9割以上の企業が計測したいと考えている「エンゲージメント」。なぜそれほどまでに企業はエンゲージメントに注目しているのでしょうか。この記事ではその理由や、エンゲージメント向上のための7つの施策などについて解説します。
エンゲージメントとは組織への「愛着」や「思い入れ」
エンゲージメントとは、社員が会社に対して感じる「愛着」や「思い入れ」を意味します。
より具体的には、社員が「会社の目標や価値観に共感し、自分から積極的に仕事に取り組む意欲」を指します。エンゲージメントが高い社員は仕事に対する熱意や満足感が高くなり、会社の業績に大きく貢献するでしょう。
このため多くの企業では、働きやすい環境を整えたり、キャリアをサポートしたりするなど、社員のエンゲージメントを高める取組みを推進しています。
エンゲージメントが重要視されている背景
それではここからは、エンゲージメントが重要視される背景を2つ説明しましょう。
労働人口減少やマネジメント方法の変化
労働人口がどんどん減少していく中、企業は限られた人材の能力を最大限に引き出す必要があります。社員のマネジメントも、従来のようなトップダウン型・画一的な指導方法から、社員の自主性や個性を尊重するスタイルへとシフトしています。
社員一人ひとりの生産性を向上させるには、仕事に対して強いモチベーションを保てる職場環境で、自発的に業務に励む意識を育まなければなりせん。
したがってエンゲージメントの向上は、これからの企業経営にとって不可欠な要素となっています。
人材定着率向上にはエンゲージメントが鍵に
エンゲージメントスコアが高い社員は、仕事への情熱や意欲が高まっており、「会社と自身の成長のために行動しよう」という気持ちが強い状態です。逆にスコアが低い状態であれば、離職する確率も高まります。
少しでも人材流出を防ぎ定着率を上げたい企業は、自社のエンゲージメントの現状を知ることから始める必要があります。
中小企業の9割以上が「エンゲージメント計測の必要性」を実感
企業がエンゲージメントに注目している傾向は、統計からも明らかです。
商工中金が2023年に行った「中小企業の従業員エンゲージメントに関する調査」によると、中小・中堅企業約2,500社のうち9割弱の企業が「エンゲージメント計測の必要性を感じている」と回答しました。また約3割の企業において「すでに何らかの形での計測を実施している」という結果でした。
エンゲージメントを高める、7つの具体的な企業施策
それでは、エンゲージメントを高めるにはどうしたらよいのでしょうか?
ここでは、企業がエンゲージメント向上施策に取り組み、実際に成果を上げた成功事例を7つ紹介します。
①研修の実施・体系強化
エンゲージメントに直結しやすい事例として、まず第一に研修の実施と、既存の研修体系の強化が挙げられます。
例えばソニーグループは、研修制度の充実・強化による社員の能力開発、キャリア形成に注力しました。これは組織全体のエンゲージメント向上を目指す取組みの1つです。職種や階層ごとの必修研修のほか、自己啓発研修などの選択研修も提供。海外赴任者向けにはグローバル研修を、エンジニア向けには300科目の技術研修も提供しています。
研修体系の強化は、企業が着手しやすい施策の1つといえるでしょう。
②企業のビジョンや理念の共有
企業のビジョンや理念の共有も、高いエンゲージメント効果があります。
経済ニュースプラットホーム「News Picks」を運営するユーザベースは、事業規模の拡大に伴って、キャリア採用の社員が増加していました。そこで中途入社社員にも企業理念やビジョンを浸透させるため、社内に「カルチャーチーム」という組織を発足。チームが主体となってさまざまな施策を打っています。
一例として、定期的な社内アンケートで現場からの課題を把握し、それを経営層に直接伝えています。そして現場へは、経営層からの解決策をフィードバックするのです。
こうした取組みは、社歴の浅い社員が会社の目指す方向や価値観を知り、内面化する機会の1つとなっています。
③社員・従業員のキャリア・成長支援
