
もしも職場で労働災害が起こったら、どのように対処すれば良いのでしょうか。まずは起こさないことが第一ですが、万が一のときには、確実な再発防止策を講じなければなりません。
この記事では、労働災害の再発防止対策について、基本事項から報告書類記入例までを解説します。労災再発防止のための研修プランもぜひチェックしてください。
労働災害再発防止対策の基本
まずは労働災害の再発防止について、定義や法律などの基礎知識を復習しておきましょう。
労働災害とは 基本的な定義
労働災害とは、業務に関連する労働者の負傷や疾病、死亡を指し、作業環境や業務行動が原因で発生します。
機械巻き込みや高所作業の事故を想像しがちですが、近年では、過重労働による脳・心臓疾患や、精神的なストレスが原因の精神障害も労災として認定されています。また過労やパワハラ・セクハラなどの心理的負荷も重大なリスク要因となっています。
毎年多くの労働者が災害に遭っており、企業は安全衛生対策の強化を求められています。
労働災害防止を規定する法律
労働災害防止を主に規定しているのは「労働安全衛生法(安衛法)」です。安衛法では、企業に安全衛生管理体制の構築などを義務付けています。「労働基準法(労基法)」で決まっている労働時間や休息に関する基準も、労災防止の観点を含みます。
また「労災防止団体法」は労災防止活動を支援する団体の設立を規定しています。
企業が労働災害再発防止を強化すべき理由
労働災害が発生した場合、企業は大事な従業員を死傷させてしまうだけでなく、多大な損害(業務停止、損害賠償、企業イメージ低下など)を招きます。
よって、再発防止策の策定と実施が不可欠です。直接的・間接的な事故の原因を洗い出して分析し、対策書類を作成のうえ、定期的に改善していかなければなりません。
事業主として職場のリスクを正しく把握し、そこで働くすべての人に対して周知と安全教育を行う必要もあるでしょう。今後も安心して働きつづけるために必須の取り組みです。
労働災害発生時の対応手順と義務事項
それでは実際に労働災害が発生したとき、どのような手順で対応し、企業は措置としてどのような行動を義務付けられているのでしょうか。
①被害者の救護・治療
まずは被災者の救護・治療を最優先します。重傷時には速やかに救急車を呼び、家族へも連絡します。状況により警察へも通報しましょう。
軽傷であれば労災指定医療機関に搬送します。治療費は労災保険で支払われるため、被災者には支払いが求められません。指定医療機関以外の場合は、後で被災者に費用が支給されます。
②発生現場の維持・保全、二次災害防止
現場で被災者救護の次に大事なのが、二次災害による次の被災者を出さないことです。機械停止や、危険箇所からの他の作業者の退避誘導を行います。
加えて、確実な事故調査のためには、現場を維持・保全しなければなりません。
③事案の状況確認・把握
仕事中や通勤途中の事故や負傷の報告を受けたら、直ちに状況や程度を確認します。
死亡や重大な災害であれば、直ちに所轄労働基準監督署に電話報告します。
死亡または4日以上の休業だと「労働者死傷病報告書」を提出しなければなりません。併せて労災保険の休業補償給付についても、会社もしくは本人(家族)からの手続きが必要です。
④義務:労働基準監督署への報告
労働基準監督署への「労働者死傷病報告」提出は企業に課せられた義務です。
休業4日以上または死亡の場合は「様式第23号」に記入し、4日未満の場合は定期的にまとめて「様式第24号」を提出します。報告を怠ると「労災隠し」として処罰される可能性があります。
2025年1月1日からは電子申請が義務化されまています。
⑤再発防止対策の策定・実施
労働基準監督署からの依頼で「労働災害再発防止書」の提出が求められます。再発防止策として、発生状況の把握、原因調査、防止対策の検討・実行を文書化し、定期的に見直します。
法的な義務ではありませんが、厚生労働省は企業に対し自主的な対策書の作成を推奨しています。
⑥監督署などからの捜査に応じる
労災申請に基づいて、労働基準監督署が対象事案の調査を実施します。正式な労災認定後に、被災者へ治療費や補償が支給されます。
調査内容は、関係者の事情聴取・事故現場検証・医師への意見聴取などです。大きな事故の場合だと、警察と監督官による捜査が行われることもあります。
企業も捜査に協力し、原因究明と再発防止に努めます。
再発防止対策書作成のヒント
次は、労働災害再発防止対策書を作成するヒントについて説明します。具体的な様式の入手方法や項目、記入例について解説しましょう。
所定様式のエクセルデータのダウンロード方法
再発防止対策書の所定様式は、「再発防止対策書」といったキーワードによる一般的なweb検索でも入手可能です。エクセル形式で1枚のシートになっています。
厚生労働省の「労働災害が発生したとき」のページのほか、都道府県労働局や労働基準連合会支部のページなどからダウンロードできます。
基本的な項目・記入例
記入する主な項目と記入例は以下の通りです。
- 災害発生状況(いつ/どこで/どんな作業で/どのように)
- 災害発生原因(環境/機械・設備/人/安全衛生管理)とその改善策
例: カバーが外れていた → 確実に取り付け、開いたときには自動停止する設定に
