地震、台風、土砂災害、水害…。災害大国日本において、もしもの時に対応するには地域全体の連携が重要となっています。
避難所運営、震災復興区画整理などの従事経験を持つ明石照久さんに、地域の防災計画や実際に被害にあった場合の復興の取り組みについて解説していただきます。

大規模災害で起こり得る問題

▲2016年4月14日に発生した熊本地震によって倒壊した家屋(熊本県益城町・明石さん撮影)

大規模災害が起こった場合、私たち市民の生活にはどう影響するのでしょうか? 大きく分けて、主に4つの問題が発生します。

まず1つ目は安全と安心に関する問題です。被災直後には、安全な場所を確保することが最優先事項となってきます。一時的な避難所はもちろんのこと、自宅が倒壊してしまった場合にはその後も避難所での生活が続くことになります。そのため、避難所の開設や仮設住宅、災害公営住宅などの建設といった生活の再建を考えていかなくてはなりません
また、被災直後はライフラインが通っていないことからも、正確な情報が届きにくく、被災者は今がどういった状況下なのか、この避難生活はいつ終わるのか、などといった不安やストレスが募っていきます。そうした心理的負担を抱えきれなくなると、本来同じ立場であるはずの災害弱者に向けられてしまいやすく、性暴力を含む多様な暴力が起こるケースが、これまでの災害時に見られています。災害弱者の中でも、特に女性や子どもは暴力の対象となりやすく、安全に関する啓発を行っていかなくてはなりません。

2つ目に、必要物質の不足・分配に関する問題です。災害用の備蓄や供給物資は主に成人を標準として準備されます。しかし、避難してくる人は成人だけでなく、子どもから高齢者までさまざまです。さらに、妊娠中の人や外国人、障がいのある人、介護や介助を必要とする人、アレルギーを持つ人などもいます。そんなさまざまな人に合った多様なニーズに対応するための仕組みがうまく機能しないことで、物資不足の問題が起こるのです。例えば、食料といってもアレルギー対応食や、乳幼児、高齢者用の食料はそろっているでしょうか? また、該当する女性に欠かせない生理用品は十分な数を用意できているでしょうか? そういった見過ごされがちな必要物資が整っていないことからも、物資不足が起こります。

3つ目に、衛生や健康に関する問題です。電気や水といった災害によってライフラインが停止した場合、日々の生活だけでなく介護・看護・保育といった医療や子育てなどにも大きな影響を与えます。そうしたサービスの利用者やその家族は、心身共に大きな負担を強いられます。そして、災害時には感染症や慢性疾患の悪化、避難生活や災害による心理的負担といった問題が想定されます。

4つ目はプライバシーの問題です。避難所で過ごすことになった場合、自宅のような生活環境を確保できるとは限りません。大勢の人がいながら生活スペースに仕切りがない、更衣室や授乳室がないなど、プライバシーが守られない環境もあります。そういった環境で過ごすのは、被災者にとって大きな負担となるでしょう。それに耐えられず、避難所を出て車や被災した自宅で寝泊まりをするようになった人が健康を悪化させたり、亡くなったりするケースもありました。

災害後、これらの問題を速やかに解決にするには、日ごろから地域の結束力を高め、地域をあげて支援体制を構築している必要があります。地域コミュニティの結束の重要性を説いた「ソーシャルキャピタル」という言葉がありますが、災害後の復旧においてはこの「ソーシャルキャピタル」が重要キーワードとなります。次の章では、このソーシャルキャピタルの概念が見事に働き、成功した事例をご紹介します。

 災害後「ソーシャルキャピタル」がうまく働いた具体的な取り組み

災害後、速やかな復興を実現するために重要な「ソーシャルキャピタル」。その概念が昔から地域に根付き、災害後、地域あげての速やかな対応でさらなる被害の拡大を食い止められ事例を2つご紹介します。

 ①神戸市長田区真野地区

1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災で、神戸市長田区は最も大きな被害を受けました。しかし、長田区の南東にある真野地区では、被害が最小限に食い止められました。その理由には、1965年から始まったコミュニティ活動や、住民や地元企業の献身的な取り組みが大きく関係していました

真野地区のまちづくりは、1965(昭和40)年代始めの公害問題をきっかけに始まります。当時、周囲の工場による大気汚染が公害問題となり、住民たちは10年かけてその工場の移転を実現しました。そのことから、「自分たちのまちを自分たちの手で良くする」ための活動が開始されました。地域連携のまとめ役である「真野地区まちづくり推進会」の役員30名には、地区の自治会長をはじめ企業や学校も名を連ねており、地域一体となってまちづくりに取り組んでいます。真野地区まちづくり推進会の主な活動は、住宅の建築確認や空き地の活用、区画整理などに関しての相談や決定です。同会は、事業全般の相談窓口を果たしており、真野地区全体を俯瞰的に捉えてまちづくりをしていました。

そして阪神・淡路大震災では、これまで培った地域力が大いに発揮されたのです。この大震災での主な被害は火災でした。真野地区でもおよそ2,700戸もの火災が発生しましたが、消防車が現場に到着するまでの6時間で、地域住民や地元企業の懸命なバケツリレーによって43戸の火災が消しとめられていました。また、倒壊した家屋には自治会の若いメンバーが自主的に救出に向かい、死者を最小限に抑えました。これも、30年間続いてきた地域力の賜物であり、これこそソーシャルキャピタルの象徴的な事例といえます。

