自己肯定感が他国より低いといわれる日本人の若者。
実際に、「自分自身に満足している」若者の割合は西洋諸国では8割以上であるのに対し、日本で45%という調査報告(内閣府『平成26年版 子ども・若者白書』)もあります。

自己肯定感は、さまざまな問題や苦労を乗り越えていく上で必要な底力となり、変化の多い社会に生き抜くために欠かせない力です。
自己肯定感を養うには、小さい頃からの声かけや成功体験が重要と言われており、実は、普段の子どもへの声かけを少し変えるだけで、ポジティブ思考へとチェンジすることができます。

そこで、今回は、NHK「すくすく子育て」元キャスターで現在はNPO法人親子コミュニケーションラボ 代表理事を務める天野ひかりさんに、インタビューを敢行。
前編では、子どもの自己肯定感を高める効果的なことばかけや、コミュニケーションのコツを教えていただきました。
3つのステップだけで簡単にできる魔法のことばかけは、育児真っただ中のパパママに必見の内容です。

どんな子もあっという間に心を開く、コミュニケーションの方法

――天野さん自身も子育て経験がおありになるとのことですが、子育てのよくある悩みの一つに「子どもが自分のいうことを理解してくれない」というものがあります。これについてはどうお考えですか?

天野 子育てで、「言うことを聞いてくれない」、「気に入らないと癇癪を起こす」「お友だちのおもちゃを取ってしまう」など、些細なことから大きな決断までいろいろなお悩みがあると思います。でも、こうしたお悩みは子どもの性格や気質によらず、接し方を変えるだけで随分変わることが多いと思っています。

例えば、子どもがわがままを言ったり癇癪を起こしたりするときというのは、子ども自身の考えや思いを親にわかって欲しいという意思表示の現れですよね。ですから、そんな時には正論や一般的なルールを子どもに教える前に、一度、子どもが今、何を見ているのか、何を知りたいのかと言う状態を見るようにするだけで、大人からことばかけが変わってくるのです。

――親の意識から変えていくということでしょうか?

天野 はい、その通りです。例えば、よく「イヤイヤ期」と言われる時期がありますが、このワードは大人目線で作られたもので、子どもの側から見ると、「自己主張期」。もっというと「邪魔され期」と言えるのかもしれません(笑)。赤ちゃんだった頃から成長して、自分の意思が出てくるようになる中で、自分でやりたいことも出てきます。でも、まだまだ手足が思い通りに動かないし、手先も器用ではないので掴もうと思ってもうまく掴めない…。自己主張が出てくる時期はこうしたジレンマを乗り越えながら、なんとか自分でやり遂げたいと思って頑張っています。
そんな最中に、親がああしなさい、こうしなさいと横やりを入れると、子どもにとっては「また邪魔された!」と思うわけです。

せっかく、自分でやりたいことをやってみよう、自分の考えを主張しようと言う成長の時期なのですから、ぜひ、お母さんお父さんはお子さんのやり遂げる体験を応援する時なのだと意識を変えるだけで、かけることばも変わってくるはずです。

――なるほど。具体的にはどのようなことばかけになってくるのでしょうか?

天野 私はみなさんに、「ダメ」ということばを基本的に言わずに、お子さんがやりたいことは「いいよ」と言って認めていきましょうねとお話ししています。

そうは言っても鋭利な刃物で遊んでいる、急に車道に飛び出したなど危険なこともあるでしょう。
そんなときは、もちろん「ダメ」と強く言わなければなりません。
「ダメ」と言えるのは、「お子さんの命の危険に関わるとき」と「相手の命を危険にさらすとき」です。

それ以外は「いいよ」と言って、思うようにさせてあげられるといいなと思っています。

――いつも「いいよ」と言っているのに、突然「ダメ」と言ったら、子どもには通じるのでしょうか?

天野 いつもは優しく認めてくれる人が、「ダメ」というと子どもにもしっかりと伝わります。反対に、ちょっとしたことでもすぐにダメと言っている場合、子どもにしてみると何が本当にダメで何が良いことなのか、自分で考える力が育ちません。

ダメなことを伝える場合には、毎日の細やかなコミュニケーションが大切です。
例えば、お子さんが台所の水を出しっぱなしにして遊びはじめ、周りがびしょびしょになりそうな場合、第一声はつい「ダメー!」とならないでしょうか? こうした場合も、一旦は認めることを意識しましょう

本来であれば、水で遊べることって素晴らしいことです。水泳や理科の実験に繋がる第一歩です。だから、まずは一旦認めましょう。「面白いこと発見したね!」など、子どものやろうとしていることの面白さを伝えます。そのあとで、お母(父)さんの気持ちを伝えます。例えば「台所が水浸しになるとお掃除が大変」など、水で遊ぶことは素晴らしいけど、ここではしてほしくない理由を伝えます。

