共働きが主流となった現代、仕事と家庭の両立に悩む方は少なくありません。同じようにジレンマに悩んだ末に大企業から転身し、自分の望む生き方を叶えた女性がいます。株式会社MiraiE代表取締役の三木 佳世子(みき かよこ)さんです。

三木さんの生き方の秘訣は、コミュニケーション力である「伝える力」ー。「今が一番幸せ」と話す三木さんに、「伝える力」の効果と自分らしく生きるコツをお聞きしました。

NHKを退職し、独立へ。ジレンマの末に見つけた望む生き方

▲NHKに勤務されていた頃の三木さん。「NHKスペシャル」や「クローズアップ現代」など100本以上の番組制作に携わり、菊池寛賞・NHK会長賞を受賞された

――三木さんはNHKでディレクターを務めていらっしゃいましたが、なぜ報道の道に進まれたのですか?

三木 元々、大学での研究テーマが「多文化共生社会の実現」だったので、違いを認め合える世の中を作る仕事がしたいと考えていました。小説や演劇といった作品を通じて世の中に影響を与えられる人になれたらいいなという夢があったのですが、高校生の頃に両親が離婚したことで、大学卒業後は母を養える仕事に就く必要がありました。その条件の中でも、テレビ番組を通して人の心を動かすことができるNHKに入社しました。

――元々、人に何かを伝えることがお好きだったのですか?

三木 いえ、幼少期は人前で話すこともできない内気な子でした。小学生のときに関西から東京に引っ越したのですが、関西弁を理由にいじめられてしまって…。そこから、「口を開くと悪く言われる」と思い込んで、人と関わることが難しくなってしまったんです。

それでも「人と関わりたい、分かり合いたい」という思いでダンスや演劇を始めたことで、何かを表現することを通して誰かと繋がる喜びを少しずつ知り、変わっていきました。

――NHKではどのようなお仕事をされていましたか?

三木 NHKのディレクターは、企画のネタ探し・ロケ・インタビュー・編集など、番組が放送されるまでに必要な作業全てに携わります。大変ではありましたが、自分が世に伝えたいことを形にして、それが多くの人に届くというのは、とてもやりがいのあることでした。

多くの方に取材をさせていただきましたが、取材対象者が友人にも家族にも話していないことを話してくれることもあるんです。そこまで人の人生に深く関われるというのも、とても大きなやりがいでした。

――やりがいもあり受賞されるほどの実績も残されていた中で、なぜキャリアチェンジをされたのですか?

三木 一番のきっかけは出産でした。出産前は仕事とプライベートの区別がつかないほど仕事漬けの毎日を送っていましたが、産後はそんな働き方はできません。会社側も働きやすい環境作りをしてくれましたが、仕事と育児のどちらにも100%の力を出せない状況に苦しくなってしまったんです。

そんなときにセミナーでサイボウズ株式会社の働き方を知って驚きました。サイボウズでは性別・社歴・状況に関わらず、短日数勤務や時短勤務など、誰もが好きな働き方を選択できるんです。

ちょうどサイボウズで組織づくりのノウハウを販売する事業が立ち上がるタイミングだったこともあり、「このメソッドを広めることが、自分と同じように働き方に悩む人々を救うことになるのではないか」と考え、サイボウズに転職しました。

――さらに独立し、株式会社MiraiEを立ち上げられたのはなぜですか?

三木 サイボウズでの仕事もとてもやりがいがありましたが、培ってきたスキルを活かしきれていないと感じ、相談コンサルなどの副業をはじめたんです。この副業で自分の経験がダイレクトに人の役に立つ感覚を知ったことが、起業を志す芽になりました。

その後ベンチャー企業の役員になり、より高い自由度で仕事ができるようになりました。でも、その分仕事量が増えてプライベートの時間が減り、子どもにストレス症状が見られるようになったんです。子どもにストレスをかけていたことに思い悩み、私自身もメンタルを崩してしまいました。

仕事と家庭とのジレンマの中で「私が望む生き方は何だろう?」と考え、思い至ったのが独立でした。それまでは人が作った会社の推進力の一部として働いてきましたが、「0から自分で考えてやってみたらどうなるんだろう?」と、ワクワクしたんです。

選択肢は無限大。望む生き方を実現するファーストステップ

▲三木さんが代表取締役を務める株式会社MiraiE。「自分らしさを表現できる人で溢れた社会を作る」をミッションに、研修・講演会やプロデュース、動画制作などを行っている(引用:株式会社MiraiE公式サイト

――三木さんは「自分の生き方は自分で選べる」を信条とされていますが、そう考えるようになったきっかけは何でしたか?

