
Z世代にとってはもはや当たり前となっている「推し活」。その消費行動を理解することは、現代のマーケティングにおいては半ば必須ともいえます。しかし、そもそも推し活とは何なのか、馴染みが薄い方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、株式会社Oshicoco代表であり、推し活総研の所長も務める多田夏帆さんにお話しを伺います。ご自身が熱心なオタクでありながら、経営者としての冷静な眼をも併せ持つ多田さんならではの観点から、推し活とはどのような文化なのか、そしてビジネスや社会に与える影響の大きさについても掘り下げていきます。
「推し」を応援することが自分の成長につながった

▲講演会の様子(多田さん提供)
――多田さんご自身の最初の「推し」は何でしたか。
多田 新選組をモチーフにした漫画や小説が好きで、実際に「聖地巡礼 (*)
」をしたのが最初の推し活体験です。
*「聖地巡礼」とは、アニメや漫画作品の舞台となった土地を実際に訪れることを指します。
――「推し」というと特定の人物に向けられるものというイメージがあるのですが、より広い概念なのでしょうか。
多田 そうですね。「推し」の対象は幅広く、アイドルやアニメだけでなく、お城や歴史上の人物、仏像、建築などを推している方もいらっしゃいます。
実は私も、小学4年生から15年以上推し活を続けていて、本当に日々救われています。学生時代は「推し」が勉強のモチベーションでしたし、今も仕事の活力になっています。具体的には高校の頃に色々と思い悩んでいた際、「鋼の錬金術師」という漫画の「痛みを伴わない教訓には意義がない/人は何かの犠牲なしに何も得る事などできないのだから/しかし、それを乗り越え自分のものにした時/人は何にも代えがたい鋼の心を手に入れるだろう」という言葉に背中を押され、成長できたという経験がありました。両親や先生といった年上の方から言われることを素直に受け取るのが難しい思春期であっても、アニメや漫画の言葉だとすんなりと受け入れることができました。
――何かを好きという肯定的な気持ちが、推し活によって自らの成長や自己肯定感の高まりに繋がるのですね。
多田 はい、そうです。誰かに共有したいほど好きな気持ちを外に向けて表現することが推し活であって、だからこそひとりでは得ることのできない経験を得たり、色々なことに前向きにチャレンジできるようになります。それが自分のことが好きという気持ちにも繋がるのだと思います。例えば私の場合ですと、タイの俳優さんを応援するためにタイ語を勉強したり、現地のドラマ放送を見るためにVPN接続のやり方を一から学んだりもしました。
Oshicoco起業の経緯と、その強み

▲社員の方々と(多田さん提供)
一一大学在学中からwebメディアMERYでトップライターとしてご活躍でしたが、どのような形でOshicocoの立ち上げに繋がっていったのでしょうか。
多田 300本近くの記事を書く中で、伸びる記事とそうでない記事の違いを痛感しました。自分が発信したいことだけでなく、読者の悩みや関心事に寄り添うことが重要だと学び、それは仕事における情報発信や商品開発に活かされています。
また、日々街中の様子を観察することで、人々の抱える悩みや興味関心、埋もれている課題を発見してメモするということが、ライターをしていた頃から習慣づいています。
一一大学卒業後、社会人1年目にしてすぐに起業されていますが、不安はありませんでしたか?
多田 不安も多少はありましたが、学生の頃から起業するかフリーランスとして働きたいと考えていました。Oshicocoの前身として始めたSNSが数ヶ月で数万人規模になり、手応えを感じたことも大きかったです。まだ若いからこそ、何でもチャレンジしてみようという気持ちでした。
ただ、いざ起業してみると契約書の作り方や発注書の書き方、見積書の出し方まで知らない状態だったので、そうした基礎がない状態で起業をするということは本当に大変でした。けれど、当時の自分の「推し」のように、世界に自分の考えを発信して影響を与えたいという思いが後押しをしてくれました。
ーーOshicocoが10代から30代の女性を主なターゲット層としている理由を教えてください。
多田 推し活への熱量が特に高く、SNSでの発信や消費行動が活発な層であること、そして何よりも私自身がターゲット層のど真ん中であることが理由です。考えていることや気持ちを一番共有できる層に向けたビジネスを作ろうと思っていました。
一一社員の方が、全員Z世代の女性であることも特徴的です。これもターゲット層との共通点を重視しているからなのでしょうか?
多田 はい。トレンドや共通言語をお客様と共有することで、ニュアンスのずれを防ぎ、より顧客の期待に応えられると考えています。例えば「かわいいピンク色」と一言でいっても、濃いピンクなのか薄いピンクなのか、青みがかっているのかオレンジがかっているのかといった様々なグラデーションがあり得ます。そうした中からお客様の思う 「かわいいピンク色」と擦り合わせをするためには、同世代であることが不可欠です。
ーーオタク文化はジャンルごとに細かく分かれていると言われていますが、Oshicocoはそれぞれのニーズに合わせた商品づくりをされています。そうした対応力の秘訣は何でしょうか?
多田 社員それぞれが多様なジャンルの「推し」を持っていることを活かし、企画ごとに最適な担当者を決めています。
また、社内では自身の「推し」ジャンル以外であっても詳細な知識を持つように教育しているので、問題なく対応できています。
推し活マーケティングの可能性とは?

