兄の死をきっかけに「人生の意味をもたらすこと」の大切さに気づき、「自分なりに先読みをして、その変化に耐えられるよう責任をもって準備する」というミッションを持つようになったピョートル・フェリクス・グジバチさん

インタビュー後編では、この変革の荒波を生き抜くための「ニューエリート」、「パラダイムシフト」の考え方についてお聞きしました。
そこには、コロナ禍で何をすべきなのか迷ったときの道しるべとなるヒントがありました。
前編に引き続き、後編もぜひご覧ください!

■目次

企業戦略の3ステップ「先読み」「つなぎ」「仕組みづくり」

――現在はプロノイア・グループ 株式会社を経営されていますが、この「プロノイア」とはギリシャ語で「先読みする」「先見」という意味がありますよね。一人のビジネスパーソンとして経済を先読みする方法を教えてください。

ピョートル 世の中は速いスピードで変化していますが、それを先読みするのは難しいと思います。しかし、どの業界においてもトレンド・パターン・サイクルがあります。それを見極めておけばよりよいインサイト(ひらめき)につながります。

例えば、服飾業であれば、去年のファッションや売上の動向を見て、今年は同じような動向になるのか、それとも真逆の状況になるのかを考えます。先読みするためには、服飾業だけではなく他の業種の人からの意見も参考になります。そのため、弊社では異業種間でディスカッションする場を設けています。他の業種間と「つなぐ」ことをした後に、次は仕組みづくりです。

弊社ではこの「先読み」「つなぎ」「仕組みづくり」のプロセスで企業戦略やイノベーションのコンサルティングを行っています。

――先ほどの「つなぎ」という言葉がありましたが、実際にどのような活動をされているのでしょうか?

ピョートル コロナの前は、毎月1回「未来フォーラム」というイベントを開催していました。弊社のパートナー企業から50〜100名の人々が参加し、「教育」「デジタル国家であるエストニア」など多様なテーマでディスカッションを行います。新しい考え方やコンセプトが生まれてきました。

▲「未来フォーラム」での一コマ。毎月一つのテーマで積極的に意見交換が行われた

現在は、「スタジオエックス」という場を開設しています。外部から人を呼んで交流したり、自分たちのアイデアを極めることができるワークショップを開催したりできます。キッチンもあるので、料理をしながら異業種間交流もできます。また、今後はここで収録や配信を行ったりすることも考えています。

▲現在ピョートルさんの活動の拠点となっている「スタジオエックス」

激動の時代に価値観をアップデートすることの重要性

――コロナ禍やウクライナ情勢など、今、激動の時代を迎えていると思います。今後、私たちはこのような変化にどのように対応していくべきなのでしょうか?

ピョートル 環境問題、地政学的バランス、グローバル経済のあり方、宗教の問題、都市やインフラのあり方、生産と物流の関係、そして働き方…。僕たちは今、身近に迫る変化と危機を感じながら、それぞれの当たり前を問い直されています。
コロナ禍はただのきっかけに過ぎず、「私たちは本質的に変化することの意味を見逃している」という事実に気づくことから始めなければなりません。

今起きていることは、まさに「パラダイムシフト」であり、昨年(2021年)、僕はこれに関する本を出版しました。

本書では、この変化について、さまざまな分野で世の中の仕組みを作ってきた経営者はどのように感じているのかをインタビューしました。その中で、これからは一人ではなく、多彩な価値観を持つ人々との対話を通して、自分なりの考え方や考え方を精査し、アップデートしていくことが重要であると感じています。

▲2021年発売の『パラダイムシフト 新しい世界をつくる本質的な問いを議論しよう』

例えば、私たちはインターネットなどさまざまなメディアから情報を拾いますが、その情報が本当に正しいかどうかはわかりません。その情報ソースの裏には、広告やメッセージなど何か意図的な考えがあるかもしれません。だから、自分が信じている情報と信じていない情報を同時に比較しながら、自分とは異なる考え方の人々と対話をしてその情報をさまざまな方向から解釈していくことが大事です。情報を集めて、自分なりの仮説を立てて、それをさまざまな立場の人たちにぶつけてみて、フィードバックをもらう。このプロセスは、弊社の名前の由来となっている「先読み」にもつながります。

――実際、このコロナ禍はチャンスなのでしょうか?ピンチなのでしょうか?

