時間外手当不払いによる企業リスク
~正しい法的知識と訴えられた時の対処法~

所 信昭 ところのぶあき

社会保険労務士・行政書士
株式会社ところ人事企画 代表取締役

想定する対象者

業務事情や企業体質など様々な原因により、労働法を厳守出来ていない企業が多い。しかし、近年の時間外労働に関する規制強化を受け、各企業は労務管理の見直しが急務である。最新の労働関連法規と現場事例に基づき、労働法違反で提訴された時の対処法なども解り易く解説する。

提供する価値・伝えたい事

長時間労働による健康被害や労働者の権利意識の向上により、人事評価に対する不満が提訴というかたちで表面化するケースが増加しています。同時に、厚生労働省や労働基準監督署は時間外労働に関する規制を一段と強化しています。しかし、実際は法律違反をしている企業は多数あります。労働基準監督署が調査に入ると、仕事内容等を考慮することなく形式的に割増賃金の支払を命じます。
講演では、法律違反により発生する問題を解説し、労働基準法の正しい知識とトラブルの未然対処法を学びます。

内 容

1.時間外労働に関する行政の取り組みが強化されている背景
 ・長時間労働による健康被害の防止
 ・労働者の権利意識

2.労働基準法の基礎知識(労働時間に関して)
 ・36協定
   そもそも時間外労働させるには「時間外・休日に関する労使協定」(36協定)の締結と
   労働基準監督署への届出が必要
 ・1日の労働時間
   1日の労働時間8時間を超えると25%割増
 ・1週間の労働時間
   1週間の労働時間40時間を超えると25%割増
 ・休日
   労働基準法上の休日は、一週間に1日あればいい
   この日に出勤させると「休日出勤」となり、35%割増
 ・深夜
   午後10時から午前5時。
   8時間を超える勤務が深夜に及んだ場合→50%割増(残業+深夜)
   8時間以内の勤務が深夜になる場合(夜勤)→25%割増。
 ・割増基礎単価
   算定の基礎から除外してもいい項目
   基本給だけを基礎単価にすることはできない。
 ・管理職
 ・営業
 ・賃金の時効
   支払日から2年が経てば、賃金の請求権を失う=過去2年分は請求できる

3.時間外手当不払いの内容
 ・そもそもまったく支払っていない場合
 ・実際の勤務時間よりも少ない時間で計算する場合
 ・割増を支払っていない場合
 ・基礎単価が間違っている場合
 ・無理やり管理職にしている場合
 ・営業職で時間の管理ができるのに、時間外手当を支払っていない場合
  【時間外手当不払いの計算例】 そもそもまったく支払っていない場合
   月給300,000円 1ヵ月の所定労働日数20日 1日の所定労働時間8時間 
   基礎単価 = 300,000円÷20÷8h=1,875円
   1ヵ月の残業時間 平均20時間 → 不払い金額=1,875円×1.25×20h=46,875円
   過去2年さかのぼると → 46,875円×24ヶ月=1,125,000円 ←1人分!

4.時間外手当を払わないということ(法的性質)
 ・刑事上の責任
   労働基準法違反(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)
 ・民事上の責任
   債務不履行
    時間外手当を支払わないといけないという債務を履行しない
   (借りたお金を払わないのと同じ理屈)
  (注)双方の責任を負う。理屈の上では、どちらかの責任を果たせば片方が免れる訳ではない。

5.時間外手当に関する訴え
 A.特徴
  ・立証しやすい⇔使用者側としては負けやすい
   例えば、不当解雇による解雇無効やいじめによる慰謝料請求よりも立証しやすい
  ・他に主張したいことがあってもこの訴えに姿を変える
   在職中の人事評価に納得していなかった場合
  ・お金になりやすい
  ・労働基準法違反である
   単なる民事上の責任を追及するよりも採ることができる手段が増える
   例えば労働基準監督署。(労働基準法違反でないと介入しない)
 B.種類
  ・労働基準監督署(刑事事件として)
  ・労働局(紛争調整委員会のあっせん)
  ・労働組合
  ・地方労働委員会
  ・裁判所(民事調停、訴訟)

6.労働基準監督署調査
 A.調査のきっかけ
  ・退職者による労働基準監督署への申告
  ・労災事故の発生
 B.調査の実態
 C.是正勧告
   行政指導の一種で法律的な強制力はないが、勧告に従わないと刑事事件として
   立件する可能性あり。例えば、未払い時間外手当を支払うよう勧告し、
   従わないと検察庁に送検する。但し、裁判所の判決のように、民事上の責任である
   未払い時間外手当の支払それ自体を強制する権限(差し押さえなどの強制執行)はなく、
   刑事罰を背景に間接的に支払を強制する。

7.トラブルになると考えないといけないこと
 A.時間外手当の支払を要求している本人
 B.労働基準監督署
 C.他の従業員
  ・同様の請求
  ・モチベーションの低下

8.対処法
 A.訴えられたときの対処法
  ・労働基準監督署の調査には真摯に対応する
  ・他への影響の大きさを考えて、無駄に戦うよりもなるべく早く終結させる
  ・要求している本人に使用者から主張したいことがあれば、時間外手当未払いの件とは別に考える
   例えば、遅刻・欠勤の常習者に対しては損害賠償請求
 B.トラブルを未然に防ぐための対処法
  a.時間外そのものの削減
  ・無駄な時間外の解消
  ・時間外の申請・承認を厳格に
  b.残業単価を抑制する
  ・残業するか否かにかかわらず、通常見込まれる一定時間の時間外手当を支給する
  c.労働基準法通りの計算をする
  (注)現状よりも不利に変更するには従業員の同意必要
  ・法定休日(割増35%)とその他の休日(割増25%)を区別して計算
  ・割増が必要な時間外(割増25%)と割増が不要な時間を区別して計算
  d.変形労働時間制の活用(労働基準法上の制度)
    変形労働時間制とは、原則(1日8時間、1週40時間)の例外で、
    原則の時間を超えても割増の支払が不要となる制度。但し、
    原則よりも労働者に不利になるので、就業規則への記載や労使協定が必要など、
    手続が厳格になる。
 ・1ヶ月単位の変形労働時間制
 ・1年単位の変形労働時間制
 ・フレックスタイム制
 ・裁量労働制

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