取が必要です。
トリプトファンを多く含む食材を以下に挙げておきます。
- セロトニンの合成に必要なビタミンB群や魚のオメガ3…赤身肉、青魚、納豆など
- 眠りを促すグリシンやメラトニン、マグネシウムが豊富…卵、バナナ、ナッツ類
- イライラや精神的疲労を鎮めるカルシウムが豊富…牛乳、チーズやヨーグルトなどの乳製品
これらを意識して取り入れることで、ストレス耐性の向上が期待できます。
②セロトニンの分泌を促す発酵食品
セロトニンを作る工場は「腸」であるといっても過言でありません。セロトニンは腸内細菌との協同作業によって腸で製造され、その後、血管を通って脳に作用し、セロトニンの分泌を促します。セロトニンの90%は腸に存在しているのです。
この腸内の善玉菌を増やすには、発酵食品の摂取が効果的です。以下の食材を積極的に取り入れることで、セロトニンの分泌を活性化させます。
- 納豆
- 味噌
- ヨーグルト
- チーズ
- 醤油・ぬか漬け など
発酵食品は毎日の食事に“少しずつ・継続的に”取り入れることがポイントです。
③善玉菌のエサとなる食物繊維
善玉菌のエサになる水溶性食物繊維や、精神の安定に関与するマグネシウム・カルシウムも意識したい栄養素です。植物繊維の多い食材は以下の通りです。
- 野菜(ごぼう、ブロッコリー、にんじん、キャベツなど)
- 芋類(さつまいも、こんにゃく、じゃがいもなど)
- 果物(リンゴ、みかん、バナナなど)
- きのこ類(しいたけ、しめじ、エリンギなど)
- 穀物類(玄米、とうもろこしなど)
- 海藻類(わかめ、ひじき)
- 豆類(大豆、黒豆、納豆など)
- ナッツ類(アーモンド、くるみ、ピーナッツなど)
集中力を高める即効性のある食事メニュー
「午後の会議で眠くなってしまう」「集中力が続かない」という声もよく耳にします。これは、血糖値や栄養不足によって脳のエネルギー供給が不安定になっている可能性があります。ここでは、前述した食材をうまく組み合わせて作るメニューをご紹介します。
①1日のパフォーマンスを決める朝食の重要性
「朝食は一日の活力」と言われますが、これは単なる比喩ではありません。朝食には次のような重要な役割があります。
- 脳のエネルギー補給:朝の脳は“ガス欠状態”。朝食で糖とビタミンB群を補うことで、集中力・判断力を高めます。
- 血糖値の安定:朝食を抜くと、昼食で血糖値が急上昇しやすく、眠気やイライラの原因になります。
- 体温上昇・免疫力アップ:温かいスープや全粒粉パンなどで体を内側から温めることで、代謝が活発になります。
- 腸の活性化:朝の食事で腸が動き出し、セロトニンの生成も活発に。結果として気分も安定します。
たとえば、以下のような朝食が理想的です。
- 味噌汁+納豆+ごはん+焼き鮭(発酵食品+たんぱく質+炭水化物)
- コーンスープ+全粒粉トースト+ゆで卵+フルーツヨーグルト(体温上昇+腸活)
「朝ごはんを変えただけで、午前中の会議の集中力が上がった」と実感する方も多く、すぐに始めたい習慣です。
②午後の集中力を高めるおすすめのランチメニュー
後イチの眠気や会議中の集中力低下…。これは社員にとっても管理職にとっても大きな悩みの一つです。
実は、血糖値が急に下がったり、栄養素が足りていなかったりすると、こうした状態が起こりやすくなります。以下は、すぐに取り入れられる“即効性”のあるメニュー例です。
- レバニラ炒め+玄米:ビタミンB1と鉄で脳のエネルギー代謝をサポート
- シーフードチャーハン+野菜スープ:DHA・EPAで神経の働きを整える
- サーモンときのこの味噌スープ+雑穀ご飯:脳と腸にWで効く組み合わせ
- 納豆そば+アボカドサラダ:植物性たんぱくと食物繊維で集中力キープ
また、間食には、ナッツやドライフルーツ、ヨーグルトに蜂蜜を加えたものなどがおすすめです。ポイントは「甘いだけ」「カフェインだけ」に頼らないこと。脳と体に必要な栄養を補う意識が大切です。
食×習慣でメンタルを整える実践的アプローチ
小針さんの講演や研修では、「すぐに実践できる」ことを大切にしています。座学だけでなく、実際に体を動かしたり、試食を交えたりすることで、社員の皆様にも“食の大切さ”を肌で感じていただけます。
たとえば、こんな取り組みが好評です:
- ヨーグルトドレッシングづくり体験
- ストレス軽減食材クイズ(どっちの食材が効果的?)
- 腕振り体操による血流促進(1日3分でOK)
また、「呼吸」「自然と触れ合う(バイオフィリア)」「良質な睡眠」などもセットで伝えることで、より深い行動変容を促します。
研修担当者の皆様には、ぜひ“食”を通じた社員の健康支援に目を向けていただければと思います。
“食”というテーマから始まる、社員の心と体のケア
“食事は体だけでなく心も整える”という考え方は、社員一人ひとりのパフォーマンス向上だけでなく、組織全体の活力向上にもつながります。特に、ストレス軽減や集中力向上といった即効性のある食生活の工夫は、日々の業務の質にも直結します。
社員の健康づくりやメンタルヘルス対策の一環として、ぜひ「食と心の関係」をテーマにした研修や講演をご検討ください。小針さんによる分かりやすく実践的な講演は、社員の行動変容を促すきっかけとなります。
体験型などご要望に応じた研修プログラムもご提案可能です。
まずはお気軽にお問い合わせください。
小針衣里加 こばりえりか
日本フードバランス協会 代表
Basic予防医療診断士 実践健康経営診断士
食事の栄養やバランス、効能、栄養を損なわない調理法、味覚や五感を育てる食事、認知症を予防する食事等、健康や美容に関する講演や社員研修など講師として全国で活動中。企業の安全大会、病院、看護協会、学校、施設、製薬会社など、登壇歴多数。メニュー開発、執筆、テレビ出演等多方面で活躍している。
講師ジャンル
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ビジネス教養 | メンタルヘルス | |
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実務知識 | 安全管理・労働災害 | ||
社会啓発 | 福祉・介護 | 教育・青少年育成 | |
文化・教養 | 健康 | 文化・教養 |
プランタイトル
人をよくする食
~食事は体、心、脳をつくる~
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