そして、最後にルールを伝えて、場所を変えます。「お水遊びはお外(ベランダ)やお風呂場なら思いっきり楽しめるね」といった具合で順を追って説明して、思いっきりお水遊びを親子で楽しめるといいですね。自分の発見(お水遊びの面白さ)をお母(父)さんに認めてもらったので、自己肯定感の大きな子どもに育っていきます。
この時、第一声が大事です。最初に「だめ!」と言ったり「あー!」という顔をしてしまうとそのあと、何を言っても子どもは台所での水遊びに固執してしまうので、注意なさってくださいね。

子どもへの基本的な声かけは、

  1. 認めることばがけ
  2. お手本を見せる
  3. ルールを伝える

の3ステップです。ステップごとに丁寧に伝えてあげてください。

自分で考えられる子どもにするためにも3ステップが重要

――公共の場での大きな声を出したり、他の子が使っているおもちゃを取った時など、すぐにやめてほしい場合、どうやって注意するとよいでしょうか?

天野 病院など静かに待っておくべき場所でいけない行動を取った場合、お母さんお父さんは大抵焦って「ダメ」と言ってしまいがちです。それは、実は周りに「しつけがしっかりできている人」と思われたいという理由が隠れているのかもしれませんね。
私は、そうした場合でも「子どもを信じる」対応ができるといいなと思います。

例えば、前述の例でわが子がだれかの使っているおもちゃを取ったとします。それは、ただ、取りたかっただけでしょうか。もしかしたら、先におもちゃを取られて取り返しただけなのかもしれないし、意地悪を言われたのかもしれない。親が見た範囲だけで判断して、「だめ!」と叱らないようにできるといいですね。
ですから、まずは、「そのおもちゃで遊びたかったんだね」とわが子には声をかけます。

すると「お母さん、お父さんだけはいつも自分の気持ちをわかってくれる」という安心感につながり、何でも話すようになりますし、こちらが言うことも理解してくれるようになります。

最初にダメと言われてしまうと、「いつもお母(父)さんは怒る」「わかってくれない」「私のことなんて…」と否定的になり、いくら正しいルールを伝えても子どもが聞く耳を持たなくなってしまうとしたら悲しいですね。

――確かに。それでは、前例では、どのような声かけをするとよいのでしょうか?

天野 最初の声かけで、子どもの行動を受け止めました。子どもは自分の気持ちが受け入れられたことで、冷静になっています。
でもここで終わったら、ただの非常識な親ですよね。わが子が人のおもちゃを取って何もしないのはおかしいですね。ですから次に、親がお手本を見せます。相手のお子さんに「ごめんね、この子がおもちゃを取ってしまって…」と謝ります。子どもは大好きなお母(父)さんが謝っている姿を見て、「自分は謝らせるようなことやってしまったんだろうか」と自分の行動を考えるようになります。

そして、最後に「おもちゃは1つしかないから、交代で遊ぼうね」とか「自分のおもちゃを取りに行こうか」など、その時に取るべき行動を一緒に考えます。そうしながら、自然と社会にはルールがあることを学んでいきます。

この丁寧な3ステップの声かけを続けることで、子どもは社会で生きていくことについて自分の頭で考えられるようになっていくのです

――自分で考えられるようになるという点が重要ですね。

天野 そうです。ただ単に親に「だめ」と言われ、すぐにおもちゃを返して「お利口さんね」と終わってしまう声かけでは、子どもが自分の頭で考えなくなります。
そんなように育てられた子どもが大きくなって「自分の頭で考えて行動しなさい」と言われてしまうと、何をすればよいかパニックに陥ってしまいますよね。
子どもの立場からしたら、「今までは親の言うことを聞いていけばよい」と言われてきたのに、どうやってやったらよいかわからない、としたらもったいないです。

だから、0歳のうちから、考える子どもに育てられるように、丁寧な3ステップの声かけを推奨しています。

生まれてから始める声かけのススメ

――まだ話ができない小さな子どもと接する際に心がけておくことはありますか?

天野 実は、子どもは生まれた時から大人の意思を表情やことばの雰囲気で読み取ろうと全力で頑張っています。もちろん、難しいことばや早い話し方だと子どもには伝わっていない可能性もありますが、0〜2歳が人生で一番脳が成長している時期なので、ぜひ簡単なことばを使ってたくさんコミュニケーションをしてください。その時、表情にも気をつけてくださいね。子どもは、ことばと表情が一いたしてはじめて、これはやって良いこと、これはやってはいけないことなのかなと理解していきます

例えば、ことばは褒めているのに無表情だったら、子どもは混乱してしまいます。だから、褒めるときは笑顔で、怒っているときはちゃんと怒っている表情で、ことばと表情を一致させるようにしてください。

また、講習を受けているお母さんお父さんから、子どもがお友だちを叩いてしまったり、泣いて地団駄を踏んだりした時に、やめさせようと何度注意しても叱っても直らない場合はどうしたらいいのか、というご相談をたくさんいただきます。これは、自分の気持ちをうまく伝えることばをまだ知らないだけなのです。
だから「一緒に遊びたかったのよね」「これが欲しかったんだね」と1つ1つ、子どもの表情を見ながら、思いにぴったりなことばに置き換えていくことで、「ことば」という武器を持たせてあげましょう。ことばでコミュニケーションできるようになれば、あっという間に(問題行動は)卒業するでしょう。

思春期でも声かけは同じ

――天野さんが提唱されていることばかけは、小さな子どもだけでなく、思春期の子どもに対しても通用するのでしょうか?

