ハラスメントへの意識が高まってきた現代においても、モラハラ(モラルハラスメント)は理解されづらく、解決が難しい問題です。今回は、著書『モラハラ夫と食洗機』(小学館2023年2月)の出版をはじめ、数々のメディアでモラハラに関する情報を発信されている弁護士 堀井 亜生(ほりい あおい)さんに、令和のモラハラ事情についてお伺いました。
多くの事例を解決に導いた堀井さんが考える、モラハラの特徴や解決策とは…!?
全ての妻と夫に知ってほしいお話。ぜひご覧ください。
親世代から受け継がれることも。モラハラ夫が抱える心の闇
――近年モラハラへの意識が高まっていますが、なぜモラハラが注目されるようになったのでしょうか?
堀井 行為自体は昔からあるものでしたが、「してはいけないこと」として日本で認識されるようになったのはここ十数年のことです。これは、男女問わずハラスメントへの意識が高まってきたことが背景にあります。
ハラスメントの歴史として見ると、まずセクシャルハラスメントが注目され、そこからパワーハラスメント、マタニティハラスメント、モラルハラスメントの順に注目されるようになりました。会社だけでなく、家庭内でもハラスメントはいけないことだと認識されるようになってきたという流れですね。
――モラハラにもさまざまな事例があると思いますが、よくあるモラハラ夫のパターンを3つ挙げるとしたらどのようなものがありますか?
堀井 3つに絞るのであれば、「家事を監督して文句を言う」「お金に厳しい」「妻を長時間説教する」という3パターンだと思います。
――どれも妻を下に見ている印象を受けますね。そのような行動をする背景として共通するものはあるのでしょうか?
堀井 あくまで事例を見てきた中での印象ですが、父親が母親にモラハラをする家庭で育ってきたパターンは非常に多いです。また、強いコンプレックスを持っている例も多いと感じます。見た目や学歴、友達がいないといったコンプレックスを抱えた夫が、立場の弱い子どもや妻にストレスをぶつける事例は少なくありません。
――日常的にモラハラがある環境で育ったことと、コンプレックスによるストレスが主な原因と考えられるんですね。
自覚しにくく、理解されにくい。対処を難しくするモラハラの特性
――モラハラ夫の特徴をお教えいただきましたが、逆に、モラハラ被害者の特徴はあるのでしょうか?
堀井 真面目な方という特徴があると思います。夫の話を真面目に聞いて、受け入れようとしてしまう方が多い印象です。
――真面目な方は夫の言うことを真に受けて、自己肯定感が下がってしまいそうですね。
堀井 自己肯定感の低下はモラハラの影響としてよくあるものです。何年も夫から馬鹿にされ続けてきているので、最初の相談で「自分なんて…」と卑下する方は多くいらっしゃいます。
――自分が悪いと思い込んでいては、モラハラに気付けないのではないでしょうか?
堀井 モラハラに気付かずに相談に来られる場合がほとんどです。全く違う理由で離婚の相談に来られて、お話を聞いてみたらモラハラを受けていたということはよくあります。
――モラハラは被害者本人ですら気付きにくい問題なのですね。
堀井 そうですね。ただ、これは弁護士の問題でもあると思っています。私のところに相談に来られる前に、いくつか法律相談を受けて断られているケースが多いからです。
モラハラを自覚して法律相談に行っても、「そんな理由じゃ離婚できない」と一蹴されてしまう。そんなことを繰り返しているうちに、「モラハラではなく性格の不一致で悩んでいるだけ」「たいした問題ではない」と誤解したまま過ごしてしまう方が多くいらっしゃいます。
――モラハラは軽んじられやすいのでしょうか?
堀井 1つ1つはたいしたことのない問題に見えるので、弁護士だけでなく、友人や親に相談しても「それぐらいならいいじゃない」と深刻に受け入れてもらえないことはよくあります。
――親しい人にも理解してもらえないのは辛いですね。
堀井 モラハラ被害者は控えめに話す傾向があるため、親兄弟ですら実態に気付きにくいものです。そのため、場合によっては親御さんに私からお話ししたり、伝え方をレクチャーしたりします。
モラハラ被害者の多くは専業主婦や扶養の範囲内で働いている方なので、夫から離れるためには親御さんのご協力が必須と言えます。理解を得られず助けてもらえなければ一歩目を踏み出せませんから、そういった点でも辛いですよね。
――性格的にも人に深刻さを伝えるのが難しいケースが多いのですね。
堀井 そうですね。『モラハラ夫と食洗機』に登場する事例でも、最初の相談時点ではモラハラという言葉は出てきていないものが多いです。家計簿を付けるのが大変とか、エアコンを使わせてもらえないという話題が出発点なので、法律相談では大したことではないと言われてしまいがちです。
モラハラという言葉ができて被害を伝えやすくはなってきましたが、それでも何年も積み重なった問題を伝えるのは難しいものです。今回本を書いたのも、そういった方が少しでも伝えやすくなればという想いからでした。自分に当てはまる事例を知ることで、本人の気持ちの整理にもなるのではないかと思っています。
対モラハラの基本は離れること。解決のカギは綿密な計画と深い理解
――そもそもモラハラを改善することは可能なのでしょうか?