 ➁熊本県益城町

2016年4月14日に起きた熊本地震で熊本県益城町は2度の震度7の地震に襲われ、益城町の南に位置する東無田集落では、約8割の住宅が全半壊という甚大な被害に見舞われました。
そんな状況下において東無田集落では、発災直後から住民同士で直ちに避難所を確保し、軒先避難者へのテントを外部の知り合いに要請したりするなど、住民による積極的な動きが見られました。また、発災から4日後から約1か月間、炊き出しの食材は住民や住民の友人らが持ち寄るなど、住民同士で助け合う体制が自然とつくられていきました。

東無田集落では普段から近隣住民との会話があり、物々交換を行うなど住民同士の交流が活発です。また、地区内は4つの組織に分かれており、それぞれに代表が存在します。ほかにも役員が存在し、防団や子ども会、老人会などで組織が構成されています。

発災直後の、外部からの支援が少ない中では住民同士が積極的に行動し、外部からの支援が始まればその中心となる者とうまく連携をはかり、避難シェルターなどの設置を実現させました。また、復旧初期段階と呼ばれる発災から約1か月後という早い段階で、すでに復興委員会が設立されており、復興へのまちづくりにつながる動きがありました。
これらの動きは、全て住民のつながりから発生しており、ソーシャルキャピタルの概念が見事に働いた事例でといえるでしょう。

 復興のキーワード「地域復元力」とは?

「レジリエンス」は、心理学の用語で「逆境から立ち直る力」「復元力」「回復力」と訳されます。災害が多発する中では「まちのレジリエンス」、つまり「地域復元力」が見直されています。東日本大震災の際にも、地域復元力の高い地域では被害を最小限に食い止められたという実績があります。

具体例として、防波堤のない漁業集落であった釜石市の花露辺地区では、住民主導により、早期の合意形成と行政への移転候補地区の提案がなされたことにより、2014年1月には高台移転が完了しています。高台移転に時間がかかってしまった地域では住民の意見の吸い上げがうまくいかず、合意形成がスムーズに行われなかったという問題が大きく影響しました。
花露辺地区のほかにも、東松島市では行政として住民に寄り添いながら今後の決定を行おうという視点から、住民の意向を丁寧に拾い上げました。その結果、移転先は内陸部から地域内の離半島部までに7地区用意され、移転先は移転者が自由に選択できるという前例のない形で住民合意形成を実現させました。

こういった事例から、復興に成功している地域では、行政と住民のコミュニケーションの頻度の高さ、リーダーの存在や合意形成のための基盤が整っているといった地域の自治力の高さが共通していることがうかがえます。この2つを維持することこそ、「地域復元力」の向上を推し進めるために重要な要素なのです。

 地域復元力をつけるためにすべきこと

地域復元力をつけるために、まずは真野のまちづくり推進委員会のような地域づくりのコミュニティをつくり上げていくことが重要です。真野地区も30年以上かけて地域力を積み上げてきました。基礎となる人のつながりをつくることが第一ステップといえます。

人と人のつながりは地区内だけではありません。震災後、外部専門家の支援により、東京大学などの研究者が真野の事例をテーマにした多くの論文を執筆するようになり、震災の後は、早稲田大学や慶應義塾大学をはじめとする多くの学生が支援に訪れました。核となる人のつながりが新たなつながりを呼び起こした格好の事例です。

地域で人のつながりがつくられると、おのずと外部にもつながり、網の目のようにだんだんと広がっていきます。人のつながりを築いた上で次に行うべきことは、自主的な組織づくりです。自治会、消防団、自主防災組織などをしっかりと組織し、核となる人材を発掘活用していくことが必要となります。人のつながり、組織づくり、そして人材育成により、地域復元力が養われていくのです

 地域力と地域復元力

地域復元力の要となるのは「資源動員」です。資源動員とは、災害を経て復興するには、どのような作業にどのような資源(人・資金・機材・材料など)が必要で、どこから調達するのかという考え方です。例えば、倒壊した家屋の梁を取り除くには、人や機材がどれくらい必要となするかを見極めて対応する必要があります。資源動員がうまく働けば、地域復元力はおのずとアップしていきます。そして、この資源動員の実力を発揮するための根源的な源泉こそが「地域力」なのです。

地域力を高めるには住民の多様な意見や気持ちを取りこみ、まとめていける自治体などの組織やコミュニティがあることが重要です。真野地区のように、「自分たちのまちは自分たちの手で良くする」という地域住民の姿勢が、地域力、ひいては地域復元力を高めていくことになります。

本講演では、地域防災の取り組みや地域復元力についてさらに詳しく解説し、大規模災害への対策や避難生活での問題点への対処法なども一緒に考えていきます。興味のある方はシステムブレーンまでお問い合わせください。

明石照久  あかしてるひさ

熊本県立大学名誉教授
一般財団法人たらぎまちづくり推進機構代表理事
熊本県多良木町地方創生顧問


実践者

神戸市職員として、阪神淡路大震災復興業務に携わった後、熊本県立大学教授に転じ、公共経営、地方自治、まちづくりに関する研究と教育に尽力した。この間、熊本県、熊本市など、自治体の公職を多数歴任したほか、大学退職後は、地方創生の現場で、空き家利活用プロジェクト等、多方面で活躍中。

プランタイトル

防災減災を支える地域のつながり

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