天野 もちろん伝え方は異なりますが根本的な子どもの気持ちに寄り添うということでは同じだと思っています。
小学生になると、小さな子と違い話せるようになるので、よく「ちゃんと自分のことばで話しなさい」と言いがちです。でも、私たち大人でも自分の新しい感情やモヤモヤしたものを上手く説明できることって少ないですよね。大人になっても急に涙が出たり、不安になったり、イライラしたりすることもあります。

だからお母さんお父さんとしては、お子さんがいくつになっても、まずはどんなことも否定せずに「そうなの?」と聞いて、人生の先輩としてぴったりなことばを一つひとつ紡ぎ出していくような作業を続けていけると良いのかなと思っています。

――よく、思春期の子どもを持つ親御さんから、わが子が「昔ほど自分のことを話さなくなった」「何があったのかと聞くと、うるさいと返してくる」いう話を聞きます。そんなとき、どんな声かけをしてあげたらよいのでしょうか?

天野 「うるさい」と返してくるのは、本当にうるさいと感じているからでないでしょうか(笑)。子どもが話したいと思うタイミングを、親が見逃さずに受け止める雰囲気を作っておけるといいですね

――子どもが「何かで落ち込んでいるな」「いつもとは様子が違うな」というときは、どうしたらよいのでしょうか?

天野 とにかく追及することはせず、待つ姿勢が重要です。「本当にあなたのことを心配しているし、いつでも味方だし、力になりたいと思っている」ということをお子さんに伝わるような態度や表現をした方がよいと思います。
何かあればお母(父)さんに話すと、解決するという安心感が大事です。
叱られるのではなく、諭されるのでもなく、解決策を指示されるのでもなく、一緒に悩んで、一緒に考えて、一緒に解決していけるんだという信頼関係を作っていくことが大切です。

――なるほど。ちゃんと見ているよという態度、姿勢を伝えることが大切なのですね。

天野 そうですね。「何かあったの?どうしたの?」と聞くよりも、お子さんが疲れているようだったら、「今日は体を回復するための特製ドリンクを作ってみたけど、飲む?」とか、「好きなケーキを並んで買ってきたよ、食べる?」とか、全く違うことを話しかけて、お子さんとのコミュニケーションを諦めないこともポイントです。

一緒にゲラゲラ笑っているうちに、お子さんの中で、「私はお母(父)さんこんなに愛されている」と自信をとりもどして悩みが消えていくこともあるでしょうし、「今なら、お母(父)さんに相談してみよう」とポツリぽつりと話し始めるかもしれません。その時は、意気込んで焦って問いただそうとしたり、先回りして解決法を教えたりせずに、子どもがスッキリするまで、ただただ聴き役に徹しましょう。コツとしては「子どものことばを繰り返す」です。これで、子どもはわかってもらえた!と安心します。

そして、悩み事や相談事などは親が聞きたいタイミングで聞かないこともとても大切です。
親がどんなに忙しくても、お子さんが話したいタイミングで時間を作ることです。
夕食作る時間がなくなったとしたら宅配をとってもいいし、極端な話、仕事にだって遅刻してもいいです(笑)。そんなことは一生で1回か2回だけです。子どもが話したいタイミングでいつでも受け止められる親でいたいものです。そのほうが、何も話してくれないと悩むよりもいいですよね。
(後編に続く)

こちらもご覧ください!
【講師特別インタビュー】 天野ひかりさん 後編
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弱い自分も全て受け入れられる心のこと

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天野ひかり  あまのひかり

フリーアナウンサー NPO法人親子コミュニケーションラボ 代表理事 NHK「すくすく子育て」 元 キャスター

キャスター・アナウンサー

NHK「すくすく子育て」キャスターとしての経験を生かし、全国の親子向けのトークショーやコーディネーターを務める。自身が立ち上げたNPO法人でも、多くの悩める親子と接し、コミュニケーション力を促進するため精力的に活動。一児の母として、子育ての喜びと大変さに共感を持って活動に臨んでいる。

プランタイトル

子どものコミュニケーション力を育もう
子育てが楽しくなる 子どもの心に届くことばかけ

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