三木 私がNHKを退社するとき、多くの人に「辞めないほうがいい」と止められました。でも「あのときNHKを辞めていれば…」なんて後悔はしたくないと思って退社したんです。その結果、今が一番幸せを感じています。

人生は、自分が思い描いたことしか叶わないんです。「ママならこうあるべき」「社会人ならこうあるべき」といった考えに縛られてしまう方は多くいらっしゃいます。私も「こうあるべき」に縛られて、心も身体もすり減ってしまった時期があります。でも、勇気を出して一歩踏み出すだけで、選択肢は無限に広がっていることを実感したんです。

そのため、まず自分の本音に向き合い、そこから選択肢を広げていくことの大切さを講演会等で伝えていきたいと思っています。

――多くの方がキャリア形成に悩む原因は何だとお考えですか?

三木 学校教育や家庭において、正解があるものだと刷り込まれている人が多いことが大きいと思います。日本では「自分はこうしたい」と表現する場が非常に少なく、そのため自分の価値観を理解できていない人も少なくありません。自由な選択の可能性を提示されても正解を求めてしまうことが、キャリアに迷いや不安が生じる原因ではないかと考えています。

――様々な制約がある中で自分の望むように生きるというのは、難しさもあると思います。望む生き方を実現するためには、何が必要なのでしょうか?

三木 大切なのは、「自分の想いと言葉を持つこと」だと思います。人により様々な制約があると思いますが、まずは「自分が何を大切にしたいのか」「どう生きたいのか」を自分の言葉で整理することが出発点です。そしてそれを人に伝えてみるのです。「私はこうしたい」と発したことで、必要な情報が引き寄せられていくことはとても多くあります。

まずは友人や家族など、本当に信頼できる人に少しずつ話してみることがコツです。身近な人に話すことが難しい方は、コーチングやカウンセリングなどの外部サービスを利用するのも1つの方法です。安心できる人に話して感覚を掴めたら、さらに話す範囲を広げていく。そんなベイビーステップが大切だと思います。

人に選ばれチャンスが巡る。「伝える力」の効果と実践法

▲株式会社MiraiEでは「伝える力」を活かした起業支援なども行っている(引用:株式会社MiraiE公式サイト

――三木さんは「伝える力」を軸に事業を展開されていますが、「伝える力」を身につけることにはどのようなメリットがあるのでしょうか?

三木 人間関係でもキャリアでも、「人から選ばれる存在」になってチャンスが巡ってくるようになります。社内を見ていても、仕事ぶりや能力はあまり変わらないのに、なぜか目をかけてもらえる人と、評価されにくい人がいますよね。その違いは、伝える力だと私は思います。

似たような人ばかりの中で誰かを選ぶのは難しいものです。自分の価値を相手にきちんと届けなければ、「あなたがいい」と選ばれないんです。自分の思いや価値を伝えて選ばれる人になれば、人間関係もキャリアも自分で選べるようになっていきます。

――講演会等で「“伝わる準備”ができている人の在り方が、人を動かす」とお話されていらっしゃいますが、これはどのような意味でしょうか?

三木 誰かに何かを伝える際、多くの人は言葉に注力しがちですが、そもそも相手が受け取れる状況でなければ伝えたいことを受け取ってもらえません。まずは相手の心を開いて、「この人の話なら聞いてみよう」と思ってもらえる状態を作る必要があります

そのための具体的な方法は、主に3つあります。「相手の状況や感情を想像すること」「表情や声、姿勢、服装といった非言語で表現できる部分を整えること」「自分の実感や本音、感情が乗った言葉で話すこと」です。

自分が伝えたい相手は誰なのか、自分の目的は何なのかをきちんと意識してから発することがとても重要なのです。

「伝える力」で人生は変わる。自分らしさを表現する大切さ

▲三木さんの講演会の様子。老若男女問わず幅広い参加者が実践的に学べる内容になっている

――キャリア形成や「伝える力」について、講演会ではどのようなお話をされていらっしゃいますか?