機械管理責任者を配置していなかった → 責任者による定期点検を徹底- 再発防止対策の持続性についての検討
- 当該再発防止対策の前に実施した労災防止対策
発生件数が多い労働災害の種類
実際に発生件数が多い労働災害には、どのようなものがあるのでしょうか。主な種類を5つピックアップしました。それぞれの主な傾向は以下の通りです。
転倒・墜落
転倒・墜落は建設業などで多い傾向があります。また、転倒はオフィスワークを含むあらゆる業種で起こる労災であり、注意が必要です。
- 転倒は労災発生件数で最多を占める
- 高年齢労働者の増加による転倒対策強化が重要
- 建設業では高所からの墜落事例が多い
- 建設業では不安定な足場や安全帯未使用、不注意などが主な原因
機械事故
機械を使う現場では、動作中の機械へのはさまれや巻き込まれ事故が多く発生しています。定期点検や物理的な安全対策に加え、使用者への教育が防止のポイントです。
- 主な原因は操作ミス、安全装置の不備、保守管理の不足など
- 建設・製造・運送・印刷などで発生が多い
感電や危険物質による事故
電気工事や工場では感電や危険物質による事故が発生します。作業者への指導、安全管理や適切な防護装備が欠かせません。
- 感電は電気設備の不適切な取り扱いや接触が主な原因
- 危険物質による事故は、化学物質の誤使用や漏れ、取り扱いミスが原因
交通事故
交通労働災害は、運転業務に従事する労働者に多く発生しています。通勤時間の事故も含まれます。
- 冬季の積雪・凍結による衝突事故が特に増加
- 顧客先訪問や送迎中にも発生
- 視認性向上、季節・天候対策、走行管理などが必要
- ドライバーには運転前健康チェックを徹底
職業性疾患
職業性疾患とはいわゆる「職業病」のことで、労働環境や繰り返し作業による疾病・障害などを指します。
- 化学物質を扱う現場での中毒症状
- 過重労働による精神性疾患
- 固定的な姿勢や作業負荷による腰痛・腱鞘(けんしょう)炎
- 粉じんの吸い込みによるじん肺
- 爆音・大音量環境に由来する難聴
労働災害の背景にある4つの要因
労働災害が起こる原因には、主に4つの種類の要因が存在します。どれか1つではなく、複数が重なったときに発生確率も高まると考えられます。
人的要因(ヒューマンエラー)
人的要因(ヒューマンエラー)は、「当事者がリスクを認識せず、あるいは認識しながらも不安全行動を取ること」によって生じます。慣れや効率重視でルールを無視するケースが多く、これが事故を引き起こす一因となります。
リスク認識と自制が重要であり、システムやルールの変更だけでは解決できません。
環境要因
環境要因は、作業場所の照明不足や騒音、温度管理の不適切さなどによるものです。
屋外であれば季節や天候、地形などの影響も受けます。また、作業場所の湿度や温度が適切でない場合、作業者の集中力や体調に影響を及ぼし、事故のリスクが高まるおそれもあります。
設備要因
設備要因は、機械や装置、工具、作業環境の不備によるものです。設計不良や故障、整備不足のほか、安全装置の欠陥や不適切な作業環境にも注意が必要です。また、誤った作業方法や機械・工具の使い方が、設備要因を誘発することもあります。
管理要因
管理要因は、組織内でのコミュニケーション不足や管理体制の不備によるものです。正しい手順や操作方法の連絡が不十分であったり、必要な教育が実施されていなかったりというパターンが考えられます。実際には、情報共有の工夫や徹底で防げる事故も多くあります。
要因をふまえた7つの再発防止策
以上の要因をふまえて、7種類の再発防止策について説明します。できればすべてに取り組んで、再発防止を徹底しましょう。
再発防止策1.リスクアセスメントの実施・徹底
「リスクアセスメント」は、職場に潜むリスクを特定し、優先順位を明確にして、そのリスクを未然に防ぐ施策であり活動です。
リスクアセスメントには基本的なガイドラインがあるため、一連の手順は教育によって習得できます。管理要因を中心に、4種類すべての要因の低減に有効な防止策です。
再発防止策2.設備や機械の定期点検・メンテナンス
設備要因の事故を防ぐには、設備・機械の定期点検・メンテナンスは欠かせません。
定期的な点検で不具合を早期に発見し、修理・交換すれば、故障による事故だけでなく、生産中断などのトラブルも抑止できます。メンテナンス記録は書類できちんと管理し、誰が見ても履歴や現状での懸念点がわかるように管理するのがおすすめです。
再発防止策3.物理環境の改善
物理的な環境改善は、環境要因の削減に直結します。
例えば、床面に滑り止めを敷いたり、通行の障害になるものを撤去したりすると、転倒事故の原因除去につながります。危険な装置のある場所に柵と鍵を設ける、作業場所を十分照らせるように照明器具を増やすなども有効でしょう。安全性を高めると同時に、作業効率の向上につながる場合も多いです。
再発防止策4.過重労働やストレス状態のチェック
人的要因・管理要因の背景に、過重労働や精神的なストレスが存在することも少なくありません。
労働時間の管理や定期的なストレスチェックの実施で、従業員の心身の健康状態を把握しておけば、集中力低下や連絡漏れによる事故を防げる可能性があります。早期発見と予防が肝心です。