スターバックス コーヒー ジャパンは、従業員の約8割がアルバイトです。しかし学生アルバイトであっても、個人の成長目標を設定し、4か月ごとに人事考課や振り返りを行います。これにより従業員が自身の成長を実感できます。
スターバックスでは一度辞めたアルバイトスタッフが再度採用面接を受けるケースも多く、高い従業員エンゲージメントで知られています。その結果、他の飲食チェーン企業と比較しても高水準の人材定着率を維持しています。
④情報共有・イベント実施など社内コミュニケーションの促進
住設メーカーのLIXILでは、情報共有システムを導入しました。例えば従業員は、自分の担当顧客と共通するニーズを持った、過去の顧客の成約情報も閲覧できます。このように課題に直面した従業員に、求めるサポートを即座に提供できるシステムとなっています。顧客満足度とともに成約率も向上し、従業員が自信をもって商談に臨めるようになりました。
またコミュニケーション促進には、スポーツ大会などチームビルディングのイベントを開催したり、社内SNSやチャットツールなどを整備したりするのも有効です。
⑤評価制度や報酬、福利厚生の充実
丸井グループでは、人事評価制度を見直しました。職種の壁をまたいでの異動や、それを含むさまざまなキャリアパスの提示などがその一例です。その結果、従業員エンゲージメントが向上し、同グループ独自の経営指標である「Well-being指標」も大幅に改善しました。
ほかにも、評価基準の明確化、目標達成に応じたインセンティブや賞与などの報酬制度や、福利厚生の充実を図ることも即時的に有効です。このような施策は社員の意欲を直接刺激し、エンゲージメントにも影響するでしょう。
⑥面談や意見箱などによる社員の価値観の把握
旭化成は、エンゲージメントスコアの定期調査を通じて、社員からの意見を把握しています。また職場ごとにマネジメント層が社員との1on1を積極的に実施するなど、人材育成において対話の機会を重視しています。
この結果、同社は社員のワークエンゲージメント(仕事に対してポジティブで充実感を得ている状態)によい影響があったと報告しています。
⑦ワークライフバランスや健康への配慮
KDDIグループでは、全社員に対し社内カウンセラーによる面談を年2回行い、メンタルヘルスの問題や長時間労働が見られた場合には、すぐに医療専門職や対象者の上司と協力して改善策を講じるようにしています。
ここまで、各企業の事例をもとに7つを挙げましたが、このほかにもさまざまな施策があります。自社の課題に合うものを検討してみてもよいでしょう。
エンゲージメント向上が企業にもたらす効果
ここからは、エンゲージメント向上が企業にもたらす効果を4つ解説します。
生産性や業績の向上
エンゲージメントの上昇が社員個人の生産性や会社の業績に貢献することは、国内外の複数の研究で証明されています。
例えば、米国の調査会社・ギャラップの2023年の『State of the Global Workplace: 2023 Report』では「エンゲージメントスコア上位25%の企業は、下位25%の企業と比べて生産性、収益性、顧客評価の数値が明らかに高い」という結果が出ています。上昇した指標はすべて企業の業績に直結します。
また国内の研究機関であるモチベーションエンジニアリング研究所が2018年に発表し『「エンゲージメントと企業業績」に関する研究結果』によると、「『従業員エンゲージメント』向上は、『営業利益率』『労働生産性』にプラスの影響をもたらす」と報告しています。
離職率の低減
エンゲージメントスコアの向上が退職率の低下に関わるという傾向も、いくつかの調査で明らかになっています。またこの傾向は現場社員だけでなく、管理業務に携わる層にも同様です。
エンゲージメントが高い社員は「所属先へもっと貢献したい」という思いから、そもそも転職への関心を抱きにくいでしょう。
職場環境の改善
エンゲージメントの高い社員は、誇りを持って自主的に動ける人材です。社員一人ひとりが自らの意見を表明する機会が増えると、チーム内に建設的な雰囲気が育まれ、職場全体のコミュニケーションも円滑になります。
