「生物をこよなく愛する生物オタク」として『世界一受けたい授業』などをはじめ数々のメディアでその知識を発信している篠原かをりさん。今回は生物への愛と知識に溢れた篠原さんに、急速に増加している生物の絶滅についてお伺いしました。

都市化で進む昆虫への苦手意識。益虫の研究で人々に昆虫を好きになってもらいたい

――プロフィールを拝見して驚いたのですが、篠原さんは幼い頃からとてもたくさんの生物を飼ってこられたんですね。

篠原 今もカイコとタランチュラを飼っていますが、昆虫、爬虫類、哺乳類問わず動物全般なんでも好きです。哺乳類ではネズミがダントツで好きで、特にドブネズミを推しています。

――ゴキブリを400匹飼われていたこともあるとか。

篠原 マダガスカルゴキブリというカブトムシに似ているゆっくりとした動きの種類をメインに飼っていました。最初は3匹だけでしたが、卵胎生(卵を胎内で孵化させる種類)のゴキブリだったので、ある日突然小さいゴキブリが40匹くらい増えていたんですよ。あまりにそれがかわいくて、そこから沼にハマりました。

――飼育経験が豊富ですが、かなり小さな頃から動物や昆虫がお好きだったんですか?

篠原 そうですね。地元に無料で入れる動物園があるんですが、父がスケジュールに融通の利く仕事をしていたこともあって毎日のように通って動物と遊んでいました。第一の関心がずっと動物のままここまできた感じですね。

――現在は慶應義塾大学の上席所員と日本大学の院生として研究をしていらっしゃるそうですが、どのような研究をされているんですか?

篠原 専攻はいろいろな書籍や神話、民話など、人々の記録や歴史から分かる生物のあり方を研究する動物文学です。私はその中でも特にカイコとミツバチを研究しています。昆虫はその見た目から人に嫌われてしまいがちですが、カイコとミツバチは人に利益をもたらす究極の益虫として大切にされてきた歴史がある昆虫です。益虫であるカイコとミツバチを研究することで、人々にもっと昆虫を好きになってもらうきっかけにしたいと思って取り組んでいます

――最近は昆虫食など昆虫への関心も高まっていますが、苦手な方はまだ多いですよね。

篠原 都市化が進むと昆虫を見る機会が減るため苦手になりやすいんです。同じ虫を見た場合でも、自然の背景で見かけた時と家の背景で見かけたときでは家の背景で見た場合の方が強い嫌悪感を抱くという調査結果がありますが、自分の生活領域に見慣れない昆虫がいることに嫌悪感を抱くのだと思います。道でゴキブリを見かけてもあまり気にしないかもしれませんが、自宅のお風呂場で見たらすごく嫌ですよね。都市化が進んだ現在は昆虫自体の数がかなり減り、昆虫に苦手意識を持つ子どもたちが多くなることが予想されます。研究によってそういった面を改善していきたいと考えています。

増え続ける生物の絶滅。食い止めるためのキーワードは“環境改善”

▲環境改善によって固有種の絶滅を防いだ奄美大島の美しい自然

――現在、多くの生物が絶滅の危機にあると言われていますね。

篠原 アフリカゾウのように密猟や捕獲など人間からの直接的な影響で数を減らしている生物もいれば、環境の変化によって数を減らしている生物もいます。昆虫の減少はほとんどが環境の変化によるものですね。例えばトンボなどの水生昆虫は特に環境の影響を受けやすく、水質汚染や護岸をコンクリートなどで固めた影響で減少傾向にあります。でも実は水生昆虫だけでなく、ほとんどの昆虫があと100年ほどで絶滅する可能性があると言われています

――たった100年でですか!?

篠原 家屋性のハエやゴキブリなどは住める場所が増えているため少し増加傾向にありますが、森林性の昆虫などはハエやゴキブリを含め減少しています。減るだけでなく増えることでも食物連鎖のバランスが崩れてしまいますから、まるでセーターが1つのほころびからどこまでもほどけていってしまうように、連鎖的に生物の数が減っているんです。

――連鎖的に絶滅してしまうとなると人間の生活にも影響がありそうですよね。

篠原 人間がいなくなっても世界は変わらないけれど、ミツバチがいなくなると4年で地球の食料が立ち行かなくなると言われています。ミツバチだけでなく虫が植物の花粉を媒介するケースが多いので、虫を減らすことは自分たちの首を締める結果になっていると思います。

昆虫だけでなくすべての生物は相互に関係しあって生きているため、人間に直接関係する生物だけが多くいればいいわけでもないですよね。絶滅スピードも早まっていて、100年前は年間1種類程度だったのに、現在は年間4万種がいなくなっていると言われています

――すごいスピードですね!

