
「ここに住んでよかった」と住民が実感できる町をつくるには何が必要なのか――。
東京都立川市の大山団地で長年自治会長を務めてきた佐藤良子さんは、その答えを実践で示してきました。
大山地区初の女性自治会長として立候補し、男性中心だった自治会の体質を改革。子育て支援や高齢者見守りをはじめ、孤独死ゼロの実現や団地葬の導入、大学生との世代交流など、次々と新しい仕組みを生み出してきました。
K市で開催された男女共同参画オンライン講演会では、その歩みを振り返りながら、「人と人の絆」を取り戻すことの大切さを熱く語りました。
本レポートでは、佐藤さんの言葉とともに、地域に息づく挑戦の数々をご紹介します。
官公庁・学校・PTAチーム
講師 : 佐藤良子 氏
開催時期 : 2025年6月下旬
主催者 : K市 男女共同参画担当
講演時間 : 90分
聴講者人数: 90人
講演タイプ: オンライン開催
女性会長が切り拓いた新しい自治の形

▲東京スタジオでのライブ配信での様子
K市男女共同参画講演会に登壇したのは、東京都立川市の大山団地で長年自治会長を務めてきた佐藤良子さん。今回の講演は、弊社の東京スタジオからオンラインで中継され、それを市民がホールに集まって聴講する形式で開催されました。
講演では冒頭、大山自治会の取り組みを紹介したドキュメンタリー番組の映像が流れました。
26棟に約4,000人が暮らす大山団地では、役員は男性ばかりで、若い世代の意見も退けられる閉鎖的な雰囲気が漂っていました。
佐藤さんは自治会を一から改革すべく、36年ぶりの女性候補者として名乗りを上げました。旧態依然の考えから抜けきれない旧役員による差別的発言や嫌がらせにも動じず、佐藤さんは、就任直後から「住民こそが主人公になれる自治会」を掲げ、組織体質の抜本的な改革に取り組みました。
佐藤さんは「男女の役割を固定化するのではなく、お互いの得意を活かしていけば地域はもっと良くなる」と語り、男女共同参画の視点を地域運営に持ち込みました。その姿勢は、多くの女性や若い世代に勇気を与えるものでした。
子育て支援から広がった安心のネットワーク

▲イメージ画像
佐藤さんの取り組みの出発点となったのは、当時問題視されていた児童虐待の問題でした。就任まもなく「子育てに悩むお母さんを支えたい」と考え、保育士や看護師など退職した専門職の女性たちを中心に「ママさんサポートセンター」を設立。子どもの一時預かりや保育園への送迎、日常の育児相談まで幅広く対応しました。
この活動は次第に広がり、5年後には「子育て・高齢者サポートセンター」へと発展。親の病気や急な用事で困ったときに子どもを預かったり、学校行事のサポートをしたりと、地域ぐるみで子育てを支える仕組みが根づいていきました。
この取り組みは単なる一時的なサービスではなく、女性たちの力を地域に活かし、世代を超えて安心のネットワークを築くきっかけとなったのです。
孤独死ゼロを目指した挑戦

▲イメージ画像
また、佐藤さんが会長就任当時、団地でも高層住宅の建て替えにより近所付き合いが減ったことで、孤立した生活を送る人が増え、「孤独死」も大きな社会問題になっていました。「誰も一人で亡くならせない」という思いで取り組んだのが、安否確認ネットワークづくりでした。ボランティアによる住民の見回り活動とともに、電気・ガス・新聞など生活インフラに関わる人々と協力し、住民の異変を見逃さない体制を整備。近所の住民が多めに料理を作り、独居高齢者宅におすそ分けするシステムも構築しました。
加えて、住人が気軽に参加できる生け花やカラオケ、ダンスなど100を超えるサークル活動を立ち上げました。これにより住民間の自然な交流が生まれ、孤立を防ぐ仕組みができました。その結果、わずか5年で「孤独死ゼロ」を達成。高齢化が進む都市部において画期的な成果となり、多方面から注目を集めました。
この活動は単なる見守りにとどまらず、人と人を結びつける「居場所づくり」そのものでした。住民同士の交流が命を救った事例もあり、佐藤さんは「地域のつながりこそが命を守る」と力強く語りました。
団地葬という新しい仕組み
孤独死ゼロを達成する中で、もう一つの革新的な取り組みが団地の集会所を利用した「団葬」です。ある住民から「葬儀費用を貸してほしい」と相談を受けたことをきっかけに、自治会で葬儀を執り行う仕組みをつくりました。
都会の中で失われつつあった「地域で見送り合う文化」を取り戻し、住民からは「安心して最期を迎えられる」と大きな支持を集めています。
佐藤さんは「昔の村のような関係性を都会に再現したかった」と語り、葬儀を地域コミュニティの一部として位置づけました。ここには「生きる支援」だけでなく「死をどう支えるか」という包括的な視点が息づいています。
世代をつなぐ新しい支え合い
大山団地でも住民の高齢化は進み、自治会の役割を担うのが難しいという声が増えてきました。そこで佐藤さんは、若い住民が「サポーター」として高齢の自治会役員を支える仕組みを導入。自治会業務や役員の負担を補助し、イベントなど体力を要する場面では大学生の力を借りるようにしました。
この取り組みは単なる労力の補完にとどまらず、世代を超えた交流のきっかけとなりました。自治会きっての大イベントである夏祭りは、大学生が企画・運営。その間、大学生は高齢の住民宅にホームステイをします。
高齢者は若い世代に経験や知恵を伝え、若者は地域活動を通じて学びを得る。こうした相互作用が団地全体の活力を生み出し、持続可能な町づくりにつながっています。佐藤さんは「自分たちだけで抱え込まず、外からの力も借りることで、住民のつながりが広がった」と語りました。
満足度の高い講演会と広がる反響

▲質疑応答の様子
今回の講演会には地域の自治を担う方々が多く参加し、事前申込を大きく上回る約90人が集まりました。
質疑応答では「自治会に入りたがらない住民をどう巻き込むか」「女性役員を増やすにはどうすればよいか」といった具体的な質問が相次ぎ、佐藤さんは実践経験を交えて丁寧に答えました。会場は終始活発な雰囲気に包まれ、参加者が自らの地域に生かそうとする熱意が感じられる時間となりました。
主催者からは「質疑応答が途切れず充実し、参加者からも『楽しく聴講できた』『とてもためになった』『最後の対話ワークが良かった』といった声が多く寄せられた」との感想が届いています。
佐藤さんの講演は、子育て支援から孤独死ゼロ、団地葬、そして世代を超えた支え合いへと広がった実践を紹介し、参加者の高い満足度が示すように学びとヒントに満ちています。
地域活性化や男女共同参画をテーマとする講演として多くの場面で参考になる内容であり、今後の企画にも大いに役立つものとなるでしょう。関心をお持ちの団体の皆さまにも、ぜひ一度ご検討いただきたい講演です。
佐藤良子 さとうよしこ
東京都立川市大山自治会相談役
東京都立川市大山自治会長を15年間務め、現在は相談役。在任中に自治会加入率100%、自治会費回収率100%、孤独死ゼロ、格安自治会葬を手掛けるなど、そのアイデアと行動力で「日本一の自治会」と称される自治会を育て上げた。これからの地域づくりのヒントになればと各地で講演を行っている。
講師ジャンル
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ビジネス教養 | 地域活性 |
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プランタイトル
住民自治によるまちづくりの視点
~孤独死ゼロへの大山自治会の挑戦~


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