ヤングケアラーの代弁者として講演活動を行う高橋美江さん。
インタビュー前編では、ご自身のヤングケアラー当事者としての体験と克服するまでの道のり、ヤングケアラーの支援についてお話しいただきました。
後編では、本業である美容師の経験から得た「おもてなし精神」と、旅行者との関わりを持ちたいと始めた「民泊」について、そして今後の夢についてお聞きします。
辛い過去を塗り替えるように、新しいことにチャレンジし続ける高橋さんの生き方に元気と勇気をいただきました。
辛い過去を話すことで自分の人生を生き直す
――これまでの辛い体験を話すことは、とても勇気が必要だったと思いますが、なぜそのことを講演で話そうと思われたのでしょうか?
高橋 自分の体験を話すことは、ヤングケアラーの啓発とともに、自分の心の整理にも繫がっています。小さな頃からの記憶を辿ることで、俯瞰的に自分の半生を振り返れて、生き直しているような気持ちになります。
ヤングケアラーや障がい者の話は、とても触れにくい話題だと思っています。それを当事者が話すこと、そして今はこうやって前向きに生きている姿を見せることで、ヤングケアラーの子どもたちに希望を与えられるのではないかと思っています。ヤングケアラーの講演も「理解をしましょう」だけではなく、当事者へ「希望を持って生きましょう」ということを伝えていきたいと思っています。
――いつ頃から講演活動は始められているのでしょうか?
高橋 初めて講演をしたのが35才のときでした。そのときは中学生に職業講話を依頼されましたが、仕事の話だけではなく、「どんなことがあっても幸せに生きる方法がある」ということを伝えたくて、人生観についても話しました。思い悩むことが多い思春期の学生に、希望を持って欲しかったんですよね。それがメディアで取り上げられてから、依頼が増えましたね。
――講演ではどのようなことを伝えているのでしょうか?
高橋 ヤングケアラーがテーマの時は、私の経験とともに、子どもたちには「あなたを一人にはしないよ」ということ、そして、大人へは「地域の子どもたちを孤独にしない環境を作ることの大切さ」について講演しています。美容師や民泊などビジネスがテーマの時は、起業精神、接客の基本やおもてなし、顧客の心をつかんで離さない再来術など、自分が仕事をする上での理念を話しています。
――高橋さんの話に救われた人たちもいるのではないでしょうか。
高橋 そうだといいですね。しんどい思いをしている子どもたちの心を少しでも和らげることができればと思っています。
辛い人生の中で、「親を捨てても良い」と言ってくれた心理士の方や、友達、お客様と、私は多くの人に支えられてきました。同時に、たくさんの学びや成長を与えて頂いたと感じています。その私の糧が「ペイフォワード」となって、聴講された方々の心づきや勇気となってもらえたら嬉しいですね。
心安らげる空間作りを目指して
――美容師になった理由を教えてください。
高橋 昔、母に連れられて行った近所のパーマ屋さんがあって、そこはいつも温かな雰囲気に包まれていました。人が綺麗になり、笑い声が絶えず、すごく居心地の良い空間に感じました。私もそんな空間で仕事をしたいなぁと思って、美容師になりました。子どもの頃の夢を実現したという感じですね。
――よく職業講話で「おもてなしの心」について話をされているとお聞きしましたが、高橋さんが考える「おもてなしの心」とは何でしょうか?
高橋 美容師として最良の技術を提供することは当然ですが、私はお客様に寄り添う姿勢、相手との程よい距離感、間合いやペースをとても大切に考えています。最初からプライベートなことは聞かず、まずは少しゆるやかな世間話をしながら、施術に入るようにしています。そして楽しくお喋りしたい方なのか、静かに過ごしたい方なのかを判断するようにしています。
提供することだけがサービスではなく、「何もしないこともサービスの一つ」だと考えています。私にとって「おもてなし」とは、お客様が心地よいと感じる空間を作ることだと思っています。
――先ほどお話された「近所のパーマ屋さん」のように、でしょうか?
