人間はなぜ自然にひかれるのか
~農のほんとうの価値~

宇根 豊 うねゆたか

元 農と自然の研究所 代表理事

提供する価値・伝えたい事

一杯のごはんには、赤トンボが何匹付随しているのでしょうか。
オタマジャクシはどうでしょうか。キンポウゲは何本? 涼しい風は何秒くっついているのでしょうか。

私たちは米は生産物、メダカやホタルは生産物ではないと、平気で分別しますが、それはまともな価値観でしょうか。
いつのまにか、ごはんと自然環境がつながっていることが忘れられています。
両者を結んでいる百姓仕事が見えなくなったからです。
こうなると、人間が自然に惹かれる理由もわからなくなるのは無理もありません。

内 容

近代化技術が隆盛になり、「安全で、おいしく、安く、安定して輸入される食べもの」なら問題ないという倫理に反論できなくなりました。あたりまえの、まともな農が、そこにいつも存在しなければならない根拠を日本人は見失っています。

先日も衝撃的な事態を見聞しました。
田んぼをつぶす道路が計画されていました。ところが住民は「田んぼは減反で余っているのではないか。米は他県から買えばいい」というのだそうです。「道路の方がずっと重要だ」というのは当然のように思えるでしょう。
ところがその田んぼの水路にメダカが見つかると事態は一変するのです。メダカは田んぼがないと生きられません。
「メダカを守るために、田んぼを守る」という倫理が生まれたのです。

このことは戦後の農薬観を、根底から覆してしまいます。わかりますか?
農は、メダカ(自然)によって守られているのです。それは決して恥ずかしいことではありません。百姓は、ずーっと生きものと一緒に生きてきたからです。百姓仕事がなければ、生きものに彩られた四季も、また存在することはありません。
私たちは田舎の風景に包まれると、安心し、癒されます。それは生きものとして、自然の一部に同化する時間が得られるからです。この伝統こそが、百姓仕事がつくりあげたものの最たるものでしょう。

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