人はさまざまなストレスを受けて生きています。
ストレスは自己を成長させるのに必要な要素ではありますが、ストレスを受けすぎると、食欲不振や過食、不眠、頭痛、体調不良など心身にさまざまな不調をもたらします。

このストレスとうまくつきあう方法として、今、「マインドフルネス」という方法が注目されています。
マインドフルネスとは、1979年にマサチューセッツ大学医学大学院の教授であるジョン・カバット・ジン氏が、仏教的な瞑想に心理学的な技法を採り入れ、ストレス管理法として体系化したものです。
日本でマインドフルネスの普及に努める葉月ようかさんに、マインドフルネスに出会ったきっかけや考え方、実践方法についてお聞きしました。

■目次

初めての海外赴任で襲った体調不良、マインドフルネスとの出会い

――葉月さんという人となりを知るために、まずはバックボーンについてお聞きしたいと思います。小さいころはどんなお子さんだったのでしょうか?

葉月 親は自営業で、三人兄弟の真ん中、いい意味で自由に伸び伸びと育てられました。小学校の時は生徒会の副会長を任されたり、中学校は学校の代表として皆の前に立って発表する機会も多かったです。色々と先生から任されることも多く、自然と「人の期待に応えたい」と思うような性格になっていました。

――責任感が強い方だったのでしょうか?

葉月 そうですね。1996年に転職して旅行会社に入社しました。海外旅行の仕事にやりがいを感じ、仕事が好きで自ら率先して仕事を行っていました。そんな中、2013年に海外支店勤務の社内公募に応募し、支店長として初めて海外赴任することになったのがモルディブ支店でした。

――初めての海外赴任、色々と大変なことも多かったのではないでしょうか?

葉月 モルディブは、イスラム教の島国で生活習慣や文化も全く異なります。しかも、外国人の部下を持つのも初めてで、彼らは仕事に対する考え方も仕事のスピードも日本と全く違うので、驚きの連続でした。とはいえ、日系企業でしたので、仕事のスピードは日本と同じように求められます。勤務時間が終わるとすぐに家に帰る外国人の部下に対して、日本の会社からは期限をせかされる中、日本人スタッフにそのしわ寄せが来て、休日出勤、残業が当たり前になっていました。

▲モルディブ時代の画像(画像:葉月さん提供)

――島なのでのんびりというか、おおらかというか、忙し過ぎる日本とはかなりのギャップがあったのではないでしょうか?

葉月 そうですね。私が赴任した頃は、(モルディブでは)仕事を期限内に間に合わせようとする意識も薄かったですし、ましてイスラム教の国で、まだまだ働く女性も少なかったので、色んな場面で違いを感じさせられることがありました。

そうしていると、知らず知らずのうちにストレスが溜まっていたのでしょうね。
眠れない、食べられない、という症状が出るようになりました。会社の健康診断で検査をしても、何も悪いところを指摘されることもなかった。ただのストレスだろうと思っていました。

――慣れない土地や生活に加え、慣れない環境での仕事は、責任感の強い葉月さんにとって、さぞかし辛かったことと思います。

葉月 それが、残業は多いし、思い通りにならないこともあるけれど、そんな中でも楽しいこともあり、今思えばとても面白い体験をさせていただきました。仕事上、リゾートホテルに泊まる機会も多かったのですが、その時は旅行客になった気分でのんびり過ごしていました。

それでも、眠れない、食べられないという状況が続いていました。そんな時に、一時帰国することになり、友達と久しぶりに会うことになりました。「最近どう?」と友達に聞かれ、「実はよく眠れないし、食欲もわかない」という話をしました。すると、その友達から、当時ベストセラーとなっていた久賀谷 亮先生の著書『世界のエリートがやっている 最高の休息法』を勧められました。 そこにはマインドフルネスのことが書かれてあったのですが、まさにその本に書いてある症状が私の中で起きていました。

――その本にはどのようなことが書かれてあったのでしょうか?

