SDGsというワードが日常的に聞かれるようになりましたが、SDGsにどう取り組んでいくべきかお悩みの企業や自治体も多くなっています。しかしSDGsは、本質を理解して取り組めば企業価値を高められる、現在の企業にとって非常に重要なものです。

今回は、廃棄物コンサルタントや人材育成法人代表としてSDGsについて情報発信している武本かやさんに、SDGsの本質と企業価値を高める取り組み方についてお伺いしました。

SDGsの本質は1人も取り残さない課題解決

▲SDGsで定められている17の目標

――まずは、SDGsとはどういったものなのか、改めてお教えいただけますか?

武本 SDGsは元々、2000年に発展途上国を対象とした8個の課題解決を目標に据えて制定された「MDGs」から始まりました。MDGs終了時に多くの課題が残ったため、後身として2015年9月に国連で制定されたのがSDGsです。

MDGsは主に発展途上国が対象でしたが、SDGsでは先進国も含めてより広範囲の目標が設定されました。具体的には17の目標と、その目標を実践するための169のターゲット、そのターゲットに取り組んでいるかどうかを評価するための244の指標が定められています。

――目標や指標がかなり多いですね!そこまで多いとすべて理解するのは難しいように感じますが…。

武本 難しく感じるかもしれませんが、SDGsを簡単に言うと「誰1人取り残さないために、みんなで一緒に世界中のいろいろな課題を解決していきましょう」というものです

――よく聞く「持続可能な開発目標」という説明よりもしっくりきますね!

武本 今でも貧困や飢餓や人権問題、格差といった問題は日本でも起こっていますが、世界に目を向けるとさらに深刻な状態が続いています。そういった問題を放置していると、私たちの生活やビジネスにも影響が出て、持続可能なものじゃなくなってきますよね。だからこそみんなで一緒に取り組もうとしているというのがSDGsの本質です。

ーーそういった本質があったんですね。なんだかSDGsという言葉だけが先行している気がします。

武本 そうですね。SDGsは本質を理解して取り組めば企業価値を上げられるものです。きちんと理解して素晴らしい取り組みをされている企業や自治体も多いですが、まだそこまで意識がいっていない企業や自治体も多いように思います。

――日本の今のSDGsの取り組みの主流はどういったものでしょうか?

武本 今は海洋プラスチック問題、フードロス問題への取り組みが主流だと思います。企業の取り組みとしてはこの2点に加え、二酸化炭素を増やさずエネルギーに変えていこうというカーボンニュートラルへの取り組みが主流になっています。自治体では、地域の人材を活かしながら、地域資源や観光資源の活性化への取り組みが多いですね。

SDGsへの取り組みは人やお金が集まるきっかけになる

ーー様々な取り組みがされていますが、メリットがないとSDGsへの取り組みを続けにくいという側面もあるのではないかと思います。SDGsに取り組む利点は何だとお考えですか?

武本 そもそも、取り組まないことによるデメリットが大きいんです。先ほどお話ししたように、SDGsは私たちの生活やビジネスを持続可能なものとするためのものです。

会社がいくら成長しても、会社を取り巻く地域社会が悲惨な状態になれば商売はできません。自然環境も同じです。異常気象によって洪水や荒天に見舞われればビジネスの機会が奪われます。

――確かに、そもそもの環境が整っていなければビジネス自体できないですよね。

武本 いままでの企業活動は利益を追求し続けることで多くの社会課題を生みだしてきました。日本ではたくさんのものを安く手に入れることができますが、ものが安く買えるということは、どこかで誰かが泣いているということです。

二酸化炭素や汚染物を排出したり、間接的に海外の児童労働などにつながったりする場合もあります。まずは今の事業活動で社会課題に影響を及ぼすものがないかを考え、見つけた社会課題を出さないために行動することがSDGsの取り組みの第一歩となります。

――ビジネスをする上で、他に悪影響を及ぼさないということは重要ですね。

武本 17個も目標があるので全て対処するのは大変ですが、「社会」「環境」「人」の3つの問題に分けて考えれば取り組みやすいと思います。それに、SDGsに取り組むことで資金調達がしやすくなるというメリットもあります。企業価値が上がるからです。

今、社会課題や環境課題、人権問題に取り組んでいる企業は、投資家からの評価がすごく高くなっています。中小企業にとっては、投資家からの評価はあまり身近に感じないかもしれませんが、SDGsに取り組むことは、銀行からの評価にも繋がります。例え今売上が下がっている企業でも、未来への投資として融資を受けやすくなる可能性もあると金融機関の担当者から聞いています。

――未来のためにSDGsに取り組むことが、結果的に企業価値の向上につながるんですね。

武本 お金だけでなく、人が集まるというメリットもあります。3年後には昭和世代の労働人口を上回ると言われているミレニアム世代やZ世代は、事業活動だけでなく、経営理念、社会問題や環境問題に取り組む姿勢に共感して会社を選ぶ傾向にあります。つまり、SDGsに取り組むことで優秀な人材を採用しやすくなるということです。

目指すのはゴールではなく次世代にバトンを渡すこと

ーー2030年に向けてこれからSDGsは世界的にどのように動いていくと予想されますか?