三木 言語化の一歩先にある非言語でのコミュニケーション力や表現力の大切さ、そして自分らしさを言葉にして周囲に影響を与えていく方法についてお話ししています。

基本的には、私自身の経験に基づいた具体的なエピソードを通して、「自分だったらどうだろう」と考えていただき、参加者同士で意見をシェアするワークを交えることが多いです。ワークショップデザイナーという資格も持っていますので、話を聞くだけではなく、行動変容につながる時間になることを特に大切にしています

――三木さんは情報を受け取る力であるメディアリテラシーについての講演会もされていますが、メディアリテラシー不足によりトラブルに見舞われる人には何か傾向がありますか?

三木 発信者の背景を意識せず感情的に反応したり、情報の裏付けを取らずに拡散してしまったりといった傾向があると思います。これらの原因は、情報が作られる構造を理解していないことにあると私は考えています。

インフルエンサーが発信によって収益を得ているように、情報を流す人には何か目的があるものです。そういった構造があることを意識すらせず、流れてくる情報をそのまま受け取ってしまう人が少なくないのです。

――意識していない状態からリテラシーを身につけるのは難しそうですね。

三木 確かに、情報の背景や目的意識を読み取ることは簡単ではありません。そのため、私の講演会では様々な事例を通したケーススタディを行っています。「この情報は誰がどんな意図で発信したのか」「同じ事実でも、違う立場からの発信ではどんな内容になるのか」と考え、情報を俯瞰する経験をすることで、情報に対し冷静に向き合えるようになります。

物事はすべて、事実と解釈です。情報は事実に解釈が混ざった状態で流れてくるものなので、事実と解釈を分けるトレーニングも行っています。情報の構造を理解し、事実と解釈を分ける意識を持つようになると、人間関係もスムーズになっていきます

メディアリテラシーは、メディアやSNSなどの遠い話だけではありません。日常の家族の会話であっても、相手が話すことをどう受け止めるかというのは、情報受信側としてのスキルアップになります。円滑な人間関係構築にも役立つことなので、様々な方に講演会を聞いていただきたいと思っています。

――講演会で特に伝えたいメッセージは何ですか?

三木 「コミュニケーション力によって人生が変わる」ということです。伝えることが少しでもうまくいくようになると、それまでうまくいかなかったこともスルッと変化していきます。自分のコミュニケーション力が変わるだけで、オセロのように周りが変わっていくんです。私の講演会では、そんなコミュニケーション力に一度目を向けていただけたらうれしいと思ってお話ししています。

――最後に、三木さんの夢をお聞かせください。

三木 私の夢は、肩書きや年齢などの境遇にとらわれず、誰もが「私は私の人生を生きている」と胸を張れる社会を作ることです。

今は働き方も生き方も本当に多様で、正解がない時代です。だからこそ、「自分は何をしたいのか」「どんな価値を届けていきたいのか」といったことを自分の言葉で表現できることが大切になっていきます。

人生はいいことばかりではなく、時にはつらいことも起きます。それでも人生を丸ごと肯定して、自分らしさを表現して生きていける人を増やしたいと思っています。そのために講演や研修を通じて、一人でも多くの方が自分らしい言葉と存在感で輝くお手伝いをしていきたいです。

――貴重なお話をありがとうございました!

三木佳世子みきかよこ

元NHK報道・ドキュメンタリーディレクター 存在感を高める表現力トレーナー 印象マネジメント&表現コンサルタント

慶應卒後、NHKディレクター12年。NHKスペシャル、クローズアップ現代など100本以上を制作、菊池寛賞・NHK会長賞受賞。現在は「伝える力」を軸に、幅広く事業を展開。[声や表情、リアクション等の「非言語」コミュニケーション力の重要性][独自のキャリア構築法][プレゼン・発信力]などの講演・研修は必聴。

プランタイトル

“伝える”ではなく“伝わる”人の共通点
~NHKで2000人を取材して見えた、信頼と共感のつくり方~

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