今回の講師特別インタビューでは、SDGs経営のコンサルティング支援会社「EMIELD」の代表取締役を務める森 優希さんを取り上げます。
森さんは、学生時代にボランティアや国際貢献に興味を持つようになり、大学ではMDGs・ソーシャルビジネスについて研究し、国際協力ボランティア団体を立ち上げます。就職後もその経験を活かして、国内大手経営コンサルティングファームで、SDGsビジネスモデルチームのリーダーとして活躍し、2021年に独立。現在は、大手企業~中小企業までSDGsコンサルティングや講演・セミナーを行っています。
「一人でも多くの人を笑顔にしたい」と語る森さんに、これまでの足跡を振り返りながら、SDGs経営とは何か、社会問題を持続的に解決するために企業や私たち消費者は何をすべきなのかについてお聞きました。

■目次

一人でも多くの人を笑顔にしたいと感じた小学時代

――プロフィールを拝見すると、「小学校の頃に、テレビを通じて貧困で苦しむ人たちを知り、国際協力やボランティアに興味を持つようになる」と書いてありますが、子供のころはどのようなお子さんだったのでしょうか?

 好奇心旺盛な子供だったと思います。興味・関心をもつことは、全てにチャレンジをしていました。両親は、“個”を大切にした教育方針で、子供がやりたいと言ったことを応援してくれました。特に母は、目標を達成させることで、自己肯定感を高めるサポートをしてくれました。落ち込んだ時はそっと共感し、重い空気も、笑顔溢れる空間に変えてくれました。母のおかげで自己肯定感の高い、希望に満ち溢れた子供だったと思います。

社会課題に興味をもつ大きなきっかけとなったのは、小学校6年生のときでした。テレビで、貧困のため栄養失調で苦しむアフリカの子供たちのニュースが放送を観ました。その時、私は学校に行って勉強やドッジボールをできることが当たり前ではないと気づきました。そこで、人生の中で誰かの役に立てることに時間を充てたいと感じました。同時に、私は「いつかアフリカに行って自分の目で現地を見てみたい」と強く思うようになりました。「困っている人がいたら手を差し伸べることで、世界中の人を一人でも笑顔にしたい」と思い、小学校の卒業文集にもそう書きました。

「一人でも多くの人を笑顔にしたい」という想いを、すぐに行動に移していきました。2004年10月、小学校6年生の頃、新潟県中越地震が起こり、私の父は地元の商店街の人たちを集め、プロジェクトを創りました。そこで父と一緒に、災害復興支援のボランティアに参加しました。新潟で地域の人たちに触れあいながら、食料配給などに取り組みました。

2008年12月23日、高校1年生の私は16歳の誕生日当日に、献血へ行きました。「私の血で、誰かが助かるかもしれない」という嬉しさから、16歳になった喜びを噛みしめました。当時を思い返すと、少し変わった子供だったと思います。(笑)その後、「私一人では、貢献頻度に限界がある。多くの人を助けるために、献血をもっと広めたい」と感じ、献血推進のボランティアに参加し始めました。

いま振り返ると、学生の時から今の自分にできることを考えて、行動に移してきました。それは今も変わっていません。こうした活動を通して、「社会課題を学べる大学に入りたい」と思いました。大学を探していた時、社会起業家という職業を知りました。

一方的な支援に限界を感じた大学時代

▲タンザニアの子どもたちと(森さんご提供)

――社会起業家とはどんなお仕事ですか?

 社会起業家とは、社会で起きている問題を事業で解決する仕事です。社会課題の解決と企業の利益追求の両面から持続可能な仕組みを考え、実践していきます。
大きく影響を受けたのが、ムハマド・ユヌスさんが経営するグラミン銀行の事例でした。「マイクロクレジットとは、貧しい人々に対し無担保で小額の融資を行う貧困層向け金融サービス」です。当時、貧困層の人達はお金を借りることもできませんでしたが、5人1組のチームに融資する仕組みから事業を立ち上げさせることで、生活の自立まで導きました。この仕組みのように、セーフティーネットから取り残された人たちを救うことができるビジネスモデルが存在することに衝撃を受けました。
この事例から、NPOやボランティアだけでなく、「事業」で社会課題を解決する方法があることを知りました。その方法を調べる中で、「まさに私が向き合いたかったテーマだ。私も社会起業家になり、より多くの社会課題を解決したい」と思うようになりました。

大学1年生の時に、ある教授からアフリカのタンザニアに行けるスタディーツアーがあることを教えていただきました。2週間程度、現地に滞在し、ストリートチルドレンの職業訓練施設や教育施設、障がい者を支援する団体、最貧困の村などへ訪れ、現地の人と話す機会をいただきました。

タンザニアの中でも最貧困地域と定義される村では、基本的な衣食住さえ、ままならない環境下に置かれている方がたくさんいました。村長ですら今にも壊れそうなワラでできた家に住んでいました。世の中に、当たり前なことは何もないと感じました。
日本に帰国すると、家でお湯が出ることやマラリアを気にせずにお風呂に入れること、衛生的に整ったトイレがどこにでもあること、そのような日常の当たり前が幸せなことだとわかり、(このような日常に)感謝して生活していかなければならないと感じました。

――タンザニアではどのような活動をされたのでしょうか?