武本 ますます意識が高まってくると思いますが、2030年にSDGsが完結するわけではありません。2030年以降も企業は本業を通じて社会課題解決のために取り組んでいく必要があります。今はゴールを目指すのではなく、何かに取り組むという意識を全社一丸となって始めてみることが大事だと私は思っています。

2030年までに今ある問題が解決できなかったとしても、未来に向けた活動を一人ひとりが少しずつでも取り組んでいけば、今よりも明るい未来を引き継いでいけるのではないでしょうか。

――完璧を求めると、疲れて結局やらなくなってしまいますよね。

武本 そうなんですよ。「自分がやれることをやって、次の世代にバトンを渡せたらいい」ぐらいの気持ちでいいと思います。自分が少し取り組んだところで未来は変わらないと諦めている方も多いと思いますが、ほんの少しの行動でも、積み重なれば未来の人たちの幸福度を上げると考えたら、少し取り組みやすくなると思います。

――小さなことでもまずは取り組むことが大切なんですね。

武本 ごみはごみ箱に捨てる。たったそれだけでもいいんですよ。「マイボトルを使わずペットボトルで飲むのはよくない」ではなく、飲んだ後のペットボトルはリサイクルボックスに捨てれば問題ありません。フードロス問題も、自分たちが食べる分だけ買って食べきるようにするだけでいいんです。

皆さん小さい頃にはそうやって育てられたんじゃないでしょうか。なぜか大人になると忘れてしまいますが、子供でもできる身近な行動でも、それを世界中の人が意識してやっていけば、未来は明るいと思います。

SDGsのスタートは小さなことから。重要なのは課題への気付き

▲武本さんの講演の様子。家計にやさしいゴミの捨て方や環境経営の方法など、廃棄物処理やリサイクルに関する様々な講演をされている。

――武本さんの講演では、SDGsについてどのようなお話を伺えるのでしょうか?

武本 講演に来ていただいても他社事例をお話しするだけでは、「自分事として考えられない」「やってみたけど現状では目の前の業務に追われてできそうにない」という結果になることがほとんどです。ですから私がお伝えするのは、明日から実践できる方法です。まずは現状の見直し方と、着実にスタートできる取り組み方法をお伝えしています。

――再現性の高いものから徐々にステップアップしていけるようお話されているんですね。

武本 そうですね。何事も行動しなければ始まらないのですが、考えるだけで行動できない方は多いです。社会課題がなくならないのは、一人ひとりが無関心だからなんです。「世界のどこかで誰かが困っている」ではなく、もっと身近な問題であることに気付ければ、自分事として考えやすいと思います。

――まずは身近な問題だと気付くことが大切なんですね。

武本 気付いてからは、ちょっとした取り組みから始めればいいんです。小さな取り組みでも集まってやれば立派な企業活動になりますし、共感して実践する人が増えれば、苦手意識も変わっていきます。そうやって周りを巻き込んで大きくしていくことが、SDGsの取り組みを継続かつアップデートさせるコツだと考えています。

未来をより幸せな社会にするため、人材育成に取り組みたい

ーー最後に武本さんの今後の夢をお聞かせください。

武本 廃棄物処理業界に長くいることから、インフラを支える業界目線から社会課題解決のために自分にできることを考えてきました。ただ、この10年活動してきて、私一人だけが一生懸命発信しても社会は良くならないと実感しています。ですから今後は、講師活動やコンサルティング活動も続けながら、私と同じように「今よりもいい未来社会にしたい!」という想いで活動できる方を育成していきたいと思っています。

私がみなさんに講演などでお話ししているのは、自分の経験や知識やスキルをお伝えすることで「今だけを見て諦めるのではなく、未来に向かって自分も頑張ろう!」「自分にしかできないことをやっていこう」と思って行動する人が一人でも多く増えればいいなと思うからです。私たちの子ども世代、孫世代が笑って過ごせて、関わる人々すべてが幸せだと思える社会を作っていくために、命がけで育成に携わっていきたいと思います。

――本日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。

武本かや たけもとかや

環境コンサルタント 廃棄物処理に関する専門研修講師 株式会社シューファルシ 代表取締役

実践者コンサルタント

金属リサイクル会社勤務時、独学で廃棄物処理法・実務を学び、環境コンサルタントとして独立。環境経営戦略支援による年商2億円アップなど実績多数。著書『ゴミは会社を救う!―環境と社会に良いことをして儲かる会社を創る方法』。実務者研修、環境とSDGs、一般・企業向けなど講演多数。

プランタイトル

身近にエコな「ごみ」と「3R」について学ぼう!

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