昨今、若手社員の高い離職率に危機感を持っている企業も少なくないでしょう。
この記事では、新入社員の早期離職を防ぎ戦力化するのに役立つ仕組み、「オンボーディング」について解説します。

オンボーディングとは

はじめに、オンボーディングとは何かや、オンボーディングを行う目的について解説します。

オンボーディングの意味

「オンボーディング」の英語表記は「on-boarding」で、「目的地まで乗り物に乗る」という意味です。新卒や中途で入社したメンバーが、組織に迅速に適応し、職務で実力を発揮できるように支援するプロセスを指します。

オンボーディングの目的は新人の早期戦力化

オンボーディングを行う目的は、新メンバーの早期戦力化です。

これにより企業にとっては、第一に、社員の離職を防ぎ定着率が向上するというメリットがあげられます。定着率が高ければ職場全体のエンゲージメントも上昇するでしょう。

人事担当者にとっては、採用コストが削減できるという直接的な利点も外せません。さらに組織単位でも、生産性アップにつながる可能性が高まります。

人材育成担当者が知っておくべきオンボーディング6つの基礎知識

次に、人材教育担当者が知っておくべき6つの基礎知識について解説します。

①オンボーディングの全体プロセス

オンボーディングは、「入社前」「入社直後」そして「入社数か月後」の段階に分けて実施します。

入社前の目的は人事担当者が内定者との関係性を築くこと。内定者が企業への理解を深めたり先輩社員との接点を作ったりする機会を設けます。

入社直後は新入社員に対し、こまめに業界知識や社内用語などの企業文化を説明・共有し、配属先とも連携して、早期離職を起こさないように努めます。

入社数か月以降のタームでは、入社前とのギャップや不満のヒアリング、キャリアデザインやスキルアップ機会の提供などを通じて、社員のさらなる定着を図ります。

②オンボーディングツールの活用

オンボーディングには便利なサポートツールがあります。ツールがあれば、各プロセスをオンラインでスムーズに進められます。

例えば、下記のような機能を備えています。

  • アンケート機能…新入社員のメンタル状態の聞き取りに使えます。
  • 面談支援機能…1対1面談の設定や内容の記録に役立ちます。
  • タスク管理機能…社員がどの程度組織について理解しているかや、業務の進捗を把握

できます。

ツールを活用すると、社員ごとに生じがちな教育のレベルや内容のバラつきを抑えられます。またテレワーク環境にある新入社員の不安感払拭にも役立つこと間違いありません。

③メンター制度との連携

メンター制度とは、経験豊富な先輩社員が新入社員に対して1対1での指導や助言を提供し、組織に慣れるのをサポートする制度です。

オンボーディングに加えてこのメンター制度を導入すると、業務外の人間関係やキャリアへの不安などまでフォローできます。

④組織全体と対象者の継続的なサポートシステム

オンボーディングは、人事担当者が主体で行う研修や、上司・先輩社員による日頃の業務指導とはまた別に、組織全体で新入社員を支援・育成するシステムです。組織全体と対象者の両者にとっての継続的にサポートシステムとなります。

交流会やランチ会の実施のほか、普段は直接関与しない第三者へ相談できる窓口の設置、本音を表明できるアンケートツールなどは新入社員にも活用しやすいでしょう。不安の多い新メンバーが組織へなじむまで、総合的にフォローするのが大切です。

⑤OJTとの違い

OJTとは「On The Job Training」の頭文字をとったものです。OJTは上司や先輩が実務の中で知識や技術を実践して伝え、業務上の即戦力を養うのが目的です。

それに対しオンボーディングは、OJTの内容に加えて、新入社員がいちはやく組織に馴染めるようにするのが目的です。企業文化の理解や人間関係への適応などまでを含めた支援策であり、OJTよりも幅広い役割を担っています。

⑥従来の新入社員・中途入社社員研修との違い

新入社員・中途社員研修は、入社直後一定期間に限って行われます。新入社員研修であれば、社会人として必要なビジネスマナーなどの基礎スキルを身につけるために実施します。

オンボーディングは、入社前から入社後数か月にわたり、業務以外の部分まで継続的かつ組織全体でサポートするのが特徴です。

オンボーディング導入の7つのステップ

ここからはオンボーディング導入のための7つのステップについて解説していきます。

Step.1 組織のニーズ分析と目標設定

業界や職種などによっても、新人に求めるニーズは異なります。組織が求めるニーズや役割をヒアリングし、対象社員が「いつ頃までにどんな状態になるのか」という目標を設定します。