 私が訪れたタンザニアでは、首都だけでも5,000人以上の子供たちが路上で暮らしています。子供たちは「新しいお父さんから暴力を受けているので家から出ないといけない」「家庭が貧しいため出稼ぎに来ている」などの理由から、街に来ていました。
そこでは、日雇い労働や物乞いをして生計を立てている子供や、路上で段ボールの囲いを作って暮らしている子供たちがいました。現状を目の当たりにし、生まれた場所が違うだけで、未来のある子どもの機会を奪うのはもったいないと感じました。

そこで、大学2回生のとき、現地のストリートチルドレンの教育・職業訓練施設を支援する学生団体を立ち上げました。最初はメンバー集めから始め、最終的に50名ほどの学生が加入してくれました。
日本ではタンザニアの文化を広める活動を行い、施設への寄付活動を重点に、現地へのスタディーツアー・ボランティア活動を定期的に実施していました。

しかし、事業ノウハウもないため収益性には課題があり、ボランティアでは支援できる金額に限りがあると感じました。また、タンザニアへの移動費が学生にとっては高額なことから、現地に行けない人もいる中で、継続的に学生のモチベーションを高めることが難しいと感じました。それらにより社会的なインパクトを追求するのが難しく、持続可能な体制ではないと感じました。

この経験から、「社会課題を事業の視点から解決していきたい」という想いが強くなりました。そのためにはまず、事業戦略や組織の本質を学ぶことが必要だと感じ、経営コンサルティング会社で働きたいという気持ちになりました。

大学卒業後、経営コンサルティングファームに入社し、さまざまな業種の中堅・中小企業の経営支援に携わりました。その中でも、企業内におけるジェンダー平等の問題を解決する事業を立ち上げるサポートの経験から、ジェンダーギャップ指数が世界の中でも、日本は圧倒的に低いことを知りました(2021年では156か国中、120位)。
それらの経験から、日本国内ですら社会課題があり、困っている人が多くいることが分かりました。
同時に、クライアントの事業構築を支援する中で、事業で解決できる課題もたくさんあることがわかりました。そこで、SDGsビジネスモデルのチームを立ち上げリーダーを務めました。入社後も、社会課題を事業で解決したいという想いは変わりませんでした。

――そして、現在の会社であるEMIELDを立ち上げることになったのですね。

 はい。私には解決したい社会課題があります。世の中で解決されていない社会課題を解決する仕組みを作るため、起業しようと決めていました。私は自分自身の2050年までのビジョンをつくり、限られた時間の中では、今始めないと間に合わないと感じました。そして、今のタイミングで起業するに至りました。

社会性と経済性を両立した持続可能なビジネスモデルの創出

――SDGsコンサルティングとは具体的にどんなことをされているのですか?

 SDGs経営に取り組みたい企業、すでに取り組んでいる企業の持続可能な成長をサポートしています。要は、社会課題解決をCSR(企業の社会的責任)で終わらせるのではなく、経営課題の解決に結びつけることで、社会性と経済性を両立した持続可能なビジネスモデルを創る支援をしています

例えば、「SDGs経営を導入したい」、「社会課題を軸にした新たな事業を立ち上げたい」「環境にやさしい商材を扱っており、エシカル消費(社会・環境・人に配慮した消費活動)に興味関心の高い層に広めていきたい」といった企業ニーズ対応し、本質的な社会課題を学んでいただきながら、経営課題を解決する提案を行っています。

――そもそもSDGsに企業が取り組む必要性とは何でしょうか?

 現在、SDGs経営に取り組む・取り組みたい企業の割合は、2020年24.4%から2021年39.7%と急激に増加傾向であります。(参照:帝国データバンク
これらの背景には、投資家によるESG投資(環境、社会、カバナンスの3つの視点で企業が取り組むべき課題)の評価軸で、従来の経済性だけでなく社会性の軸で企業が評価されていること、消費者の視点からは、エシカル消費に関心をもつ層が増加傾向にあることがあげられます。
その他にも、義務教育にSDGsが組み込まれている時代です。これから企業に入社してくる人材は、すでにいる社員以上にSDGsに詳しく、またSDGsに取り組んでいることが当たり前になっているかもしれません。

――SDGsの導入がなかなかうまくいかないという企業の声も聞かれます。SDGsの本質を理解していないことが理由なのでしょうか?

