「フォローアップ」とは、ビジネスシーンで人に対して使う場合、学び得た知識やスキルを定着させるために、繰り返し確認・練習をさせたり、能力不足をサポートしたりすることです。そして、新入社員研修では、研修後にフォローアップをしたか、それともしなかったかで、新入社員のその後の離職率に大きく影響します。
新入社員が、自ら意欲的に働く人材となるようにするには、フォローアップ研修でどのようなことを伝えるべきなのでしょうか? 防災士であり、防災アトラクション ファシリテーターとしても活動する中村成博氏に解説していただきます。
【監修・取材先】
中村成博氏
株式会社Gentle 代表取締役
防災士/防災アトラクション ファシリテーター
やる気にさせる以上にその気にさせるナビゲーター
新入社員にしっかりと伝えたい「ビジネスの本質」
フォローアップ研修では、まずビジネスの本質について再確認します。
多くの新入社員にとって、入社してからの数年間は仕事や環境に慣れるのに精一杯で、ビジネスの本質について考える機会などそうそうない、というのが現実でしょう。「働くことの意味」「仕事とは何なのか」というビジネスの本質がわからないまま仕事を続けていくと、いずれ「自分は何のための働いているのだろう?」「この会社に自分は必要なのだろうか?」と悩むようになり、“壁”にぶち当たります。
そのようなことに陥らないためにも、フォローアップ研修では新入社員に、ビジネスの本質をしっかりと心に刻ませることが大切なのです。
「働くこと」と「仕事」の本質
そもそも、「働く」とは、「仕事」とは何なのでしょうか?
「働く」は「はた(傍)+らく(楽)」である、という考え方があります。「傍にいる人を楽にさせる」とは「人を喜ばせる」ことです。つまり、それが「働く」の本質であり、そのために何をすべきかを考えるのが「仕事」であると、私は考えています。
人を喜ばせることが「働く」ことなのであれば、人の困り事や悩み事を解決するために行動することは「仕事」です。
「仕事」では、周囲に目を向けて、他の人がどんなことに困っているのか、どんな悩みを持っているのかを考えます。人の困り事や悩みを解決することは「人を喜ばせる」につながります。「仕事」は「働く」の過程であり、「働く」は「仕事」のゴールでもあるのです。
例えば、コロナ禍により、生産ラインを停止した企業も多くありました。しかし、マスクやフェイスシールドが足りないという世間の困り事をいち早くキャッチし、それまで経験のないマスクやフェイスシールドの生産に業務を切り替えた企業もあります。これらの企業は、従来の業務にこだわらず、人を喜ばせるには何ができるかを考え、既存の工場設備でも可能なマスクやフェイスシールドの生産を思いついたわけです。
ここで「人を喜ばせるには何をすべきか?」という「働く=ビジネス」の本質に基づいて行動できなかったら、変革の波に押しつぶされていたかもしれません。ビジネスの本質からぶれずに、社員が逆境に立ち向かったことで、厳しい環境の変化に対応し、生き抜くことができた成功例といえます。
これからは”問題発見能力”の高い人材が求められる
製造業だけでなく全ての業種において、これまで人間が担っていたルーティン業務は、機械やAIにシフトされています。とはいえ、機械やAI自体が、時代のニーズを見据えて臨機応変に対応することはできません。今後は、人が何に困っているのか、何が必要なのか、時代のニーズを察知して、スピーディに動ける人材が要求されます。
周囲の人が何に困っているのか、どんな問題を抱えているのかを推測し、判断できる力。私はそれを「問題発見能力」と呼んでいます。この問題発見能力が高い人材は、自分や自分が属する会社が何を求められているのかを素早く察知でき、その解決策を具現化できます。
新入社員をそのような人材に育成するためにも、彼らには「働くこと」と「仕事」の本質をしっかりと認識させる必要があるのです。
仕事のできる人とできない人の決定的な違い
若手のうちは特に、自身の仕事ぶりが上司や同僚にどう評価されているのか気になりがちです。研修では、「仕事のできる人/できない人の決定的な違い」について解説しています。仕事のできる人とできない人の違いは、「凡事徹底」を「継続」できるかどうかにあります。
私が新入社員に伝えている凡事徹底とは、
- 挨拶
- 感謝
- 掃除
の3つです。この3つを徹底するように説いています。
「凡事徹底」とは「当たり前のことを徹底的に行うこと」を意味します。一見、誰でもできるように思えるかもしれませんが、ただやるのではなく、周囲から「そこまでやるの?」と言われるくらい徹底して行うことが重要だとお伝えしています。
例えば、挨拶については次のように解説をします。
上司や先輩、クライアントに挨拶する。これは社会人として当然のことです。上司、先輩、クライアントは自分にメリットのある相手であり、挨拶することで自分の評価も高くなります。それでは、会社の後輩、プライベートで交流のある目下の人や近所の人たちなど、自分にとって直接的なメリットがない相手に対してはどうでしょう? 自分から進んで挨拶している人はどれほどいるでしょうか?
凡事徹底とは、社内・社外問わず誰に対しても、自ら進んで挨拶することも含みます。そして、気が向いた時だけではなく継続することを指します。
ポイントは「徹底」と「継続」。何においてもこの2つを意識して行うことで、他人を寄せつけないほどの自分だけの強みに加え、周囲からの信頼も得られます。これらは今後の人間関係の構築に非常に重要なものとなります。
このように、フォローアップ研修では日常生活における心構えもお伝えし、新入社員の意識改革につなげています。
自発的な行動を促す「5つのやる気スイッチ」とは?
