NHK『すくすく子育て』の元キャスターで、現在は子どもに寄り添うコミュニケーション術を普及する活動も行っている天野ひかりさん。インタビュー前編では、子どもの心に届く効果的なことばかけや、コミュニケーションのコツについてお聞きしました。

後編では、天野さんが『すくすく子育て』のキャスターとなった経緯やご自身の子育て、さらに今度の子育てがどのように変わっていくのか、どのようなことが大切なのかについて詳しくお聞きしました。
育児書ばかりでない天野流の子育て術は、多くの子育てに悩む親御さんたちから反響を呼んでいます。

仕事第一主義から子ども第一主義に

――まず、天野さんがNHK番組「すくすく子育て」のキャスターとなった経緯をお聞かせいただけますでしょうか。

天野 私がテレビ局のアナウンス部に入った当時は、男女雇用機会均等法で男性に負けずに女性も頑張るぞという時代で、仕事が面白くて、気づけば高齢になって、待望の妊娠をしました。その時レギュラー番組7本持っていたので、すぐに番組に復帰しなくては、と出産前からベビーシッターやファミリーサポートなどあらゆる形で準備万端にしていました。

ところが、いざ娘が産まれてみたら、それはまあ可愛いこと。こんなに子育てが面白いと思ってなかったんですよね。ずっと一緒にいたいと思いました。とはいえ、アナウンサーはやはり自分の天職だと思うほど大好きな仕事でしたので、どちらも中途半端に感じ、常に葛藤していました。

でも、子育てをしていく中で、もっと娘と一緒に過ごしたいという気持ちが、仕事をしたい気持ちより上回るようになりました。あれほど天職と思っていた仕事さえも、やめてもいいと思うくらいになり、依頼が来た仕事もやりたくない、と断ってしまうようになりました。

そんな時、マネージャーに「どんな仕事ならするの?」と聞かれ、NHK番組「すくすく子育て」の司会をやってみたいと言いました。今考えるととてもわがままな行動でしたが、子育てする私たちに優しい番組づくりでしたし、子どもの成長の専門家である先生方から多岐に渡るさまざまな知識を教えていただきました。

▲赤ちゃんの娘さんと一緒に「かわいくて仕方なかった」と天野さん(画像:天野さん提供)

――私も子どもがいますが、当番組から多くのことを学びました。

天野 そうなんですね。毎回、番組には様々な専門分野の先生たちがいらっしゃって教えていただき、更に、番組収録とは別に、当時はトークショーなどで全国に一緒に移動したり一泊したりということもあり、とても近い距離でお話しする機会がたくさんありました。
番組を通じて「子どもの不思議な行動はどうやって起きているの?」「ことばはどうやって獲得していくの?」「心はどう発達していくの?」「歯はなぜ生え変わるの?」などなど、科学的に子どもの成長について教えていただきました。私がわかるまで丁寧に、知識やアドバイスをたくさんいただける環境でした。

▲「すくすく子育て」での収録風景(2005年)。左より、司会者のつるの剛士さんと天野さん、小児科医の加部 一彦先生

――番組との出会いでご自身の子育てにも影響はありましたか?

天野 はい! 色々と質問したり相談したりして教えていただき、その内容は本当に番組内では収まりきらないほど。多くのお話を伺う中で「なるほど!」という発見がたくさんありました。その知識を持って娘と接すると、更に面白くて、子育ての奥深さに魅了されました。本当に有り難く、楽しい学びの時間を過ごさせていただきました。

でも、考えてみれば、私たちは、子育てや子どもの成長に関する知識を学ばないまま、ある日親になって子育てをするわけですよね。それは大変です。そんなおかしな当たり前を変えたい、変える仕組みが作れたらいいなと思うようにもなりました。

――それが親子コミュニケーションラボの立ち上げに繋がっていくんですね。

天野 はい。子どもが成長していくなかで、どうやってことばを獲得していくのか、脳や心が育っていくのかなどを知ったうえでことばかけをすると、子育てはとても面白いものだということをぜひ知っていただきたいという思いで、2008年に立ち上げました。

最初は子どもの表現力を育むというオリジナルプログラムを始めました。ところが、3カ月くらい続けていくと、同じプログラムを受けたお子さんでも、どんどん伸びていくお子さんと、伸び悩むお子さんの二手に分かれる傾向が見えてきました。この違いはなんだろうと考えた時に気がついたのは、「子どもの力や性格などの個人差ではなく、毎日一緒にいる大人のことばかけが違う」ということでした。

それに気づいてからは、子ども向けではなく、子どもの成長に合わせて大人がどのようにしてことばかけをしてコミュニケーションを取るといいのかを学ぶ大人向けのプログラムに作り替えました。
すると、お父さんお母さんのお子さんへの対応が変わり、そうするとあっという間にお子さんが変わっていったのです。

▲子どもの自己肯定感を育てる会話を学ぶ親子実践講座の風景(画像:天野さん提供)

――受講者の反応はどのようなものでしたか?