葉月 久賀谷先生はアメリカのイエール大学で脳科学を学び、25年以上アメリカで脳科学の研究をされています。人は何もしていない状態でも、脳では活発に動いている状態で、私たちは1日に6万回以上思考を繰り返しているそうです。慢性的な疲労はここからきていると書かれてありました。
この状態は「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」と呼ばれ、これが、私たち人間の脳のデフォルトになっています。そしてDMNは脳の全消費エネルギーの70~80%を使ってしまっています

欝やくよくよし過ぎる人はDMNに支配され、特に脳が疲労状態になりやすくなります。
この脳の活動を抑えることができる方法、それが「マインドフルネス」です
マインドフルネスを続けていくと自分を俯瞰できる力がついていきます。反対に脳の疲労状態が続くと、過去や未来のことばかり考えて、休んでも疲れが取れない、何かが気になって眠れない、イライラするといった状態に陥ってしまいます。

まさに、私の中で起きている状況だとストンと腑に落ちました。今考えると、自律神経の交感神経が優位になっていたのだと思います。人はストレスを感じると交感神経が優位になりますが、逆にリラックスしている状態の時は副交感神経が優位となります。交感神経が優位な状況は、戦うモード「闘争、逃走、フリーズ状態」となり、瞳孔が開き、血管が収縮し、胃腸は働きませんので、眠れない、食べれないといった状態になるわけです。

久賀谷先生のこの本には、脳を効果的に休ませる方法「マインドフルネス練習方法」について物語形式でわかりやすく書いてありましたので、試してみようと瞑想を取り入れるようになりました。

 「今」に意識を向けるマインドフルネスの考え方

▲ヨガを行う葉月さん(画像:葉月さん提供)

――マインドフルネスとはどういう考え方なのでしょうか?

葉月 マインドフルネスという言葉を世界中に広めたのはマサチューセッツ大学医学大学院教授のジョン・カバット・ジン氏で、博士はマインドフルネスを「意図的に今この瞬間に評価や判断とは無縁の形で注意を払っている状態」と定義しています。

ちょっと難しいですが、簡単に言えば、今この瞬間の経験に気づいている状態です。例えば、ご飯を食べているときはご飯を食べている自分に気づくこと。スマホやテレビを見ながらの食事は、「ながら」なので食事に集中していることにはならない。そういうときは、食事に集中していないので、食べ過ぎにつながったりします。

このような「心ここにあらず」という状態はもっと心を疲弊させ、どんどん自分の心の状態、体の感覚に気づきにくくしていきます。

マインドフルネスでは、瞑想という方法を使いながら、食事や運動など目の前のことに集中することで、脳の過剰な活動を抑制し、「脳を休める」状態に持っていきます。

例えば、呼吸に集中することで、だんだんと雑念が取り去られ、集中力や感情のコントロールを司る脳の前頭葉にある「DLPFC(背外側前頭前野)」が活性化されることが科学的エビデンスでもわかってきています。

――マインドフルネス瞑想には具体的にどんなやり方がありますか?

葉月 私が最初に取り入れたのが、朝の瞑想とヨガです。ヨガはもともとやっていたので、それに瞑想を組み合わせて行うようにしました。最初は5分も座って瞑想することができなかったのですが、やっていくうちに30分以上座ることができるようになりました。

――私のように初心者でも気軽にできるものはありますか?

葉月 私がビギナーの方向けにオススメしてるのが、「食べる」瞑想です。
「食べる」瞑想では、まずは目の前の食べ物に意識を集中します。
最初は、食材の見た目や香りに意識を向けます。この食材はどんな育ち方をして、どんな旅をして来たのかを想像したり、食材の色合いやカタチなど丁寧に観察して、まず目で味わいます。

その後、香りをかいで、鼻で味わい、次に食材を手にとって、触感を楽しんでみたり、食材を耳に近づけてどんな音がするのか聞いてみたりします。

次にお腹の空き具合を観察します。1~10のスケールで自分は今どれくらいお腹が空いているのかを感じ、判定します。ダイエットを繰り返している人は本当の空腹感を感じられなくなっている場合が多いので、これはとても重要なステップです。

それから食べ物を口にして、一口ずつじっくりと味わいを楽しみます。噛むごとに味が変化していくのに気づいたり、どんな自動反応(唾液や噛み癖などの無意識の反応)をするのかに意識を向けます。

私の食べる瞑想のワークやセミナーでは、このようにじっくり味わって食事をしていくと、数口食べただけでお腹がいっぱいになる人もいます。

――「食べる」瞑想は何分くらいすればよいものなのでしょうか?

葉月 いろんな方法がありますが、私が開催しているランチ瞑想会では30分くらいかけてゆっくりと味わいながら瞑想します。

――「瞑想」というと座禅をイメージしていましたが、それとは違うんですね?