高橋 そうですね。そうありたいですね。うちはマンツーマンサロンなので、お客様から悩みを打ち明けていただくことも多いです。美容院って「よ」を小さくするだけで、「びょういん(病院)」になりますよね?なので、髪型だけでなく身も心も晴れやかになって頂ける場所でありたいと思っています。そして、どんな時もお客様の味方でいる美容師を心がけています。
――人に話すだけで、心が軽くなることはありますよね。
高橋 そうですね。誰かに話しを聞いてもらうことで確かに心は軽くなりますね。私は「悩みの答え」は誰もが自分の中に持ち合わせているとも感じています。
「言葉はプレゼント」だと考えているので、相手が受け取って「嬉しい」と思えるような言葉を贈るように心がけています。相手の心情を考えない、自己満足のプレゼントは要らないですよね? そして、相手に「気づき」や「解決」を渡そうなんてことも「おこがましい」と思っています。
この世の中には、「人がご機嫌になる会話だけがあればいい」とすら思っています。
日本人のおもてなしの心を「民泊」で伝えたい
――数年前から美容室と同時に民泊の運営もされているようですね。
高橋 そうなんです。国内外問わず旅行が好きで民泊業にも興味を持っていました。そんな折、外国の方もゲストで迎えるためにはもっと語学力が必要だと一念発起し36才のときに、思い切って1カ月店を休んで、マルタ共和国へ語学留学しました。
慣れない海外で生活できるのかなと心配だったんですが、行ってしまえば、そんなものは吹き飛んで、「やるしかない!」と腹をくくりました。
その土地の文化や、芸術、街並みに感動し、いつものように誰かを気遣うのではなく、自分の感覚に集中して過ごせました。誰も知らない海外で、生活ができたことは、とても大きな自信になりました。その経験が、その後の人生においても新しいことにチャレンジする原動力にもなっています。
マルタから帰国してちょうど1カ月後、父が亡くなりました。帰国して間もなくもあり、バタバタと気持ちが乱れましたが、1年ほど経って落ち着いた頃に、遺品整理をしました。そのまま実家の2階を改装し、2018年10月、住宅民泊を始めました。以前から民泊を始めたいなぁと思って物件を探したりもしていたのですが、実家の空きスペースを活用したことで初期投資は少なく済みました。
――民泊を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
高橋 37才の時に行ったニューヨークで初めてAirbnb(民泊サイト)を利用しました。滞在中ブロードウェイの帰り、夜中に迷子になってしまって、ホストに連絡をとると、わざわざ迎えに来てくれました。
異国の地で頼れる人がいることは大変心強く、ニューヨークを旅するコツも教えてもらったりして、そこからの旅行がより一層有意義なものになったことで、自分も日本でそんな存在になりたいと思ったのがきっかけです。
美容室と民泊がある場所は、目の前に田園風景の広がる、いわゆる田舎です。
周囲から「こんな田舎に誰が来るの?」と言われました。美容室を開業したのは20代だったので、ただただ勢いで走った日々でした。しかし、民泊を始めた頃には10年ほど経っていましたので、いろんなことに余裕を持てていました。
そして、現地の人は当たり前の風景でも旅行者にとっては魅力に感じ、「何もない」ことも売りになることを、色んな国を旅して知っていました。例えば、私たちがイギリスの片田舎を素敵だなぁと思ったりするのと同じ感覚だと思いますよ。
マルタで知り合った友達も「美江が民泊を始めたら遊びにいきたい」と言ってくれていたので、国内外問わず、いろんなゲストに会えると思うと楽しみになりました。
――高橋さんの運営する民泊では、ホームステイのような感じで、お客さんと一緒に何かをしたりもするんですか?
高橋 民泊には2種類あって、「住宅民泊」といって家主が住んでいる家に宿泊するタイプと、旅館業の営業許可をとって「一棟まるごと」や「一室まるまる」貸し出しするタイプがあります。うちは前者のタイプなので、タイミングが合えば一緒にご飯を食べたり、何かアクティビティに誘ったりすることもありますよ。
「住宅民泊」を利用されるお客様は、現地の人との交流を望んでいらっしゃる方が多いので、これまでも一緒にいろいろ楽しみました。予約受付は、Airbnbに登録しました。すると、3日後には、シンガポールから問合せ、1週間後には、オーストラリアからの予約が入りました。
――高橋さんのところに訪れるお客さんたちは、どんな目的で来られるのでしょうか?
高橋 最初に泊まりにきてくれたオーストラリアの一家は「忍者になりたい」といって、甲賀の武道クラブに通っていました。1週間の滞在予定でしたが、あまりにも居心地がいいということで、延泊してくれました。
その後には、娘さんが滋賀の大学に留学されている中国人の方は4カ月も滞在されました。途中、ビザの関係で何回か帰国されましたが、また戻ってきてくれて、家族のように仲良くなって、何度も食事に行きました。最後には、長期滞在のお礼に甚平をプレゼントし、大変喜んでいただきました。
――美容室と民泊。違うジャンルで培われた高橋さんの「おもてなし」は、いろんなゲストに響いているんですね。それでは、最後に今後の夢を教えてください。
高橋 私は小さい頃から本に救われてきたので、自分の半生や価値観を本にしたいと考えています。今まで色んな本を読んできました。小説やノンフィクション、自己啓発、最近ではビジネス書も読むようになりました。本の中には私の心のモヤモヤを明確にしてくれる言葉がありました。私は、そうして心を癒し養ってきました。だから今度は私が、悩みを抱える人たちの救いになるような本を書けたら嬉しいです。
――高橋さん著作の本が完成したら、ぜひ読んでみたいですね。本日はありがとうございました。
ヤングケアラー当事者の生の声として
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高橋美江 たかはしみえ
元 ヤングケアラー当事者 Hair Dresser TiCAオーナー
幼少期から障がいを持つ両親のケアを担う。28歳で美容室を開業(月100名を超える顧客を施術、雑誌ヘアメイク等)。接客業の心得とおもてなしを活かすべく、世界各地を旅し、帰国後インバウンド事業を展開中。また、ヤングケアラー、いのち、起業、インバウンド、女性活躍などのテーマでも講演を行っている。
プランタイトル
ヤングケアラーの苦悩と気づき
~障がい者の両親の元に生まれて~
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