 はい。企業がSDGsを正しく認識していないとリスクとなることもあります。
SDGsウォッシュとは分かりやすくいうと、ひとまず、HPにゴールを掲げた状態(正しく理解せず、見せかけだけの取り組み)のことを言います。なぜ、このSDGsウォッシュが企業リスクとなるかについてお話します。

自社を取り巻くリスクが正しく認識できていないケースが課題です。例えば、バリューチェーン上の社会課題に配慮できていないことにより、人権問題を侵害する、違法な森林伐採により野生の動物が絶滅危惧に陥る、CO2を排出し地球温暖化が悪化するなど、事業を広げることで社会課題を生んでいる可能性があります。実際にいくつかの大手企業でも問題になっていますが、その社会課題が顕在化することでステークホルダーから批判を浴びることにもなりかねません。

また、日本では、内閣府主体で「地方創生SDGs」を軸にSDGsを広める動きがあります。そこでは企業を評価する認証制度もあり、定量的に目標を掲げて取り組む企業を評価しています。その他、投資家は企業の取り組みをESGの視点からも評価するようになっています。
要は、事業リスクに備えるためにも、自社のSDGsの取り組みが正しく評価されるためにも、本質的に取り組む必要があります。まずはSDGsのゴール・ターゲットを正しく認識し、自社がどの山を目指すのかを決めることが重要です

SDGsを実現させるために

――これまで、どのような企業の支援をされてきましたか?

 例えば、大手企業では、「SDGs経営に取り組むことで、ステークホルダーから選ばれる会社を創りたい」というニーズがあり、SDGsプロジェクトの支援をしています。そこでは、2050年・2030年を見据えて、自社を取り巻く社会課題を捉え、事業リスクを整理します。そして、プロジェクトを通じて解決する社会課題を決め、投資家向けの情報整備や消費者と取り組むSDGs活動の提案まで行っています。
このような取組を通じて、ステークホルダーから選ばれ続ける価値を構築しています。その他、各階層に応じたSDGs教育の支援も行っています。

弊社は、国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンのメンバーやNPOなど各社会課題の専門パートナーと連携し、価値を提供しているため、最新の社会課題の情報を提供できます。

中小企業に対しては、経営課題の困りごと「ダイバーシティの推進」「エシカル消費の促進」「社会課題を軸にした新規事業開発」などを軸にSDGsプロジェクトをつくり、取り組みをしています。いずれも、CSRで終わることなく、銘柄・認証取得や事業立上げなど、企業のブランディングや業績への貢献にまで結びつけています。
それにより、弊社は社会課題解決だけでなく、経営・事業課題の解決にも結び付けることで持続可能性を追求しています。

――企業がSDGsに取り組んでいく上で大切なことは何でしょうか?

 とにかく、自社だけで解決しようと思わないことです。題を取り巻くステークホルダーと一緒に問題について考え、取り組み方法を議論することが重要です
日本は特にこのパートナーシップ(SDGsゴール17番)に対する取り組みが遅れています。どのSDGsゴールに取り組むにおいてもこの目標は一番大切なテーマとなります。1社で取り組むよりも、複数の企業が協力して取り組む方が社会的なインパクトが変わります。
もちろん、自分たちにできることを考えることは大切です。それ以上に、自分たちを取り巻く課題をどのようにすれば解決できるのかを考え、取引先やお客様、NPO、自治体と一緒に貢献していける取り組みはないか、視野を広げていくとよいかと思います。

――一方で、私たち消費者ができるSDGsの取り組みとは何でしょうか?

 これからは一人ひとりが社会問題と自分の繋がりを理解していくことが重要だと思います。社会課題は広い概念であるため、「自分たちには関係ない」という捉え方になってしまうこともあります。
私たちが食べているものは、「どんな環境で作られているのか?」「環境にとって、何をすると悪い影響があるのか?」日常の延長線上から、興味関心をもつことが大切です

プラスチックの社会課題でいうと、廃棄量・方法やマイクロプラスチック、途上国での健康被害など、いくつかの問題があります。
例えば、マイクロプラスチック問題について話をします。私たちが食べている魚はプラスチックの袋に入ってスーパーで売られています。海に浮遊するマイクロプラスチックが2050年には魚の重量を超えると言われていることをご存じでしょうか。海に浮遊するマイクロプラスチックを魚や鳥が食べてしまい、命を落としているのです。また、マイクロプラスチックを食べた魚を私たちが食べています。なぜ、その課題解決に取り組む必要があるのか。まずは、日常を取り巻く社会課題から関心を持ち背景を知り、その上で行動することが大切なのです。

――それでは最後に今後の目標があれば教えてください。

 従来のSDGs経営に取り組む企業を増やし、質を高めるだけでなく、これからは社会課題解決に取り組みたい企業と一緒に、社会課題起点の取り組みを強化していきたいです。私自身も、これまで感じてきた社会課題を解決できる事業を立ち上げていきたいですね。一人でも多くの人を笑顔にできることに、これからの人生も費やしていきます。

――本日は企業について話をお聞きしましたが、次回は消費者向けのお話も聞いてみたいと思いました。本日はどうもありがとうございました。

森 優希  もりゆき

EMIELD株式会社 代表取締役 社会課題解決の推進パートナー SDGs経営 コンサルタント

経営者・元経営者コンサルタント

大手経営コンサル会社にてSDGsビジネスモデルチームを立ち上げ、リーダーとして実績多数。独立後【社会課題解決×企業利益創出】の両面を追求する「持続可能なSDGs経営支援」に注力。顧客の課題と徹底的に向き合う姿勢と、成果を上げるコンサルティング・セミナーに定評がある。

プランタイトル

SDGs経営戦略
~社会性と経済性の両面を追求できるビジネスモデル~

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