その際、個人のスキルや経験などをもとにま「3か月後に1人で営業活動ができる」や、「1年後には自分で企画した個人プロジェクトを遂行する」など、どの期間でどのぐらいの成長を求めるか、具体的な目標を明確化してください。

Step.2 プログラムの企画設計

次に、オンボーディングの内容を設計します。

例えばステップ1で「3か月後に1人で営業活動ができる」という目標を立てました。これを達成するにはどうすればよいか逆算し、「必要なソフトを使える」などのスキルや「不明点の社内問い合わせ先が分かる」「先輩社員がサポートから外れる」といった状態を細分化し、実現のための施策をピックアップするのです。

これらをプログラムに具体的に落とし込んでいきます。

Step.3 リソースの確認と確保

プログラムを進めるにあたって、「何を」「誰が」担当するのかを明らかにし、新メンバーのサポート役や定期面談時間の確保のため、社内の関係者と打ち合わせを重ねます。

対象者の配属先などの部署と連携し、実施段階になってから施策内容の理解に行き違いが発覚しないよう、事前のすり合わせを徹底しましょう。

Step.4 段階ごとの目標設定

段階ごとの目標設定も大切です。これには「スモールステップ法」がおすすめです。

先述の通り「大目標に到達するために、まずは入社から1週間で小目標を達成する」といった具合に、期間と目標を細分化するのです。

この手法は、新しい環境で何かと不安の多い新メンバーも、達成感や成功体験を得るのに役立ちます。

Step.5 必要なドキュメントやツールなどの準備

社内情報共有のためのコミュニケーションツールやコラボレーションツール、学習のためのeラーニングシステムなどを、ステップ2で設計したプログラムに沿って揃えます。

業務や社内のルールが分かる資料も、聞かれる前にある程度取りまとめておきましょう。

Step.6 関係者との顔合わせ、期待値のすり合わせ

ステップ6からは入社後です。入社直後には、新入社員を配属先の関係者と顔合わせしましょう。

1対1の面談である「1on1ミーティング」などを通して、会社として、1か月後、半年後、1年後にはどんな人材になってほしいかを明確に伝えます。

しかし企業側の期待値が高すぎても低すぎても、本人にとっては不安のもとになる可能性があります。この段階で新入社員の意見も聞きながら、目標についてすり合わせしてください。

Step.7 プログラムの成果評価と改善

オンボーディングを実施した後は、プログラムの内容が適切だったか、離職防止に効果はあったか、対象者が不満を感じた点はなかったかなどを調査し、振り返ります。

改善しながら、より精度の高いプログラムを作り上げていきましょう。

企業がオンボーディングを取り入れるメリット

この章では、企業がオンボーディングを取り入れるメリットを、4つ解説します。

メリット1.早期離職の防止・定着率の向上

近年は労働人口が減少しているうえに終身雇用制度はほぼ崩壊して、若い世代ほど転職が身近になりました。早期離職者も多いのが現状です。入社時から定年まで同じ会社で働こうと考える新入社員のほうが少数派になっています。

そして新入社員は「会社になじめるめだろうか」「仕事を早く覚えなくては」と、新しい環境に日々不安を抱えています。オンボーディングの各プロセスを通じて会社全体への安心感・信頼感が蓄積されれば、早期離職者は減少し、定着率も向上するでしょう。

メリット2.採用コストの削減

人材の採用には多大な費用がかかります。入社前は求人広告や説明会の開催などに金銭的コストが、採用段階では書類選考・面接などに社内の多くの関係者の手間や時間が投入されているでしょう。入社後の育成段階も同様です。

社員が1人早期退職すると、それまでにかけた多大なコストを無駄にしてしまいます。その点、オンボーディングが奏功して新入社員が長く働いてくれるようになれば、新たな人材を採用するためのコストはかかりません。

メリット3.個人と組織の生産性アップ

新入社員が早い時期からスムーズに組織と業務に慣れれば、その時間の分だけ生み出せる成果が増えるため、まずは本人にとっての生産性がアップします。

同時にオンボーディングは組織横断的な人材育成の取組みでもあるため、これを機に全体の関係者の連携が進むと、業務効率も高まるでしょう。したがって企業としての成長にもつながります。

メリット4.対象社員のエンゲージメント向上

オンボーディングは、新入社員が会社の文化や価値観を早く理解する助けになります。「困ったときもきちんとサポートしてもらえる」「入社前の心配ごとがなくなった」「この会社には自分が果たせる役割がある」といった信頼感や安心感を得られるでしょう。