葉月 マインドフルネス瞑想は、今経験していることに意識を向けることなので、静かに座って行う座禅とは少し異なります。この「食べる」瞑想を続けていくと、自分の体に意識が向けられるようになり、自分の心や体の状態がわかるようになります。

▲「食べる」マインドフルネスのオンラインセミナーでの風景(画像:葉月さん提供)

――このセミナーを受講した方たちの感想をお聞かせください。

葉月 そうですね。コロナ禍はオンラインでグループや個人レッスンを行っていましたが、多くの方々が、これまでいかに「ながら食べ」をしていたのかに気づけたとおっしゃっています。おしゃべりしながら、新聞やスマホ、テレビを見ながら、仕事をしながら…。

「ながら食べ」では、食べ物の本当の味わいを感じることができません。「食べる」瞑想で食材だけに意識を向けることで、「プチトマトってこんなに甘いんだ」「レタスってこんなにみずみずしいものなのだ」と食べ物の新しい魅力を発見する方々も多いようです。

私自身もチョコレートが好きだったのですが、チョコレートで瞑想をしていたら、すごく甘いことに気づいて、チョコレートを食べなくてもよくなりました。今まで好きだと思っていた食べ物が嫌いになったり、逆に嫌いだと思っていた食べ物が好きになったりすることもあります。

――マインドフルネス瞑想をすることで、感覚が研ぎ澄まされるのかもしれませんね。

思考癖を理解し、ストレスをコントロール

――マインドフルネスによってストレスも軽減されるのではないでしょうか?

葉月 ストレスをなくすのは難しいですが、マインドフルネスを知ることで、ストレスとうまく付き合えるようになれます
また、食べたいと感じるときは、本当に空腹でエネルギーを欲しているときと、ストレス発散に欲するときと2パターンあります。マインドフルネスをすることで、そんな感情からくる食欲の違いにも気づくことができます。

――マインドフルネスの魅力は何でしょうか?

葉月 マインドフルネスを知る前は、自分の体調に鈍感でした。食べれなくなり、眠れなくなって初めて、マインドフルネスの存在を知り、自分はストレスを感じていたんだと、自分の心と体の状態に気づけるようになりました。マインドフルネスを続けることで、感覚が研ぎ澄まされていくので、自分の心や体の調子だけではなく、思考癖に気づくこともできました。

――思考癖とはどんなものでしょうか?

葉月 例えば、私の場合ですと、以前はだれかと理解しあえない時、「なんで理解してくれないのだろう」とその人のせいにばかりしていました。しかし、マインドフルネスをやるようになってから、自分はどんなことが嫌で、その想いはどこから来るのだろう、ともっと自分を探索したくなりました。

他にも、何か悪いことが起こると、すぐに自分にダメ出しをしていたのですが、自分の心の動きを俯瞰してみてみると、そこには自信のない自分がいることに気づきました。
さらに深く観察してみると、自信のなさや不安、恐怖はだれにもあるもので、自分だけではないこともわかりました。

――思考癖のパターンがわかると、そのパターンに陥らないように対策できるようになるのでしょうか?

葉月 そうですね。自分がつまづいたり、居心地が悪くなるポイントがわかるようになって、その際に、自分の心の状態を客観視していくと、「感情は誰にでもあるもの」「どんなこともはじまりと終わりがあり、長くは続かないもの」と思うようになりました。そして、嫌な事でも「そんなこともあるよね」と流せるようになります。

 ストレスをなくすことが解決にはならない

――ストレスを受けることで、脳が過剰な活動をし、それが心身に支障を来すわけですよね。ということは、ストレスを受けないようにすることも大切なのではないでしょうか?

葉月 ストレスを完全になくすことはできません。ストレスは生きていく上で必要なものです。狩猟時代、私たちの祖先は、危険を察知し、それがストレスとなることで、逃げようとする行動につながっていた。ストレスは自分を守るためのセンサーとなっているわけです。ですから、一概にストレスは悪いものではありません。

まずは日々の生活でどんなストレスがあるのか観察して、自分の中で感じているストレスにまずは気づきストレスに反応するのではなく、どう対応するのか、それが大切であると思います。今、私は「マインドフルネスストレス低減法」という8週間のプログラムを教えていますが、このプログラムでは、今起きている心の状態をあるがまま受け入れる練習をしていきます。

――「マインドフルネスストレス低減法」とは、どのようなプログラムなのでしょうか?

葉月 「自分が経験していることをあるがまま観察し気づきを高める」ことがマインドフルネスの基本的な考えであるため、その考えを元に、体の感覚を観察する「ボディスキャン」、「ムーブメント瞑想」、体のどこかに感じる感覚(痛み)、頭の中を流れてくる考え、心にわいてくる感情、聞こえてくる音など自分の中に訪れるものを観察する「座る瞑想」など数種の瞑想を組み合わせて、トレーニングを続けます。そうすることで、自分の心身を内観して評価や判断はせず、全てをありのまま受け入れることができるようになります。これは、生活の質(QOL)を高め、レジリエンス力を高めることにもつながります。

――ちなみにボディスキャンとはどんな風にするのでしょうか?