天野 プログラムを受けた方からは、「今まで何て子育てしにくい子だろうと思っていたけれど、自分のことばかけが間違っていただけだったことに気づいた」などと、泣かれる方もおられました。
その姿に勇気や力をたくさんもらいましたね。もう少し、このことばかけの良さを広めていきたいなと思うようになりました。

親子のコミュニケーションは子どもの視点で考えることから

――ことばかけで親が気をつけておきたいことはありますか?

天野 そうですね、まず、親の価値観を子どもに伝えようとしている間は、子どもは何も変わらないということをお伝えしておきます。
これはもう、小学生でも中学生でも、社会人になっても同じです。「こうしなさい」「ああしなさい」という一方的な伝え方では、何も伝わらないからです。
子どもが「今何を考えているのか」、「今どうしてこれをしようとしたのか」、「今どう感じているのか」といった視点に立ち、ことばかけをするだけで、あっという間に子どもは変わりますよ。親が変われば、子どもも自然と変わります。
この声かけの考え方は、実は大人同士のコミュニケーションの本質と同じものです。相手の視点を立った声かけをすることで、夫婦や友達関係、会社での人間関係が大きく改善します。

自分の弱さを知ることも自己肯定感の欠かせない要素

――天野さんは現在大学生の娘さんがいらっしゃるとのことですが、娘さんに反抗期はなかったのでしょうか?

天野 専門家の先生によると、反抗期を迎える子どもたちには次の3種類あるらしいです。

  1. 自分の意見をしっかりと持っている親に対して自分を認めてほしいと反抗するタイプ
  2. 親と友達のような関係で、普段から認められているため、反抗期がないタイプ
  3. ①とは逆で子どもが「主」で、親が「従」関係で、親から自立しようとして反抗するタイプ

それまで私は、娘に反抗期がなかったので心配していたのですが、先生によると2の反抗期がないパターンが最近は増えているらしく、問題ないですよ、と教えてもらって安心しました。

――やはり、娘さんのことをいつも「いいよ」と認めていらっしゃる天野さんの姿勢がよかったのでしょうか?

天野 それがですね。娘が小学生のとき、本当に100%「いいよ」の姿勢のままでよいのか、「いいよ」が8割、「ダメ」が2割というようにバランスをとらないとわがままな子に育つのかなあ、と悩んだ時期がありました。

そんなある日、娘が2階にいて、「お母さん、青いセーター持ってきて」というので、私はいつものように「いいよ」と答えて、1階に降りて持っていくと、「ありがとう、ごめん、青い靴下も持ってきて」というのでまた「いいよ」と言い、持っていくと、娘は、「ママはいつも私のことを『いいよ』って聞いてくれるよね、普通、お母さんなら自分で取りに行きなさいって頭ごなしに怒ると思うんだよね」って言ったんです。「いいよ」が当然だと思っているわけではないんだ、と安心しました。

と同時に、子どもは私一人で育てているわけではなく、娘は、いろんな人と関わって様々な人に育てていただいているのだ、という当たり前のことに気付かされたんです。
つまり、親が子どもと一緒にいる時間なんて、子どもの時間の3割程度に過ぎないかもしれない。残りの7割は、学校の友達やその家族、先生、地域の人々、いろんな人に関わる中で、悔しい思いや、悲しかったり、恥ずかしかったり、辛かったり…いろんな思いを育てているのだと思うと、残りの3割、私と過ごす時間くらい、「いいよ」と認めたって、わがままにならないんじゃないかと思ったんです。

その3割を全力で認めて初めて子どもは「自分は認められている、自分は大丈夫、自分のこと好き」と思うことができて、バランスよく育つのだ、と気づきました。それ以来、私と夫が娘と一緒の時間くらいは、100%「いいよ」と認めて自己肯定感を育てなくてはと思っています。

――ポジティブな声かけは子どもの自己肯定感を育てる要素になると思いますが、もし親自体の自己肯定感が低い場合、自己肯定感の強い子どもを育てるにはどうしたらよいのでしょうか?

天野 「自己肯定感」というと、「自信満々」というイメージがあるかもしれませんが、実はそうではありません。自己肯定感とは自分の欠点や短所も含めて、そのままの自分を認められる心の状態のことです。だから逆に、自信満々な人というのは、自分を大きく見せたいという心が根本にあるので、自分の弱い部分が認められていない、という場合も考えられます。

だから「自己肯定感が低い」と思っている人は、自分の弱い点を受け入れられているという観点で、自分で気づいていないだけで逆に自己肯定感が高いのかもしれませんよ。
もし親の自己肯定感が低いとしても、100%子どもを愛そうと子育てに四苦八苦している時点で、子どもたちはちゃんとその思いを感じ取って自己肯定感はしっかりと育っているので、問題ありません
それにね、子どもはどんな親でも無条件で親を認めて愛しているので、親の自己肯定感も育つのです!ありがたいですよね。