篠原 産業革命以降急激に増え、今も増え続けている感じです。人間が直接環境を切り開いていることだけでなく地球の気候変動も影響しています。例えば20年ほど前は関西以南に生息していたクマゼミが今では関東でも見られるようになり、もともといたアブラゼミよりも数を増やしています。新しい種が進出してきた場合、入れ替わるのも早いんです。別の生物が増えるならいいように思えますが、多様性が失われてしまいます。世界中どこに行っても同じような生物しかいなくなってしまうのは問題ですよね。

――ここまでお聞きすると生物の絶滅を防ぐことはすごく難しいように思えるのですが、何か方法はあるのでしょうか?

篠原 環境を守ることが重要だと思います。難しいように見えますが、保護した結果回復している生物も多くいます。例えばパンダは保護活動の結果絶滅危惧種ではなくなっていますし、一時は壊滅的だった奄美大島固有種のアマミノクロウサギも数が回復しています。

また奄美大島の場合は環境を改善したことでアマミノクロウサギ以外の種も数が回復しました。一匹一匹を保護したとしても、生きていくための環境がなければただ人間の手元に貴重な動物がいるだけになってしまいます。崩してしまった環境を整え、守っていくことで生物たちの数は戻ってきます。今だけでなく100年先200年先を見据えて地球上に生物がいる形にするためには、やはり環境を整えることが重要だと思います。

――例えばゴミのポイ捨てをしないといった小さな取り組みでも有効なのでしょうか?

篠原 一人ひとりの力は大したことないように思われるかもしれませんが、その大したことのない力が積み重なって絶滅スピードが急加速した現状があります。それならその逆で、一人ひとりが意識することでいい方向に持っていくことももちろんできると思います

興味を持つ入り口をたくさん用意したい。子どもたちの未来のために目指す姿

――篠原さんは学生時代からメディアでご活躍されていらっしゃいますが、メディアに出るきっかけはなんでしたか?

篠原 大学時代にクイズ番組で優勝したことがきっかけでした。その後からクイズ番組に出演させていただくようになり、本も出版するようになりました。

――クイズに関する本も出版されるんですよね?

篠原 『雑学×雑談 勝負クイズ100』(河村拓哉・篠原かをり著/文藝春秋/2023年7月7日発売予定)という本を7月に発売予定です。別のクイズ研究会に所属する夫とクイズを出し合う形式ですが、競い合うようなクイズではなく、コミュニケーションの一貫として大人も子どもも気軽にクイズを楽しんでもらえるような内容になっています

――家族みんなで楽しめそうな本ですね!篠原さんの講演も子どもからお年寄りまで楽しめる内容なんですよね?

篠原 幼稚園生から高齢者の方まで、幅広い年齢層の方にお話させていただいています。お子さんには動物クイズを交えてお話しするのですが、動物好きな子も多いので正解率も高く、すごく盛り上がるんです。私自身とても楽しんで講演をさせていただいています。

――それはおもしろそうですね!具体的にはどのようなお話をお伺いできるのでしょうか?

篠原 やはり動物の話がメインですね。最近は特にSDGs関連のお問合せが多く、先程お話した生物の絶滅に関する話や地球環境についての話をすることが多いです。これまでにコスタリカ、スリナム、ベルギー、ガイアナなど15カ国ほど訪問しているので、訪れた国の話や自分の幼少期の話もしています。

――講演で一番伝えたいことはなんですか?

篠原 生物を守るため環境を改善しようとしても、人々に興味を持ってもらえなければ進みません。そのため、生物に興味を持ってもらうことを一番大切にしています。

――最後に、篠原さんの夢をお聞かせください。

篠原 レポートや講演会、書籍の執筆などのいろいろな手段を通じて情報を発信することで、子どもたちが生物や科学の世界に興味を持つ入り口をたくさん用意できるような場になりたいと思っています。私は学校が苦手で、ひとりで黙々と虫を見ているような子どもでした。そんな私が発信することで、「こういう人がいるのなら自分もこんなことができるかもしれない」と子どもたちが感じてくれたらいいなと思っています。自分が子ども時代にいて欲しかった、子どもに寄り添う大人になれるよう頑張っていきたいです。

――本日は貴重なお話をありがとうございました!


篠原かをり しのはらかをり

作家 タレント

タレント・芸能関係者作家

慶應大大学院卒後、同大SFC研究所上席所員。「生物をこよなく愛する生物オタク」として脅威の知識量と独特の切り口・表現が注目され、「世界一受けたい授業」他テレビ・ラジオ出演、SNSや雑誌連載、講演など幅広く活躍中。著書『恋する昆虫図鑑』『ネズミのおしえ』『人間が知らない生き方』他多数。

作家

プランタイトル

『SDGs世界をつくる生物多様性の力』

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