迎える側の社員も、よりよい職場のあり方について新人の立場から考える習慣が身につきます。これにより既存のメンバーの組織へのエンゲージメント向上も期待できます。

オンボーディングの具体的事例

ここからは、オンボーディングを導入して成果を上げている企業の事例を4つ紹介しましょう。

富士通

かつて富士通は、「中途採用人材の迎え入れノウハウがなく、採用した人材が社内で十分に能力発揮できない」という問題を抱えていました。そこで中途入社社員の早期定着を図るオンボーディングを取り入れました。

入社後90日間のフォロー体制を整え、対象社員には別の社員をアドバイザーとしてつけることにより、入社後すぐに採用時に期待された水準のパフォーマンスが発揮できるようになったといいます。

このような取組みの結果「既存の社員も、中途採用社員が持つ新たな視点からの意見を聞く機会が増え、日々刺激を受けながら業務に取り組めるようになった」という効果が報告されています。

サイバーエージェント

サイバーエージェントのインターネット広告事業本部では、新卒社員・中途社員共通で、入社3か月での戦力化を目指す「スタメン」という育成プログラムを用意。新入社員には組織全体で丁寧な研修カリキュラムを提供する一方で、中途入社の社員にも別の入社サポートプログラムを設けています。

これらのプログラムでは、入社後半年ほどで組織に慣れることを最重要視。「チームで業績を作る」という意識を徹底し、互いの成果を称え合える風土につなげるため、部署全体で入社者の成長にコミットする文化を根付かせています。

日本オラクル

続いては日本オラクルの事例です。ソフト・ハード製品のほか、ソリューションなど幅広いIT事業を展開しています。

同社では先輩社員が新入社員をサポートする「バディー制度」を取り入れ、自社製品であるクラウド型人事ソリューションを活用しています。人事や総務部主導ではなく、新入社員が配属される部署が責任をもってオンボーディングを行うのも特徴の1つです。

そしてこれらの施策を含めた人事戦略で、従業員全体のエンゲージメントを上昇させました。

Sansan

名刺管理サービスのSansanでは、中途・新卒の新入社員に対して、オンライン研修をベースにしたオンボーディングのプログラムを用意。インプットとアウトプットに分けて設計しているのがポイントです。

研修の前半ではビジョンについて知ったうえで社員同士の相互理解を深め、後半はワークショップなどを通じ、会社への理解度を上げていきます。

さらに中途採用社員には独自のプログラムを設けて、メンバー間で横のつながりを持てる仕組みをつくっています。

オンボーディングを実施する際の注意点

最後に、オンボーディングを実施するうえでの注意点を3つ説明します。

教育とアウトプットの機会を設定する

教育は、知識のインプットの場であり、これを発表や実践する場を設けるアウトプット場、両方の機会を設定する必要があります。

教育を充実させる方法には、研修の開催やeラーニングの提供などがあります。リモート環境の社員が対象であれば、コミュニケーションツールの整備などもこれに含まれます。

またアウトプットとしては、レポートや発表の場を設けるなどして社員自身の理解度を把握するほか、指導者側からのフィードバック機会を作ることも大切です。

これらを組み合わせて教育サイクルを構築するとよいでしょう。

教育レベルの差をなくす仕組み作り

各部署に新人育成を任せると、部署やトレーナーによって指導内容に差が生まれる可能性もあります。オンボーディングは、人事部門が主導で全社が連携する取組みであると周知させ、教育レベルの差をなくす仕組み作りが重要です。新人育成に関して一定の共通目標を設定すれば、組織力の底上げにもつながるでしょう。

多様な社員への対応

昨今は中途採用入社も増え、性別・年代・国籍などを問わず、さまざまな社員の能力を生かすのが企業共通の課題です。働き方の多様化も進んでいます。

「人事は採用まで、入社後は配属先任せ」とはいきません。入社後も社員一人ひとりに寄り添い、能力を最大限に引き出すオンボーディングプログラムの整備が重要です。

特にZ世代は「知識」の習得以上に、心を動かされる「感動」を重視する傾向にあります。研修において外部から招く講師は、単に知識を提供するだけでなく、人の心を動かすことに長けています。当社には、そのような講師が多く在籍しています。
「離職率を低下させたい」「新入・中途社員を何とか根付かせたい」という人事担当者の御相談に対して的確な講師・研修プランをご提案しております。
これを機に、オンボーディングプログラムに外部講師のノウハウを組み込んだ研修の導入を検討してみませんか?

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