ピョートル そうですね。実際はピンチと捉える人が多いかもしれません。「ピンチ=リスク」だと思うのですが、逆を言えば、これを機にしっかりとリスク管理ができるようになるので、ある意味チャンスなのかもしれません。

これまで正しいと思っていた働き方や暮らし方がこのコロナ禍で180度変わってしまった。変わると最初は心地悪いですが、変わったことで見えてきたこともありました。最近、僕が住んでいるマンションの近くの公園で、昼間に子どもたちと遊ぶお父さんの姿を見かけるようになりました。コロナ禍以前は考えられなかった光景ですよね。

コロナ禍は確かにピンチであるけれども、家族にとってポジティブな影響も与えました。テレワークなど働き方もより多様化し、自分の生き方に合わせて選べるようになりました。働き方が広がったのは、一つのメリットですよね。

――そうですね。働き方も大きく変わり、より自分らしい生き方が求められるようになったような気がします。

ピョートル 人が幸せを感じること、それは自己実現でありますが、自己実現には自己認識が必要です。
自分は何のために生きていて、何のために働いているのか、あるには、何を大切にし、何を正しいと思うのか、何を欲しているのか、しっかりと見極めておく。後は、それを恥じることなく、「私はこれを大切に思っていて、こういう仕事を通じて社会価値を作っているんです」というように自己開示していけば、周囲に支援者が増えます。そうすると、自分の思い描いたものが実現できます。

とはいえ、周囲は常に変化していて、「これが正しい」と思ってきたものが「正しい」といえなくなることもあります。これまで自分が頑張って積み上げてきたものを壊さなくてはいけないときもあります。だから、時には「自分を疑う」ということも大切なんです。

私たちは、常に選択を迫られています。それが東京のオフィスでもアマゾンのジャングルでも、素早く意思決定しなければならない。意思決定しないと生き残れないからです。大学、専攻、就職、その後のキャリア…と人生は常に意思決定の連続です。毎日の生活の中でも、どの道を通っていくのか、昼食に何を食べるのか、小さな意思決定があります。その時の判断でチャンスにつながることもあれば、失敗になることもあります。
その時、判断する基準は、今持っている自分の価値観や信念、欲望だったりします。「やりたい」と思った時は、とりあえずやってみるしかないんですよね。「やらない」と判断したらすっぱりと諦める。
やらないことには次の意思決定につながらない。「やるならやる」「やらないならやらない」という素早い意思決定が重要なのです。

社会に対して責任を負える、それが「ニューエリート」の考え方

――ピョートルさんは「自分の人生を楽しむことが仕事につながる」という「ニューエリート」論を説いていらっしゃいますが、2000年に来日されて移行、日本の雇用状況はかなり変化したでしょうか?

ピョートル このコロナ禍以前と以後で雇用体系や価値観の変化が来ています。戦前・戦後は、集約労働、縦社会、管理社会の中で、職番や社会や家庭の役割をせっせと果たしてきたという状況でした。しかし、今は社会のインフラも整えられ、個人がアクセスできる情報も人も膨大なものとなりました。昔と比べ、選択肢も増えた反面、その分責任も増えてきました。どれだけ社会にポジティブな価値観を与えられるかは、自分のマインドセットや人格、哲学次第です。今置かれている世界の状況をしっかりと理解して、どんな選択をすべきなのか、また選択した後はその責任を負うことも重要です。

――「責任を負う」というのはどういうことでしょうか?

ピョートル 例えば、駅でだれかにぶつかってその相手に謝らないけれども、会社で上司にだけ頭の低い会社員がいたとします。その会社員は、上司には礼儀正しくしていますが、社会に対して責任がとれていない以上、人間としてどうなんだろうと思いますよね。「社会に対して責任を負う」というのは、会社以外での言動を整えることにあるのです。会社外でも人と接することで、ある種の循環を作っています。それが好循環となるのか、悪循環となるのかは、その人の普段の言動に大きく影響しているのです。
会社だから、プライベートだからと関係なく、自由な選択をしている以上、常に社会に対して責任を負うという気持ちで、世の中の変化に対応していかなければならないと思っています。

家族との死別、挫折から再生への道

――先ほどのパラダイムシフトではないですが、ピョートルさん自身が価値観を大きく変えられた出来事はありますでしょうか?

ピョートル 自分の価値観を変えられる時は、自分がこれまで信じてきたことが覆された時であり、それは「挫折すること」でもあるんですよね。大抵の人は挫折すると大きく凹みます。その時、脳は戸惑った状態になります。それは人が成長するのにとても大切なプロセスで、自分のアイデンティティーを再設計することにもなります。

――確かに、挫折は成長につながることもわかっているのですが、時々、挫折から這い上がれない場合もあります。そんな時にはどうすればよろしいのでしょうか?