 子どもにやってほしいことはことばではなく態度で示す

――「親は子の鏡」といいますが、子育て中によく自分の嫌の部分を子どもに見つけて、嫌な思いをしたという話も聞きます。

天野 そうですね。子どもは大人の態度をよく観察しています。先ほど(前編参照)の声かけで「2.手本を見せる」という話をしましたが、この手本は普段の生活でこそ見せるべき、というか、影響を与えています。

例えば、「勉強しなさい」と言いながら、親が何も努力しなかったら、子どもはやっぱり何もしないでしょう。だって、何をしたらいいのかわからないからです。
でも、親が何も指示なくても、いつも努力して頑張っていたら、どうでしょう? その努力の仕方を子どもは真似しますよね。子どもも「あんなふうになりたい」と思うのではないでしょうか。

――親の立場だと「自分ができないことを子どもにやってほしい」という思いから、いろいろとうるさく言ってしまいがちになりますが、結局は親の態度が変わらないと子どもも変わらないということですね。

天野 おっしゃる通りです。子どもに変われというより、親が変わることで、お子さんが変わると思います。

これまでの子育てとこれからの子育て

――天野さんにとって子育てとは何ですか?

天野 私は子育てとは子どもを育てているように見えて、子どもに育ててもらっているのかなって思っています。「育児」というよりは、「育自」かなと思っているんですよね。子育てしながら、「そっか、私がこれしていたから子どももやっていたんだな」とか、「さっきのことばかけ間違っちゃったな」とか、すごく反省もしますし、謙虚にもなりますし、娘がある意味、私の師かなと思って感謝しています。

――インターネットなど情報が多くある今、これからの子育ては何を大切にすると良いのでしょうか?

天野 これからの子育てというのは平成や昭和の子育てとガラッと変わっていくと思っています。昭和・平成の時代は答えがひとつで、その正解にいかに早く正確にたどり着くかという教育がされてきたと思います。つまり、価値観が一つ。これが正しいと言ったらみんなそれが正しいと思って、そこからはみ出るのはいけないという考え方でしたよね。そして、それを守る子が優秀な子として育てられてきた時代でした。

しかし、これからはAIの時代。人間以上に素早く正しい答えを導き出す術をAIは持っています。だから、これからの子どもたちは正しい答えをいかに早く導き出すのではなく、AIにはできない「問題を設定する力」「何が問題なのか課題を見つける力」が必要とされます。
だから、さまざまな考えがある中でそれらの考えをまとめていけるコミュニケーション能力も重要になってきます。

ぜひ、ご家庭では「こういう考え方もあるよね」と互いに認めていけるような価値観の子育てをしていただきたいと思っています。

――まだまだ、天野さんのお話を聞きたいところですが、そろそろ時間となりました。著書『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』でも、今回お話されたことが書かれているとか。

天野 そうなんでよ。本作は、教育学者の汐見稔幸先生に監修していただき、おかげさまでAmazonの教育書売上で1位となりました。現在新作も準備中で、今年(2023年)の4月に発売予定です。

――どんな内容なのでしょうか?

天野 子どもの自己肯定感を育てるための会話のコツを4コマ漫画でわかりやすくnoteに連載しているのですが、書籍用に書き下ろしたものと合わせてまとめた本です。さくっと読める内容になっていますので、よろしければぜひご覧ください。

――今回の話を聞いて、大変興味を持ちました。発売した際にはぜひ拝読させていただきたいと思います。それでは、最後に、今後の夢を教えてください。

天野 私の夢は、自己肯定感の大きい子どもたちを日本中に溢れさせることです。
今日本の子どもたちの自己肯定感がとても低いということが言われています。世界の子どもは「自分のことが好き」「自分は社会の役に立てると思う」「自分は認められている」「愛されている」と感じている割合が8-9割に対して、日本の子どもは4割程度と言われています。これはとても悲しいことだと思っております。

できれば2040年までに、8割の子どもが自分の自己肯定感が高い、自分は愛されている、社会に通用する、何か貢献できることがあると思える子どもに育ってほしい、と思っています。

そのために、大人のことばかけ、お父さんお母さんや先生や社会のことばかけを少しずつ変えていけるようなキャンペーンをしたいと考えております。
名付けて、「4080キャンペーン」です。ぜひ、一緒に日本子どもたちの自己肯定感を大きく育てていきましょう。どうぞよろしくお願いいたします。

――本日は貴重なお話をありがとうございました。

こちらもご覧ください!
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自己肯定感が他国より低いといわれる日本人の若者。
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天野ひかり  あまのひかり

フリーアナウンサー NPO法人親子コミュニケーションラボ 代表理事 NHK「すくすく子育て」 元 キャスター

キャスター・アナウンサー

NHK「すくすく子育て」キャスターとしての経験を生かし、全国の親子向けのトークショーやコーディネーターを務める。自身が立ち上げたNPO法人でも、多くの悩める親子と接し、コミュニケーション力を促進するため精力的に活動。一児の母として、子育ての喜びと大変さに共感を持って活動に臨んでいる。

プランタイトル

子どものコミュニケーション力を育もう
子育てが楽しくなる 子どもの心に届くことばかけ

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