再発防止策5.作業手順のマニュアル化・チェック強化
作業手順書を作成しマニュアルとして徹底しておくと、人的要因・管理要因による事故を減らせる可能性が高まります。正しい手順通りに進めているか、チェックを強化するのも効果的です。
例えば、リスクの高い作業については、必ず事前に第三者による保護具着用のチェックを受けてから着手することをルール化するなども良いでしょう。
再発防止策6.安全衛生教育の徹底
安全衛生教育への取り組みは人的要因・管理要因に直結します。特に、統計からも、経験の浅い作業者の被災件数が多いことが分かっています。新入社員や異動者へはリスクや正しい作業フローを念入りに伝え、安全意識を高めましょう。
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再発防止策7.労働災害再発防止研修の実施
直接的に教育効果を高める施策の1つに、労働災害再発防止研修の実施があります。
さまざまな団体や企業が、従業員全体や職場の安全衛生責任者・担当者を対象に、災害事例や対策について学ぶ研修を提供しています。また、事故を起こしてしまった当事者に対し、二度と同じような事態を起こさないよう、安全意識を高める研修プログラムもあります。
次章では、弊社がおすすめする労働災害再発防止研修プランをご紹介します。
SBの労働災害再発防止研修プラン7選
労働災害防止には専門的知見と最新の知識を持つ外部講師に依頼することで、意識啓発につながります。
ここでは、「労災を二度と起こさない」という前提でブラッシュアップされた研修ブランを7つご紹介します。
ヒューマンエラーを防ぐには繰返し災害を防ぐために
ヒューマンエラーの本質を理解し、労災防止のための組織マネジメントを学ぶ研修です。安全衛生教育トレーナーで社会保険労務士の去来川敬治氏が、「現場力=レジリエンス」の視点から、安全人間工学を実践的に解説します。再発防止と現場力強化に最適なプログラムです。
ヒューマンエラーの発生メカニズムと再発防止策
事故やトラブルの多くはヒューマンエラーに起因しています。本研修では、その発生メカニズムを明らかにし、現場で活かせる具体的な防止策を学びます。講師はヒューマンエラーコンサルタントとして各業界で講演実績を持つ伊藤良太氏。管理職から現場担当者まで、幅広く役立つ内容です。
安全とヒューマンエラー ~事故災害防止の勘所~
「安全なくして生産なし」――電力供給の現場で培った信念をもとに、事故災害の背後にあるヒューマンエラーの本質を解き明かします。講師は関西電力で電力所長や能力開発センター主席講師を歴任した落合一幸氏。現場で納得される安全活動の進め方と、人間特性に基づく再発防止の要点を、豊富な事例とともにお教えします。
「ホンネ」 と 「タテマエ」の中で本当の安全をつくる
「安全第一」と言いながら、実際には納期やコストが優先されてしまう。そんな現場の“ホンネ”と“タテマエ”の矛盾に切り込み、本当の意味での安全とは何かを問い直す一講。辻安全サービスセンター代表の辻太朗氏が、豊富な現場支援の経験をもとに、形式だけにとどまらない“納得できる安全”のつくり方を語ります。
安全意識の向上は職場環境風土の改革から
本講演では、安全意識の向上には現場の意識改革とルール遵守が不可欠であることを実践的に学びます。講師はパナソニックで3,000名以上の管理者を育成してきた富田労働安全衛生研究所代表・富田勉氏。全国で年間6,000名が受講する人気講演です。
事故災害再発防止対策 これだけは押さえておきたい安全のポイント
事故災害はなぜ起こるのか、どう防ぐのか――その答えを現場視点で伝える研修です。講師は中央災害防止協会大阪安全衛生教育センター講師が、豊富な指導実績をもとに、ヒューマンエラー対策や高齢者災害防止など、実践的な安全管理のポイントをわかりやすく解説します。
ヒューマンエラー予防基本と再発防止策の徹底
“ヒューマンエラーはゼロにはできないが、限りなくゼロに近づけることはできる”――本研修では、その考え方に基づき、ヒューマンエラーの原因分析と予防・再発防止策を学びます。講師はトヨタ自動車での人事経験を持ち、官民で多数の研修実績を誇る中山佳子氏。実用性と納得感ある安全教育を提供します。
再発防止には「二度と起こさない」という覚悟の姿勢が重要
不幸にも労働災害を発生させてしまったときには、迅速かつ的確な対応が最重要です。そのうえで企業は、二度と同じ過ちを繰り返さないよう、再発防止策に誠実に取り組まなくてはなりません。過信や油断をせず、万が一の場合にもしっかり備えてください。その姿勢が、現場の安全意識向上にも良い影響を与えるでしょう
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建設業や製造業などはもちろん、すべての業種において従業員が安全に、安心して働けるよう、安全衛生の考え方が重要です。本記事では、安全衛生の内容や目的、関連する法律や具体例について、わかりやすく解説します。
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