ピョートル 私は父と母、兄2人の5人家族でしたが、既に両親と兄たちは他界していて、今は天涯孤独です。今でも会いたいと思ったり、悲しく思ったりすることもありますが、そのような別れは人生の流れの1つであり、人は生まれれば死も必ず訪れます。亡くなった人や時間を取り戻すことはできません。それよりも、これから残りの人生をどのように生きていくのかを考える方が建設的ですよね。亡くなった人との思い出や時間を大切にしながらも、これから自分の人生に起こるさまざまな人との出会いや出来事を歓迎していくことが重要なんだと思います。

――家族との死別は大変ショックなことではありますが、ピョートルさんはどのように乗り越えられたのでしょうか?

ピョートル 死別も含めて人は挫折すると、すぐにショックを感じるのでなく、喪失感の1つ手前のハネムーン期が訪れます。僕の場合、家族の死を知った時、すぐに深い落ち込みには至りませんでした。お葬式を迎えた時にじわじわと喪失感が襲ってきました。しかし、落ち込んでいても、お腹はすくし、眠くもなる。だからご飯も食べて、眠って…といういつものルーチンワークを繰り返します。何かショックを受けたり、失ったりした時こそ、毎日の生活リズムを整えることが大事です。映画を見たり、好きな食べ物を食べたり、好きな誰かと会ったり…という気晴らしをしながら、毎日の生活を繰り返していくことで、乗り越えることができました。

――私自身も家族の死別を経験し、数年経過して、今までと変わりなく生活はしていますが、普段何気ない時に死別した経験が脳裏に浮かび、いたたまれなくなる時があります。傷を完全に癒すことは難しいのでしょうか?

ピョートル 傷を治そうとするのではなく、その傷を受け入れて、それをどのように社会に生かしていけるのかを考えていく方がよいと思います。死別を経験し、人生が無常であることを知れば、目の前の相手に優しくしたり、大切に思えるようになります。それは強みであり、もっと社会を良くして行ける原動力にもなれると思うのです。

――そうですね。ただ、傷を受け入れるのには時間もかかると思いますし、なかなか感情をコントロールするのは難しいですよね。

ピョートル 私は合気道を学んだことがありますが、合気道では「転ばない」ということより、「転んだ後にいかに速く立ち上がって体制を整えるのか」に注力します。例えば、ショックや激高するようなことがあった場合、すぐに反応を示すのでなく、一呼吸おいてから、相手に反応を示すようにしています。ワンクッション置くことで、自分のバイアスを一旦リセットでき、冷静に次に何をすべきか考えることができます。

――ピョートルさんが落ち込んだ時にすることは何でしょうか?

ピョートル 落ち込んだ時こそ、朝ごはんを作って食べる、洗濯ものをたたんでみるなど、その時にできる普段の生活をしています。普段の生活を取り戻せば、心も落ち着いてきますよね。

誰もが自己実現できる世界を目指して

――それでは、最後にこれからの夢を教えてください。

ピョートル 僕の人生は「誰もが自己実現できる世界を作っていく」というのが目標なのですが、その裏に「自分しかできないことを世の中にもたらしたい」という自己実現欲求があります。自分の今後の人生で、悲しい経験より楽しい経験、辛い経験ではなく建設的な経験をしていくことですね。
また、私の講演を聴いていただいた方が、少しでも気づきがあり、昨日より今日の自分が少しでも良くなったと感じられるといいなと思います。その良くなったと感じられるプロセスが継続すれば、人は急成長できます。その機会をずっと死ぬまで提供し続けられたらよいなと思います。

――ちなみに10年後も日本にいらっしゃいますよね?

ピョートル 日本にも他の先進諸国のようにさまざまな社会問題はありますが、「わび・さび」や「おもてなし」など世界に誇れる素晴らしい文化がいっぱいあります。それをいかに日本の皆さんに気づいていただき、世界へ発信できるのかをライフワークにしていますが、それを完結するまで後10年はかかると思います。

――10年後のピョートルさんのご活躍にも目が離せませんね。本日はありがとうございました。

こちらもご覧ください!

【講師特別インタビュー】 ピョートル・フェリクス・グジバチさん 前編
兄の死が教えてくれた「人の人生に意味をもたらす」ということ

モルガン・スタンレー、Googleなど国際企業で人材育成畑を経験し、現在は、プロノイア・グループ株式会社 代表取締役、株式会社TimeLeap取締役、株式会社GA Technologies社外取締役を務めるピョートル・フェリクス・グジバチさん……

ピョートル・フェリクス・グジバチ

プロノイア・グループ株式会社 代表取締役 株式会社TimeLeap 取締役

経営者・元経営者コンサルタント

ベルリッツ、モルガン・スタンレー、Googleなどグローバル企業での人材育成分野にて活躍。2015年に独立し、現在、プロノイア・グループ株式会社 代表取締役、株式会社TimeLeap 取締役を務め、組織開発、人材育成、働き方改革のコンサルティングなどを手掛けている。

プランタイトル

働き方イノベーション~これからの働き方・生き方~

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