そのような職場環境は、メンバーのメンタルヘルス管理の面にもよい影響を及ぼします。所属する組織の中で自分に果たせる役割があり、満たされている感覚がストレスを軽減。さらに、いきいきと健康的に働く意欲の維持につながるでしょう。
企業の信頼性や社会的評価のアップ
エンゲージメントスコアの高い企業は、提供する商品やサービスの品質も高いという調査結果が知られています。これは顧客の期待に応えるサービスを提供しているということであり、エンゲージメントは顧客満足度とも関連しています。
さらに顧客の期待を裏切らない企業には、社会的な評価も高まります。良好な企業イメージが定着すれば優秀な人材が採用しやすくなり、あらゆるビジネス活動に好循環が生まれます。
エンゲージメントの計測方法
エンゲージメント向上には、的確な計測方法を知る必要があります。ここでは、主な計測方法を3つご紹介します。
方法1.エンゲージメント・サーベイ
「エンゲージメント・サーベイ」は、社員に対して業務への意欲や所属先への満足度を測定する調査です。
エンゲージメントの現状を把握するとともに、低スコアの部分などから優先度の高い改善点を特定できます。企業は置かれている現状を正しく認識して初めて、課題への有効な対策を検討できるでしょう。
方法2.パルスサーベイ
「パルスサーベイ」はエンゲージメント・サーベイの一種で、短期間で頻繁に実施するのが特徴です。
従来の年次調査とは異なり、週1回から月に1度といった頻度で行います。企業が社員からのフィードバックを収集し、迅速に職場環境を改善するのに役立ちます。
社員の不満をためこむことなく、即時に対応したい企業に向いています。
方法3.ツールや外部コンサルティングサービスの活用
ツールには社内アンケートの結果分析がメインのものや、コミュニケーション機能などエンゲージメント向上に直接使える機能を備えたものがあります。
また、課題が複雑で何から手をつければいいか分からない企業には、外部業者が提供するエンゲージメント向上を目的としたコンサルティングサービスの利用もおすすめです。
エンゲージメント向上研修を成功させるポイント
最後に、エンゲージメント向上研修を成功させる4つのポイントについて解説します。
point1.自社課題を正しく把握する
エンゲージメント調査の結果をしっかり受け止め、自社のよいところ、悪いところを正確に把握しなくてはなりません。
例えば「割り振っている業務内容」「社員同士の人間関係」「福利厚生制度」など、どういった取組みがエンゲージメントを上げているのか、反対にどんな要素の不足や欠如が社員のエンゲージメントを阻害しているかを明らかにしましょう。
point2.その場限りでなく継続的に取り組む
エンゲージメント向上研修を1回導入するだけではなく、研修終了後も本記事で紹介したさまざまな施策を組み合わせるのが有効です。単発や短期で終わらせず、継続的に実行しなくては、十分な効果は見込めません。
point3.行動変容、意識変容をうながす設計にする
研修の中では、グループディスカッションやワークなど、実務でも再現しやすい実践的プログラムを盛り込みましょう。また研修後も、達成できている部分を見つけて褒めるなど、社員が成功体験を積み重ねられるよう努めてください。
人事や上司に任せきりにせず、学んだことが目に見える行動に定着するまで全社的にサポートする体制づくりも重要です。
point4.経験豊富な外部講師に依頼する
人の行動変容や意識変容をうながすには、高度な専門知識と経験が必要です。外部講師はそうした点へのアプローチに長けているため、社内講師では実現できない成果が得られるでしょう。
多くの経験豊富な講師が在籍する当社では、企業課題に合わせたさまざまな研修プランを提案可能です。外部講師の知見を上手く取り入れて、まずは研修から社員のエンゲージメント向上を目指してみてはいかがでしょうか。
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