気をつけていても起きるのが”ヒューマンエラー”と呼ばれる人的ミスです。災害に直結するリスクが高い建設業・製造業をはじめとして、さまざまな業界において他人ごとではありません。
この記事では、建設業の安全教育トレーナーなどの経歴を持ち、年間200回以上の講演活動を行う去来川敬治(いさがわ たかはる)氏に”ヒューマンエラー”とその対策について解説していただきます。
【監修・取材先】
去来川敬治氏
安全衛生教育トレーナー
社会保険労務士
リーダーシップこそが安全衛生管理の必須要素
心理学者のマズローは、「欲求階層理論=マズローの欲求5段階説」という学説を説きました。これは、「睡眠欲」や「食欲」などの「生理的欲求」が満たされたら次は「安全欲求」、その次は「社会的欲求」「自己実現欲求」というように、段階的に次の欲求を求める人間の特性を表したものです。
しかし、「安全」や「自己実現」を追求する欲求に反して、人生には常にリスクがつきまといます。欲求を満たし続けるには、同時に「リスクを回避し、現状を改善する努力」も続けなければなりません。
特に「仕事の中のリスク=労働災害・製品事故・工期納期遅延・環境汚損等」を回避することは、われわれプロにとって「使命」であり、「幸せ」になるための必須条件です。
つまり、仲間と力を合わせてシナジー(=相乗効果)を発揮してリスクを回避し、大きな成果(企業目的)を達成し、それぞれの「幸せ」を追求するということです。
そこで絶対に必要なのが「リーダーシップ」です。
素晴らしい「リーダーシップ」なくしては、皆の力を結集させることができないばかりか、リスク回避も困難になります。つまり、労働災害という大きなリスクを回避するための安全衛生管理が成功するかどうかも、「リーダーシップ」の善しあしで決まるのです。
ヒューマンエラーはなぜ起きるのか
では、仕事の中で災害や事故につながる”ヒューマンエラー”はなぜ起きるのでしょうか。
「ヒューマンエラー」は「人間特性から生まれる残念な結果」と言われ、背景には「不安全行動(故意の行動)」と「ミス(錯誤・錯覚からの失敗)」があります。「不安全行動(故意の行動)」とは、危険回避のためのルールを知りながら逸脱行動をすることで、残念な結果(リスク回避の失敗)が起きやすくなるということです。
製造業などで起きた災害の事例も、そのほとんどが保護具の未装着や作業の省略、錯覚といった、ルール違反や小さなミスに由来しています。
私の会社でも、過去に左官作業中に足場開口部から作業者が墜落してしまったことがあります。
このとき、作業者は足場の床に開口部があるという「不安全状態」を発見していましたが、「気をつけながら作業すればよい」と、そのまま作業をしてしまいました。つまり「不安全行動」を選択したのです。
いくら頭で「気をつけよう」と思っていても、人間は同時に2つのことに集中できません。作業を進めるにつれ、目の前のことに夢中になって足元への注意がおろそかになり、墜落という災害が起きてしまいました。
「分かっていても防げない」のがヒューマンエラーの恐ろしい点です。だからこそ、一人ひとりの自発的な集中力や根気だけに頼らない対策が必要になります。
思いを込めたリーダーシップでヒューマンエラーを防ぐ
初めにお伝えしたように、安全衛生管理にはリーダーシップが不可欠です。
具体的には、リーダーが「メンバーとともにリスクを回避するためのPDCAサイクルを回す」ということです。これにより各自のパフォーマンスを鍛え、ヒューマンエラーの低減を目指します。
PDCAサイクルとは、ビジネスの現場で重視されるマネジメントメソッドの一つで、それぞれの頭文字は以下を意味します。
- P=Plan(計画)
- D=Do(実行)
- C=Check(評価)
- A=Act(改善)
これを安全衛生管理に基づいて解説します。
まず、「成果=目標」を決め、メンバーと共に「成果=目標」に至る各プロセスの設計をします(この時に各プロセスで想定されるリスク、特に、労働災害等につながるリスク=メンバーのパフォーマンスの低下につながるようなリスクを回避するためのルールを決めます)。つまり「P=計画・ルール」をメンバーと作ります。作業マニュアルでもよいでしょう。
そして「P=計画・ルール」の周知を深め、適切なプロセスの推進「D=実行」を徹底するため、リーダーの立場からフォロー「C=評価」し、必要であればメンバーと共に「A=改善」を行います。そうして「成果=目標」に至るプロセスや、達成した「成果=目標」を全員で分かち合います。
ここでの「リーダーの立場からのフォロー【C=評価】」とは、
- メンバーひとり一人のプロセスの推進状況を確認し、望ましいと判断したら褒め、その推進の継続をモチベートする。
- もし適切なプロセスの推進から逸脱する場合は「是正」を求め、新たな「リスク」が想定される場合は、皆で「A=改善」に取り組む。
- 達成した「成果=目標」をも振り返り「C=評価」、更に良い物とするための「A=改善」を皆で振り返る。
リーダー主体でこの一連のサイクルを繰り返すことで、パフォーマンスレベルの向上と、ヒューマンエラーの減少をはかっていきます。
また、このPDCAサイクルの中で、メンバーに「P=安全第一」の「A=行動」をとってもらうには、前段階として「安全」がなぜ「第一」だと言われるのか、その理由を考え、「安全」に込められた意味や思いをメンバーとともに共有し、共通理念を育てておくことも必要です。
安全な現場で生産性の高い仕事を
このように、安全な職場をつくるリーダーシップとその活動こそが、職場全体の高パフォーマンス化につながります。
講演では、私の職業人生で出会った素晴らしいリーダー達の言動や、安全衛生教育講師として取り上げてきた「リーダーシップの発揮の仕方」をもとにお話をしています。
労働災害をテーマに置き、「皆の力を発揮させ、リスクを回避し成果を達成する」ために必要なリーダーシップのエッセンスを選りすぐっていますので、興味を持たれた方は、ぜひシステムブレーンまでお問合せください。
去来川敬治 いさがわたかはる
安全衛生教育トレーナー、社会保険労務士
社会保険労務士業及び安全衛生教育等の講師として活動を続ける一方、“リスクアセスメント”構築のための講演・研修を各団体・各企業で行う。前職での安全管理活動の中で、人とのつながりの重要性を改めて実感したことから、コミュニケーションスキルのベレルアップ研修(報連相研修)も好評を得ている。
プランタイトル
不安全行動/ヒューマンエラーと安全管理
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