研修担当者から、「新人研修では、なかなか社員のやる気を高めることができない」という声も聞かれます。新入社員にやる気を出させるためには「褒める」ことが大切だということをよく耳にしますが、ただ褒めるだけでは人は育ちません。
社員は、一人ひとりが自分自身のやる気スイッチを見つけ、さらに、やる気をコントロールする方法を知っておくことで、自発的に動ける人材へと成長できます。
私の講演では、以下の5つのやる気スイッチについてもお話ししています。
1.成長実感を得られる
人は誰でも、ある程度の年齢になるまでに、結果にフォーカスする習慣がついています。他人と比べて自分が結果を出せていれば自分自身を認めることができますが、結果が出せていない場合は、どんどんと自信がなくなってしまうものです。そんなときに社員の皆さんに提案しているのが、「結果ではなく、それまでの行動や意欲も評価してください」ということです。
例えば営業であれば、営業成績だけではなく、「今月は〇件回れた」「〇〇社の担当者とさらに近づけた」といった努力の行動や意欲にフォーカスできれば、成長実感を味わうことができます。
これは、上司が部下を評価するときにも重要です。営業目標に達しなかった場合は、「今月は先月より訪問件数が多かった」「営業資料の準備が非常によくできていて、営業へのやる気が感じられた」といった努力の行動や意欲を評価してあげることで、部下は「(自分は)ここまで成長できた」と実感でき、次のやる気へとつながります。
2.承認欲求が満たされる
誰もが少なからず、人に認められたいという承認欲求を持っています。しかし、承認欲求があることで、常に人の目を気にして動けなくなってしまう場合もあります。
ですから私は、まずは社員の皆さんに自分の心の奥底にある承認要求を気づかせ、人からの評価を受けるばかりではなく、自分自身を認めてあげるよう促します。そして、自分で自分を評価できる習慣を身に付ける術を教えています。
「同僚に比べて自分の売上は少なかった」「同僚はできるのに自分はできない」などと人と比べるのでなく、「今月は先月に比べてここまで頑張れた」「どのように改善すればよいか考えられた」というように、以前の自分と今の自分を比べて評価するようにします。そうすることで、自己の中にある承認欲求が満たされ、他人からの評価を求める必要がなくなります。
3.自分の会社や仕事に誇りを持つ
世の中の仕事に価値のないものは一つもありません。全ての仕事に意味があり、人の役に立っているのです。私の研修では、ワークを用いて、新入社員の皆さんに今手掛けている自分の仕事が誰にどのように役立っているのか考える時間を設けています。そうすることで、自分の仕事に魅力や誇りを感じられるようになります。その気持ちは、仕事へのやる気持続に欠かせない要素となります。
4.仲間がいる
新入社員の期間はとかく、「ただ教わってばかりで役に立てていないのではないか」「うまくできないのではないか」などと「不安」を抱えながら仕事をしています。しかし、自分一人ではない、一緒に頑張っている仲間がいると思えるだけで、仕事への意欲を維持することができます。
同じ境遇にある仲間と喜びや苦しみを分かち合える環境は、結果的に離職率を抑えることにもつながります。
5.説得ではなく納得し取り組む
同じ仕事でも、納得して取り組むのと説得されて取り組むのとでは、仕事の質が変わってきます。
「説得」は「説き伏せる」ことでもあり、前提として、相手の積極的理解の有無は考慮されていません。一方「納得」は、自らの積極的理解と自発性があるため、やる気に影響します。
例えば、「これをやった方がいいから」と一方的に説得され、業務を指示されたとします。しかし、その業務の意図がしっかり理解されておらず納得もできていなかったために、指示者の意図にそぐわない結果になってしまったということは多々あることです。
逆に、業務を担当する者が、その業務がなぜ必要なのか、どんな結果をもたらすのかをしっかり理解し、納得のうえで取り組んだとします。担当者は、必要性を理解したうえで取り組んでいるので、自ら積極的に工夫しながら業務を遂行します。そのような進められた業務にはクオリティの高い成果が見込め、結果も高評価になるわけです。
新入社員が自らのやる気スイッチを知り、やる気をコントロールできるようになることを目指し、フォローアップ研修では特にこの部分に注力して解説しています。
新人には、仕事の「やり方」ではなく「あり方」を理解させる
新入社員研修ではスキルや知識の習得に重きを置かれがちです。しかし、社員自身が「なぜ働かなければならないのか」というビジネスの本質を理解していなければ、スキルや知識も意味のないものとなってしまいます。
大切なのは、社員に仕事の「やり方」を教えるのではなく、仕事の「あり方」を理解させることなのです。社員が仕事の「あり方」を理解していれば、「やり方」は自分で工夫できるようになります。「あり方」を認識している社員は、将来的に会社のかじ取りをしていく人材となります。
そのような人材を育成するためにも、フォローアップ研修は重要です。新人研修の最後の仕上げとして、フォローアップ研修の導入をおすすめしています。
中村成博 なかむらまさひろ
株式会社Gentle 代表取締役/管理者研修講師 防災士 防災アトラクション ファシリテーター やる気にさせる以上にその気にさせるナビゲーター
コンサルタント
今までの経験から、どの業種・業態も≪人≫が肝であり、この≪人≫にフォーカスして本質に目を向け取り組むことにより結果が変わることを実感。その場だけでモチベーションが上がる研修や講演ではなく、持続性を意識し、実践に沿った講演・研修が人気を博している。
プランタイトル
新入社員フォローアップ研修
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