▲イメージ画像
一一推し活はZ世代特有の現象なのでしょうか。
多田 特有の現象ではないと思います。SNSの普及やコロナ禍における配信プラットフォームの充実が推し活を加速させたという側面はありますが、昔からアイドルの親衛隊や鉄オタ、アニメのイベントなど、趣味のコミュニティは存在していました。
もっとも、人生における推し活の位置付けが変化したとは感じています。Z世代は、学生の時にコロナを体験した世代と言い換えることができると思うのですが、修学旅行や体育祭といったイベントや、時には対面授業でさえ中止となる中で、心の支えや友達とのコミュニケーションを取る方法として「推し」がより深く必要な存在となったといえます。
一一推し活マーケティングは、10代、20代だけでなく、上の世代にも適用可能でしょうか。
多田 もちろん可能です。Z世代の新規顧客獲得という企業様からのご依頼のために、推し活コンテンツを弊社で作成することも多いのですが、他方で女性向け、幅広い世代向けといったご依頼もお受けしています。推し活においては世代による制約というのは実はあまり無く、例えば、BTSが好きな10代の女の子と50代の女性が、同じように韓国へ聖地巡礼に行って似たようなお土産を買ったり、韓国料理を作ったりするということが見られます。世代や性別で単純に分類していた従来のマーケティングでは分からなかった消費者の共通点が、推し活という視点からだと見えてくるのです。
一一推し活マーケティングの魅力をお聞かせください。
多田 1つ目は、若年層を獲得できるというところだと思います。アニメやアイドルとのタイアップを考える場合、このアニメ、このアイドルとコラボをすれば、この層を獲得しやすいといったターゲットの予測を弊社は立てることができます。新規獲得したい層をお持ちの場合、まずはお問い合わせいただければと思います。
2つ目に、既存の商品に推し活という新たな価値を付加し、需要を増やすことができます。家電メーカー様とのコラボでは、プリンターを推しグッズを作るためのツールとして再定義し、新たなユーザー層を開拓しました。また、プロジェクター販売の企業様とのお仕事では、ライブ・アニメ鑑賞への活用という新しい用途をご提案することで、学校や法人といった従来の顧客とは異なる層の需要を作り出しました。他にも、「推し」の声を良い音質で聴くためにイヤホンを購入するといった、これまでは気づかれていなかった購買動機を見出すことで、既存の商品の持つ可能性を拡大するお手伝いをしてきました。

▲コラボ商品の例(多田さん提供)
一一幅広い業種に推し活マーケティングは適用できるのですね。
多田 それ以外にも、保険会社様と推し活用の保険を作ったり、優れた技術をお持ちの地方の印刷会社様と、ライブ用のうちわに貼るシールを作ったこともあります。老舗の歯ブラシメーカー様とコラボした際には、若者向けであったり、インバウンド向けの歯ブラシを作りたいというご要望にお応えして、デザインを手掛けたこともありました。推し活という切り口から、金融から歯ブラシまで、本当に幅広い分野で企画、商品開発をやらせていただいています。
ーーアパレル業界と推し活の親和性についてはどうお考えですか?
多田 かつてはオタク向けの商品はおしゃれとはいえないものばかりでした。そうした中で、推し活もおしゃれも同時に楽しみたいという思いからOshicocoを始めました。
今ではアパレルブランドが当たり前に推し活グッズを出すようになっています。オタク文化が日本のクールな部分として再認識され、アパレル業界からも注目を集めているのではないでしょうか。また、自分の好きなものを身につけることの楽しさや、それを自由に表現するという点は、推し活とファッションに共通するものだと考えています。
日本の文化である推し活を、世界に広めたい

▲ご自身の「推し」と多田さん(多田さん提供)
――講演活動を通して、どのようなことを発信していきたいですか?
多田 推し活という文化がどのような現象であるのか、なぜ近年流行っているのか、どれくらいの市場規模があるのかという3点を基本的な軸としてお話をさせていただいています。
その上で、弊社が関わらせていただいた商品開発、企画の具体的な事例を、聞いてくださる方に合わせてご紹介します。各企業様がお持ちの技術、商品のポテンシャルを再発見していただけるような講演にできるよう、心がけています。
一一最後に、多田さんの夢と題して、今後の展望をお聞かせください。
多田 私の夢は推し活という文化を日本から世界に広げることです。推し活という文化は、アイドルやアニメ、もしくはスポーツ選手などを熱心に応援する文化のことです。これは日本ならではの文化だと思っています。日本のアニメであったり、アイドルであったり、その他の様々なコンテンツが世界に広がっていくことを夢見ています。
それに向けて私たちOshicoco社は、推し活をされている方々と企業様をつなぐということをコンセプトに企画とマーケティングの仕事をしています。弊社の仕事が推し活という文化が世界に広がる一助になればと考えています。
一一貴重なお話しをありがとうございました。
多田夏帆 ただなつほ
株式会社Oshicoco 代表取締役 推し活総研所長 推し活文化の解説者
早大文化構想学部卒後、「推し活」コンサルのOshicocoを創業し、2年でSNSフォロワー10万人、POPUP全国展開中。「推し活」のマーケティング支援・グッズ販売、エンタメ企業の企画コンサル、推し活文化の解説者など、幅広く活躍。推し活市場拡大、推し消費、推し活マーケティング必勝法などの講演も必聴!
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実務知識 | 営業・販売・マーケティング |
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プランタイトル
「推し活」の現在と今後の可能性について
(経営層・生活サービスに関わる企業担当者様向け)


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