葉月 受講者は可能であれば仰向けの姿勢になって目を閉じてもらいます。講師が足の指の先から頭頂まで、体の部分部分に注意を向けてもらうように誘導していきます。「左足のつま先に意識を向けると、そこにはどんな感覚があるのか」というように、意識を向ける部位に聴講者の意識を誘導し、受講者はその部位に注意を集中して観察してみます。そうすると、普段は気づいていなかった感覚に気付いたり、さまざまな瞬間に変化があることに気づいたりします。それを繰り返すことで、痛みと上手につきあえるようになったり、体の感覚が研ぎ澄まされていったという受講生もいらっしゃいます。

過食対策プログラム「MB-EAT」とは?

――最近は「MB-EAT」に取り組んでいらっしゃるということですが、どういったものでしょうか?

葉月 MB-EATとはマインドフルネスに基づいた食事療法で、アメリカで過食症の方向けに開発されたプログラムです。アメリカではすでにたくさんの方が受講されていて、リバウンドすることなく続けられるダイエット方法として話題になりました。

――少量の食事で満腹感を感じられるようなプログラムなのでしょうか?

葉月 「MB-EAT」では内なる知恵、つまり元々自分に備わっている身体の感覚に気づき、食べたい欲求を、サーフィンの波乗りのイメージで感情を乗りこなす方法を学びます。また食べ物を変えるのではなく食べ方を変えるようなトレーニングをしていきます。そして、次の段階として「外なる知恵=正しい栄養の知識」などを身につけていきます。そうすることで、食事に悪戦苦闘するのではなく、食べることが喜びに変わり、自然にダイエットできる内容となっています。

マインドフルネスを学ぶ立場から教える立場へ

――マインドフルネスと出会ってから、それを専業とするまで、どんな経緯があったのでしょうか?

葉月 モルディブでの海外赴任は3年と任期が決まっていたので、一時帰国した半年後の2016年末には日本に帰任することになっていました。そのまま別の海外支社に行くこともできましたが、マインドフルネスを実践していくうちに、「自分にとって大切なものは何だろう?」と自問自答するようになりました。そんな時に今一緒に仕事をしているマインドフルヘルス の神経内科専門医である山下明子先生に出会いました。山下先生の考え方は、こうです。

病気を治すより、病気にならない生き方を伝えていきたい!
一生自分の足で歩き、食べることができる、そんな社会を作ろう。

その考え方と出会い、自分にとって一番幸せなことが「健康であること」だということに気づきました。これまでのように仕事優先でいることが、自分にとって「健康で生きること」につながるのかと自分に問いただしたときに「違う生き方がしたい」と思うようになりました。

2018年に旅行会社を辞め、山下先生のもとでマインドフルネスや健康づくりについて詳しく学ぶことになりました。そこから自分が学んだ健康法を他の人にも知らせたいと思い、講師の道に進むことを決めました。

――講演ではどんなことを主に伝えていきたいですか?

葉月 私自身がワーカホリックだったので、頑張り過ぎている日本の方々はたくさんいらっしゃると思います。そういった方々に、自分と向き合う時間を作っていただいて、生活の質を高めていく知恵をお伝えしたいと思っています。

また、子育てや仕事でストレスがたまると感情のコントロールも難しくなり、さらに自己嫌悪に陥りがちになる方々もいらっしゃると思うので、自分の感情とうまくつきあえる方法をお教えできたらと思います。

――最後に今後の夢を教えてください。

葉月 私自身もこれまで自分自身を顧みず、ストレスが原因で心身の不調を経験しました。しかし、よりよい人生を歩むために、自分自身のことを深く知り、まずは自分が幸せになる、そして周りを幸せにできるようになることが大切だと思います。そういった生き方ができる社会をつくり、頑張り過ぎている人たちが、よりよい人生を選択できるような、そんなサポートができればと考えています。

――本日はありがとうございました。

葉月ようか  はづきようか

MBSR講師 マインドフル・イーティング講師 予防栄養学講師

コンサルタント

大手旅行会社モルディブ支店赴任時に体調を壊し、マインドフルネスを実践。帰国後、マインドフルネスの脳科学的なエビデンスを学び、ストレスマネジメントに専念すべく、退職。MB-EAT(マインドフルネスに基づく食事認知療法)開発者から直接学んだ日本人5人のひとり。著書『食べる瞑想で人生が変わる』。

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