堀井 本人に自覚がない限りは無理だと思います。改善できる場合もあると思いますが、そういった方は法律相談にはいらっしゃいません。相談に来るほどひどい場合は、何時間も怒り続けるなど、夫が自分をコントロールできていない状態です。そのような状態では自力での改善が難しいため、夫に対する精神的な治療が必要になると思います。
――改善が難しいとなると、やはり離婚での解決となるのでしょうか?
堀井 離婚しなければいけないわけではありません。モラハラをする相手から離れられればいいのです。離婚を目標にすると、目標が大きいため一歩目が踏み出せなくなります。離れることさえできれば、その後に籍を抜くかどうかは自由です。
――離れることが重要なんですね。でも、夫に管理されている方だと別居も簡単ではないですよね。
堀井 そうですね。簡単ではないので、相談者一人ひとりに合わせ、別居のプロセスを考えて提案しています。流れとしては、現実的に別居が可能かどうかの確認からはじまり、助けてもらうキーパーソンを決め、引っ越し先やお子さんの学校など新生活の下準備をしてから別居となります。
特に、経済面や精神面で頼れるキーパーソンは重要です。全く助けがないという方は計画を実行できないので、必ず誰かに頼るようにとお伝えしています。
――一人ひとりに合わせた綿密な計画が必要なのですね。
堀井 計画を立てることが大切ですが、モラハラ被害者は夫中心の思考になっているため、自分の人生をどうしたいかを考えることが難しくなっています。そのため最初は法律の話ではなく、「魔法でなんでも自由に叶えられるとしたら、どうなりたいですか?」と、人生の希望をしっかりと聞くようにしています。
法律相談の場では言いづらいこともあるので、場合によっては食事をしながら雑談を交えて伺うこともあります。先ほどお話ししたように、モラハラ被害者は控えめな方が多いので、深く関わってお話を伺わないと実態が掴めないからです。被害の実態が掴めなければ、戦う材料を揃えることができません。
――そこまで深く相談者に寄り添われるというのは驚きです!
堀井 弁護士のスタイルとしては珍しいかもしれませんが、勝つために必要なことだと思っています。情報不足で負けてしまっては申し訳ないですからね。今ではノウハウも揃ってきて、スムーズにお話を伺えるようになりました。
ただ、相談に来られず、どうすればいいのか分からない方が大半だと思っています。そういった方々の助けになるよう、本の出版だけでなくTwitterも始めました。
実は、本の出版もTwitterも、相談者からご提案いただいて始めたものです。私は当事者ではないので、どうしたら伝わるのか、何に勇気づけられるのかといった感覚を、相談者に教えていただいています。
――様々な方法でモラハラについて伝えようとされているのですね。モラハラに関する講演もされていますが、どのような事を伝えていらっしゃるのでしょうか?
堀井 講演の目的は、「被害を自覚することで必ず道が開けてくる」とお伝えすることです。被害を受けていてもどうしたらいいか分からないという方はたくさんいらっしゃいます。そこで講演では、解決への最初の道筋や、解決方法は離婚だけではないということ、被害を受けている方にも様々な権利があることなどをお伝えしています。
――最後に、世の女性に向けてメッセージをお願いします。
堀井 結婚後に社会との関係を絶ったり夫に頼りきりになったりしていると、いずれ身動きが取れなくなり、モラハラなどの被害に遭った際に逃げ出せなくなります。結婚後も趣味を持ったり、仕事をしたり、パソコンなどの苦手なことにもトライしていったりと、自立できるようにすることが大切です。何かあった時でも自分自身を守れるよう、力を付けていきましょう。
――本日は貴重なお話をありがとうございました。
堀井亜生 ほりいあおい
堀井亜生法律事務所 代表弁護士
弁護士として第一線で活躍する傍ら、「ホンマでっか!?TV」などテレビ出演多数。また、多数の企業・病院の顧問、執筆・講演活動など幅広く活躍中。主な講演テーマは、労務・マネジメント、だまされる心理、老後トラブル解決、モンスタークレーマー、ハラスメントなど、多岐に亘る。著書『モラハラ夫と食洗機』他。
プランタイトル
モラハラに遭わないための心がまえ
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